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初めての戦争

 この世界の冒険者の装備は皮だったり金属で補強した物が主流である。

 そして騎士は鎧に近い物を身に着けている者もいる。

 これは山人が存在するからこそ可能である。

 逆に鎖帷子のような物は存在していない。

 山人の技術からすると鎧の方が作りやすいのである。

 とはいえ全身を覆う鎧は非常に高価な物になってしまう。

 所有できるのは騎士でも一部の名家や貴族出身の者のみである。

 その上安い鉄鋼の鎧を着れば歩き回る事が厳しくなり騎乗しなくては戦えない。

 ミスリルなどの特殊金属を使った物でないと使い物にならないのだ。

 まだ虎紋族や犬狼族であれば通常の鎧でもいいが15セト(60kg)の鎧を着てては戦えない。

 これが高級品になると軽い物は3セトほどになるのだ。

 山人の高い技術とミスリルとの融合らしい。

 形状も独特の作りになってくるので全て受注生産になるらしい。

 戦闘の基本は盾と槍、剣そして弓である。

 弩はまだ開発されていないしコンパウンドボウなんてもってのほかである。


 慶司達は侍女隊に警護されながら進むシャーリィと共に移動した。

 シャーリィは荷馬車に乗りたがったが流石に体面もあって諦めていた。

 その代わりピレードを早速購入して嬉しそうに乗っていた。

 高級品のミスリル製の鎧も訓練の為に作っていたので身に着けている。

 蒸れるし面倒だとぼやいていたので空調符を使うように勧めた。

「すっごく快適よ」と騒いだお蔭で空調符の宣伝になってしまった。

 行軍なので食事は慶司が作ることになるのだが、ここで侍女隊に衝撃が走ったのは言うまでもない。

 侍女隊から尊敬の念を込めて、美食料理人ドクターデリシャスと呼ばれる事になる。

 レシピは常にミランダが押さえてるので押し寄せて来る事が無かった。


 この行軍でシャーリィの乗るピレードとウラヌス達の違いが明確になった。

 明らかに違ってはいたがここまで進化すれば別の名称がいるのでは無いかと言われたので慶司は考え中である。

 しかもである、恐らく頭脳の発達に伴ってなのか、耳の後ろに瘤のような塊があるなと思っていたら角が生えてきてきてる。

 まだウラヌスだけだけど、そのうちアルテとヘリオスにも生えるのだろう。

 このままじゃ鹿みたいになるが、ピレードが犬の種類でよかったとホッとした。


(御主人様、今回はどちらへ行くのですか)

(ちょっと悪い貴族を懲らしめに行くんだ、そんなに遠い場所じゃないらしいよ通常で四日って言っていたから7日掛からないで着くんじゃないかないかな)


 この通り話し方もどんどん滑らかになってきている。

 念のためにエルにこの世界に麒麟が存在しないか聞いておいた。

 なにせ伝説の神獣、霊獣とされる存在でこの世界には竜がいるのだから居ても不思議じゃない。


「ほう、主様の世界にはその様な生き物がおるのか、此方で言葉を有するのは人と精霊と我等竜族のみじゃ、なのでウラヌス達で9番目の種という事になるな」

「魔素変化ってだけじゃ無さそうだしね」

「うむ、おそらく主様特有の変化が生じておるとしか思えんな」

「麒麟族とでも言えば良いのかも知れないね」

(我等は麒麟族ですかっ)

(うん、そうしよう)

(名付けていただき種の名前まで頂けて、我輩達は感激です)

(有難う御座います御主人様)

(感謝致します御主人様)

(アルテとヘリオスも喋れるようになったんだね)

(はい、我輩に続き喋れる日を待ちながら特訓しておりましたっ)

(俺たち以外は驚くから喋り掛けちゃだめだよ)

(判っております)

「ふむ、やはり主様といると退屈という事が無いのじゃ」

「にゃは、ヘリオスとお話が出来るのにゃ」


 こうしてさらに意思疎通ができるようになったウラヌス達との旅は楽しい。

 だが一つだけ確認しておきたい事があった。


(ウラヌス、こうして話せるようになったけど、旅をする時荷馬車を牽いたりするのは構わないのか)

(これは我等の役目、ホルス達に任せていたのは一時的に過ぎません)

(そうです、御主人様この荷馬車は我等が牽く為にある物です)

(これも鍛錬です、日々こうして荷馬車を引く事で我等は鍛えておりますので)

(なら任せるよ)

(((ハイッ)))


 ピレードとしての習性というよりは、これが仕事だと認識してるのだろう。

 それなら任せていても構わない。

 まあ積んでる荷物も今回に限ってはウラヌス達の食料が主になる。



 大陸北西ではあるしグラームやリヒトサマラに比べると寒い土地のブルトンだが、荒野は存在しない。

 冬なので草は枯れているが平野は草原地帯が多く南にいけば針葉樹の森があるらしい。

 そんな長閑な景色を物々しい軍勢と共に移動しなくてはいけないのは寂しい物だ。


 今回シャーリィが早期決着を急いだのはブルトン王国の位置関係や産業に由来する。

 主な特産品として、蒸留酒が有名だが、他に羊毛産業、島から取れる鉱石があり、それらを輸出して麦や塩など生活の上で足りない必要品を買い入れている。

 その輸入の玄関口は北のサクスン港と東のケルン城砦都市である。

 今回の騒動は早く終結させないとフルトリアに対して抗議も出来なくなるだけでなく、万が一にでも押し込まれた場合は、輸出入を山越えで交易都市のセクトに持ち込む事になる。

 海上ルートは東回りが不可能なだけに、貿易船は必ずフルトリアを通るので出来れば事は構えたくない。

 フルトリアも王国としては東のエミリア王国と戦争中なのだから、西に態々敵を作りたく無い筈だ。

 余計な戦争を回避する為にも、早々に問題を片付け、ケルン砦に出向かねばならない。




 焦るシャーリィの心を汲んでか、行軍速度は速くデブル公爵領へ到着したのは予定より一日早かった。

 最後の大休止を取らせて、先ずは使者を派遣する事が決められた。

 通常ならば騎士や貴族が引き受けるのだが、今回は目的があって慶司が引き受けのである。

 竜の化身、竜の腕の男、竜が使わした冒険者などと噂が広まっていた事もあってかあっさりと承認されたのは思わぬ効果であったといえる。

 慶司の思惑は二つ、先ず使者は危険な任務であること。

 無条件降伏を呼びかけるのだから斬られる恐れがある。

 次に勧告書を持っていくことで出来ればデブル公爵他の顔ぶれを見ておきたいのだ。

 特徴は既に聞いているので、イメージと実物を照らし合わせるのである。

 書類を持つと気軽に、それこそ散歩にでも行くような面持ちで相手の砦に向かって歩いていった。



 砦に到着した慶司は見張り台の男に声を掛けた。


「此方にデブル公爵の軍勢がいると思うのだが」

「デブル公爵軍だけじゃなく色んな貴族が集まってるぞ」

「国軍から使者に来たんだが取り次いでもらえないか、公爵様へ直接お渡しするようにと厳命されている」

「ふむ、少し待っていろ」

「すまないな」


 厳密に言えば直接渡すようにまでは言われていない。

 ただ直接見れた方が都合がいいだけだ。

 最終手段はシルフィに確認して貰えば何とかなる。

 10分程過ぎて迎えの人間に案内されて砦の中の広間に通された。

 騎士がずらりと並んで此方を警戒しているのは当然だろう。

 奥に肥満体質の背が低い男が一人と、その左右に豪華な鎧を着た我輩は貴族であると主張している人物達が並んでいた。

 成程、ここまで特徴的なら確かに間違いようが無い。

 それ程に不摂生がきわまった体型で心不全でも起して死にそうな男だ。


 取次ぎの騎士に書簡を渡して確認させる。

 読み始めると顔を赤らめて怒り、暫くすると暗い嗤い声を発していた。


「クックック、馬鹿が国軍も引き連れずに勝てると思い込み無条件で降伏せよと申してきたぞ」

「なんと、無条件降伏とは酷いものですな」

「たかが小娘の軍など一蹴してくれましょうぞ」

「国軍が動けぬと知り焦ったので御座いましょうな、流石はデブル様」

「次の王たるデブル様に降伏するならまだしもそんな事を伝えにくるとは」


 口々に貴族がデブルに対して無礼だとか蹴散らすと息巻いている。


「フ、何も知らぬ小娘に目に物を見せてくれる」

「この使者はどうしますか」

「ふん、このような物を持ち込む無礼者だ覚悟ぐらいできておろう」

「それは残念ですね、提案は受け入れない、そう伝えるのでこれにて失礼させてもらうよ」


 途中で暴れまわって殺してしまいたいと思ったが自重した。

 この問題は飽くまでもシャーリィが解決する問題なのだ。

 ここで自分が殺害しても意味を成さない、そう考えたのだが殺すと言われれば逃げるしかない。

 当たって欲しくない予感が当たったが撤収させてもらうとしよう。


「【竜撃八識無我りゅうげきはっしきむが】」


 慶司の動きは素早かった。

 騎士が殺到しようとする前に扉に向かって走り出していた。

 立ち塞がろうとした衛兵を突き飛ばして扉を出た後は一気に出口へ向けて走りぬけた。

 余りにも一瞬の出来事だった。


「何をしておる殺せぇ」


 命令を忘れていた自分を棚に上げてデブルは叫んだ。

 しかし既に慶司は砦の門を抜けて疾走していた。




「とそんな対応だったよ、顔の確認もできたけど、放っておいても病死しそうだね」

「フフ、確かにそうですわね、それにしても使者を切ろうとするなんて…慶司さんが使者になってくれたので騎士を失わずに済みましたわ」

「一応予想通りかな、随分と自信を持ってたんだけど、稀代軍師か策略家でもいるのかな」

「軍師や策略家というのは何でしょうか」

「そう言えば役職がないんだからいる訳が無いか、戦の上手な人とか軍を上手く動かしたりできる人が居るのかなって思ったんだけど」

「そんな人物は相手方の貴族には居ませんでしたわ」

「となると悪知恵は働くようだったから一応注意が必要だね」



 作戦会議を終えた慶司達は進軍を開始、そして互いの軍が対峙した。

 陣形という概念が無かったことに驚いた慶司はまず隊列だけでなく陣形を伝えて敵に接した。

 俄仕立ての陣形ではあるが多少は意味がある。

 どのような戦闘になるかと聞けば敵の密集地点にホルスに乗った騎士が突っ込み蹂躙するのが基本であると言っていたのだ。

 前面に盾を構えた兵士に任せ後列に弓兵を配置左右を歩兵が固めて最後方に騎馬を配置した。

 簡易な方陣といった所である。

 慶司は弓の発射も色と番号を合図に連射する事にさせた。

 一斉射撃も有効ではあるが飛び道具の価値は敵に接近を許さないことである。

 戦いは国軍が有利に運んでいる。

 敵の突撃は弓兵に狙われて速度が落ちさらに盾兵の後ろから槍で突かれるので突破が出来ない。

 此方はこれから接近を開始して、後方の騎馬部隊が突撃をするところであった。

 その時である、突然前線で悲鳴が上がった。

 敵兵が突っ込んできただけではなく乗ってきた生き物が暴れだしたのだ。

 それは黒いトカゲタイプの生き物だった。

 ドラムというコモドドラゴンを大きくした個体やその魔獣であるウィルベルドラムではない。

 そんな個体だった…


「アレはまさか」

「わからぬが、前線が崩れたのは不味いぞ」


 確認するまでも無く慶司は飛び出した。

 これが自信の正体かっ。

 だが人を乗せていたのはどういうことだろうか…

 判らないが一秒でも早く始末するしかない。


「【明王憑醒みょうおうひょうせい】」


 出し惜しみ無しで混乱する前線に突っ込んだ。

 次々に始末をしていくが、殺しても黒いままである。

 こういう個体なのか、いやでもエルも知らないような個体が居るとも思えないが…

 20匹の個体を全て片付けた。

 刺し、貫き、首を落とし、頭を破壊し、叩き切った。

 この戦闘はこれ以上掛けれない…

 この20匹で終わりならば構わないが他に手があるとしたら。


 慶司は前衛を建て直してから本陣に戻り後方から敵陣を破壊すると告げた。

 先程のトカゲが原因である。

 これで慶司の心に掛かっていた楔が外れたとも言える。



 突然後方の兵が騒ぎ出した。

 そして騒ぎ声が怒声に変わり悲鳴になって近づいてきた。

 それはまるで一陣の嵐のようだった。

 既に切り札を投入して敵陣から悲鳴が上がったと聞いていたデブル公爵軍の本陣にとって何が起こったのかと慌てた。

 だが一人として逃げ出す事が出来ないままに嵐が現れた。



 槍杖とフレイルを持った慶司は上空から躊躇いも無く後方へと着陸し本陣を目指した。

 できるだけ打ちのめすだけの予定つもりでフレイルを振るう。今回の魔法用に作った特別性で柄が短い。

 刀や剣だと完全に殺してしまうので、一応は手加減の効く(死ぬことは多分ない)武器で突入したのだ。

 だが本陣の連中は手加減の必要がない、この貴族達が原因の戦争なので当然のことだ。

 デブルのみ最終責任として捕まえて裁判に掛ける必要があるだけなのだ。

 フルプレートだろうが慶司の今の腕力で叩きつければ陥没もする。

 しかも頑丈な側の槍の穂先だと貫かれるのだ。

 フレイルで殴られた場合も首など殴られればそれだけで骨が折れて死亡する。

 その様子を見ていたデブルだが急に喚いたかと思うと何かを口にした。


「クソ、貴様、王たるこの私を…神に選ばれた私に恐怖させるとは…たかが平民風情が舐めたことをしてくれた、私の部下になる者達であったのに、この報いを食らわせてくれるわ、ボアード貴様も飲まんかっ」

「はい、ただ今」


 その時おぞましい生き物が誕生したのだった。

 目の前で人間だったものが人間では無くなって行った。

 皮膚が裂けながら大きくなる。

 時折肉が落ちボトっと音がする。

 肥満で背が低かった男が7ネルを越すような生き物になった。

 痩せた男は筋肉質な8ネル程の巨体になっていく。

 どちらも肌や肉が崩壊しながら再生を繰り返している。


「グヒュガァゴヒュ」

「グヒュ…ヒュ」


 喉も裂けて空気がもれて言葉にならない音が聞こえてくる。

 何かを飲んで…魔獣化しようとしたのか。

 慶司の判断は正しかったといえる。

 デブル達は神薬で聖人になると説明を受けたこの薬。

 正しくは、もしも成功すれば人では無い、進化した怪物になれる可能性のある薬である。



 危険だと…そう考えた

 飽くまで可能性だけの話だが、これが人間に感染するあの竜と同じ物だとしたら。

 自分は助かっても他の人間は感染する可能性が高いかもしれない。


 この空間ごと焼き払うしかない。


「【灼焔熌火しゃくえんせんか】」


 全てを吸い込み燃やし尽くす、まだ制御が完全じゃない分、シルフィに風の制御を委ねる。

 巨大な火柱に向かって竜巻が空気ごと燃焼に巻き込んでいく。

 火柱は空気と魔素を大量に吸い込んでさらに火勢を強めて天を焦がすかのように立ち上がっていった。

 実のところ人間に魔素を急激に取り込ませて変異させた者から感染するのは直接的に触れられなければ問題は殆ど無い、確実とは言わないが体内を離れた魔素は空気に溶け込み変異力を失うのだ。

 だが血液などの感染の可能性はありえる為慶司の行動は正しかったといえる。



 火柱をみて軍勢は動きを止めた。

 こうして国軍対反乱軍の戦いは終結した。



 周囲の人間、特に怪我をしてる人間に変化が無い事を確認し、例のトカゲも探したが見当たらなかった。

 問題は無いと判断した慶司は仲間の下へと戻った。

 そしてデブルとボアードの最後を伝え、反乱軍の処罰などについて議論を交わし、その後、慌しくケルン砦へと向かう事が決定された。ケルン砦に向かうのは侍女隊、近衛兵100名、そして慶司達と決まった。ヘンドリックは反乱軍の処罰の為にこの地に残る事が決まった。


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