これが切り札というものだ!
いきなり現れるとかいきなりぶっ放すとか竜族のデフォなのか!?
咆哮を躱ために左下へ急速に離脱しつつ速度を落としていく。
「撃ってからじゃと!」「撃ってんじゃねえか!」
どうやらこれがデフォでは無いようで、エルも驚いている。
「よくぞ避けたな人族よ!」
「おい、エルなんだこの馬鹿」
「炎竜の一門じゃの…おいそこの小童! ちと説教してやるから止まれ我はエルウィンぞ」
慶司も若干言葉遣いが荒くなるが攻撃してくれば敵だと認識しているし実際に当たればと思えば当然の事だろう。
目の前の赤い巨体、といってもエルウィンの元の姿からすれば2回り程小さい竜はギロリと此方を睨み付けてくる。
「小娘よ、エルウィン殿は霊峰アルザスを統べるお方、齢四千年を過ごされ魔力も竜族では一番の使い手とされるのだぞ? そんな小娘な訳があるまい!」
「これは話を聞かないパターンだなぁ」
「ウヌヌヌヌヌ! 我のこのすばらしき白銀の銀髪に高貴なる振る舞いで解らんとは…まぁ魔力が無いのは今は致し方ないとしてもこの門番にあるまじき傲慢な態度懲らしめねばなるまい!」
慶司にしてみても確かに突然の攻撃は頂けないが……
「それって俺がやるんだよな?」
「主様よ! この馬鹿には仕置きが必要じゃそうすれば竜聖母殿のところまで報告に行かせることもできようぞ」
主になった覚えは無いのだが……まあいい。
喧嘩をふっかけられて買うような真似ではあるが、まあ仕方が無いよな、攻撃仕掛けてきたのは炎竜のほうである。
故に正義は我に在り!
幾ら突撃するにしてもお姫様抱っこのままでは危ない気もしたので、慶司は一先ずエルを上空へ放り投げる。
「ウニャアアアアア?」
そこからは一瞬の攻防である。
斜め前に放り投げたエルに気をとられた炎竜へ突撃する。
魔法で一瞬にして加速し【流水】でぶち当て、さらに反動で顎を直撃するアッパーを放つ。そのままエルを抱えにいくと炎竜は体当たりからの衝撃を受け止めきれず縦回転をしながら聖地方向へと飛ばされていった。
「グフォォォォ…」
ちょっとやりすぎたか?
とは思ったが声が聞こえるということは大丈夫だろうと慶司は平然としている。一方で放り投げられたエルはと云えば……
「突然放り出すとは酷い目にあったぞ、しかし、主よ…本当に普通の竜族では相手にもならんな…洒落にならんぞ?」
「いや…一応竜族だし?エルに蹴り打ち込んだ時ってあまり効かなかった気がしたから。それなりに手加減はしつつもと思ってさ、まぁ死んではいないはず」
エルが洒落に為らないと云ったのは其の強さに対してであるので少々噛み合っていないがたいした問題ではないらしい。
「まああれぐらいで死にはせんじゃろうが、気を失った可能性があるのぉ、見に行こう」
山肌に打ち付けられて目を回している炎竜と何事かと集まってきた他の竜族が待ち構えていた。
「我はエルウィン。霊峰アルザスを統べる者なり。竜聖母様へ報告の儀があって参上した次第伝えられよ。共に来るは、人族最強の戦士である渡良瀬慶司である。我の守護したる者なり」
エルがそう告げると竜族は全員首をかしげるが、炎竜のように突然襲い掛かっても来なかった。余程目を回している竜に呆気にとられたか、恐怖したのか分からないが慶司にとっては都合がよかったが実際普通の竜族なら唐突に襲い掛かってなど来ない。それにすぐさまに響き渡った声も問題を解決した要因の一つなのだろう。
(エルウィンと渡良瀬慶司よ、よくぞ来られました。聖地にてお待ちしております)
涼やかな優しさを込めた思念が聞こえた。どうやらこの思念の主こそが竜聖母本人との事だ。竜族達も納得したのか気絶した炎竜を連れて聖地へと飛んでいく。
「主よ、今のが竜聖母様じゃ、行こうぞ!」
問題は解決したとばかりにエルが慶司にそう告げた。
◆◇◆ ◆◇◆ ◆◇◆
「お初にお目に掛かります、渡良瀬慶司と申します」
威圧されてもいないのだが目の前の存在が神様と言われれば納得するような神々しさがある。
おかしいな本物の神様には感じなかったぞ…
などと不敬な事を考えつつも、あのフランクなお地蔵様はある種特殊な存在なんだと割り切って片膝をついて礼をした。
「初めまして渡良瀬殿、私はマリシェルと申します。楽にしてください、今回はエルウィンが世話になったようです。こちらのほうからお礼を申し上げねばなりません」
「いえ、既にエルウィン殿より魔術の付与や魔法の指導をして頂き礼は受け取っておりますので」
そうじゃろそうじゃろ!
とエルはひっくり返らんばかりに無い胸を張っている。ひっくり返るぞ?
「慶司には失った我が肉体をもって防具と武器に竜族の恩恵を与えた故な。フッフッフ世界に二つと無い最強の装備じゃ!」
「しかし、この地まで竜玉となったエルウィンを連れて来て頂いたのです。宜しければ暫くの逗留とお話などを伺いたいのですが」
竜聖母は物凄く失礼かもしれないがマトモナ人物のようだと慶司は思った。
「では有難く逗留させて頂きます。それで、エルウィン殿はすぐに肉体を取り戻されるのでしょうか?」
「竜玉となって肉体を失った者をすぐには再生できません。仮初の肉体も既に持っているので……」
少しエルの方を見ると考えるように見ている。
「完全な竜体を自然に構成するなら通常で10年といったところが普通でしょうが、魔力を貰い受けながらの構成であれば、そうですね1年から2年あればその方法でも可能ではあります。ですが」
「何か問題が?」
「はい、現在新たに誕生を待つ子がおりましてその方法が取れません。本来は私がやるべきですが、その仮の肉体を作った程の渡良瀬殿の魔力か、もしくは一族の魔力を注がせるのであればその手段も取れるのですが」
「フム…我は慶司と共に行くぞ、あの飯はここでは食べられんからの!」
食べ物に食いついてくるエルをみて若干呆れるが旅の道連れとしては悪くないなと慶司も否は無い。
「問題があるとすれば、霊峰アルザスの地をエルウィンに代わって誰かに任さねばならぬといったぐらいでしょう。それと変異魔素の対策もしなくては別の竜が被害をうけるやもしれません」
「変異魔素の件なども含め我と慶司で解決するのじゃ!」
ぐっと胸を更に張って主張するエルだが踏ん反り返りすぎだった。
「ヌォッ、イツツツ」
あ…ふんぞり返りすぎて尻餅ついてるよ…
慶司も苦笑しているが竜聖母も思わず苦笑していた。何にせよこれで新たな目標が出来たのは悪くないと慶司もその役目を請け負う覚悟は出来ている、エルと居ると楽しいと思ってしまっているからか何も否定すべき所が無いのは慶司にしては少し変わった事だったのだが本人は気がついていない。
「という話のようですので。マリシェル様、幾日か逗留させて頂きたいと思います。エルウィンへの魔力供給の方法、変異魔素への対応を考えさせて頂こうかと思います」
「ではまた後ほど…竜族は食事という事を通常行わないので不便とは思いますが食材を運ばせますので…」
「竜聖母様も食事に来られれば宜しいぞ。我も慶司と共に食事をするのじゃ」
「では後ほどお伺いさせて戴いても宜しいでしょうか。人族への現し身を終えてからとなりますので…それにエルウィン、先に竜体を戻すための儀式を行いますからあなたはこっちですよ?」
「それほどの料理をご用意出来る訳では無いのですが、宜しければお待ちしております…」
こうして竜聖母との会見を終えた慶司は何故か料理をする羽目になった…
竜族の持ってきてくれた食材は果実や穀物や酒、それらを貢物などから持ってきてくれたようだ。
食器が存在しなかった為にまず慶司は器の用意に取り掛かる。最初考えたのが葉の器だが、さすがに無いな…と却下した。木を削ってと思ったが時間が掛かりすぎるし大した道具も持ってない…
ふと、竹は?
と考えついて、近くの竜族を捕まえ竹の説明すると、近くに生えて取っても問題が無い物だと説明してくれた。
竹は器としても炊飯の道具にも使えるので一本さくっと切断して持ち帰る。節をつかって汁物の器と、両端に節をもってきて半分に割って皿の代わりとした。器の他に箸を数本とスプーンとフォークも作る。器の用意ができた慶司は釣竿をとりだすと飛翔の術を使って聖地の外の海まで行き釣りを始めた。
どうせ料理をして振舞うのであればご馳走を用意したいと考えたのだ。岩場にいた蟹を捕まえて餌にして待つこと数分で黒鯛のような魚が釣り上がった。
竿を仕舞い近くの竜族へと問いかけると、食べる人間を見たことがあると確認できたので問題が無いと判断し、さらにもう一匹釣り上げてから血を抜いて持ち帰る。
一匹のみ鱗を落としナイフで三枚におろし皮を湯引きして、もう一匹は松笠作りにしてみる。
冷却の魔法はまだ自信を持って行うことが出来ないので通りかかった竜族をこれまた捕まえて氷をだしてもらって使用した。
この氷を使って果物を冷やしながら竜ってお酒が好きだったよなと思い、持ってきてもらった食材を確かめた。
すると貢物にでもあったのか、古酒やワインのような物まで用意されているではないか。
これはいいと慶司はリンゴを布に包んで木を取り付けると簡易な絞り機になる。これでリンゴジュースにして古酒とまぜ器に戻して氷で冷やし簡単な食前酒にした。
釣り上げた魚のアラでとった出汁と葱に似た植物とでお米を炊いて、汁物は味噌漬けの猪肉を使って作った。
慶司は料理の出来に満足していたが、今回の件での功労者と被害者は突然呼び止められて人族から頼まれ事を聞かされたり問いかけられた竜族だっただろう…
◆◇◆ ◆◇◆ ◆◇◆
「食事というものも悪くないものですね」
「じゃろ? 我は幸せなのじゃ!」
「それって竜族的にどうなの?」
「竜体だとそれこそ食べる必要のない物ですので、何かを口に含むとしたら酒の類のみです。それも元は自分達の習慣ではないのです。それにこうして人族の現し身をとることは普通の竜族としてはまず無いことですから、貴重な経験をさせて頂いております。この刺身というのもお酒にあって…ウフフすこしフワフワいたします」
「我は幸せじゃから飲むのじゃ!慶司よ他の酒も出すがよいぞ!」
完全な酔っ払いであった、慶司からすれば不思議でしょうがないお酒は食前酒として少ししか出さなかったのにどうしてこの二人は出来上がっているのだろうか……
これは飲ませ続けると良いことはないと判断してそれで最後と告げる。
「ねんてころでしょう…もうないだにゃんて…」
「次の酒をだすのじゃ!」
これは最終手段!と慶司も覚悟を決めつつ切り札を投入した。
「お酒を飲むとこれ出しませんよ?」
取り出したのはチーズケーキである。
甘い匂いで勢いを失った二人はヌヌヌヌ! と唸る。
この世界にまだチーズケーキは存在していない、というよりこのようなお菓子自体が存在しない。あるのは簡単な焼き菓子ぐらいであってケーキなど手の込んだ物はなかった。
「「これはなんじゃ(です)」」
「この芳しき香りは一体…」
「お…お酒も大事じゃがこれは…」
エルにいたっては涎までたらして、お酒の酔いも吹っ飛んだ様子である。この様子をみてどこの高位の竜だと問い詰めたくなる程だが普段人の姿に為らない為かもしれないと慶司も考えたので甘い判断で説明をしていく。
「これはチーズケーキといってデザートの一種です。ほかにも果物を用意してますけどこれが本命の一品ですよ」
慶司としては甘いお菓子=女性の好物となっているので最後のお楽しみとしてとっておいたのである。
「こ…これはまさに桃源郷の味わい!」
「フニュゥゥゥゥ幸せすぎるのぉ」
「ク…新たな竜の子を育てる責務さえなければ…」
竜聖母にいたっては危険な発言をする始末…
大丈夫か竜族!
などとは慶司は思ってない……筈である。
「た…食べすぎだけは注意してくださいね? 洒落にならないので…」
理由を説明するとまたしてもヌヌヌヌ! といい顔を顰めつつ一口食べては幸せな顔になっていた。
慶司はしばらく逗留するにあたってケーキのレシピを残すことになったのは余談である。
◆◇◆ ◆◇◆ ◆◇◆
本来の逗留目的はエルへの魔力供給の方法の確立だった。
人間の魔力を魔素へと変換し、肉体構成用の竜族魔法の代わりを特殊な魔術で行うのである。流石にに今回用意するにも素材が木等では耐久性能に問題があるとして一人の山人に依頼することになった。作成に関しても聖地へ呼び寄せることは気軽に出来ない為に出向くことが決定した。
素材としてまず各人が血を媒介として宝石へ魔力を込めて魔石を生成する。この作業は竜族の知識を使える刀を持つ慶司にも難しくなく、すぐに高品質の魔石ができた。更に云えば竜族でもない慶司に可能だったのは実際強化された魔力と、竜鱗結晶と言われる宝石に魔力を込めた為である。もしも通常の宝石で作ろうとすれば一年肌身につけて魔力を当てて変質させないと出来ない。
この三つの魔石をペンダントにすることで完成させるのだが、今回はマリシェルが竜族魔法の付与を行う為に、ペンダントを持って帰って来なくてはならなくなった。
「では山人の里には連絡を入れておりますので最高の技術をもった者が対応してくれることでしょう。私はここから離れることが出来ない為エルウィンの事、宜しくお願いいたします」
「アルザスにも寄って後継者を指名してくるから少し帰りは遅くなると思うのじゃ」
「では行って参ります」
さて出発しようかというところで出口の方から走ってくる2つの人影があった。
聖地で人影?と思っていると二人のうち一人が頭を下げ、ちょうどその頭をもう一人が後ろから叩きつつ喋りかけてきた。赤銅色の髪に褐色の肌。一人は妙齢の女性でもう一人は青年である。
「こ…この…こた…此度は! わ…我が配下のガウェインがエルウィン様と渡良瀬様にご無礼をおかけしたと聞き、えっ炎竜の里グラニエスより急ぎ参りました次第! な…何卒!何卒寛大な処置を! だ…駄目でしたら私の首を掻っ捌いて頂いても結構でござりましゅいえ!…」
噛み噛みの謝罪だった……
ここまで平身低頭させるエルは本当に偉いのだなとちょっと見方を改める必要があるかもと少しだけ慶司も思うが。
「フェ…フェリエス様…ここは私の首を切っていただいて!」
エルウィン先生ふんぞり返りすぎである。
また尻餅をつくぞ?
というか何したんだろうここまで怖がられるって…
俺じゃあないはず!
うん!
とあれだけ竜族をぶっとばしておいて他人事を装う慶司も、普通の竜からすれば天災レベルの存在であるのに暢気なものである。
事実打っ飛ばされた本人が目の前に居るのだ。
「フェリエス…グラディス殿は息災か?」
「はい! 今回は地竜の里へと出かけておりまして、わ…わたくひの首をもって!」
「構わんよ……」
若干エルもここまで焦りながら喋るフェリエスを見て自分の立場を鑑みたようだ。
「まあ実際この姿じゃしな? ただいきなりの攻撃であった故此方からも攻撃させてもらったまでじゃよ。慶司も少しやりすぎたかのぉ灸が効きすぎじゃわ」
俺のせいですか、とは慶司は言わない。ここは優しく営業スマイルである。
「ちょっとエルとの戦いを参考に攻撃してしまったので……その、怪我はありませんでしたか?」
「お気遣い有り難う御座います。このガウェイン丈夫なだけが取り柄でございまして、全くもって問題ありません!」
「では今回の件は互いに水に流そうぞ。わざわざ里より来て貰って申し訳ないが今から山人の里へ行くのじゃよ。また機会があればそちらへ伺う故、お母上に宜しく伝えておいてくれ」
「山人の里ということは地竜の支配地の近くで御座いますれば、宜しければ私も共に参って宜しいでしょうか」
「ふむせっかく送ってくれるのであれば背に乗せてもらうとするかのぉ」
なんと竜の背中に乗れるのかと慶司もこの提案には喜んでいた。
◆◇◆ ◆◇◆ ◆◇◆
フェリエスの背に乗せてもらい2時間程で山人の里付近に到着してしまった。
慶司の倍の速度は出ていたのではないだろうか…
山人の里は聖地から北へ飛び2000km程行った山腹から山裾にかけて都市を作っている。近くに竜が着陸できる場所が無いため近隣の上空から慶司が飛翔の魔法で降り立つことになった。
「フェリエスよ御苦労じゃった! 聖地へ戻ったらチーズケーキを貰うがよい。我に聞いたと竜聖母様に言えば出してくれようぞ」
(ハイ!では失礼致します)
森の中に着地して里を目指す慶司とエル。
山人の里からは金属を打つ音が響いていた。通常に考えても分かる事だが竜が人を背に乗せる事など普通に有り得ないと慶司が聞いたのは地面に降り立った後の事だった。
2014/09/02加筆修正
2014/11/21加筆修正




