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異世界見聞録―黒髪の青年と白銀の少女の物語―  作者: せおはやみ
トラブル・道連れ・世は情け
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お祭り騒ぎ

 竜王格闘杯(D・L・F・C)の告知。


 町の様子はお祭り騒ぎとなっていた。

 宿もなんだか騒がしとは思っていたが、通りに出ると正に祭り(カーニバル)状態。

 通りでは誰が強いかの話し合いや、試合の形式についての論議がなされていた。

 酒屋では俺が最強だと吼える虎紋族の戦士。

 俺こそが最強だと張り合う犬狼族。

 我の肉体こそ最強であると半裸で格好を決める(ポージング)人族の戦士。

 現在の最強の戦士といえば赤竜の団長だと主張するもの。

 いやいや白竜騎士団の団長こそ最強だろうと言うもの。

 なにを抜かすか白銀の翼の奴は金10持ちの化け物だぞと話すもの。

 チケットの販売も開始されて列をなしている。

 公営賭博も予定されているが路地では既に誰が勝つかの賭博がある。

 腕相撲で俺に勝ったら金貨一枚などという古典的なもの。

 屋台で食い物や飲み物を販売するもの。

 即席の拳闘試合まで行われている。


「たった一日でこの騒ぎか…」


 誰もが、一体誰が最強なのかっ、それが知りたいと主張する。

 さすが炎竜の町だな…ギルドへと足を運びながら慶司はそれぐらいの感覚だった。

 ある意味、炎竜のこの大会への意気込みを計りかねて居たのは慶司だけかも知れない。



 ―大陸各地の都市、村にて―


「俺は今から旅立つぜ、なんとしても大会に出る」

「フッ徒手空拳ステゴロ最強の俺が行かずに誰が行く」

「ハハ、炎竜様は面白い事考えるな」

「仕方ありませんね、最強が私以外にいるなどありえません、往きますよ」

「ックックックこの竜王格闘杯(D・L・F・C)で我が国が勝てば…」

「俺の拳の封印が解かれる日が来ちまったようだ」

「国王よ我を派遣してくださいますようお願いいたします」

「くっくっく、これを考えたのは慶司だ、あっはっは」

「成程、これが対策だったのね」

「センシア俺が優勝したら結婚してくれ」

「話を聞いてなけりゃブチ切れする話だよな、アタシもでたいぞぉ」


 若者が、冒険者が、騎士が、国王が、有名な戦士達までもがこの祭りに参加する。

 俺こそが最強だと証明する為に。



『誰が最強か? 我等がそれを見届けよう、それが竜王格闘杯(D・L・F・C)である』

 この言葉で大陸全ての腕自慢が集まる事になる。


 そして告知は大陸全土に同時にされたのだ。

 止まる事の無い熱狂が渦巻く。



 大会の開催は寒月1日 優勝賞金50万リュート、参加費2千リュート。

 主催、竜族

 協賛、冒険者ギルド、商人ギルド、薬剤ギルド、工業ギルド、魔術ギルド


 大会規則、無手のみ、胴着での絞め技などは認められるが帯などを使って首を絞めることは反則となる、魔術使用の禁止、違反行為に関しては立会いの竜族による制止が入る。


 勝敗の決定について、相手選手の戦闘不能、もしくは降参にて勝敗を決定する。過度な攻撃、気絶、降参している相手への攻撃も失格とする。過度な場合は拘束され罪に問われる事になる。


 本選出場8名を選ぶ予選は抽選にて選ばれる。有名無名は問わず全ての選手は予選からである。


 支給される胴着を着用し試合を行う、足は素足。それ以外の鎧、防具の一切は着用禁止。


 禁止行為、眼球への直接攻撃、噛みつき 



 この大陸を巻き込んでいる騒ぎの張本人は涼しい顔をして歩いている。

 慶司の頭の中では大会よりも学校なのである。

 考え事をしながらギルドまで来たが、人の列がある。

 ギルドの前には臨時受付が出来ていて、大会の申し込みが行われていた。

 既にグラディス経由で申し込みが終わってる慶司は関係がない。

 しかし、見るからに体格のいい人間がこれでもかと集まっていた。

 これは各都市でも同じ状況だったのだが慶司は知らない。

 脇を通りぬけてギルド内部へと入ろうとしたら肩を捕まれた。


「おい、兄ちゃん、何者かは知らんが並んでいけや」

「えっと、冒険者ギルドの仕事で入りたいだけなので」

「ハッ、俺は善意でいってるんだぜ」

「待つのに疲れてるのは解りますが、全員が同じではないですよ」

「俺たちは朝の受付開始から並んでるんだ、中で受付なんてさせねえぞ」

「それは言いがかりですよ、そもそも中で受付なんてしてたら外に受付は出さないでしょ」

「なんだ、俺を馬鹿にしてるのか」


 ふむ、朝からということは…まさか3時間近く並んでるのかよ


「あのですね、ギルドが不正をする訳がないでしょう」

「俺の目が節穴だと思って言ってやがるな、おめえのその手首のカードの色からして護衛か何かで金持ちなのか知らねえが、その特権でいこうなんざ俺が許さないぜ、俺も金持ちだ、泣く子も黙る黒熊騎士団ガレルきしだんの隊長グレンだ」


 すまない、黒熊騎士団を知らない。

 でも団というからにはそこそこなのか。言わないけどね。


「いや、すまないが本当に仕事の確認で来ただけなんだ、通してくれ」

「このグレンが駄目だと言ってるんだ」

 

 この男にその権利はないだろう、ちょっとムカついてしまう。

 ただでさえいいアイデアが浮かばないのに…

 

「そうか、どうしてもというなら押し通すしかないんだが」

「くっくっく、小僧が、俺の名前を聞いて逃げればいいものを、いいだろう、この大会の景気付けだ、俺様の力を見せてやろう、ふんぬぅぅ、見よこの肉体、そしてそこから繰り出される破壊的な拳の威力を思い知るがいい、ぬりゃあああ」

「これが鍛えた肉体ね、無駄な筋肉ばかりだな、ホラ」

「イデデデッ、てめえ、クソなんで腕が」


 殴りかかるところを足で脇に蹴りを放って力を無くし、手首を極めてツボを親指で押さえ込み動けば激痛がするようにした。


「クソガァ、ウラァア」


 懲りない男である。この手の奴こそ学校に入れないといけないんじゃないか。

 暢気に構えた風に見えていただろう、だが既に右腕を極められてるのに殴り掛かるとか、どこの漫画の馬鹿ですか。さらに外側に向け手首を捻る。そのまま下に向けて体を落とし投げ飛ばす。


「ホグワァ」ドンッガッシャンガラガラと壁に突撃して周囲の薪等に埋もれている。


 自分から飛んで行ったわけだが…まあ自業自得だ。

 騒ぎを聞きつけやっとギルド職員が来る。


「あの、乱闘騒ぎは困るのですが」

「その前にギルドに仕事の確認に来たんだが、邪魔をされて入れなった、全員が大会に出るわけでもないのだから係りの人間を横にでも立たせて置いたほうがいい、他にも数人は仕事で来て入れない者もいるだろう」

「そうでしたか、確かになぜか受付に来てそのままギルドへ向かう人が何人か…」

「ギルドは不正受付をしない、これを周知させないと今日はこんな騒ぎがまた起きるぞ」

「わかりました、では対応いたします、御迷惑をおかけしました」

「いや、そこの壁で寝てるおっさんにはちゃんと賠償させておいてくれよ、たしか熊団のグレンとか言ってたな」

「あの、もしかして、黒熊騎士団のグレン隊長ですか…」

「ああ、そんな名前だったな」

「……あの方を投げ飛ばすのに登録の方には」

「色々事情があるんだ」

「はぁ、では私が後の処理はしておきますので、ただ、あの人悪い方ではないですが騎士団はプライドが高いので気をつけて下さいね」

「ありがとう、じゃあ中に入らせてもらうから」

「はい」


 赤竜の牙と白竜騎士団は教えてもらってたけど、そう言えば他にも団があって不思議じゃあないよな。

 こうして1人有力な候補と見られた男性を倒した慶司であったが気が付かない。

 ルージュ位の相手なら実感できたかも知れないが無理であった。



 張り出されている仕事で慶司が受けないといけないような討伐は見当たらない。

 暇つぶしというよりは気分転換なので内容は拘らない。

 期限切れ寸前の物だけを6枚、簡単な仕事だがなぜ受け手がいないのか…

 ちょっと受付の子に聞いてみよう。


「こんにちは」

「あ、慶司さん、こんにちは」

「昨日の人だったのか、これから暫くはお世話になるから、名前を聞いておいてもいいかな」

「はいチルルといいます、それで今日はどうしたんですか、もう登録はされましたか」

「ああ、竜王格闘杯(D・L・F・C)なら色々あってね」

「ですよね、慶司さんが出ないなら薬味の無いホロホロ鳥のステーキになりますよ」

「そんな事は無いと思うけど、この依頼書なんだけど」

「期限が迫ってますね」

「それ程難しい採取の依頼じゃないと思うんだが」

「それがですね、この町だと採取の依頼は人気がなくて…、まだ放牧の手伝いの方が受けてがいるぐらいです」

「お金よりも内容が重視されてるのかな」

「いえ、さすがに採取をされる方もいるんですが、もっと高額の物を選ぶ方が多いんですよ。なので、この手の依頼は期限を早く切って周辺の村などに頼むんです」

「村に依頼するの」

「ええ、ギルドの設置してない村もありますから、このあたりの獣人の村落は広範囲で固まってませんからね、昔からの習慣のようなものですよ、一昔前だったらキーファ村に薬草類は全て回してたんです、今も回すのが多いですね」

「猫又族の村ですね」

「慶司さんの仲間の方に出身者がいらっしゃいますね」

「はい」

「うんうん、あの村の子なら採取で金になったのも頷けるわ」

「そんなにキーファ村は採取で有名なんですか」

「私がこの仕事に就いて7年ちょっとなんですけどね、前任の人からも薦められましたよ、何年か前にちょっと仕事量を減らしてくれとは言われましたが、案外このエイミーさんの都合だったのかも知れませんね」

「そうかも知れませんね、エイミーの採取の仕事は正確ですから、じゃあ、採取以外の期限切れの仕事の方がいいかな、何か仕事はありますか」

「えっと、慶司さんにお願いしなきゃ出来ない仕事ってのは…」

「いえ、期限がせまってるとか急ぎとか、そんなのでいいんですよ」

「でしたら、この依頼書を村へ運ぶのを手伝ってもらったりとかもありですか」

「まあ仕事でしたら構いませんけど」

「実は今日の騒ぎがあって人手が全く足りないんですよ…」

「なるほど、じゃあ引き受けましょう、何処を回ればいいんですか」

「キーファ村、ブラーム村、チグル村の三箇所をお願いします、この手配書がそれぞれ束になってて受け取りのサインを貰ってきてくれれば完了です」

「じゃあこれを仕事でお受けしますね」

「助かります」



 こうして配達の仕事を引き受けた慶司、丁度エイミーの里帰りにもなるだろうと思ったのである。

 宿に戻り依頼の内容をエルとエイミーに話す。


「ふむ、配達か悪くない」

「里帰りにゃ、ちょっと恥ずかしいにゃ」

「実際にはウラヌス達で回れば直ぐだしね、最後にキーファ村によってゆっくりすればいいと思うんだ、エルとエイミーは先にキーファに行ってくれれば、残りの2箇所は俺が回ってそっちへ向かうよ」

「キーファ村までの街道なら危なくないにゃ、1人でも大丈夫だと思うにゃ」

「いや、一応荷車は持っていくからそっちを二人で向かって欲しいんだ、お土産も買っていくだろ」

「わかったにゃ、ありがとうにゃ」

「では、我とエイミーは買い物をしてから参るのじゃ」

「うん、俺は一足先に出発するね」

「うむ、ではキーファ村で待ってるのじゃ」



「ふむ、こうして完全にエイミーとのみで出発するのは初めてになるな」

「確かにそうにゃ、待ってたりすることはあっても二人で出発は初めてにゃ」

「買い物は全部すんだかの」

「大丈夫にゃ」

「よし、では出発進行じゃ」

「にゃ」


 こうして慶司達は夫々配達へと向かった。

 エイミーの故郷へ。

 熱狂のお祭りに沸いている町を後にする。


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