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異世界見聞録―黒髪の青年と白銀の少女の物語―  作者: せおはやみ
トラブル・道連れ・世は情け
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不評だった発明

 改めて赤竜の牙特攻隊長のルージュを皆に紹介する。


「さっき話してた通り、これでルージュがブルトン王国まで護衛をしてくれる事になった」

「よろしく、って今更だが、赤竜の牙で特攻隊長を務めてるルージュだ」

「宜しくお願いします、シャーリィです」

「シャーリィ様の侍女ミランダと申します。助かりますわね、グラームからの船旅は良いとしてもやはり陸路は不安でしたから」

「護衛を務めているヘンドリックと申す、何卒宜しく頼む」

「腕は御存知の通りですし、条件も知ってもらってますのでギルドで契約書を交わしてきて頂いてよろしいですか」

「うむ賜った、では参りましょうルージュ殿」

「殿とか言われちゃうとなんかこう痒くなっちゃうよ」

「ではルージュさん、参りましょうぞ」

「宜しくたのむな」


 ヘンドリックとルージュは契約書を作りにギルドへ赴く事となった。

 ミランダが商館を回って縁のある船主を探す、条件が荷車やウラヌス達も乗れる船である。

 少々時間が掛かるかと思います、との事だったので任せる事にして、慶司達は宿で一旦待機することとなった。


 ギルドへの到着報告はヘンドリック達が戻ってきてから行けばいい。

 エルとエイミーとシャーリィはチェスやカードで遊んでいる。

 暇つぶしのためにトランプを慶司が作ったのである。

 竹の板を薄くして作ったトランプだが紙の貴重なこの世界ならではかも知れない。

 今の紙は麻や綿などで出来ている、しかも服の襤褸などから作るので綺麗な白で無い上に生産量が少なく。重要な書類は羊皮紙で書かれる。

 いつか麻や綿の代わりとなる長繊維の植物で紙を作ろうと思う。


 だが今の慶司は考え続けている魔法があった、そしてこの空いた時間に完成を見る。

 なにも攻撃魔法だけを考えていた訳では無い、腕が増えたのは応用である。


 風呂と洗濯がこのところの魔法の対象となっている。

 着替えをもって旅をして洗濯はなんとかなっている、面倒だが。

 だがしかし汚れたら洗うしかないのは不便だ。

 アニメのように魔法で綺麗に、とか魔法でお風呂と同じ感覚で綺麗に、という魔法や魔術が無い。

 今までは良かったのだ、汚れる、着替える、洗う、体は川で水も浴びれる。

 だがこれからの季節、そして海での移動。

 日本人としては清潔感が大事なのだ。

 エルも今までは、竜の体で水浴びを年中してたらしいが、人の体でそんな事をしたら風邪を引く事になる。

 しかしここでもやはりファーレンの魔法の仕組みが立ちふさがる。

 汚れを取るという行為の魔法は無い。

 そもそも汚れと言っても、汗、土、埃、血などがある。

 即時に諦めようと思った。

 だが、我ながら馬鹿でもいいと開き直った。

 出来たのは洗濯用の袋であった。

 当初目指してたものは着たまま綺麗にする事だった。

 だがしかし、

 服を綺麗にするには何がいるか、と考えて必要なのは水である。

 ただ水を掛けても綺麗にならない。

 ではどうするか、水蒸気の水を内から外へと放出すればいい。

 だが、冷たい水蒸気だと服が濡れていくのである。

 よって熱い水蒸気となるが、そんな物を体の方から出したら大火傷する。

 体と服の間に風の魔法で膜を作り、体外へ向けて放出した。

 熱風で服も乾く。

 だがコントロールが死ぬほど難しい。

 その上効果も微妙なのである。

 エルには「何がしたいんじゃ、新たな幻覚魔法か」とまで言われた。

 確かに見た目まで気にしてなかった。

 そして同等の魔術を袋に付与した、洗濯袋が出来上がった。

 水蒸気で汚れを浮かし袋の外へと押し出していく、5分作動させれば綺麗になる。

 長所は魔法ではなく魔術である、なので少ない魔力で使用が可能だと言う点。

 短所は着たままだと無理なので脱ぐ必要がある事と、稼働中は近寄れない事。

 蒸気は出た時点で冷やす設定だがそれでも勢い良く噴出してるのである。


 そして考えて部分的にしか活用できないと割り切ったのが体を綺麗にする魔法である。

 先程と考えの根本は一緒である、汚れを落す、皮脂やなんかも全ては汚れである。

 ではどうするか、温水で体を拭えばいいのだ。人間の体は光触媒では着ていないのだ。

 やってみた、

 想像してほしい、スライムのように肌を巡る温水の塊を…

 他にも、膜を薄くつくって被うなど方法は試した、しかし、洗うための洗剤もなく、ただお湯にさらすだけに近い行為だ。靴を履いたままなど考えたくない結果になった。

 爽快感が全く無い。

 よって狩りの後の手を綺麗にするなどの場合にのみ使用した。

 ちなみにだが、この魔法を完成させるのに、風の魔法で水をかき回したりした時に失敗して、何度か肌を切っている、自己犠牲の上に成り立っている事を報告したい。

 このような事で諦めてはいけない。

 慶司は奮起した。

 これから布で体を拭くだけの生活などありえない。

 ヒントになったのは迷い家のくれた水のでる筒である。

 シンプルに温水をシャワーとして出す魔術道具だ。

 これも色々と工夫が必要だった。

 エルとだったら使用するのに魔力の制限はない。

 そのまま暖かいシャワーを魔法で作れるのだ。

 問題は誰でも使えるようにすることである。

 圧縮袋と同じで単純な魔術ほど魔力の消費量も下がる。

 粒上の水をだして温めるのと、水をだして暖めるのであれば後者の方が魔術として簡易になる。

 なので筒に穴を開けて水を内部に魔素でつくり温度を変えて穴から噴出す仕様にしたわけである。

 5分程動かすなら問題は全くなかった。

 無かったほうが不思議な道具である。

 慶司はこの2つが出来た事を喜んだが、エル達にその感動が理解できるのは実際に使用するまで解らなかったのである。

 最後にシャワーの後で使う物も発明してみた。

 空調符は単にシャワーの後、エルが風邪を引くといけないという理由で作った。

 機能は単純で、夏は冷風、冬は温風を体に纏わせるだけの札である。

 この3つのアイテムは慶司が発明者として登録し、売れに売れた。

 女性冒険者などには洗濯袋、ハンドシャワー、空調符の三種の竜具として持て囃された。


 後日談ではあるが、魔術ギルドの魔族達は、まさかこんな単純な機能の物が売れるだなんてと悔しがった。彼等は冒険をしないので解らないのである。発想とはもっと高度な魔術を組んで何が出来るかという、技術論を重要視してしまう傾向にあった。普通に洗濯板で洗濯をし、普通に風呂に入るがそれを旅の下でならまだしも、一般家庭でさえ使うという事態は彼等の考えを改めるに十分だった。空調符など普段に自分たちは魔法として使ってるではないか…なぜこれが売れるのだと、自分たちの思考が間違っているのかと。

 だが慶司の現代科学の物をなんとかこの時代の魔法で作る、しかも家庭的にという発想には及ばず、歯噛みをし続ける結果になるのだが、それはまた別の話である。


「やっと出来たよ…これが洗濯袋、それにハンドシャワー、あと空調符」

「ふむ、例の体から蒸気を発散しておったあれの続きじゃな」

「料理をしてないと思ったら今度はそんなの作ってたのかにゃ」

「あれ、反応が悪いな…」

「そんな事はないが、なんというか洗濯と水浴びと、あとはなんか解らぬぞ」

「普段からやってる事だからにゃ」

「ぬぐっ、いやきっと船旅でこれが合ってよかったと思うはず。

 微妙に便利で、微妙に気持ちよくて、快適に過ごせる魔術道具なんだ」

「ふむ、まあ旅で使えば解る、というのは主様のお得意技じゃからな」

「確かにハズレはなかったにゃ」

「既に複数つくって魔術ギルドへの特許申請とサンプル品を知り合いにばら撒く予定だから」

「生活用品の魔術道具は確かに少ないから申請は通るじゃろうが、偉い気合のいれようじゃの」

「仮に儲かったらどうするのにゃ」

「学校とかの費用にしようと思うんだ、一応まだ石鹸とかの事業もあるしね」

「慶司さんは面白い発想をなさってますわね」

「うん、せっかくの魔法だから生活が便利になればと思ってね」

「私やミランダはおそらくその空調符が一番欲しいかもしれません」

「寒がりだったりするのかな」

「ええ、大陸北部で海からの暖かい風が吹くと言えども寒いので」

「じゃあ、もう何枚か作って持って帰れるようにしよう」

「有難う御座います」

「ただいま戻りました」

「ただいま」

 そしてヘンドリックとルージュが帰ってきたので話はそこで終わり、慶司はギルドへ報告へと向かった。



 宿を出たところで竜の巡回を見かけた慶司は、急いで村の外へ行き飛んでる竜に品物と手紙を預けておいた。この頃になるとマリシェルの通報の努力もあって突然現れる人族に驚く竜は居なくなっている。

 どちらかと言うと畏れ敬う感じである。


「なんだろう、一歩引いた感じで竜族が対応してる気がするのは気のせいだろうか」


 気のせいではないが心当たりが…ない。

 まあエルの影響だと思っておこう。

 そんな暢気な慶司である、なにせ洗濯袋とハンドシャワーと空調符が出来たのだ。


 しかし、この暢気な顔がいけないのか。

 最近はこのコートの噂も広まって、情報を集めている冒険者も多いことから、絡まれる事など無かったのだ。だが残念な事に例外は存在した。

 慶司はギルドに入って、直ぐにカンターに用件を伝えて、情報の遣り取りをして去るだけのつもりだったのだ。

「おい、そこのお前」

 といきなり肩を掴まれて、思わず当てを使ってしまった。

 肩を掴んだと見えた瞬間に吹っ飛ぶ冒険者。

 流石に悪いなと機嫌のいい慶司は思った。

 周りの冒険者達も驚きはした。

 だが、いきなり掴んでいったのも、そして例のコートを着てる人物に無礼を働いたのも吹っ飛んだ冒険者である。ギルドの職員からして既にため息を吐いている。

 過去の例からするに慶司の顔は幼く見える。これは身長が高くとも元々の年齢も若いので仕方が無い。

 故に舐められる。ここからが問題で、一つはパーティーに誘ってくるパターン、俺がパーティーに誘ってやるから付いて来いよ、である。もう一つはそのコートを寄越せと、ワイバーンの素材で出来てるとでも思う中堅所などが絡んでくるパターンである。

 さてどっちのパターンの脅迫だろうと思ったが、ちょっと予想を超えていた。


「くっ、手前テメエっ、死んだぞ」

「「「えっ」」」


 周囲も空気を読んでいるものだ、全員が声を揃えて疑問の声を上げた。


「はっ大方、白銀の翼の慶司さんの振りをして箔をつけて仕事に付こうってんだろうが、そうはいかねえ。俺は慶司さんの弟子でしだ、謝るなら今のうちだ、そのコートを脱いで土下座しやがれ、でないと手前死ぬぜ、慶司さん直弟子の俺の事を吹っ飛ばしたんだ、その面は覚えたからな」


 確かに弟子とも言える二人がいる、ホメロウとカミュは何してるかなぁ、今度の学校手伝ってくれたりするかな。


「このクソが、無視してんじゃねえぞ、ああ、怖くて口も聞けねえのか、ああん」


 これどうやって黙らせればいいんだろうか。

 思わずカウンターの女性を見てしまった。

 そんな手を両方持ち上げて顔を左右に振らないで欲しい。


「その、君さ、慶司の弟子なんだよね」

「おうよ、弟子がいるって聞いた事あるだろうがよ」

「正式な弟子は1人も居ないよ、仲間なとして鍛えた子達はいるけどね」

「はん、知ったかぶりやがって、いつまで振りを続けてんだこの野郎は」

「えーと、もういいや、面倒だから」

「もういいとはなんだ、面倒だとぅ」

「わかった、もし俺が本物なら君はどうするんだい」

「は、てめえみたいな青二才がそうだってんなら俺は冒険者をやめてやるさ、今ここでな、ついでに頭も丸めて真っ裸で町の中をはしってやらあ」

「さすがに、そこまでしたら他人に迷惑だなぁ」

「はっ、すかして逃げようったってそうはいかねえぞ」

「わかったよ、じゃあ、冒険者をやめなくていいから、その代わりに頭は丸めて毎日2時間は清掃活動をすること、しなけりゃ冒険者を辞める事になる誓約書をかいてもらおう」


 ふんふん、と周りもそれぐらいが適当だろうと頷く、町でストリーキングなんてしたら捕まるじゃないか。


「へ、そんな条件だしたって俺は騙されないぜ」

「よし、答え合わせの時間だ」

「えっ」


 流石に今回のパターンは予想がつかなかった、有名税という言葉があるが、それで済ませないといけないなんて理不尽である。


「うぐぁあ、あ、あんたが本物」

「あぁ、だから弟子もいない、君なんて知らない訳だ」


 カウンターで証明してもらったら男は、いや男の子でいい、男の子はそのまま倒れこんだ。


「そういう訳で、さっきの清掃奉仕の契約証書を作ってもらっていいかな」

「わかりました、それだけでいいんですか、詐称罪で訴えれますけど」

「そこまでの事をしてるなら、してない事を祈るけど、罰としては十分だと思うよ、期間は一年と長めにしておこう」

「了解しました」

「それで次はグラームへ向かうんだけど、他の都市とかでもこんな風に詐称してる人間がいるのかな…ちょっと心配になってきた。」

「居ないとは言い切れませんが、今のところ問題を起こして捕まった、という話は聞いておりません」

「よかった、それでグラーム方面でなにか情報はあるかな」

「そうですね、今のところ海路は順調のようです、海賊被害も収まってますね」

「海賊がでるんですか」

「ええ、そう頻繁ではありませんが出ていますね。襲った船に白銀の翼なんていたら運が悪いと思うしかないでしょうが。あ、それと先日の野盗退治でランクが変動してますのでお確かめ下さい」

 慶司  ・採取銀7狩猟銀8討伐金10護衛銀9

 エル  ・採取銀7狩猟銀6討伐銀7 護衛銀4

 エイミー・採取銀9狩猟銀5討伐銀6 護衛銀4

 特別に内部で話をしていたが、もう護衛も後一つですよと言われた。

 いっその事採取以外を全て金にしてもいいんじゃないか…

 最高ランクの人がどんな人なのか、ちょっと興味が沸いて聞いてみた。


「現在の最高ランクは、赤竜の牙の団長と白竜騎士団団長が同率とみていいでしょうね」


 赤竜の牙 キャサリン 採取金2狩猟金5討伐金2護衛金4

 白竜騎士団 ロバート 採取金1狩猟金3討伐金1護衛金6


「見てもらうと解るように、伯仲してますが男性トップと女性トップというところでしょうか」

「すごいな、全てが金クラスか」

「流石に討伐金10の人には、言われたくないと思いますよ」

「申し訳ない」

「いえ、でも潜在能力でいえば討伐金10は最高クラスですから他のも上がりますよ」

「あげたくは無いんだけどね、3人のチームだし、これで銅の依頼とか受けれないじゃない」

「それは確かにそうですね、受けにくいかもしれません」

「はあ、有難う、参考になったよ」


 慶司は礼を言ってギルドを後にした。

 後日、ベネアでは清掃をする坊主の男の子が目撃されるようになる。


 ミランダが選ぶ船の基準は中々に厳しかったが、なんとか目的の船を抑える事ができた。

 ウラヌスや荷車を積むことが出来るのはもちろんの事、船主が獣人で貴族の手が回りにくい船を押さえる事ができた。船は流石に前払いで支払いをする為に足りない分は慶司に借りている。

 3日後に出発になるのでそれまでは宿で待機することになる。

 追っての事を考えても納得の出来る日数で出発が出来る。


 3日後の朝になるまで、慶司達は夫々の興味のある事をしながら過ごしていた。

 慶司の発明を一番理解してくれたのはじつはミランダである。

 侍女だけあって、洗濯布に関しては大型版の箱で作って欲しいと依頼し、ハンドシャワーは必ず宮殿の侍女全員で購入すると約束したし、空調符に関しては天才ですかと褒め称えた。

 この事でやっと自信を持てた慶司だった、そしてさらに便利な魔法道具を作ろうと決心したのだ。

 この時まさに竜具の父と呼ばれる事になった慶司の運命を決めたとも言える。

 恐らくだが、ミランダにまで無反応で発明を受け止められていたら、心が折れていたかもしれない。

 少なくとも、ドライヤーや掃除機、スチーム機能付きのレンジなど、そんな機能の竜具の家庭用魔術品は生まれなかっただろう。

 発明に必要な母は何に宿っているか解らない。

 

 そして3日後、出航の朝がやってきた。いよいよグラームへ向かう事となる。

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