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異世界見聞録―黒髪の青年と白銀の少女の物語―  作者: せおはやみ
トラブル・道連れ・世は情け
42/105

暗殺者達の誤算

 ―ファーレン南部の空―


(おい、虎紋族の娘よ起きよ…)

「スゥ…ムニャムニャ」

(気を失ったかと思えば寝続ける、不思議な奴だ)


 低く唸り声をあげてみようか…


「ぐぉぉん」腹に響き渡る重低音、これではさすがに寝てられない。


「へ、なに、ごはん」

(やっと起きたか、唸り声をなにと間違えたのだ、寝ぼけよって。ほれ着いたぞ)

「おぉ、感謝します竜族の旦那」

(大した奴だな、なんというか馬鹿も極まればというやつだ)

「うぐっ」

(では降りるぞ、ここからなら町まで迷わないだろう)

「助かりました」


 こうして、ようやくルージュは慶司達を射程に捕らえた。

 ベネアの町で慶司達が到着していない事を知り、ルージュはエト方面へ街道を疾走し始めた。


 ―竜聖母の神殿―


「うぅ、見破られているわ」

 そう、お菓子作りという隠れ蓑を装い、慶司に城下町を作ってもらい、長にしようと計画したのだ。

 建設に際しての意見や着想は協力したいが、そこに定住は今のところできませんよと返事が来た。

 エトの町の見事なスピード解決を知って、さすが慶司さんだわ。

 などと浮かれていたらこの返事である。

 しかし、もし慶司が作るならと提示してきた都市の作りは面白い。

 ファーレンは基本的に西洋的な町の広がり方をしている。

 まず、城壁などが獣対策として必要なのである。

 よって中心から放射状に広がる町並みである、中心に商業、中部に住宅、外部に運輸、最遠部に一般住宅や農家が基本である。その外へ城壁があり畑や酪農地域があり、小屋や見張り所、などが作られている。


 慶司はこうした町並みを見て美しいとは思ったが、自分が作るなら、やはり碁盤の目に通りを設けて目抜き通りを作る。といった町並みを考えた。


 上下水道の無い時代なので、上水道の確保は必須だろうと書いてある。下水に関しては魔術を使用する事で悪臭などを抑えると共に肥料への転化が進められている。

 此方の処理は汲み取った物を森などに流すという方法であり衛生的ではない。

 警邏も町の要所に番所を設けて常駐、巡回をさせるという。

 道幅を広く取る事。

 防火用の設備の配置。

 用水路や運輸の為の施設など、見ているとなるほど、となったり、首を捻るほどに広い道幅など何かわからない物も書いてある。

 意外に着想などは大量にあるのだと思った。

(慶司は江戸時代の町を基礎に意見を述べている、だから目新しいのは当たり前だが。)

 そして最後には出来ればアルザスとエルファストの中間あたりの湖にでも住んで釣り道楽の日々を過ごしたいとあった。

 がっくりである。

 だが釣り道楽ならこの聖地でだって出来るのだ、まだ望みはある。

 あるはずですよ…自分を励ますマリシェル。

 そしてエトの町の解決をしてくれた慶司に感謝を送った。



 ―ベネアに続く街道・林の茂み―

「そろそろこの場所で待機するのも1週間になる」

「ああ、いつまで待つのだ」

「ロゲリアからの帰った奴の話では、夜月の27日には竜族方面の国境を越えてる計算だ、遅くとも此方に到着するだろう。護衛の騎士団は壊滅したところまでは確認済みだ。あとは帰国ルートとしてはベネアからの船が一番安全だからな、エスト方面と大森林にも20名の仲間は送り込んだのだ、こちらも同じく20人と少ないが、今回の依頼成功すれば国の暗部を握ることになる、そう頭目はお考えである。必ずや成功させる」

「ということは、成功報告がどこかから上がらない限りはここに貼り付けか」

「うむ、一応数名の間者は他の組織も通じて港町などにも配備してある、漏れはあるまいよ」

「我等の行末に関わる大仕事なのだな」

「騎士団の壊滅は確認したがヘンドリックという騎士が生き残っている、あとは護衛をかねた侍女のミランダという奴だこの二人は指折りの使い手らしい。俺もミランダという女が我等と似て、犬狼族の血を引き、1人で3人は相手をするとは聞いている。しかし此方は20人、5人づつ対応してその間に王女を殺せばよいのだ、王女を殺せば野盗と思わせ退却も許される。護衛を雇ったとしても冒険者風情が10人で来ようと1人で3人を翻弄できよう」

「たった一人を殺すのにここまでの布陣、フフフ気の毒なことだな」

「馬鹿な公爵が一人依頼を回してきたのだそうだ、フフ端金で我等を雇ったつもりが、まさか自分が利用されるとは思ってもいまいよ」

「ミルモス殿、参りましたぞ」


 ブルトン、フルトリア、エリミアド、大陸北の王国で暗躍する黒狼。

 彼等は人族主義の王国で蔑まれる獣人よりもさらに下と見られる事のあるハーフやクォーターの集団である。奴隷として捕まえられた子供や親に捨てられた者、隠里で生まれた者達で暗殺や破壊、戦争工作などで名を馳せる組織である。身体能力は人や獣人よりも高く、狙われた要人は死亡すると言われている。

 その魔の手が今まさに慶司達に襲いかかろうとしていた。




 街道を行く慶司達、もう一日すればベネアに到着である。

 早ければ夜に到着してもおかしくは無い。


「もうちょっとしたらこの旅が終わってしまうだなんて、悲しいですわ、ウラヌス達とお別れするのは嫌です」

「そうですわね、慶司様を誘惑しそこないました」

「短くとも一生に一度の体験をさせてもらっているな」

「でも今度は船旅が待ってますよ」

「そうですわね、船旅も楽しみになります」

「まあ、我等も船旅は初めてじゃ、楽しみにしよう」

「わたしも始めてにゃ、海の町が初めてにゃ、お魚がたのしみにゃ」


 と暢気に話していたのだが、ふと高速で駆け出す気配を慶司は察知した。

 もう、ベネアと気が抜けるところを襲う手はずか…

 武器を構えて荷車の魔方陣を発動。

 そして先頭に移動する。目配せで合図をし、全員に戦闘態勢をとらせる。


(シルフィ、シャーリィを頼むね)

(はい、御安心を)


「来ましたかな」

「ええ、まだ人数はわかりませんが、おそらく。あの速度は人族ではないですね

 傭兵の虎紋族かハーフ、その手の早さで一人駆け戻りました」

「ふむ、ではこのままミランダと私で馬車を守りますぞ」

「ええ、お願いします、既に魔方陣も発動してます、来るとしたらあの林の切れ目、こちらの馬車が上りに差し掛かったあたりでしょう、ですが先程の気配の消し方、どこから現れるのか一方からだけでは無いと思います」

 頷いて、ヘンドリックは荷馬車に戻る、後方をエルが警戒しエイミーは荷車の中から弓を構えている。

【竜撃ノ参(りゅうげきのさん)八識無我はっしきむが】」

 ここから既に身体能力を底上げする。

 そのお蔭で弓の弦を放つ音を捉えた。


 坂道に差し掛かった瞬間に矢が降り注いできたのである。


 【竜鳴ノ一(りゅうめいのひとつ)極飆はやてのきわみ

 範囲が広い、切断も燃やし尽くすことも厳しいとみた慶司は太刀から咆哮の魔法を放った。

 目に見えない無数の刃と烈風が矢を悉く切り落とし吹き飛ばす。

 驚いたのは暗殺者の集団である。

 20人からの弓矢が全て防がれるとは、方法はわからないが魔術師でもいるのだと判断し、矢での攻撃を諦めて散開し始める。


 咆哮の魔法を振るった慶司は魔素を体に取り戻しつつ、ウラヌスから飛び降りて前方へ疾走する。


 前方に10名、左右に5名と分散して此方に向かってくる。

 護衛も含めて6人しか居ないと聞いていた暗殺者は、まさかの突撃にうろたえた。

 だが黒狼は仕事で殺人を請け負う者である。男も女もいるが一人として立ち止まりはしなかった。

 正面からさらに2人づつ左右に分かれる。

 冒険者如きは6人も入れば足止めできる、これで中央を突破されないと判断したのである。


 馬車はスピードを一向に落さない、馬鹿めと指揮をとっている男は思った。

 突入してくれば馬に直接刃をいれて叩き殺せる。

 魔術では防げまいと思っているからである。


 だが前提が崩れる。

 突っ込んできた冒険者は只の剣士だと思ったのだ。

 それが間違いの始まりであった。


 【竜身(りゅうしん)ノ一、竜腕りゅうわん

 何気ないエルの一言がきっかけになった魔法である。

「我ら竜族が魔力を凝縮して人間化するではないか、であれば主様は竜になれないじゃろうかの」

 流石に慶司は竜の体にはなりたいと思ってない。

 そこまできたら寿命の問題では無くなる。

 それに流石にあの巨体化するには一度に使う魔力の量が足りないだろう。

 今エルの肉体構成をしているように、徐々に作っては竜鱗結晶のように蓄えねば無理である。

 だが逆に言えば、肉体を魔力で作り出す事は太刀を使えば可能なのだ。

 竜の肉体じゃなきゃいいのではないか、そこまでならありだ。

 腕を増やせば対人で大量に殺り合うにはもってこいである。

 問題は見た目だけである、これは阿修羅と言われても仕方ない。

 だが作ってみた。

 竜族魔法で作ったコートの【竜翼】を応用しての発動である。

 元々このコートエルの肉体を付与しただけあって、いわば竜鱗結晶の塊のような代物である。


 突っ込んできた慶司。

 槍杖を構えている。

 だが同時に太刀とナイフのような物も見える。

 誰かが後ろに張り付いているのか、そう暗殺者達は思った。

 死を迎えた時に答えを知る、相手にしてるのは人では無いと…


 槍杖で正面の敵を打ち倒し、同時に左手の女の首を刎ね、右前方の男の眉間に投擲具が突き刺さる。

 さらに前方に構える男に対して槍杖で突き刺し、左に体を捻って後ろから切りかかる男を太刀で切り裂く。最後の一人は側面の部隊へと逃げ出したが投擲具の一撃を受けて喉を貫かれた。

 殆ど抵抗らしい抵抗が出来ていない。


 左右に散った暗殺者達は流石に分かれた前方の布陣が破られた事を知る。

 だが目的はあくまで馬車の中の王女である。

 しかし、馬車の勢いは止まらない。

 前方の部隊で足止めする手筈が失敗に終わった。


 そこで指揮は乱れた。


 左側3人が馬車に向かって突入する。

 エイミーの弓で、走り出そうとしたところを1人が打ち抜かれて倒れる。

 さらに二人が雷撃を受けて怯んだところにピレードにかみ殺された。


 さらに予想外な出来事が起こる。

 残った左の2名が走ってきた女の虎紋族に殴り殺された。


「こいつは、野盗かなんかだろ、まあ殺ッちまった後だけどよ」


 伏兵だと…

 まさかさらに戦力を分けていたとでも言うのかっ


 指揮者は隊を分けた愚であると思った。

 実際にはこれが最良であっただろうが、少なくとも前方の10人はそのままに、左右の5名で突入を仕掛けるべきだったのだ。


 どの道、任務に失敗をすれば私刑が待っている。

 残るは5人のみ。

 相討ち覚悟でこの男を突破してでも任務を果たす。


 馬車は既に停止している。だが警戒態勢を全く解いていない。


「おう、兄さん何族だ、すげーかっこいいなおい、助太刀させてもらうよ」

「ありがとう、助かるよ」


 ルージュがこの騒動に間に合ったのは偶然である、懲りずに街道を近道だと林に向かって走ったのである。懲りるという事を知らない彼女はそこで1人移動していく気配を掴んだ。

 早い、少なくとも自分よりは遅いが隊のなかじゃ上位の部類だ。

 こんな林の中で疾走するなんてありえない。ルージュは気配を頼りに走った。

 そして襲撃の場面に出くわした。


「ふふん、私がきたからには諦めな」

「…行くぞ」


 ルージュに2人、慶司に3人。

 慶司の方は足止めである。

 本命はルージュの方だ、1人足止めをしてもう1人は馬車へと突っ込む。

 決死の覚悟をした人間に手抜きはしない。

 距離をとってナイフが投げ込まれる。

 投擲具を逆に投げ込み、槍杖で投げられたナイフを弾きルージュの方の1人にむけて飛ばす。

 腕にささった瞬間に男は痙攣して薬を飲んだ。

 毒を使用するのだから確実に刺客であると判断できる。

 風貌は冒険者崩れを装っているが間違いない。

 1人は生かして捕らえたい。

 指揮をしてるであろう目の前の男。

 油断なく距離をとりつつ槍を構えている。


 ルージュは2人と対峙していた、

 そこにナイフが弾かれてきて女に刺さると痙攣し、薬を含み汗をかいている。

 此奴ら毒を使うってことは只の野盗じゃあない。

 野盗は人も売り買いする。

 しかし、一気に楽になった、1人はもう使い物にならないだろう。

 ルージュの武器は刃渡りが1.5ネル程の形状の変わった短剣が2本。

 槍は馬にくくりつけてあるから、あとは投げナイフが2本腰に刺さっている。

 切りかかってくる相手の剣を逆手に持った右手の短剣で受ける、

 短剣にしては刃も長いが持ち手から前傾するように刃がついていてさらに後ろへ湾曲している。

 この前傾している部分と柄で剣を防いだ瞬間に反対の手に持つ刃があいての頚動脈を切り裂いた。

 なかなかに見事な腕前である。

 毒を受けた方はそれでもナイフを投げ刀を構えて切りかかって来る。

 護衛を幾度もこなしているルージュにも迷いは無かった。

 刀を躱してよろめいたところを頚動脈に刃を潜り込ませた。



 指揮者と最後の一人は同時に突っ込んだ、槍と投げナイフ、

 慶司は槍を槍杖で叩きはらってナイフを竜碗で弾いた。

 そのまま踏み込んで槍を足でへし折りナイフを投げた男を突き殺した。

 指揮者と見られる男の鳩尾へと一撃を加えて、自殺を防ぐ。

 猿轡の代わりに相手の服を破いて口に詰め込んだ。

 縄を打ち後で尋問するのである。



 死体を処理する前に突然の助太刀に来てくれた女性に挨拶をしようと思った。


「有難う、助かったよ」

「ハハ、アンタも強いからそれこそ無用の手助けだったみたいだがな、アタシも暴れられたから満足だ」

「いや、どうやら只の野盗じゃなかったようだし、左から突っ込んでくれたお蔭で左右からの挟撃を防げたよ」

「そうか、そう言って貰えたら突っ込んだ甲斐もあるな」

「どうだろう、この始末をつけたらベネアに言ってお礼をしたいんだが」

「いやぁ悪いね、ちょっとアタシは探してる人がいるんだ。

 だからこのままエトの方へ行かなくちゃならない」

「そうか、じゃあせめてお礼だけは受け取ってくれ」

「気を使わなくてもいいのに、これも冒険者の務めだ」

「これを受け取ってくれ」

「銀貨5枚もうけとれないよ」

「それこそ仕事代だとおもってくれ、俺は慶司という」

「アタシは赤竜のルージュだ」


 赤竜のルージュ…

 慶司…


「「あっ」」

「おい、勝負してくれよ」

「えっともしかして赤竜の牙のルージュ」

「あぁ、白銀の翼の慶司だろ、探し回ったんだ、危うく見逃して別れるとこだったぜ。またアンジェリカ姉ちゃんに馬鹿にされる」

「アンジェリカ姉ちゃんって大森林の…」

「おう、そうだ、よろしく言っておいてくれってよ、でな勝負してくれないか」

「あの、どうして勝負を…」

「いや、そこに強い奴が居る、ならば戦うのが当たり前だろ」

「…そうか、グラディスさんと同じか…」

「なんだ、俺たち赤竜の牙の伝説の創始者をしってるのか」

 うぉぉい何やってんですかっ

「とりあえず、こいつらの片付けを終えて、都市に言ってから話の続きをしてもいいか」

「ああ、もう見つけたからな、迷う事も無い」

「じゃあ、悪いが手伝ってくれ」

「いいともよ」


 土を掘り遺体を処理していく、身元のわかるような物は一切持っていない。

 一応墓標代わりに武器を立てておいてやる。


 そして捕縛した男を連れて皆の下へと戻った。




 都市で警邏へと報告をし、立会いの元で尋問をしようとした。自白剤代わりの薬物を含ませ、意識が朦朧としたところで猿轡をはずした。しかしその瞬間に男は口に隠し含んでいた毒を飲み込み、手当ての甲斐なく死亡してしまった。

 歯に仕込む毒であったようだ。

 確実に暗殺者であるものの証拠や裏の背景がわからない。

 恐らくはどこかの組織に依頼したものであろう。

 ヘンドリックの推測もミランダの推測も黒狼であった。

 全員がハーフであったこと、暗殺の武器、そして人数。

 これだけの事をする組織は黒狼ぐらいであると言っていた。

 だが誰がこの黒狼を動かしたかになると、容疑者数が多い。

 ブルトンでは黒狼は貴族でも恐れる存在だ、戦争に多用している隣国とは違う。

 故に容疑者は多いが、そこまでするほど今回の件に関わった者に限られる。

 筆頭の容疑者は今回の使節派遣推進派筆頭のデブル公爵である。

 しかし遠いとはいえ王家の血をひく公爵が暗殺者まで雇うかとも思う。

 そうヘンドリックは述べた。

 だがミランダは違う意見を述べた。

 可能性としては一番高いのがデブル公爵であると。

 現在の王位継承権は二人しか居ない。

 ではこの二人が居ない場合の王位はどうなるか、親族に継承権がなければ必然として王家の血を引く分家から養子をとるのである。

 そして女王制を敷いているブルトンで現在分家でかつ未婚の女子は公爵家のマリーしか居ない。

 マリーを女王にしたあと譲禅させる事もかのうだし、分家でも貴族でも現状で最大の有力者はデブル公爵家なのだ。

 ヘンドリックは騎士の爵位を持ついわば一代といえど代々その名誉を受けている貴族であり、そこまで愚かな人間は居ないと考える。

 ミランダはそういう常識ではなく、事実を一歩下がって見た結果を考えたのである。

 慶司としてはミランダの意見に賛成である。

 シャーリィも悲しみながら同意した。

 帰途にはさらに注意をしながらと意見が一致して、それぞれ宿の部屋へと戻っていった。



 さて、問題はニコニコしながら宿の裏手で剣を振ってる女の子の処理である。


「主様よ、本当に女性に好かれるのぉ」

「嫌味ですかエルさん、誰が見ても面倒事の種だよね」

「フフフ、まあの、しかしどうするんじゃ、まあ相手をしてやれば納得して帰るやも知れぬが」

「うーん、アンジェリカさんの妹らしいんだよね」

「ほう、それは面白いな」

「無碍にもできないけど、勝負ってのはねえ」

「まあ軽く相手をすれば良いではないか」

「うーんでもあの子手を抜いたらばれるし、抜きすぎたらそこそこやるんだよね」

「ッフッフッフ、主様よいい手を思いついた」

「本当に、ちょっと怖いけど聞いてみたい」

「なに…ごにょごにょでな、ごにょごにょじゃ」

「なるほどね、それなら損もないし危なくもないか」

「うむ、良い考えじゃろ」

「その意見でやってみようか」



 かくして、慶司対ルージュの戦いは始まった。

「じゃあさっきの条件は飲んでね」

「わかった、じゃ無きゃ勝負してくれないなら飲むしかないからな」

「しかし、赤竜の牙ってそんなに1人で行動してて大丈夫なの」

「あたしが出なきゃならない討伐とか狩りなんて滅多にないさ、それまでは自己鍛錬だろうがなんだろうが個人の自由ってのが初代からの方針さ、戦士たるもの常に鍛えよってな。

 連絡がつくようにさえしてれば文句は言われないし、勝手に仕事をしてもいいってわけだ、常にパーティー資金へ一割回さなきゃいけないけどね。

 それより、あたしがかったら勧誘の件を考えて団長と会うって話でいいんだな」

「うん、大丈夫、その代わり、無手、関節技は極めてもいいけどタップまで、意識を失ったら負け、明らかに相手に止めを刺される一撃を寸止めされても負け、って条件で宜しくね、それと勝ったら約束は守ってね」

「わかってる、アタシに二言はないよ」

「よし、双方ともに準備は良いな、ではコインが落ちたら勝負開始じゃ」

 キィッーン

 右のストレート、

 素早い、コインが落ちた瞬間に間合いまで踏み込んできている。

 右手で内側やや下に逸らす。

 そのまま体を入れ替えて後ろから押す。

 ただ殴りかかるだけでは無理だと理解したのか、ルージュが速攻でタックルを仕掛けてくる。

 体制が低くまさに虎が飛び掛るような勢いだ。

 中々のキレである。

 が低い姿勢から少し飛び上がって来た。

 体をまるめて姿勢を低く受けて右手を逆手にとって投げ飛ばす、

 驚いたことに空中で体を捻って着地した。

 さすが虎紋族といったところだろうか、

 着地の勢いを反動にしてもう一度突っ込んでくる。

 体に手を回してくる瞬間にあわせて、体の軸を回し、相手の頭部を右わき腹に持ってきながら、相手の右腕の肩と手首を捻って地面に押さえつけた。

 体の構造上、手を引きちぎりでもしない限り外れない。


「いたったたた…まいたぁああ」


 しかし、飛ばして体を捻ってくるとは、凄い反射神経だな。

 元の世界で曲がり角から急発進した車に刎ねられて、前転宙返りで無事だった人間には言われたくも無いだろう。


「まいったわね、あの腕が4本で来るかと思ったのに。負けだわ…姉さんの言うとおりだった。

 悔しいっ、くぅぅぅしかも全力じゃ無さそうだし…」

「いや、普通に戦ったから手は抜いてないし、投げ飛ばして空中で体を捻って着地って凄いと思うよ」

「そういや、どういうマジックなの、さっきから攻撃しても私が一方的に投げられたり突き飛ばされたり、魔法でも使ってたの」

「【流転るてん】と言って習った武術の技みたいなものだから」

「そういえば攻撃もしてこなかったけど」

「攻撃がないわけじゃないけど、無手での手合わせで相手を無力化するにはちょっと攻撃方法が危険なものが多くてね、【流転】で対処することにしたんだ」

「まあいいわ、約束は約束だから」

「うん、じゃあ一緒にまずはグラームまで宜しく」


 慶司の出した条件は、無手での試合と勝った場合はルージュを護衛の仲間に引き込むことだった。

グラームに到着後、一旦シャーリィ達と別れることになる。

そこでルージュにブルトン王国までの護衛を依頼できるようにと約束したのである。もちろん特価でとお願いしてある。

その分負けたときは赤竜にという条件まで飲んでいるので騙しては居ない、と思う。


 こうして慶司達の旅に新たなメンバーが一時的に加わった。

 赤竜の牙特攻隊長、ルージュ。

 頼もしい仲間を得て、慶司達はグラームを目指す海路を進む事になる。



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