鈴の音の夜に
―ファーレンの空―
「うわぁぁぁゎ」
(おい、小娘、お前も冒険者の端くれならば静かにせんか)
「ど、どうして木箱に、せめて背中なんじゃないのか普通は」
(そなた只の方向音痴でなかったか、竜族の背というのは竜に心から認められた者以外は跨れぬ)
「それにしても空を飛ぶ経験なんてなけりゃ怖いわよ」
(仕方あるまい愛馬を放っていくわけに行くまいが、これは情けよ、まあお主の探している相手も知らぬわけでもないしな、おっとっと)
「きゃぁぁぁぁ、お願いだから揺らさないで」
(さぁ速度をあげるぞ、我慢をすれば2時間もあればベネア近郊に下ろせるだろう、ッハッハッハ感謝するがいい、丁度竜族の伝言で位置がわかったのだからな)
「きゅぅぅぅ」
―大森林の村―
「あの子、ちゃんと慶司に会えたかしら…」
馬鹿だからなぁ、時折想像を絶する事をするんだよね。
アンジェリカはため息を吐いた、だかあの子は体術、武術に関しては天才だ。
まぁ森で迷ったぐらいで死にはしないだろう。
どこかで馬鹿をやりながらも慶司に遭えるだろう、そう呟いてギルドの受付へと足を進めた。
―ブルトン王宮―
「姉様、大丈夫かな」
アレクスはたった一人の姉を思う。生来気が強い方ではない彼だが聡明ではあった。時折取り入ろうとする貴族が娘を遊び相手に連れて来たり、息子などを紹介してくれるが、彼は姉が剣や馬の練習しているのを、一緒に学んだり見学したりする方が好きなのだ。
数代前からブルトン王国では女王制となり宗教も改革され竜族親和の政策を王族は立てている。
アレクスもこれが正しいと考えている。
しかし自分に近づく貴族が、言葉巧みに彼を唆そうとしている事も理解している。
それが利権と無知と傲慢によって考えられている事も、この年にして悟っている。
病床にある女王、お母様の代わりの父は貴族出身である。だから貴族に言い含められて姉様を外交使節などと送り出したのだ。近隣諸国ならわかる。だが南東ルートの海路と使えない、大森林地帯のある大陸中央も抜けれない、大きく大陸を西南へと海路を使わねば到達できないロゲリアに送るなど、時期女王に何かあったらどうするつもりなんだ。まさか、奴等そこまで考えたのかっ。
ロゲリア王アグラⅫ世は多くの妾を持つ女好きで、求婚させる手はずだったのだが、流石にまだ年若いアレクスにも判らない。
空のかなたを竜族が巡回の為に飛んでいる。
彼は竜に向かって祈った。
(どうか、姉様をお守り下さい)
―聖教会派貴族の館―
「ハッケル男爵、どうかなそろそろロゲリアから連絡はないかな」
「まだ御座いませんな、さすが相手国時期女王に求婚ともなれば」
「ふむ、しかしデブル様、いくら失敗したときの事を考えるにしても待ち伏せて、ともすれば、もしも露見致した時は不味くありませぬか」
「フフフッ、そのような心配は無用だよボアード伯、今回依頼したのは、かの黒狼だ」
「なっ、危険ですぞ奴等は」
「フッ、あの小娘が女王になるとこれまでの苦労が水の泡だ」
「まさか、現女王も…」
「それは知らぬがいい秘密だ、切り札は最後に切るから意味があるというわけだ」
デブル公爵は暗い笑みを浮かべていた。
「王は人の上に君臨せしもの、竜族は魔物だ」
「「「祖国に栄光を」」」
―大陸南部の街道―
今日も、平和な旅路である。
山も森もなくなり完全な平野が続く、草原では秋の花々が咲き優しい陽射しが降り注ぐ。
荷車を運転してるヘンドリックは大丈夫だが、荷台のシャーリーとミランダは眠そうだ。
移動のペースも元に戻している為、次の町に到着するのは3日後ということになる。
「のう主様よ、これだけいい天気だとアルテの上で寝そうじゃ」
「寝るなら荷車で寝ておいで」
「そうするかのぉ」
これだけ広い平野である、森もなければ林もない、奇襲を仕掛けるには厳しい条件だ。
慶司としては気を抜かないが、警戒を常に続けるのは不可能で、力を抜くときには抜かないといけない。
「エイミーも休憩していいよ、俺が狩りに先行するまで休んでて」
「わかったにゃ、ありがとうにゃ」
食事の後には眠くなるものだ、夕方までは休んでて問題ないだろう。
そして夕食の時間。
その日の夕食は狩りをしたホルホル鳥ではなかった。
「これはなんじゃ、いい匂いがするぞ」
「なんだか判らないけど美味しい匂いにゃ」
「早速頂きましょう」
「うむ、これは美味しいわ」
「うまし」
「おいしいにゃ」
「ほうこれは濃厚な味わい」
と気にいってくれたのはハンバーグである。
熟成させた肉でも赤身の肉の味の濃い部分と、サシの入った部分をミンチにする。
チーズの粉、ギネの球根、リュコルの摩り下ろした物を少し、塩と胡椒を少しと混ぜあわせ、高温のフライパンで表面をしっかりと焼き肉汁を閉じ込める。最後にスープの素Cを酒で溶いたものを入れて酒精を飛ばしてソースにして出来上がりである。
付け合せに温野菜と、お米をだした。
ハンバーグで煮込みなど邪道と思ってるから、渾身の一品である。
時間があればこの世界の定番の煮込み料理も手を加えて、テールの煮込みとか作ってみたいが流石に野営では無理である。圧力鍋でもあればいいが構造がわからないから、どの程度の圧力を逃す作りにすればいいのかが問題なのである。実験して作るのも危険だしな…あれがあれば牛スジを煮込んでとかできるんだが、残念に思う慶司であった。
次の日、時間があるので夕食は全員で準備する流れとなり、川に全員で針を垂らすこととなった。
ビギナーズラックはやはりあるのか、見事にシャーリィが一番大量に釣り上げた。
釣ったらすぐに捌いて竹串を打って塩焼きにして食べる。
もちろんお握りも用意済みである。
お米を握って片手で食べるのも初体験だらけである。
不思議そうな顔をして手に持って食べていた。
海苔になりそうな海藻はみつけてあるが板海苔にはしておらず笹の葉で持ち手をつくって巻いておいた。
おかずとして焼き魚があるので塩味だけなのだが、なぜお握りは美味しいのだろう。
不思議に思いつつも、ゴハン粒をほっぺにつけながら笑って食べるエルを見ていると微笑ましい。
食後は団子を出してみんなで月見をしながら楽しんだ。
こうして次の村にまでもう少し、と見えたあたり、夕方になるなと急いで村へ行こうとしたら悲鳴が聞こえた。
「きゃあぁぁ」
慶司はウラヌスに乗ったまま、街道を一人外れて叫び声の元へと急いだ。
野犬の群れに襲われている男の子と女の子を見つけた。
男の子が必死に棒切れでドルドを追い払っている。
(シルフィ障壁を)
(はいっ)
さすがにこの距離、身体能力を高めても間に合わない。
飛び掛るドルド、しかし間一髪で弾かれている。
「【竜撃八識無我】」
矢を番えて迫るドルドへと放つ、飛び掛ってたじろいだドルドの頭部へ吸い込まれる。
2射目を直ぐに発射し取り巻いてるドルドの注意をこちらへ向ける。
2匹始末したが興奮したドルドは逃げ出さない。そのまま子供達を取り囲みじわじわと近づく。
「ウラヌス守れ」
ウラヌスから飛び上がってドルドの群れに突っ込んでいく。
槍杖でそのまま叩き伏せて回る。
10匹の群れだったのだが、5匹片付けたところで逃げだした。
追撃はしない、先に子供の具合をみる。
(シルフィ助かった)
(いえ、では)
「よし、もう大丈夫だ頑張ったな」
「おう、俺は強いからな」
「あの遠くに見える村の子かい」
「うん」
「さすがに子供だけでここまでくるんだ、何かあったのかな」
「こいつの父親がろくでなしなんだ」
「それで」
「おかあさん病気にゃの」
「もしかして薬草を取りにきたのかい」
「そうだ、こいつの母親は体が弱いから、でも買える金なんてないし」
うーん、どんな症状なんだろう。
「なんの草をとりに来たか判るかい」
「薬剤ギルドのおっさんはヒトニギンと熊の胆嚢が最高だって、だけど無理だろうからリュトルとロールとクッコとパイの木の実ぐらいだったら良いんじゃないかって言うから取りに来たんだ」
確かにヒトニギンに熊の胆は値段てきにも無理な代物だけど、この年の子にこの近辺は危険すぎるな。
「うーんちょっとこのあたりまで来ると、さっきの獣みたいなのがやって来る。薬草はお兄さんに任せて一旦村に帰ろうか」
「だけど…」
「大丈夫、リュトルの根とロール草それにクッコの実とパイの実の種だね、お兄さんは冒険者だから危険はない、仲間がこの丘を越えた先にいるから一緒に戻ろう」
「でも、わたしお金ないにゃ」
「俺も払う金はねえぞ」
「わかったこれも何かの縁だからお金がどうしても払いたいなら大きくなってから払ってくれればいいさ」
「…わかった兄ちゃんに頼む、そうしよう俺が将来働いてお金は払うさ」
「うん」
「よし、じゃあこのドルドだけ始末したらいこうか」
こうして、レントという虎紋族の少年とキッカという猫又族の少女、二人を保護してまずは戻った。
「主様、間に合ったようじゃの」
「うん、なんとかね」
「で、その二人はだれにゃ」
「この男の子がレント、こっちの女の子がキッカ」
「レントです」
「キッカにゃ」
「レントがキッカを守ってて何とか間に合った」
「偉いですわ、見事なナイトです」
「ええ、なかなか将来有望ですね」
「うむ、男じゃの」
「それで、すまないがこの子達は薬草を取りに来たらしい、ちょっとこの子達が集めるには早すぎる」
「なるほど、それで一旦かえってきたのじゃな」
「うん、物によってはなんとかできるからいいんだけど、一応薬剤師の言ってるものだけ集めてくるから」
「じゃあ私もいくにゃ」
「エイミーも来るの」
「駄目かにゃ」
「うーん町まで距離もないからいいんだけど…」
「いいですわ、それまでここで休憩にしましょう」
「じゃあ、大丈夫だね」
「有難うニャ」
念のためウラヌス達は置いていった。
しかしエイミーが自分から来るというとは思わなかったのだが、
「あのキッカを見てたら故郷の妹を思い出したにゃ」
と教えてくれた。
どうにもほっとけなくなったらしい。
「それで、にゃんの薬がいるのかにゃ」
「うーん滋養強壮用みたいだね、一応薬剤ギルドの人がいうには、最高の者だとヒトニギンと熊の胆嚢らしいから、代用でリュトルとロールとクッコの種とパイの種らしい」
「うーん、効能がかぶってるのにゃ、摂取も方法もバラバラにゃ」
「確かにね」
「それに滋養にいいからと言って取りすぎたら体にどくにゃ」
「この場合はどうするべきだと思う」
「症状によるから一応全部用意はするにゃ、具合をみて軽いならリュトルを食事につかって、寝込んでるのが酷いならロールを飲ませて、磨り潰したクッコとパイの種を炙って薬にするにゃ」
「よし、じゃあとりあえず必要と思う量を揃えよう」
「クッコとパイの種はかなりの量がいるにゃ、急いでとるにゃ」
こうして、一時間ほどかけてリュトルの根を3個ロール草の花を50個、クッコとパイの種は実の内部なので判らないが実を50個づつ集めた。
「よし、じゃあ村へ向かおう、宿に荷車をあずけたら、俺とエイミーはキッカのお家へ向かうからね。エルはギルドへ報告とこの牙と皮の処理をお願い」
「任せておけ」
村についてキッカの家へ向かう、どうもキッカの様子が俯き加減になっていて帰りたくないようだ。
まあ理由はすぐにわかったのだが。
扉を開けたら木の皿が飛んできたので、思わず掴んで投げ返してしまった。
見事に鼻面にあたった男は呻いている。
「お邪魔します」
「何なんだ手前っ」
「旅の途中の冒険者です、途中でキッカちゃんを助けまして」
「なんだぁキッカ酒を買って来いといったのに何処いってんだ」
「お酒なんて買わないもん」
「なんだとっ」
「あなたっゴホゴホ」
「ったくよぅ、くそっ面白くねえ」
寝床からキッカの母親が体を起こして父親を諌めるが、気に食わないのかそのまま男は出て行った。
「あの、有難う御座います、この子の母のメイと申します。こんな有様で何もお礼は出来ませんが…」
「いえ、それは構いません、それと薬剤ギルドにキッカちゃんが聞いた薬なんですが」
「ええ、体調を夏の半ばから崩しまして、食事が取れなくなりました」
「にゃ、それじゃ滋養強壮よりも別の原因にゃ、慶司のもってるサンキの実とプレの実の塩漬けがあったにゃそれを分けて欲しいにゃ」
「構わないよ」
「それとあわせてリュトルの根を使ったお粥とクッコの実を一日3粒たべるにゃ」
「原因はわかったの」
「おそらくだけどにゃ、慶司にもらうのは虫下しの薬になるのにゃ、普通に体調を崩して夏の暑さでまいってもここまで長期化はしないにゃよ」
ここが中世以前の世界だと忘れていたなと改めて思った、日本ではまず聞かない病気になっている。
慶司は急いで宿へと戻りサンキの実とプレの実の塩漬けを分けた。
乳鉢で磨り潰して壷にいれた、少しだけ湯のみに入れて薬湯として飲むらしい。
あれは酸っぱいぞと思いながらみてると口に唾液が広がった。
「これを一種間のみ続けるにゃ」
「わかりました、有難う御座います」
「あの、ところで旦那さんはいつもあのような感じなのですか」
「いえ、以前はまともに仕事をしていた冒険者だったのですが」
「よろしければお聞かせ願っても宜しいですか」
「はい」
実はと、メイさんは語ってくれた。平均銀の3という優秀な冒険者だった旦那さんは、この夏にエトの方まで護衛の任務で出かけたらしい、そこで山賊に会い仲間を全て失った、それでも彼は一人でなんとか荷馬車も守って都市に逃げ込んだ。しかし、山賊の情報などなく捜査を依頼しても結局山賊はいなかったとされて、あげくの果てには襲撃を手引きしたのではないかとまで疑われたらしい、護衛していた商人の証言でさすがにそれは回避したが、それからどこから噂が漏れたのかこの町の冒険者ギルドでは帰ってきた旦那さんを逃げ出した弱虫だ、盗賊の仲間だとして扱い、一人仕事は請けれても、パーティーを必要とする護衛や狩猟などの仲間から外されてしまったらしい。それまで誠実に仕事をしていただけにプライドもあり何とか食べれるだけの仕事はしているが以前のように狩りもできずで、腐っていったという。
「あの、その山賊の話ですが、本当ですよ」
「そ、そうなんですか、信じてましたが、何も証拠もないので…」
「つい先ごろエトの町のギルド長が逮捕されてます、うーん、それを知ったら立ち直ってくれますか」
「どうでしょう、酷い仕打ちをうけましたから」
「うーん、奥さんや御主人、キッカちゃんはこの村は好きかな」
「私たちは冒険者として流れてきての定住ですから…」
「わたしはキライ、だけど」
「レント君かな」
「うん、何があってもレント君だけは助けてくれた」
「レント君の両親は冒険者でした、あの人の仲間だったんです」
「じゃあ、今彼は」
「ええ、私たちが引き取ろうと言ったんですが、今も一人で家に住んでます」
うーむ、これはどうしようか、エルにいったら「我にまかせよ」って一言で決めちゃう勢いがあるんだけど…
「慶司どうにかならないかにゃ」
「うーん、よし、レント君に会おう、旦那さんが戻ってきたら先程の件はお話してあげて下さい。それとレント君を説得しますので引き取ってあげるとして引っ越す気があるかどうかを旦那さんと話して置いて下さい、すぐにの決断じゃなくてもいいですから」
「わかりました、この話を聞けば納得するはずです」
そして慶司とエイミーはキッカと一緒にレントの家にやってきた。
「レント君、入るよ」
「おう兄ちゃんか、どうだ小母さん元気になったか」
「さすがに直には無理だにゃ」
「そ、そうだなうん、でも薬は届けてくれたんだろ」
「ああ、きちんと渡してきたよ」
「よかったなキッカ」
「うん、ありがとうレント」
「それで話は違うんだけど、レント君の御両親が亡くなったのを聞いてね、メイさんが引き取ろうとしてると聞いたんだけど」
「俺はこの家で一人でくらす、あの駄目親父の世話になんかなれるか」
「それはどうしてかな」
「あいつは生きてるのに仕事もしてない、メイ小母さんやキッカにめいわくばっかりかけてる」
「小父さんの言ってることはレント君は信じてるんだね」
「親父や母さんとあいつは親友だった、こもんぞくの親父と比べてもすごい冒険者だった、俺もそんけいしてたさ、だからあいつが嘘をついてるとは思ってない、けど仕事をしないのは別の話だ」
「そうか、尊敬してるから悔しいのかな」
「親父たちが悲しむだろ…親父はいつも言ってたんだアイツらと組むパーティーは楽しいって」
「なるほど、じゃあもしも、小父さんがこの町を離れて仕事をする様になるとしたらどうかな」
「仕事をまたするならいいんじゃないのか」
「キッカちゃんやメイさんも行く事になるとしてもかい」
「そ、それは…」
「レント、いっしょにいこ」
「キッカがいっしょに来てほしいってならしょうがないな」
「よかった、実はね山賊の話は本当なんだ」
「やっぱりそうなのか」
「うん、俺たちはエトの方から来たんだ今はあの町のギルド長が捕まって真実が明らかになってる。小父さん用に紹介状をかくからエトの町で冒険者として働けると思う」
「そうか、本当のことがわかればおじさんも頑張るよな」
「大丈夫だと思うよ」
「それじゃあ俺も冒険者としておじさんい弟子入りできるな」
「キッカもなるもん」
じゃあ、またメイさん達から連絡があれば話を聞くようにと告げて慶司はキッカに後で行くと告げて宿へと一旦戻った。
(シルフィ、マギノまでここからだとどれぐらいで連絡がつくかな)
(マギノでしたら一人知り合いの森人がいますわ、その子に話せばすぐに連絡はできますけど)
(ああ、研究員で訪れてる子がいたね、じゃあすまないがその子にお願いできるか聞いてくれるかな)
(ちょっとお待ちくださいね、はい、問題はないそうですよ)
(じゃあギルド本部でミシェルさんに一人優秀な冒険者をルーニの村からエトに送りたいと伝えて欲しい、事件の被害者でもあると添えて、で返事を直ぐに欲しいと伝えてくれるかな)
(わかりました、ウフフ)
(どうして笑ってるの)
(いえ、盗賊退治の時等とは印象が変わるので)
(それは仕方ないさ)
(鬼ように苛烈で、聖者のように慈悲を与えるとはまさにこんなふうにすることです)
(いや自己満足の為にシルフィたちに付き合ってもらってるだけだよ)
(フフ、そういうことにしておきますわ)
やれやれと慶司は肩をすくめる、他人からみたら自己満足の行為でも善である。
皮肉なものだが善などそんな物でしかないのだから、当たり前なのだけど。
そう思いながら宿屋の扉を潜った。
ミシェルさんからの返事は簡潔で、是非優秀な人がいるならエトの町へと来て下さいとのことだった
周辺に呼びかけても、すぐにはやはり集まらないようだ。
「というわけで、紹介状を書こうと思うんだ」
「良いのではないかの、しかし、ここのギルド長も情けないのぉ」
「まぁ仕方が無い部分もあるさ、エトで調べた結果だけを見れば判らないんだから」
「そこで疑問をもって調査にのりださんのなら、なんの為のギルド長じゃか判らんな」
「うーん、一応きまりで村や町においてるギルド長だけどシステムの見直しは必要かもね」
「なかなか人材もいないんじゃろうな」
「人材育成は大変みたいだね」
「ほんとにのう」
「失礼します、例の子供達の件気になっていたんですが、解決しましたか」
「ええ、若干例のエトの町の事も絡んでました」
「そうですかお嬢様も結果を聞けば喜びます、気にしてましたので。あれぐらいの年齢の子を見ると弟君を重ねてみてしまうようで」
「紹介状を書いてキッカの父親が働けるように手配する事になりましたのでこれから届けてきます」
行ってらっしゃいと声を掛けられ部屋をでる。
キッカの家に向かうと旦那さんが帰ってきていた。
旦那さんは俺をみると詰め寄ってきた。
さすがに男に詰め寄られるのは嬉しくないと思うんだが。
「おい、本当に本当なのか」
「ええ、実際にいましたから間違いないですよ」
「俺は、俺は…あいつ等を失ってしまった仇もとれずに…」
「流石に一人では盗賊団は壊滅できませんよ、それで死んだら残されたメイさんだってキッカちゃんだって、それに貴方の親友の息子のレント君だってだれが面倒をみるんです」
「そうだな、俺が頑張らないといけないんだった…しかし、この村の連中は俺が仲間だと言っているんだ」
「大丈夫ですよ、事件は調査されましたから、関係者は全員牢屋に放り込まれてます」
「そうか、よかった、これであいつ等も浮かばれるだろう、後は俺がレントの世話をせねばならんな」
「ええ、弟子入りしたいらしいですよ、しっかり仕込んであげて下さいね」
「わたしも、でしいりするわよ」
「それでこの紹介状なんですが、エトの町のギルドに持っていってください、これがあれば固定冒険者としての手当てを受けれます」
「そんな物をどうしてアンタが」
「まあそこは色々とありまして」
「まてよ、黒髪に白銀のコートってまさかアンタ、白銀の翼の」
「えっとまあその白銀の翼なんで、納得頂けましたか」
「ああ、白銀の翼なら噂を聞いてる」
ああ、その噂は聞きたくないですよ
「エトの町も今冒険者が居なくて大変なので、出来るだけ早く来て欲しいそうです
ですから奥さんの具合が良くなったら向かって下さい」
「わかった、これから仕事して旅のしたくを整えなきゃならん」
「それじゃあ、俺はこれで失礼します」
「ありがとうおにいちゃん」
「有難う」
「有難う御座いました」
「ねえ、エル自己満足だけど人の為になるかも知れない事が出来ると嬉しいもんだね」
「そうじゃの、竜族も同じじゃ、自己満足で動くものよ、我等は神ではないからの」
「うん、出来る事はしてあげれたかな」
「後はあの親子たち次第じゃからな」
体を寄せるエルと額をあわせながらゆっくりと慶司は眠りに落ちていった。
秋の夜、鈴の音の響く中で慶司とエルは幸せそうに眠りについている。