盗賊達の挽歌―後始末と平和な日常―
―大森林地帯―
ルージュは走り続けていた。
だが慶司達に追いつく気配がない。
何故なら、彼女は迷っていた。
本人は迷っていないと思っている。
姉に会い、白銀の翼がミルトから護衛任務についてベネアへ向かった情報は得ているのだ。
可哀想なのは彼女の愛馬である。
道なき道を走らされている。
この主人は何処に向かうのかと問いたい。
そうできない悲しい嘶きが響き渡る。
あれから数日後彼、女が到着したのは翠竜の住む湖だった。
(なんのようだ、虎紋族の娘よ)
「あれ、あの私、リヒトサマラへ来たはずなんですが」
(ここは翠竜様の湖、リヒトサマラは東南東である)
「うぐっ」
(そなたどこから参ったのだ)
ルージュは説明を試みた、だが大森林の村である事意外、要領を得ない。
(わかった、そなた方向音痴だな)
ガクッ、見事に崩れ落ちた失意体前屈である。
―竜聖母の神殿―
「慶司さん、竜神とか竜人と名乗っていいのじゃないかしら」
報告の手紙をみてマリシェルは思う。
うん、今日のチーズケーキも濃厚で美味しい。
息吹と同じように放たれる殲滅魔法でウィルソルカンポの大群を焼き払ったらしい。
若い竜だと2度や3度は放つ必要はあるだろうが一撃だったようだ。
「これは慶司さんの専用の部屋でも作りますかっ」
なにより新たなお菓子の為にとは叫ばないで我慢した。
お菓子の都市を作ってほしい。
いや、理想郷を城下町として建設したいから意見を聞かせて欲しい。
次の手紙にそう書こうとマリシェルは考えながらケーキを頬張った。
流石に冒険者ギルドを含め町の長を更迭した問題は二日三日で収まる問題ではない。
慶司はエルと案件を処理をしつつ、エイミー達には何時でも出発出来る様に準備をしてもらっていた。
冒険者ギルドでギルド代表も交え、これまでの内容を踏まえた協議の結果
慶司・ 採取銀7狩猟銀8討伐金10護衛銀7
エル・ 採取銀7狩猟銀6討伐銀7 護衛銀3
エイミー・採取銀9狩猟銀5討伐銀6 護衛銀3
と、ランクが変更された。
護衛の銀7に関しては山賊の殲滅、事件の解決が考慮されている。
協力者としてエルやエイミーの護衛ランクも2つ引きあがっている。
「これは甘んじて受け入れる他なさそうです」
「はい、これで狩猟と護衛のランクさえ上がれば、どの冒険者よりも上になりますわ」
「不思議なんですが、もっと大手の軍団などは高ランクの冒険者もいるでしょうし、依頼もこなしていれば上がるのではないのですか、実際俺たちの上がり方を知ってるとそう思うのですが」
「慶司殿、任務を失敗された事が慶司殿にはありませんな、そして達成した場合においても負傷者、死傷者などをだした場合は評価が殆どされないのです、大手の軍団で大人数で討伐任務を引き受けたとしてもまず人数分評価は低く見積もられ、さらに死者などがでると殆ど上がらないのですよ」
「まぁ主様の力量じゃ、本来は全て白金で良い位じゃからの」
「そうしたら引きこもるか」
「それは困りますわ」
「あの、表のランクを止めるなんてことは…」
「ありませんわ、その代わりに本部には受付が二種類ありましたでしょ」
「なるほど」
「他の都市でもカード提示を受付ではなくギルド長へして頂ければ構わないですし、特記事項に情報開示制限をつけましょう、受付が見てもランクを話す事を禁じておきます。」
「それでは、本題に戻って、アヴァリスが関与していたと供述してわかってる範囲でどれぐらいの内容になるのでしょうか」
「冒険者ギルドはじまって以来の大規模な不正になります、まず前ギルド本部長やギルドの役員数名に賄賂がおくられていました、これはこれからの調査になりますが、名前の挙がってる役員に関しては即時拘束と関係書類の押収を行います。幸いといっていいのか、他の町のギルド長などの名前は浮かんできていません。本部の機能は一時低下しますが膿を今回の件で摘出しきります」
「ミシェルさんはここのギルド長をするんですよね」
「ええ、ですがギルドの案件にも関わります、こちらの町は冒険者ギルド、薬剤ギルド、商人ギルドとこの町の大手ギルドを中心に合議制をしばらくとりトップを代行するということで部下に任せます、私の下でギルド本部の受付から事務までこなしてた叩き上げですから安心して下さい。それとギルド以外にもこの町の数名の人間が賄賂を受け取っていました、こちらも既に拘束させております、後日処分が下されます。町の警邏の数は足りていますし、足りない冒険者の数は本部へ連絡し、数日すれば村から人員の補充の手配もすませました」
「さすが手配が早いですね」
「この町は交通の要所なのですマギノ、ベネア、ミルトを繋ぐ中間地点ですからね。本来は物資集積地として発展可能ですよ」
「ミシェルがいうには奴隷商売など疚しいことをしないで発展させていれば都市として機能するだけの位置にあるとか、まあ私は冒険者ギルドの事で精一杯ですからな、彼女に任せて本部の掃除に励みます」
「小国方面の草原にはまだ発展した村も街道もありませんから、そちらへも道を広げる事も将来は可能でしょう。あくまで小国連合の対応次第と条件はつきますが」
「ふむ、まあミシェルにそのあたりは頼むとするか、我は昨日今日と関係書類の洗い出しを続けすぎて疲れたわ、故に主様と寝る」
「ミシェルさんあと急ぎの案件はありますか」
「いえ、早急に逮捕や手配の必要な案件はすませていますし、売買リストも見つかったのでブリガン様へ小国との交渉もお願いできました。もう問題はないかと思います」
「では俺たちは依頼をこなすために今日は寝て、明日からまた出発しますので緊急時はブリガンさんを通じて連絡してください」
「了解いたしました」
こうして、街道で暗躍していた山賊と黒幕は処断された事件は様々な方面へと影響を及ぼした。
処断された商人やギルド関係者の家族には最低限の保障をのこして資産は没収、今回の事件の被害者救済の為に慶司が意見を出して竜族初の孤児院を設立。最終的にアルザスで保護された子供達もそこで教育を受ける事と養育がうけれるようと、学校という体制をもって設置された。後に教育の礎となったこの学校設立、この件の孤児や奴隷となった者たちの保護が目的だった事を知る者は少ない。
事件の解決をもって慶司達はエトの村を出発した。
今までは南東方向へ進んでいたが、山間の東への道ではなく南へ下る道へ入っていく。
ここからベネアまでは12日前後、予定よりかなり早く進んでいたので実質の旅の遅れはない。
左手に山を望みながらゆっくりと旅路を進める。
山の景色は上のほうから紅葉していて麓は緑色である。
食欲の秋といった感じである。
今夜の夕食は何が作れるかなと考える慶司。
今夜の夕食は何が食べれるかなと考えるエル。
同じ景色を見ながら微妙に思ってることが違う。
相性のいい違いもあったものである。
昼までも然程問題もなく進み、昼を食べて出発してから1時間ぐらいでドルドの群れが襲い掛かってきた。これには慶司が動くまでもなく、アルテとヘリオスが歩み出て、それに跨るエルとエイミーが片付けた。5匹ぐらいの群れは我等に任せよとでも言いたげなウラヌスである。
ざっくりと毛皮の処理と肉の処分をして牙を取り、また慶司は先行してご飯の材料を集め始めた。
草むらでの狩りは姿が見えるだけに獲物との距離が遠い、さすがにウラヌスに乗ったままの射撃で小さい的に命中させるには身体強化でもしないと難しい。
普通の狩りまで魔法を用いたくない慶司はゆっくりとホルホル鳥の風下から近づき狙いを定めて射た。
2匹のホルホル鳥を捕まえて、野営地を探し川辺に近づいたら、野生のブルト達が水を飲んでいる、1頭だけを仕留めればいいので動き出した群れの最後尾の一匹を狙い頭を打ち抜く、巨体を横たえて倒れる1頭をみてブルト達は速度を上げて草原へと走り去っていった。
ブルトを処理しながらエル達の到着を待つ。
皮をはいで骨から肉を外していく、いつものようにウラヌス達ように骨と肉を焼いてさましておいてやる。テールなども実際煮込み時間の問題で使えないし、内臓も全部を6人では食べきれないので処理した後にウラヌス達に与える事になる。内臓部分は基本加熱処理で終わらせ、ハツなども表面を炙って刺身として用意した。予定外だったがこの日は新鮮な内臓を焼肉としてだして塩と胡椒、醤油とみりんと酒で焼き食す事となった。
残った肉は熟成に回すものと、スモーク処理をするものに分けた。
焚き火をしながら順番にチップを継ぎ足し、翌朝までにスモークして保存食を作った。
翌朝の朝食は焼きたてのナンにスモークした肉と野菜とトルネのソースとマヨネーズ、胡椒で挟んで出し、スープはシンプルにホルホル鳥で作った物を出した。
毎日がこの調子の旅である、3日後に村へと到着した際に女性陣は全員が野営の方がいいと不満をもらしたほどである。無論全食全てを慶司が作るわけでもないし、獲物がいないと保存食の料理になるのだが、保存食の料理でさえ、ムムムと唸りそうになるのだ。
焼肉大会となった次の日の晩には竹に入った不思議な物とスープを出されたが美味し過ぎてエルなど慶司の器を狙うかのような目つきだった。食べすぎたら太る食べ物だと言ったら諦めたが…
出した料理は本当に獲物もいなく困った慶司が、鶏肉のスモークを裂いて竹の器にお米と一緒に放り込み、スープの素Cと粉チーズ、ニギンとジャガの粉、粉ミルク、酒、砂糖を少しと塩と胡椒を少し入れて焚き火で炙って竹を焼くように炊いて、最後にトルネの粉と胡椒と塩で作ったケチャップモドキをかけたものである。
これが保存食料理として出されるのだ、普通に宿屋で提供されるパンとスープ、肉や魚と言った料理に不満もでるのは解る気がする。
ファーレンでの食事は大体がシチューか肉を焼いて塩胡椒で味付けした物とパンにサラダ、とこういった物が通常でてくる。朝などはパンにスープだけなどが通常で、慶司の用意するものがおかしいのである。
テトの町で買い込んだ果物をつかってジャムを作り、昨日に至っては肉をミンチにした物を腸につめて燻製していた。ハムなどはさすがに熟成に時間がかかり温度管理などが無理なので手をださないが暇があると料理をしている、そんな印象がある。
ゆっくりした旅にするとデザートも毎食でるのではないかと思えてくるぐらいだ。
デザートを作るとなるとミランダが真剣な表情で作業を手伝い羊皮紙を使ってメモを取っている。
卵と砂糖を混ぜた物に小麦粉、米粉少々と蜂蜜を混ぜ合わせ粉ミルクを水で戻した物をさらに入れて混ぜる。鉄板を熱して油を引いて焼いては竹に巻きつけて、とその作業を繰り返していった。本来は火で炙りながら竹に生地を塗りつけるのだが生地がもったいないから生地を焼いては巻いたらしい。
毎回エルはにたような材料でよく作る物だと感心した、行程の違いや分量の違いはあるが味わいが変わるのが不思議だった。慶司も計量せずに適当にやっているらしく分量を必死にミランダは書いている。
料理はまだしもなぜそこまでお菓子に詳しいかと聞けば最初は姉の調理を手伝い、あとは食べ歩いて知った味を作るために自分で調べて作ったらしい、これが他の料理も同じようなもので美味しいと思えば、どう作ったのか考えて家で作る習慣になったらしい。
「まぁお蔭でおいしいゴハンがたべられて我は満足じゃ」
とエルは思っている。
しかし、このままではいけないと思ったのか言われたのか。
エルはエイミーに習って毛糸と鈎針を買い編み物を始めた。
実は慶司は編み物ができる。
なぜだと言われたら便利そうだったから覚えただけなのだが、
できるとやるでは違うと慶司は思う。
平気でロープで網をつくったりハンモックを作る癖に編み物は出来ても面倒なのである。
編みベルトでさえ目をつぶって作るのに何故だと言われてもこれも答えようがない。
強いて言えばやる気の問題。
そして慶司はこのことを秘密にしている。
さらにはエルの作ってくれたマフラーが欲しいからである。
同時に刺繍にも手をだしているし
戦闘じゃ、というイメージからだんだんと離れていっている。
おそらく竜族としての戦闘意識は無くならないとは思うし魅力だからいいと惚気るのだが。
何にせよ、自分の為に何かをしてくれる、その行為が嬉しい。
慶司は見てみぬ振りをしながらも、嬉しさのあまり顔が綻ぶのであった。




