我らの喜び 小悪魔の囁きがもたらすもの
我らのご主人様はつよい。
恐らくこの方は竜より強い。
そして常に我らと戦い餌をくれて、毛繕いまでしてくれる。
人族が虎紋族と呼ぶ冒険者に捕まった時はまだ小さく。
牧場というところに連れて行かれた。
俺たち三匹以外はそこで生まれたのだという。
ご飯ももらえるし楽しいよとそこの奴等は言っていた。
ご飯はもらえないと飢えるから仕方ない。
確かに投げられた棒を取ってくるのも興奮してしまう。
狩りのようだったから。
ボウルで遊ぶのは相手を弱らせる場所に噛み付く練習だ。
俺たちは野生にいつの日か戻る。
そう思って訓練してきたのだ。
だが…そこにご主人様が訪れた。
従順そうなやつ、俺たちよりも体の大きい奴、
いつもそんな奴等が買われていった。
今回もそうだろう、そう高を括っていたら、
鋭い視線が飛んできた。
思わず睨み返そうとした。
そしたらご主人様は俺たちを気に入った。
他の奴等なんて目にも入れない勢いで俺たちは選ばれた。
この人間は何を考えているのだろう…
初めて興味をもった、そしてそれからというもの。
ご主人様は暇があると我らをつれて散歩に行き。
餌をとってくれて訓練もしてくれる。
なんだか力のみなぎる服までくれた。
興味を持った我はこの人の言葉を理解したいと思った、
普段から話している言葉を聴いて理解し、学習した。
同じ時に引き取られてアルテ、ヘリオスと名付けられた2匹にも勧めた。
元々全然知らないという訳ではなく、その後興味を持たなかっただけだ。
我らは喋れないが知性はあるのだ。
暫くはこの人と旅をしてみよう、
そう2匹と話した。
異論はでない、彼らもご主人様の強さは知っている。
強さだけではない、我らに対する扱いも他のピレードとは違う。
まるで友のようだ。
だが彼の強さをしればそのような友誼は恐れ多い。
我らは彼と常に旅する事を望んだ。
あるとき街から出るご主人様と我をつけてくる連中がいた。
ご主人様は我を残し立ち向かう為に折り返して我から降りた。
そんな訳にはいかない、この人は大事なご主人様だ。
いかに強く我が必要なかろうと常に戦いには一緒について行きたい。
思いを態度でつたえてみよう、そうすればわかってくれるかもしれない。
思いは通じた。
ご主人様と駆ける喜び、興奮、これが主を持つということか。
我が帰ってから2匹に告げると羨ましがられた。
幾度か一緒に戦いはしたが騎乗してもらって戦ったのは我だけである。
そう、いまもいつものように「ウラヌス」と我を呼んでくれる。
目の前にご主人の奥方より小さな娘がいる。
今度の旅は彼女たちも連れて行くようだ。
ふむ、守ってやらんでもない、大事なご主人と一緒にいるなら客人だ。
だが、なにやら目がキラキラしている。
この目は知っている、ご主人の奥方が見せるモフモフの目だ。
ま、まあ構わん、無礼なところを触らなければ別にいい。
尻尾を触られるのはくすぐったいからやめて欲しいが。
「この子がウラヌス、それにアルテ、そしてヘリオス
3匹とも可愛いでしょ」
か、可愛いなどと、て、照れるではないか
我らはこれでも勇ましいのだ。
「それに賢いし、言葉もわかる、慣れたら触っても大丈夫だけど
俺の友達だから優しく撫でてあげてね」
グッハァ
ご主人様、我らを友と呼ばれるか…
変わらぬお方だ、
アルテ、もヘリオスも悶え死にそうな顔をしているではないか。
我もちょっと嬉しすぎて漏らしそうになったのは犬だからだ。
「さあ、行こう」
「「「ワフゥン」」」
朝起きてエイミーの用意してくれた朝ごはんを食べて出発の準備をする
警戒用に使った糸と投擲具を回収し、ターフを畳み、予備のテントを収納する
少し雲行きが悪い、今日は途中までしかいけないかもしれない
出発してから慶司は何時もよりも大目に薪を調達していく、荷車にくくりつけては追加で拾う。
しけった薪は2日は使えなくなることになる。
細かい枝を増やしておけば調理の際に困らないで済む
出来るだけ急いで距離を稼いだ慶司達だったが雨雲の広がりを確認してから直ぐに野営の準備に入った。
川はあったが近づかない、何が原因で氾濫や濁流が発生するかなんてわからないからだ。
岩場近くに馬車を止めターフを張って幕も下ろす。
周囲に側溝を掘って雨水をながすようにして
竈を作って木で簡単な雨避けを作った、荷車の反対側と後方にもターフを張ってウラヌスとホルスが入れるようにしてやる。ホルスはヘンドリックとミランダに任せて餌をやってもらい。
慶司は森に入ってヒルシュを狩ってきた、ちょっと大物だ。
いつもの通りに捌き始めたところで雨が一滴顔に落ちてきた。
強くはないが今日一日は降り続きそうな雨だ、
エルが吹き飛ばしてやりたいのぉと物騒なことを言うので止めた
竜体になれなくても本気で吹き飛ばしそうだ。
竜の咆哮は本能で撃つからな…
実は【逆鱗】だがエルとの話あいで、
次の【逆鱗極光】金属の中でも一番燃え難いものの温度を真空状態で続け融解するまで高める更に温度を上げることで電気が出てくる、それを一適の水を侵入させて爆発させて推進させれば出来上がりである。恐らく太陽並みの温度、水滴の手前までしかやってないが、うん危ない…
でもほんの一粒状態で凄く光ってたからプラズマ化してるとみていいのじゃないか…
など馬鹿な事を考えつつも料理を作ってみんなに配る。
流石に用意が出来なかったためある物で我慢してもらう。
スープの素C、トマトの粉末、チーズの粉末。のトマトスープ
パン、熟成させた肉の串焼きとヒルシュの内臓、心臓や腸などの部分の串焼きである。
ヒルシュの肉はウラヌス達に一部を与え、一部を熟成処理に回した。
周囲の警戒用の仕掛けをセットし、
慶司は夜まで時間もあることから、監視はエル達に任せて
連絡役にシルフィを呼び、弓をもって出かけた。
山裾の森があるこの近辺は良いがこの先で徐々に森も減る。
そうすれば視界は良くなる代わりに人間用の獲物が減る
4時間ほどかけて狩をして、
ホルホル鳥を5羽に最後はブリーノを2匹も仕留めた。
帰って晩御飯の準備をしているとミランダさんがやってきた。
「なんだか毎回作ってもらってて申し訳ないのですが」
「いえ、こんな食材を使う野外の料理ですからお気になさらないで下さい」
「なんとも侍女魂が擽られますわ」
「そんな物騒そうなものは仕舞っておいて下さい」
「いえ、これはそう従者達の神と呼ばれる執事神がっ」
「ああ、その例のベス女王の逸話の方ですね」
「ええ、執事神様は私たち従者の信仰対象です」
ぐっほぅっほぅ、エルが突然咽こんでいる、聞こえてたか…
爺やは凄いな…
「今でもかの有名な霊峰アルザスで有名な百戦錬磨の白銀闘竜エルウィン様にお使えし
日々の鍛錬を怠らないとか…」
ブッは…次はエイミーが耐え切れなかったか…
ああ猫耳がたれててそんなに耐え難いか…
いや俺も笑いそうだけど…
白銀闘竜ってなにやったのさエルは…武者修行時代を知りたい
「そ、そんなに有名な方だったんですね」
「ええ、私たちブルトン王国では執事神の更に上の存在です、
あの有名な炎竜との一騎打ち、3日に渡り空中で魔力を使わず死闘を繰り広げたといわれています、
大気が振るえ、森の奥に魔獣は逃げ込み、人は彼女たちの決戦を恐る恐るみたそうです、
結果は両者ともに引き上げたためわからず、そしてなぜ闘ったのかも謎ですが、
きっとなにか重大なそう、支配地の今後に関わるような戦いに違いありません」
エルの目線が逃げてる…
これはきっと碌でもない話だな。
「まあ竜族がなんで闘うのかなんて、解りませんからね…ハッハッハ
もしかしたら単に拳のみでどっちが強いかとか
それぐらいの気軽さでも伝説にはなりそうですから」
「なるほど、たしかに武闘派と人族にも伝わるほどです、
お二人で只殴りあい、それが伝説とか、すごいですね」
ああ、首を振ってるもっとくだらない理由か
「それかもっと単純にどれだけ闘ったら疲れるか勝負したとか
途中で馬鹿らしくなってやめたとか、本人達に聞いたら誤魔化すようなものかも」
あ…あたらずとも遠からずか…酷い話だ。
「それで3日闘ったら我が国で私がしたら王に叱られちゃいますよ」
「ってミランダさんなら3日は闘えそうですね」
「ウフフ、犬狼族とのハーフでして、これでもそこらへんの方よりは鍛えてます」
「ミランダさんのそこらへんの中身が知りたいですね」
「それは一緒にお城にお勤めしてる殿方達です」
こんどはヘンドリックさんが頭をかいた…
ああ…この会話は皆の精神力を削るなぁ
「ははは、そこらへんの連度が普通じゃなかった」
「ええ、ですから私非常に感激してるんです」
「何に感激を」
「慶司様の強さにですわ、
慶司様さらに妾を持つ気はありませんか」
「ブッ…え、えらく真っ直ぐに聞かれますね」
ああ、心配しないでエル大丈夫だからっ。
倒れなくても…
冗談にちがいないよ、ほら目が笑ってるし、
ってあれ、さらにってなんだ。
「あのさらにとは」
「え、エイミーさんもお妾さんなのではないのですか、
英雄色を好むといいますし、是非私も加えて頂こうかと」
「いや、エイミーは大事な仲間であって妾じゃないですから」
「では、私が妾1号にっ」
「しませんよっ」
俺の精神力までごっそりと…
おそるべしミランダトーク
なんだろう、侍女の格好をしてるから解りにくくしてるけど
うん、大人の和服でも着たら似合いそうな感じだし
これはたちが悪いな
「まあお世辞は嬉しく聞いておきますけど」
「もう、お世辞じゃありませんのに」
うん、そこでホケっとしてるシャーリィはそのまま育ってくれ
あれでも育ててるのってある意味ミランダさんだよな
「ならば私も妾とやらに立候補するのです」
「「「「「「ブホッ」」」」」
「お、お嬢様、お嬢様は王女となられるお方です、さすがに妾というわけには」
「そ、そうだぞ、うん、主様は我の主様ぞ」
「女王は妾になれぬなど…エルさんが羨ましいです、
毎日こんな美味しいご飯が食べられて、
楽しく会話ができるなんて」
「大丈夫さ、シャーリィにはミランダさんもヘンドリックさんもついてるし、初代女王のベスさんも鋼鉄の戦乙女と呼ばれるほどの人で竜を呼び出して対話したんだろ、
シャーリィだってやろうと思えば何だってできるさ」
「そうでしょうか」
「そうだとも、ね、ミランダさんヘンドリックさん、15で王族として時期女王としての道があってもどんな女王になるかはシャーリィの決めることだよ」
「そうですわ、流石に女王と妾の両立は出来ずともこのミランダが支えますから思うよう振舞って下さい」
「微力なれどこのヘンドリック・ビルゲン生涯シャーリィ様に付き従いましょう」
「ありがとう、ミランダ、ヘンドリックも」
「まぁこまったらほれ、そこの主様あたりに頼むがよいわ、我も助ける故な」
「うんうん、私も手伝うにゃ」
「決めました!、私は帰ったらお母様から女王の位を譲り受け何としてでも奴隷撤廃と獣人差別撤廃を推進して竜族との国交を開きます」
「おお、シャーリィ様…必ずや成し遂げましょうぞ」
「フフフ、敵対する者は私が必ずや排除いたしますわ」
「しばらくしたらこれはブルトンへ行かねばならんようじゃの、のう主様」
「そうなるにゃ」
「そのようだね、応援するよシャーリィ」
こうしてなぜかミランダトークの流れのままにシャーリーの女王即位宣言がなされた。
この発言の意味、そして影響の大きさはこの場にいる全員が思うよりも遥かに大きいものだった。