笑顔の出発
「最近主様の料理をたべてないのぉ」
何気ないエルの一言である。
だが討伐金10ランク騒動で狩猟にも採取にも出かけておらず、
食べているのは普通のご飯のみである。
「何がたべたいのかな」
「主様の料理なら何でもいいのじゃが、
変わったものがいいかも知れぬな」
変わった物…
よし、今度はこれだ。
慶司は材料を取るために先ず海へと向かった。
シルフィを呼んで風の魔法の制御を任せる。
体表に厚い空気の膜を作ってもらって自分は進む方向を操作する。
目的はまず海藻類である。
一つ目はコンブ、これは残念だがここの近海にはなさそうだった。
たしか寒い地域だったはずでこの世界にも同じ形であるとは限らない。
ワカメっぽい大きな草と赤い海藻とつぶつぶした海苔っぽいものは岩場で取れた。
あとヌルヌルした物があったがモズクっぽかった。
海藻を干してもう一度海へもぐりついでにと鮑のような平貝を取る。
ナイフを岩の間に入れて貝がへばりつく前に剥がす。
さらに貰った釣り糸で鯛のような魚を捕まえて海藻を回収して戻った。
貝の一部と捌いた魚の骨を弱火にかけて出汁をとって冷ました。
赤い海藻を水でよく洗い塩分を抜く。
多少は塩分が残るだろうが諦めて煮てしまう、
沸騰したら少し酢をたらして更に煮る。
最後に冷ましていって布で漉し、
舐めてみる。やはり微妙に塩味と磯の匂いっ。
牛乳と蜂蜜、砂糖をまぜて、ミントのようなハーブの投入。
冷やして固めて味見をしたが何とかなった。
次に肉屋でブリーペという家畜化した猪っぽいブタのバラ肉を買った。
さらに骨があると言うのでわき腹の新鮮な物を用意してもらい持ち帰った。
薬草でつかうギネの葉と球根、リュコルを欠片にして放り込んだ鍋に適当に砕いた肋骨をほうりこんで以前作ったジャーキーも入れて煮込む。これは時間がかかるので時折灰汁を取る事にする。
ブタぽいバラ肉を時間が無いので紐で整形して水、酒、醤油、砂糖、リュコルの刻んだ物をいれで煮込むこれも沸騰はさせない。
残ったバラ肉をミンチにして白菜の代用がなかったので、キャベツに似た胃薬用のベパという薬草を刻んだ物と練りこみ、ブタバラの煮込みの油とコラーゲンとスープを混ぜてタネをつくる。
小麦、卵、塩、を練って伸ばし1時間程放置。
その間に小麦粉で作った皮にタネを包んでいく。
さらにもったいないので魚の切り身と貝は酒蒸しにしてムーサ用にする。
貝の腸は切り開いて塩水で洗いお酢と醤油とみりんとちょっとのお酒とで割った三杯酢を掛ける。
それに酢橘のようなかんきつ類とで珍味にするこちらもムーサにあげる。
麺を引き伸ばして切っていく。
スープは合わせてコクをみながら調整する。
ごま油でリュコルの摩り下ろしを炒めそこにギネの刻みと味噌、砂糖を加えて味を調えて、出来上がり。
ご飯は卵とブタのばら肉の煮込みの細切れとで炒めてチャーハンをつくり、
ラーメンの具はギネと煮込みチャーシューとゆで卵、ワカメのみ。
最終的に、
味噌ラーメン、チャーハン、蒸し餃子、ミルクプリンが出された。
ラーメンを食べたエルが感動してたが本物の黄門様はどうだったのだろう。
ミルクプリンは多めに作って竜族の巡回にもたせてやった。
今回の事があったので塩抜きと小魚の天日干しを手に入れる事を決める慶司であった。
そろそろ次の目的地を決めようかと、その日の夜にエルと寝ながら話していた。
今日はもう日が変わって夜月25日である。
石鹸や味噌、醤油、お茶は研究所を立ち上げたので其方に任せればいい物を作ってくれるだろう。
ロゲリア王国は外交姿勢も力がなくなりアグラⅫ世が表に出なくなったと聞いているし今のところ問題は解決したと見て問題もないはずである。
「それで主様、何がもんだいなのじゃ」
「このまま南をいくか、それとも炎竜の支配地方面へ行くか」
「南は国外へと言うわけじゃな」
「そう、見てみたくはあるけど、今一つだけ残ってる懸案が冒険者の学校問題」
「そうなると、炎竜の支配地…か、まあ妥当なところじゃな、あちらには獣人の里が多くある」
「変異魔素の件は外に行ったからと言って直ぐには答えはないだろうしね」
「ふむではグラディスの土地へいってみるか」
「うーん一つだけ心配がある」
「なんじゃ」
「きっと試合を申し込まれまくるきがする」
「ハッハッハッそれは、うむ在り得るな」
「それだけが憂鬱のタネだね」
「我の主様は最強じゃからの」
「エルには負けてる気がする」
「それは我が可愛すぎるのじゃ」
「「フフフ」」
どうやら次の目的地は炎竜の支配地にあるグラームとなるようである。
グラームはグラニエス火山とその山脈の麓にある。
温泉と港の町グラームは保養地としての顔と貿易港としての顔があり、以前立ち寄った魔術都市マギノの食料はこの港から出荷された農作物である。
グラームから北へむかって貿易都市トリスまで広がるトリス平野グラニエス山脈から湧き出る湧水で大陸一番の肥沃な耕作地として広がってその豊富な食料はマギノだけでなく大陸全土へと輸出されている。
冒険者にとっては、大森林地帯はメインが獣の魔獣だとすると平野はまた違う昆虫や地面の下から現れるもの、群れで行動する物などと種類も豊富らしい。
都市は獣人が多くついでドワーフ、人となるらしい、まず獣人は里が近い、さらに炎竜のお膝元だけあって冒険者やその家族が多いのである、これは歴代の炎竜の気質とも言えよう、ドワーフガ多いのは彼らにとって欠かせない金属が産出されるからであり、更には武器の注文も多い街であるからである。
農家には人も多いが自然と獣人の里が多いので獣人の都市として有名になっているのだ。
明日から旅の支度を始めて2日後には出ようとエルを腕枕しながら考えた。
翌日、旅の用意をするにあたってエルとエイミーに食料を任せる
「わかったにゃ」
と頼もしい返事で準備にかかってくれた。
「嗜好品もいいのかの」
とエルが小学生のバナナとオヤツを聞くようにいうので、
「団子を作って持って行ったりするから、お土産用の材料も一緒に揃えて」
と告げたら、任せるのじゃと姿が消えていた、まさか身体能力上昇の魔法は使ってないよな。ちょっと不安である。
ムーサの所にある研究所に顔をだし皆に挨拶をして試供品が出来た分を聖竜母へと送り、一部分を炎竜の支配地への届け物とした。
「よし、慶司、これをお前にやろう」
とムーサさんがくれたのはおそろいのキセルであった
「たまに一服するのもわるくない、昨日のアイデア分のお礼だ。アレを独占しないで他の村に広めれるなら森人はさらに豊かになれる」
「漆はかぶれたりしますから注意してくださいね」
「しかし慶司の酒の肴が食べれなくなるのは辛いな」
「珍味の作り方も残しておいたんですから、たまには趣味で作るのも悪くないですよ」
「まあ精進するさ」
他にもギルドに挨拶にいくと辞して、慶司は最初に巨木へと赴いた。
「では、出かけるけど、いつでも呼び出し可能だからね挨拶も変な感じだけど」
「まあ、慶司さんがこの地にいてくれないのは寂しいですよ」
「そこは納得してもらうしかないんだけどね」
「それで、先日お話をした件ですね」
「うん、その後ろの子がそうかな」
「はじめましてウェンディです」
「こちらこそはじめまして契約の話は聞いてるかな」
「はい、シルフィさんに聞きました、確かに私なら森や林、草原の草から情報を集めて慶司さんに伝えられますからお役にたつかと、魔素のほんとに薄い地域は無理かもしれませんが大抵の場所だったら問題なく魔物の情報を伝えられます」
「私では風の動かない場所や目に入りにくい場所も植物の精霊のウェンディならより正確に伝えられるでしょうからね、大地の子、水の子と火の子もそのうちに紹介致します」
「うん、それじゃ契約をしてくれるかな」
「はい、では私に触れて儀式を」
(ではウェンディよろしく)
「はい、よろしくおねがいします慶司さん」
「でも、他の精霊の子はどうしたの」
「恥ずかしい話ですが、火と大地の子が火山について自分のものかどうかの争いをしてまして、それを私と水の子で仲裁をしてるんですが…」
「喧嘩中なのね」
「はい」
「うん、それなら仕方ないよ、また宜しくおねがいします」
「ええ、では良い旅を」
次に慶司は薬剤ギルドへと向かう、薬剤ギルドでは慶司達が仕事を受けなくなってから材料の入荷がまた元に戻ってしまって困っているから是非また戻ってきてくれと頼まれた。
機会があれば是非と告げて、慶司は冒険者ギルドへと足を向けた。
「まったく、せっかく金になったのに討伐依頼はなかったは慶司さん達は来なくなって採取依頼の効率は落ちるは、挙句にもう次の街へ行っちゃうだなんて」
お怒りの様子のメリーである、まあ確かに言うとおりの行動だったがせっつき回されたり噂話のネタになる身にもなって欲しい。
「ごめんね、噂が静まるまで大人しくしてようと思ったんだ、でもそのうちにメリーたちが楽できるようなことを考えてるからそれで勘弁してくれないかな」
「わかりました、もし忘れて約束を守ってくれなかったら…そうですね史上初4ランク金になってもらいますよ」
「うはぁ、それは嫌だな…」
「でしょ、なので約束です、旅の安全をお祈りしてます、それと、噂ではありますが、赤竜の牙の特攻隊長ルージュが探してるのと白竜騎士団も慶司さんを探してるらしいですから注意してくださいね、私たち一般職員でも竜族からの評価は見れませんし、知ってるのはギルドの代表と認定委員だけですから内容はしりません、ですがアレだけの噂が流れるだけでもいまや白銀の翼は注目されてる訳ですから行く先によってはトラブルだってありえます、何処に向かうつもりなんですか」
「一応…ごにょごにゅ(炎竜の地なんだけど)」
「ちょぅっ…ふう、何でしょうかこの虚脱感は…自分達からそっちへ行くなんて」
「まあ、一つだけいい手も無い事もないんだ」
「そうなんですか、でも本当に気をつけて」
「ありがとう」
赤竜の牙と白竜騎士団か…厄介がやってきそうだなぁ
ため息をつきつつ慶司は次の目的地へ向かった
慶司が向かったのは荷馬車を修理している店である
ここで慶司は荷車の座席のしたにバネを仕込んでもらっている、本格的な改造は又いつかと考え座り心地の改善を図ったのである。
荷台はネットでハンモックを作ってあってそこで休めるのだ。
「おう、いらっしゃい注文の品はできてるよ」
「有難う御座います、確認しても」
「ああ、かまわん、こんなのは初めてだったからな」
下部のスプリングが計6箇所、四隅と中央にあり皮を板に鋲で留めながら、中に軽く圧縮した綿が詰められていた。
修理用の鋲を数個受け取る、これは何かあったとき用である。
支払いを済ませ、後でウラヌス達と引き取りに伺うと告げて宿に向かった。
宿では裏手でウラヌス、アルテ、ヘリオスが寝転がっていたが慶司の気配を察すると姿も見えてないのに整列して主人を待った。
宿の裏手に入ったらウラヌス達がどう、エライと言っている様子である。
「良くわかるなあ、散歩がてら荷車を引き取りに行こう」
「「「ワッフゥ」」」
慶司は弓と槍杖を一応もって森まで向かい、ホルホル鳥とヒルシュを狩ってヒルシュの肉と内臓をウラヌス達に与えた。
その後、水で洗ってやり荷車を引き取り宿へと向かった。
翌朝、早朝の朝日を見ながら慶司達はグラームに向かうべく出立した。
門にはまだ日が昇って直ぐだというのにムーサを初めとして関わった人達が見送りに着てくれた
全員とは既に挨拶をすませている慶司であるがエルとエイミーが挨拶をしている。
「じゃあな、お蔭で寿命が延びたよ」
「たいしたことはしてませんよ」
「まあ、ロゲリアのアグラⅫ世は誰かさんをこわがって立たなくなるぐらいらしいからいいとして、他の国には気をつけな」
「はい出来る限りは争い事のないようにします」
「フフフ、鴨葱突っ込んできそうな顔してるよ慶司は」
「望みませんけどね」
「では…後を宜しくお願いしますね」
「ああ、お姉さんにまかせておきな」
笑顔で全員と挨拶をして慶司達は一路進路を南東へ向かう交易路へ向けた。




