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依頼達成?

 足元に歪みの穴が出現して落ちるような感覚のなかで慶司は自分の肉体が変貌していくのが判る.

 お地蔵様の最後のあのシテヤッタリ!という笑み……

 ちょっと悔しいんだが仕返しは出来ないので諦めることにした。

 実際落ちると言っても歪みに入り込んだ後はふわふわと羽が舞い落ちるような速度なのだ。

 害がある事ではないのだから、寛大な心を持とうと慶司は思った。


(どう!びっくりした?びっくりしたよね?)


 体を作り変えられる中で意識に語りかけてくるのはお地蔵さまだった、それまでの遣り取りで感じていた通りの性格をしているようだった。


(――……)


 無視するのが最善と判断した。

 どうせまた100年たったら連絡だけはすると話をしたのだ。

 ここで返事をすると相手を喜ばせるだけな気がして負けた気分になる。

 10分程経過して下に緑色と白い歪みの出口が現れた。


(それじゃまた!そっちの世界をよろしくね~)


 落下速度が速まり地面に着地、荷物と武器、衣類が続いて落ちてくる。

 2m程の高さに在った渦は次第に消えていった。


「話の通りの場所…ぽい?」


 周囲を確認しつつ荷物を整理していく。


 こちらの世界の文明に合わせた衣類と荷物袋に内容が変わっていて、他の神様からの贈り物であると手紙に書いてあった。

 元の世界ではジーンズにTシャツ、腰にレインウエアを巻いていたのだが革?のパンツとシルクのようなシャツにフードつきの革製?コート、それにチャッカーブーツと手袋だった。

 後々に判るのだが全ての素材が普通の革などではない事が判明する。

 着替えを終えて周囲の状況を確認しながら武装を整えていく。

 左の腰に二振りの刀を差す、腰にはキャンプ用にと使っていたナイフをベルトの上にホルダーで固定する。

 最後に荷物を担いで出発の準備は出来たが、確か話だと直ぐに敵を倒すような話だったが…辺りを見回すがそれらしき存在は確認できない。

 お地蔵様との話では既に肉体も改造されているようだがいまひとつ実感が湧かないのだ


「とりあえず自分の実力をためしてみるとするか」


 そう呟いて慶司は二振りの刀から普通の物とされる方を選んで構える。

 (めい)も無いが通常の太刀よりも本来重いはずのそれを振りぬくつもりで立木に向かって横に一振りした。

 直径30cmの木である、通常であれば傷はつけれても切断などできるはずも無いので、慶司としては表面を撫でるつもりだったのだが結果が違っていた。


 シュッ! 

 と斬撃の音のあと、メキメキメキと木が反対方向へ折れていった。


「あれ?」


 想像と違う結果に木を見てみると断面の半分ほどが綺麗な木目を晒していた。

 撫でるつもりで太刀の中程から入った刀は、その切れ味と振りぬいた速さによって殆ど抵抗も無く、立木を折ったのでは無くまさに切断していた。

 その後、倒れるように折れたのは木の上部の重さを残った部分では支えきれず、その枝の重みによってである。

 さすがに横殴りに切ろうとしていたら抵抗もうけつつ、刀も伸びてしまうかしながら木を折っていただろうが結果は切断だったのだ。

 

 次に慶司は折れた木を適当な大きさに切って抱えてみる。

 若干の重たさを感じるものの筋力は5倍ほどはあるのではないかと推測できた。

 という事は一概には言えないが握力が70前後だったのが350程もあるのではないか? と思えたが実際計測するための機器が無いし、もしあったとしても実際のところ筋肉の量や腱の関係で、いくら強化されていても250前後が現状の限界であった。



 次に力の限り投げてみた。


 ヒューーーーーーン、と30mぐらいは飛んだ

 ドスン、と着弾したのは一抱えもある丸太なのだ。


「ちょっと力の加減がまずいと人が死ぬ」


 ズン、ズン、ズンと慶司が当たり前の事を考えていると、林の中から徐々に音が大きくなりながら響いて近づくものがある。

 林を倒しながらやってきたのは暴れまわる黒竜だった。

 

 最初に見た感想はデカイの一言と、やっぱりここってファンタジーなのね! とちょっとしたワクワク感である。

 繰り返しになるが慶司は少々変わった青年であって普通逃げ出す。

 この世界において竜は最強と呼ばれる存在の一角であり、大地、空、海を治める存在、そして通常の固体に黒い竜は居ない。

 ではこの黒竜はいったい何者なのかという話なのだが、慶司はそんな事は知らない、だがファンタジーなのだから喋れるだろうと予測した。


「ちょっと止まってくれないか?」


 暢気なものだがファンタジーな生物に遭遇して慶司も好奇心が優先されている。だがこんな馬鹿な態度を取れるのは慶司だからだろう……普通は逃げるか失神する。


 黒竜は止まらない、むしろスピードを上げて突っ込んでくるので人語を解さないのか…と残念に思った。

 実際のところ竜は人語を理解できるし念話が可能である。

 無駄に殺生をしたいとも思わない慶司ではあるが、流石に攻撃されてまで反撃をしないわけにはいかない。

 体当たりをひらりひらりと躱していると森がすごい勢いで削れていく。

 前足でのなぎ払い突進噛み付きとなかなかにしつこい。竜も苛立ってきたのか攻撃がいったん止むと後ろ足を踏ん張って見せた。


 なんだか非常にまずい感じがする…

 慶司は竜の変わった行動に危険を感じた。


 左側面へダッシュしてから5m程上空にある竜の顔面を蹴る、蹴るというより突撃したといったほうがいいだろう。

 正に慶司の全力の蹴りによって黒竜の顔が右に逸れた瞬間に大地に向かって黒竜は咆哮しつつ黒い閃光を放った。

 直径にして10m距離にして50m程の大地が抉られていた。

 これは非常に厄介な相手と戦う事になったと気合を入れなおす慶司。

 慶司は蹴りの反動を利用して離れ、そのまま抜刀し竜と相対。

 これは倒さなくては逃げられないだろうと判断したし、もしかしたら(くだん)の相手はこの黒竜の事ではないかと思ったのである。


(むぅ、人の子よやるではないか)

「しゃべれるのか!つーかいきなり攻撃してくるんじゃねえよ!」

(すまぬがすでにこの体言うことを聞かぬ)


 何か事情があるのかと竜の爪や尻尾の攻撃をヒラヒラと躱し続けながら話を聞く、相手が対話可能な存在なのは聞く価値があると考えた。


(異常を察知したため此方に赴いたが、そこで変異魔素(へんいまそ)に乗っ取られた。逃げるもよし、まあ戦うのもよし、もしも逃げるのであれば人の子よ頼みがあるのだ。他の竜へ逃げるように伝えてほしい…意思は保てど長くは続かぬ)

「倒していいの?」

(フッハッハッハ、簡単に倒すと言うが人の子よ……我も竜の一角を統べる者ぞ?力の強さ頑丈さ、ちと洒落にならん。どうしてもやるのならば自己責任じゃからの!?)


 ひたすら攻撃を回避しながら会話をする慶司だが、確かに人が挑むには無理がありそうな存在だよな~と関心する。


「元に戻す方法はないのか?」

(元に戻すのは無理だな…おそらくこれは変異魔素の魔物が細胞を一つ一つ侵食してきていてな…残るはわが魂の竜玉のみよ、これが犯されれば意識も無くなろう)

「………聞きようによってはあるように聞こえるのは気のせいか?」

(まあ無茶な方法ならあるぞ?この体を倒して竜玉を竜聖母の元へと運べばよいが、倒すことが前提じゃしの?しかも時間がない、恐らく他の竜が異変に気がついたとしても間に合わん。我の抵抗も日が落ちるぐらいまでが限界じゃろうからの…)


 辛そうな声で続ける黒竜、絶望と諦めを混ぜたような語りである。


(であるからして人の子よ逃げよ。無理かも知れぬがお主の蹴りはなかなかのものよ、全力であれば逃げ切れるかも知れん)

「方法があるなら諦めちゃだめだろう?どこにあるんだその竜玉とやら。傷がついたりしちゃまずいから位置を押しえろ」


 慶司は諦めるのが嫌いだ、何を一人でいや一匹で死ぬ気でいるんだこの竜はと少々であるが腹を立てている。そしてその宣言を聞いた竜は呆れた様子で数舜の間を空けて……


(フフフフフフ! フゥハーッハッハッハッハ!)


 思わずの大爆笑といった感じ。


(面白いではないか人の子よ!わが左胸に竜玉はある、これさえ無事なら他は構わぬ。しかし高位の竜であるわが肉体に弱点と言えるものはないぞ?)

「それだけ解れば十分だ!あとな、俺の名前は渡良瀬慶司。人の子であるのは間違いないけど名前で呼べよ」


 既に人の子であるかどうかも怪しい所であるが一応人間の筈である。慶司は名乗りと同時に行動を起こした。


 黒竜の攻撃を最小限で避けつつ反撃に備えて抜刀、通常の太刀の方で切りつけていく。

 攻撃自体を太刀で受けることが不可能で簡単には踏み込めない。

 そのために浅くしか当てることができない。

 竜の鱗は硬く正に通常の攻撃では倒せそうにない。

 身体能力で勝負を賭ける! 

 一瞬で慶司はそう決めた。

 

 攻撃を躱しながら、作戦を考える。

 少しずつ後方へ下がり位置を確認、周囲の状況を見る。

 思いっきり蹴り飛ばしても大丈夫そうな大木を見つけた。

 再度黒龍が咆哮を放つべく構えたところで慶司は右側面に向かって飛び込み大木を蹴った。


 岩であれば砕いたであろうその蹴りの反動の勢いで竜に向かって飛んで行く。

 先ほどは蹴りを放った逆側から竜の首の下に向かって全身を飛ばし前方宙返りの姿勢で過ぎ去った。



(見事じゃ慶司。むぅ、まさか竜鱗を切り裂ける者がいようとは思わなかった)


 慶司が着地すると同時に響く音。黒竜の首が落ち肉体から黒い霧が地面や空中へと消えて行く。残ったのは白い竜の遺骸だった


「この黒い霧は大丈夫なのか?」

(ウム…変異した魔素といえ…大丈夫じゃの、消えていっておるわ。ホレ次は吸収の儀式がのこっとろう、早ようせんと獣どもがかえってくるぞ)

「吸収の儀式ってなに?」

(なんじゃと? 知らんのか?)

「もしかして常識だったり?」

(うむ……そういえば魔法も魔術も使っておらなんだようだしの。竜を倒した者に与えられる事ぐらいは常識だと思っていたが、まあよい流石に竜を倒せるのだから肉体に力を与えるまでもあるまい。と言って、攻撃も別段問題はなさそうじゃしの…よしその服にしてやろう、任せておけ)

「なんだか理解出来ないけど宜しく頼む」


 貰える物は貰うのが流儀だし、ファンタジーらしくワクワクとした感覚もある。


(体の方へその上着を被せよ、頭の方も勿体無いからの…ついでじゃその今の刀は我を切った事で痛んだであろうし、もう一つの太刀を置くがよい)


 神様から貰った物だけどまあいいかと考え、コートを脱いで体の方へ畳んでおく。蹈鞴(たたら)の太刀は頭のほうへ立て掛ける。


(ではゆくぞ、我、竜族を守護せし聖母へと願う、葉月七日我を倒せし勇気ある者を称え、彼の者へと我が肉体を与える。

 竜鱗の守護と英知の咆哮を宿らせ給え!)


 白い竜の遺骸は溶けるようにコートと太刀へ吸い込まれていく。


(ふむ…不思議な素材よの…すでに衝撃などへの対応がされておったのじゃ。故に高位の魔術無効と斬撃への強化と防塵、さらに飛翔の翼とした。太刀には叡智の力を与え、折れても修復できる力を鞘に授けた。太刀を持って戦うと竜族魔法が使えるようにしたから追々教えてやろう。ほれ、受けとめよこれが竜玉じゃ。お主には苦労をかけるが聖母の元へと届けてくれんかの?)

「なんだかすでに依頼達成してしまった気もするし…目的がある方が楽しいからな。強化もしてもらった恩もあるし、知りたいこともある。その依頼引き受けた」


 気楽な感じではあるが何も判らない異世界ファーレン、旅をするにしても目的はあった方がいいだろう程度だ。それに竜と旅をするのも悪くないだろうと慶司は依頼を引き受ける、竜といっても竜玉であるが。

 次の目的地は竜聖母のいるという竜族の聖地。

 慶司はポケットへ竜玉を突っ込んで荷物を担ぎ歩き出した。

2014/09/02 加筆修正

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