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魔術理論のお勉強

 聖地を出発した慶司とエルは変異魔素の事を調べるべく魔術都市マギノへ向かう事にした。


 旅をする上で一つ便利になった事がある。出発に際してマリシェルが教えてくれたペンダントの機能だった。


 エルのペンダントはマリシェルの術式を用いている事と、今現在だけだが、竜玉への魔力供給のラインが存在している。これによってエルの場所の特定ができるマリシェルからのみではあるが、風の魔法で声を届けペンダントで受信させる事が可能だというものだった。


 こちらからも同等のアイテムを渡せないのかと聞いたのだが、竜玉への魔力供給を感じる事ができるのは、竜聖母としての異能のような物で、エルにも慶司にも不可能だと告げられた。完全な場所の特定が出来ない以上は風の魔法でも無理だろうとのことだった、機能は一方通行の長距離糸電話ぐらいの物らしい。


 まあこれを聞いて諦める慶司ではないのだが、現段階では流石に無理だった。後に違う方法を確立するのだが、それはもう少し後の話である。



 慶司達は、まず最初に立ち寄った霊峰アルザスでブリガンさんに結婚と子供の報告をした。


「おめでとうございます、

 これで霊峰アルザスの未来は安泰でございますな。

 慶司様、末永く、どうか姫様を宜しくお頼み申します」


「フッフッフ、まだまだこれからよ。

 爺には我らの子供の教育係をお願いしなくてはならんからな!

 宜しく頼むぞ」


「ブリガンさん、こちらこそ、宜しくお願いします」


 祝いの席はまた用意するということにして、慶司とエルが魔術都市へ向かうと告げると、ブリガンから少々報告がございますと言われた。


「少し気になりまして、先代の当時の記録を調べましたところ、

 別段重要な記述は竜族の資料には残っていなかったのですが、

 やはり先代も魔素については魔術都市に調べさせていたようです。


 魔族の寿命はおおよそ長い者で通常1000年、

 当時調べさせていた者達からの報告書を確認しようとしたのですが、

 どうやら先代が亡くなった時期に問題があったようで、

 実験事故などによってこちらに報告書が届いておりませなんだ。


 魔素第一研究所、所長のリッターが担当しておったようですが、

 事故で亡くなっておりました。

 そのあたりの記録から調べられては如何でしょうか、

 学園には連絡は入れていますので」


「ふむ、流石爺やじゃな魔素第一研究所の所長リッターか」


「それでは行ってきます」


「は、お気をつけて」



 ◆◇◆          ◆◇◆          ◆◇◆



 こうして先ずは魔素第一研究所へ向かう事になった。

 魔術都市マギノ、霊峰アルザスより更に南へ1000km程行くとその都市は存在する。ドレスムントが工業都市、リヒトサマラが薬学や自然、精霊研究の都市とするならマギノは魔法魔術研究都市といえる。魔法、魔術について日夜研究と魔術付与製品の製作とパテントでファーレン世界の魔法、魔術文化を牽引しているのがマギノだ。


 住民の多くが魔族であり、引きこもり研究者が大半ではある。その容姿は美しく特徴は角と、強い体内魔力が結晶化した額にある魔石だ。人族や獣人も少なからず居住しているが、その者達もなんらかの形で魔術や魔法研究に関わっている。また魔法、魔術に関係ない分野でも研究者は存在する。


 この都市にはマギノ都市学園という学校があり、この学校は世界最高の教育機関なのだ。アルザスの支配地域に存在するこの都市学園の経営者はエルである。市長は存在せず各研究機関の代表が運営を行っていて、行政についてエルは基本的に関与はしていない。


 また冒険者ギルドの総本部もこの都市にあり、他のギルドもこの都市へ出向機関を派遣している事から判るようにマギノの重要性は高い、竜族の支配地域の中心は聖地ではあるが、聖地近辺には都市は存在しない為に四支配地域の各都市が色々な発展を遂げているのだ。


 外見的な特徴を挙げると、この都市は地上と地下に存在する、都市の外壁がそのまま学園や研究機関の建物で、地上のメインは魔術魔法以外のギルドや商会、地下はすべて魔術研究や魔法研究の機関によって占められている。



「さて主様、とりあえず学園にでも行くとしようぞ」


「ちょっと気にはなってたんだけどエルの主様とか…

 なんだか少し話し方を変えた?」


「ウム、我も妻じゃからしてな…」


「そ、そうか…うん、悪くは無いんだ、

 うんなんだかありがとう?」


「ま、まあよい、で、主様よ、

 学園は我が経営しておるのでな、

 そちらへ参ろうかと思うのじゃ」


「そうだね、じゃあ冒険者ギルドに行って、

 到着の確認だけしてから、そこで調べ物をしようか」



 ◆◇◆          ◆◇◆          ◆◇◆



「なんだか大きな建物だねえ」


「ここが冒険者ギルドの本部じゃからなぁ」


「本部か…守衛までついてるから別のギルドと合同庁舎とか?」


「いや、単体じゃな、冒険者ギルドは元々が、

 狩猟ギルド、人材ギルド、冒険ギルド、傭兵ギルド、

 とまあ似たような事をするギルドの寄せ集めじゃ。


 大陸全土の競合組織を合併して、

 竜族の支配地域のみならず各国も活動地域にしておるからの。


 まあ半分公的な援助も入っておるからな。


 各王国からもそれなりの人間を送り込まれて、

 図体の大きな役立たずな側面もある」


「競合先がいないのは問題ではあるね」


「うむ、まあそこは話し合いじゃな。

 依頼内容の基準を都市と検討を重ねるなどしておる。

 会議の開いたりして調整しておるようじゃぞ。


 結局のところ自分達で商売を大々的にしている訳でもなく、

 依頼の手数料と都市からの討伐費が稼ぎ口で、

 あとは援助で成り立っているからの」


「成程あまり無理な経営自体ができないけど、

 情報や人材を確保してる分だけ国や都市に意見も言えるのか」


「まぁそういうことじゃ、

 一応トップの奴とも会えるが会って見るかの?」


「いや、そういう人とあっても何を話したらいいかわからないし」


「ふむ、まぁ意外とアホな奴で面白いじゃがの、

 5年単位でトップが替わる仕組みじゃ。 、

 今のトップは虎紋族出身でなかなか使える奴なんじゃ。」


「まあ、機会があればね」


 カードを見せると守衛はあっさり通してくれて、ホールへと入った。意外な事になんだか空いている。本部というからにはもっと依頼が飛び交っていたり、商談などが遣り取りされていると思っていたのだ。


 受付があったのでそちらへと向かってみたが此方も閑散としていた。もしかしたら別の部屋まで行かないといけないのかも知れないと不安に襲われた。



 ◆◇◆          ◆◇◆          ◆◇◆



「ようこそ、冒険者ギルド本部へ、

 本日はどのようなご用件で起こしになられましたか?」


「この町へ到着したので到着の報告と登録を」


「承りました、ではカードを拝見いたします。

 こちらへ(かざ)して頂けますか、


 はい、えっと慶司様とエル様ですね、

 チーム名が登録されていませんがご登録なさいますか?」


「チーム名ですか?」


「はい、あってもなくても良いのですが、

 護衛、討伐などで活躍される方々にはお勧めしております。

 人数制限は有りませんが多くのパーティーは5人以上、

 団として登録されている方々もいらっしゃいます。

 登録されますと討伐や依頼の報酬をギルドで保管が可能となり、

 各都市において引き出しが可能になります。


 また仕事の斡旋などもチーム単位で行っております。

 カードを拝見させて頂いたところ、

 慶司様もエルウィン様も、この期間で高く評価されてますね。

 採取銅10、狩猟鋼3、討伐鋼3、護衛銅10、

 となっておりますね。

 申し送りで非常に期待できる方達であると推薦状もついてます」


「く…マリアさん」


「まあ、間違った情報ではないがチーム名か…

 ここは主様の名でよいのじゃろうかの」


「多くのチームは動物の名や色などが多いですよ、

 同じ物は登録できませんのでご了承ください」


「ふむここは主様の華麗なる名前を…」


「いや流石にチーム名に自分の名前を使うのは恥かしいよ?」


「では、推薦状もあることですし、こちらの受付は暇なので、

 そちらのテーブルに飲み物をお出ししますのでお待ちください」


「ありがとうございます」


「仮にエルウィン団とかエルウィンの風とか、

 エルウィン&ケイジとかになったらどう思う」


「ふむ、ちと小っ恥ずかしくて名乗りを上げるのは躊躇われるな」


「しかも、他の人と組むかも知れないパーティーともなればね」


「フフフお待たせしました、改めまして、

 ギルド本部受付代表のミシェルと申します」


「あ、はい宜しくお願いします、

 渡良瀬慶司と妻のエルウィンです」


「あら?

 情報が古いのかしら、

 お二方とも婚姻関連がついていませんね、

 夫婦のパーティーも珍しくはないんですが、

 それでお名前をパーティー名にしようと話されていたんですね」


「ですが他の方々とお話する際や名乗りをするときにちょっと…」


「そうですねえ、やはり一般的な例として言えば、

 赤竜の牙とかは有名ですよ。

 最強のドラゴンに色をつけた団登録は多いですね、

 ここの出身だと白竜騎士団とかも大手ですね、

 後は精霊で火の精霊とか水の精霊の名前を使ったもので、

 有名なところですとシルフィードクインテットとか

 特殊な魔法や魔術を使うというパーティーがありますね」


「ヌヌヌ!」


 これは…赤竜に反応してる?


「赤竜も白龍も実際には上に炎竜や白銀竜がいますよね?」


「ええ、ですが流石に炎竜や白銀竜などは畏れ多いのでしょうね。

 名前が知れ渡った先でお二方の耳にでも入ってら大変だと、

 竜族最強の双璧と言われるお二方ですからね。

 怒りに触れるのが怖くて流石に名乗る人がいませんね」


「フム、実績が無くてはまあ名乗る事はできんじゃろうのぉ」


「ええ、ですからチーム名は、

 そのチームの特徴、出身、構成、色が重要ですよ」


「白銀の翼にしよう、エル」


「それなら白銀の太刀がよかろう」


「白銀ですか、なかなか攻めた名前ですね、

 まあアルザス出身ならありえる名前ではありますが、

 大丈夫ですか?」


「ええ、まあちょっと伝手もあるので、

 それに白銀の翼なら、想像しやすいでしょ。

 綺麗な竜の姿が浮かんでくるじゃないですか、

 目指すべき内容もわかりますし」


「フニュウ」


「そうですね、お名前も奥様がエルウィンさんですから、

 アルザスの方からしたら馴染み深い最強の竜ですか、

 さすが執事神(パーフェクトバトラー)の仕える方ですからね、

 時折いらっしゃるのですがダンディーな方です…」


「ブリガンに二つ名…じゃと」


「まあ、というわけでチーム名は白銀の翼にします」


「承りました」


「それと、ちょっと気になったんですけど。

 こちらの受付は暇なような事をおっしゃってましたが、

 何かあったのですか?」


「いえ、こちらは本部受付になりますから、

 一般の受付や仕事の依頼業務は別なんですよ。

 この本部の裏手の通りの方に入り口があって、

 地下に入ったところにあるんですよ」


「なるほど…って良かったんですか?」


「はい、受け付け業務をこちらで受けない訳でもないですし、

 団規模の斡旋などはこちらで行う事が多いんですよ、

 慶司さんとエルさんは推薦もされていますしね、

 こちらで対応する十分な資格がございます、

 お時間があればお勧めの仕事などの紹介をさせて頂きますが」


「いえ、このあと学園へいく用事がありまして」


「そうですか、ではまたこちらへいらして下さい、

 下の一般ではない仕事の斡旋もできますし、

 このような状況でお話相手がいると助かるんです」


 悪戯っぽく微笑みながら言うミシェルさんにお礼を述べて、また来ますねと約束をしてからギルド本部を後にした。



 ◆◇◆          ◆◇◆          ◆◇◆



「なんだか場違いなところへ行って、

 危うく別のトラブルか何かに巻き込まれるかと思った」


「まあ、なんじゃ、

 評価されるだけの仕事をドレスムントでしたということじゃ」


「そうかなあ、マリアさんに嵌められた気がする、

 きっとあれだよ、普通の受付にいったら、

 こちらですよと案内されていったら、

 ミシェルさんのところへ連れて行かれた気がするんだ」


「まあ、マリアは主様の手際を見知っておるからのぉ、

 ランクをあげる際も一気に上げれなくて悔しがっておったわ」


「別に一気にランク上げてもねえ」


「悪い事ではないからの、

 それよりも主様がモテすぎなのが我は心配でならぬ」


「は?」


「いや、じゃから、

 主様がモテルのは男性の甲斐性というものなんじゃからして、

 悪い事ではないんじゃ。

 じゃが、その、竜族は一夫一婦が普通というか、

 女性が強いから無理やり押さえ込んでいるのじゃが。

 世の中にはあれじゃ第二婦人とか第三夫人とか、

 妾をもったりする男性が当たり前なんじゃろ?」


「え? こっちの世界ってそういう世界?」


「まあ、嫌じゃけど、それが男の甲斐性らしいからの…

 マリシェルやグラディスからも人族の王など、

 50人や100人は妻がいて当たり前じゃと言われた。


 爺やも人族と竜族はしきたりが違うからといっておった、

 沢山子供を作るのは強者の権利じゃとな、

 我が侭を言うのはよくないと思っておるんじゃ…じゃが」


「あーえっと…

 確かに一夫多妻やら浮気だ妾だとあったけど、

 基本的に一夫一婦制の世界で暮らしてきたかね。

 どうぞハーレムを築いて下さいと言われてもなあ、

 俺にはその気が無いからね」


「じゃが綺麗な女性にいいよられるぞ?」


「うーん、エルが妾を取らないと駄目とかいうなら考えるよ」


「そんな事を言うなどありえん」


「じゃあ大丈夫だよ」


「そ、そうか、ニュフフフ、

 でも許してもいいのじゃぞ、

 あくまで希望じゃからの」


 嬉しそうに引っ付いてくるエルの頭をなでながら、ハーレムルートを自ら断ち切った慶司の判断は正しかったのだろうか。異世界まできても元の世界の価値観はやはり捨てられないのか。異種族婚までして何を言ってるんだと言われるのだろうが、慶司のエルに対する気持ちは通じたようだ。



 ◆◇◆          ◆◇◆          ◆◇◆



「さて主様、ここがマギノ都市学園じゃ、

 学生数12万人が学ぶこの大陸最大の学舎じゃ」


「これはとんでもない大きさだな…」


「まあ、大半は魔術と魔法を学んでいる魔族になるのじゃが、

 天文、数学、文学、音楽などの特別分野などで学ぶ物もおる、

 魔術、魔法に関してはここが登竜門となっていて、

 一流の研究所に勤めたりしていくもの、

 名を残す者はここで日夜勉強に励んでいるのじゃ。


 魔法と魔術に関しては9割魔族が占めている、

 残りの一割はハーフや人族じゃ。


 特別教室で一部研究者として精霊学や精霊魔法、

 魔術の研究の為に森人に来てもらってる、

 これは森人との交渉を重ねてこちらへなんとか来て貰った。


 入学は比較的学費が高い事を除けば簡単じゃし、

 一部成績優秀なものは我の設立した基金で援助しておる。

 自身が卒業だと思えば卒業できるが、

 卒業するまでに取得した単位の内容などで就職先も決まるし、

 スポンサーもついたりつかなかったりするからの。


 この学園を自ら卒業するより者よりは、

 研究機関や商人がやってきて契約していくのがほとんどじゃな。

 在学中の契約も認められている。

 契約金や寄付金、そのマージンで維持をしてるわけじゃ」


「研究機関は別の組織なの?」


「いや、ほとんどの研究機関は学園の関係じゃ。

 才能のある者のみが研究機関へ就職する。

 この研究機関の発明品はパテントとして学園と魔術ギルド、

 竜族によって保護されるわけじゃ。


 最近では人族の商人が別の研究機関を作ったりはしてるが、

 こちらは別じゃからな、パテントを保護してるのは、

 商人ギルドとか一部の貴族や国などの投資家たちじゃ、


 まあ優秀な研究者は魔術ギルドにしか行かないのじゃ、

 というか優秀な者は皆、魔族じゃからな。

 人族の学生がそちらに行く事が多い」


「なんだか大変な仕事な気がする」


「まあ新しい技術で危険な開発などを出来ないようにと、

 魔術ギルドが見張ってるからの。問題が起こる事もない」


「魔術の付与って竜族が行う方法とたしか違うんだよね?」


「うむ、竜族の付与方法は、

 物質に対して、魔力を含む物質を魔術として付与する。

 これは慶司のコートや太刀でわかるじゃろ?」


「あとはエルの作った俺の髪の毛を使った風の障壁とか、

 血と竜鱗結晶を使ったペンダントだっけ」


「うむ、特徴は物質を付与する事によって魔術とする事じゃ、

 太刀やコートに与えた方法などは、

 魔術付与されてるかぱっと見ただけではわからんのじゃ」


「このマントを見ても、

 そういえば誰も聞いて来なかったね」


「まあ前も言ったが魔術形式が竜族の物じゃし、

 ワイバーンの素材でつくった武具ぐらいは存在するからの」


「でも気をつけないと、

 この都市なら見破る連中はいる可能性はあるよね?」


「風の付与した物のように竜族言語が書かれていれば別じゃが、

 付与までは見抜けぬと思うがな、

 まあ主様から物を盗む事のできるやつなどおらんから、

 そうそう心配する必要はあるまいよ。


 まあ普通の魔術付与についてはここの学生達は学んでいて、

 それを専門に習得して卒業していく者もいるぞ」


「俺でも魔術付与できるようには勉強すればいいのか」


「そうじゃの、この学園で教えているのは、

 魔族、人族、森人と山人の一部の魔術言語と記号となる。

 混ざった魔術文字で効果が発揮された事例の報告もないが、

 理論的には問題ないはずではあるがの。

 主様の世界の言語でとかなら、

 案外上手く魔術形成ができるやもしれんな」


「そんな事可能なの?」


「うむ、竜族言語もそうじゃが言葉には力がやどっておる。

 イメージを言葉と発する事で魔法を行使する練習したじゃろ?

 あれと同じで、魔素を魔力でコントロールして、

 魔法を発動させる仕組みが魔術であるのじゃから、

 意味のある言葉に魔力を込めて、

 魔石を置けば立派な魔術になる可能性は大きい。

 なにせ我らは言霊とを込めた会話をしとるからの。


 問題があるとしたら、

 この世界の魔素が主様の話す言葉を言霊とはしてるが、

 文字を言語として定着させることができるかどうかじゃな。

 竜族はその工程を血や肉体で言語に力を与えて、

 特殊な方法で事をなしえておるのじゃよ。

 主様は…例の太刀を使いながら文字を記し、

 髪の毛の一本でも使えばいけるやもしれんな、

 いや確実にできるじゃろう」


「魔術を付与するたびに髪の毛を引っこ抜くのか」


「まあ案外そこまでしなくても出来るかもしれんから、

 何事もやってみると良いと思うのじゃ、

 授業を見学させてもらえば何かのヒントにはなるやもしれんな」


「うん、で、この建物は?」


「うむ、ここが教師や理事のおる建物じゃ、

 さすがにいきなり資料室へ行っても入れん」


「なるほどね」


「失礼する、ブリガンより連絡が入っているとは思うのだが、

 資料室への鍵を貸してもらいたい」


「はい、お待ちしておりました、

 エルウィン様、こちらが鍵になります」


 扉の近くにいた男性職員が鍵を手渡してくれる。その後ろからほっそりした男性が駆け寄ってくる


「これは、これは、

 エルウィン様自らお越し下さいまして光栄でございます、

 資料室へおいでとお伺いしましたが、

 他に視察などされていきますか?」


「いや、学園長その必要はない、

 まあ時間があれば授業内容の視察はするかもしれんが、

 まずは資料を調べたいのでな」


「はぁ、わかりました、

 何かご希望が御座いましたら、

 このカーズめにお任せ下さいませ」


「うむ、まあいつも報告をしてもらっているので、

 こちらからの問題はないが、

 なにか問題でもあるのなら聞くが?」


「いえ、問題といえば問題ですが、

 いつものごとく魔族に対しての勧誘ですな。

 人族の王国からが少々度が過ぎるぐらいでして」


「ふむ、一度勧告を出すのもよいかもしれんな、

 限度を超えた勧誘などを行わないよう通達せよ、

 目に余る交渉人等は都市外退去も視野に入れる方向でかまわぬ、

 飽くまで進路は本人の意思によることを知らしめよ」


「ハ!」


「それでは資料室にいこうぞ主様」



 ◆◇◆          ◆◇◆          ◆◇◆



「この資料室には魔族の研究してきた内容が保管されていての。

 研究員と一部の教員のみが観覧可能なのじゃ、

 魔力、魔法、魔術、魔素とここに全ての情報が集められている、

 まあ今回は第一研究所に関連する物で、

 母上が調べさせていた内容がある事を期待するしかないんじゃが」


「この膨大な資料の中から調べるのか…」


「まあ普通に一つ一つ巡っていたら時間が懸かりすぎるでの」


「何か方法があるの?」


「まずは司書をやっておる者がおるからその者に手伝わせよう」


「妥当な方法か…

 こうさくっと検索魔法みたいなのは存在しないの?」


「ここは魔力や魔素遮断結界の中じゃぞ、

 魔法なんぞ使ったら下手すれば爆発の可能性もあるからの?」


 え?なんで爆発?


「理由は簡単じゃ、

 ここには魔術の研究結果が残されておる、

 付与魔法とまではいかんが研究書に仮に魔素が流れてみよ…

 それが複数どころか何千何万の発動ともなれば…」


「なるほど魔道書だらけなわけか」


「うむ、じゃからここは常に竜族が監視しておるし、

 外壁から内装に至るまで魔素を遮断するように細工されておる、

 魔素が無いから体内魔力でとなれば、

 竜族や精霊でもない限り、

 発動できても魔術を発動したらスッカラカンじゃ。


 森人で5種類、魔族でも頑張って10種類が限界じゃろう。

 彼らは魔術の危険性を十二分にしっておるからな…

 なんといってもここの地下でたまに事故を起こしておるからの、

 子供の頃から危険性は教わっておるよ」


 エルが司書を呼んで、第一研究書の3500年前の記録の閲覧の為の手続きをして。その間に【基礎からわかる魔素】、という書籍を探してもらって読み始めた。


「しかし沢山の司書さんがいるもんだね」


「彼らは専門の者とあとは特待生などじゃ。

 ボランティアという名の奨学金返済行為じゃ」


「そんな事をしてるんだ」


「うむ、正直に言って安くない授業料だがな、

 特待生なら無料にしても構わんのだが示しがつかんわけじゃ。

 この都市の収益もそれなりにあるし、

 それ以外にも支配地からの収入や、

 他の竜族からも学術関連に対しての補助を受け取るからな。


 でだ、只に出来ないなら、

 卒業後に返済させろとなるが、

 金がないから特待生な訳じゃ。

 日々の生活もあるわ、

 卒業後には返済を頑張らないといけないわ、

 となると勉学の為の特待措置はなんなのだとなるじゃろ。


 そこで、ここの司書や魔術付与のアルバイトなどを、

 学園が斡旋するわけじゃな、

 特待生にしか回さない仕事を作ってやるわけじゃ、

 ここの資料を整理する事でアルバイト代と食事と、

 将来の返済を減らす口実を作ったということじゃ」


「ふむふむ、竜族って統治せずって方針だと聞いてたけど、

 意外にしっかりとやってるんだね」


「まあ、統治という部分はその通りじゃ、

 実際に魔術ギルドに任せっぱなしじゃからな。

 じゃが竜族でもここの管理体制は厳重じゃし、

 それと方針を出すこともある、

 魔術などは管理が必要な技術じゃからな、

 このようにしていくべしといった風にな」


「これだけの都市で研究をさせていたら、

 それぐらいは最低限必要なのは仕方ないだろうね」


「じゃな、やはり良い研究をしてもらおうと思えば、

 それなりの用意などは必要で、

 竜族といえど霞だけで生活する訳にはいかんからな、

 まあ実際魔素を取り込んでおれば生きていけるんじゃが、

 最低限君臨するということは何かと入用になるわけじゃ」


「ところで魔素についての本だけど、

 これって結局魔素がなんなのかについて、

 最終的に解ってないって事だよね?」


「うむ、空気が何故存在するのか、

 そんな質問に近いからのぉ」


「魔力に関しても同じだよね?」


「それもなぜ呼吸してるのかという事になるか」


「あって当たり前だから研究できない?」


「まあそうやって考えると、

 それを研究しようと頑張ってる魔族は、

 やはり変わりものじゃと思うわけじゃがな」


「まず、ある物はあるとして、

 魔力、魔素がある。

 魔力は体内にある魔法を使う力で、

 魔素は体外で魔術を使う力、

 という事は魔力と魔素って同じ物じゃないの?」


「まず大昔の魔族はそう考えていたようじゃが、

 これが別物であるのは研究結果として出ておるんじゃな、

 簡単にいうと魔素だけでは魔術は発動しないのじゃ、

 よって魔術の素、ではあっても、

 在るだけで意味の無い別物とされるわけじゃ」


「魔力は単体で使用可能、魔素は単体では使用不可能…」


「そう言えば主様が体内で、

 途轍もない魔力を発動させようとしたことがあったじゃろ?」


「あーあったっけ? 

 最初の魔法訓練の時か」


「うむ、人族ではあり得んと思ったが、

 あの魔力の高め方は竜族が魔素を空気中から取り込んで、

 魔法を発動させるのに近い感覚じゃと思うのだがの」


 なるほど…確かにあの時はエルから受け取った魔力を高めようとして魔素を体内で循環して練った感覚はあった…イメージとしては大気中の気を取り込んだんだけど、アレで魔素を認識できたわけか? となると魔素も魔力も気の一種か? ん?それじゃあ魔素を取り込んで練ることによって魔力になった訳で取り込んだだけじゃ魔力にはならなかった…


 そして魔術の発動には魔力を流す必要があって魔素をつかって発動する…魔法はイメージを作って魔力を込めてやればこの世界で現象として発動してる…そうかこうやって問い詰めるとなんで魔法が存在してるのかという問題に突き当たるのか…そうだよなぁこの世界に送られてきた俺がそこに疑問は持てないよな…


「うん…確かにあれは竜族と同じような方法かも知れない、

 エルに貰った魔力と空中の魔素を取り込んで、

 体内で練ったように意識したら魔力があがったから、

 という事は魔素は空中を漂っているけど、

 魔力の素としても取り込んで魔力にも変換できる存在で、

 魔術として使用されるときは、

 魔術の記号か魔術文字に魔素を魔力かする秘密があるのかな?」


「おお、理解できたようじゃな、

 魔術、これは付与したものも含めてじゃが、

 先ず魔力によって起動され魔素を取り込み魔力として発動する、

 強力な魔術を使うには大量の魔力が必要となるわけで、

 魔力消費も増えて行くわけじゃが、

 魔術自体に留めておける魔力というのは非常に少ないのじゃ。


 そこで魔力を保存させる依り代が必要になるわけじゃな、

 霊木や魔獣の牙や角、そして魔石じゃ、


 ちと脱線するが竜族の肉体はちと特別でな、

 主様もわかると思うが我が肉体を作ったじゃろ?

 あれでも相当の魔力を使ったのじゃが、

 あれは主様の力あっての事でな、

 竜族は少しずつ魔素を取り込み、

 魔力で肉体を構成して行く訳じゃ、

 まさに全身が魔力で作られたといってよい。

 故に魔力で肉体を持つ魔物の素材も重宝されておるのじゃが…

 まあ要はそのようにして、

 魔術を発動させるに必要なだけの魔石を組み込んでやると、

 魔術の発動ができると、こういうことになるのじゃ」


「理解できた」


 成程納得であるが、そうなるとエルは竜体の方は10年で取り戻すと言っていたが、この人の形もやはり魔力の構成…竜玉の扱える魔力量でエルの大きさって変わってる?


「エルって竜玉の魔力操作の量で大きさが変わってる?」


「うむ、流石に竜玉自体がこれ以上弄くれる物では無いからな、

 竜体としての魔力貯蔵量が増えていけば、

 必然的にこちらの肉体を構成する魔力も増えるわけじゃ、

 じゃから肉体を成長させる事になるな、

 止めておく事もできるがちと小さいでな…

 やはり昔の大きさまでは戻りたい」


「ってことは今でも大きくは出来るの?」


「魔法を使うために余裕をもって肉体を構成したからの、

 今竜体構成に回している分を少し使えばできなくもないが、

 ちょっとしか変わらんし、

 竜体を大きくしたほうが効率よく肉体を維持できるぞ?」


「いやちょっと思っただけなんだ」


 その後、魔素第一研究所の3500年前のレポートを調べたが肝心の内容が載っている物が見つからない。所長であるリッター主任研究員の死亡事故に関しては魔術の暴発が原因で、当時の調査委員会もよく起きる事故で、安全性の確保を怠った別の研究員の魔術実験に巻き込まれた為の死亡と断定していた。


 しかし、魔素第一研究所なのになんで爆発事故なんだろうと疑問に思うが、事故はかなり悲惨な物で一区画が吹き飛んだ為に、なんらかの要因で魔術の複合的な発動での事故とされていた為、原因追求は不可能だった。


「うーむ、手がかりは無しか…」


「手がかりが無いというか…

 魔術の複合的な発動で暴発って…

 研究所である事なのかな?」


「フム…

 この資料室を頑丈した事件じゃからな、

 あるかも知れんが、

 今まで我が知る限り事故は起きる事は起きるが、

 予想の範囲内の事故だったり、

 事故を起こす事は当然といった感じで、

 そんな実験ばかりやっとるのが魔族じゃからな」


「そうなると、

 複数の魔術を爆発させたのを当たり前だとして、

 片付けたのはまずいんじゃないかな?」


「確かにの…

 一応子孫もおるじゃろうから話を聞きに行かねばな」


「どこで調べるの?」


「色々方法はあろうがここはこの町の役所から聞き込みじゃな」


 二人はリッターの子孫を求めて資料室を後にした。

2014/09/05加筆修正

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