魂の伴侶を見つける方法
「行ってしまわれた…
エルウィン様どうかお幸せに、先代様…」
ブリガンの目には涙が流れている、先代であるエイミー達からずっと仕えてきたブリガンからすれば孫であり、そして守るべき主君であった。
先代であるエイミーもエルウィンのように天真爛漫であったが問題の解決に赴き亡くなった…そして父であるウィルドもまたその時に亡くなっている。エイミーが亡くなったのは3500年前、突如現れた黒竜を倒すべく夫であるウィルドと共に戦い、ウィルドを失いながらも敵を倒したエイミーは、傷ついた己の身を火山へ投げたという…これは炎竜のグラディスから伝えられた事だ。この時の黒竜討伐では多くの偉大な竜が亡くなっている。
恐らくエイミー様は自分の体が乗っ取られていく事を察して…
エイミーが亡くなった当時のエルウィンは500歳だった、竜族としては若輩で、その頃からブリガンはお転婆なエルウィンの補佐を続けた、まるで先代のエイミーがそのまま乗り移ったかのように振舞うエルウィンをブリガンは心配だった。なぜエイミー様は亡くなられてしまったのだと、当時は若いながらも統治者たらんと頑張るエルウィンを見ては思った。
だが物事とは奇妙な物である、まさかエイミーの死の真相が、今回のエルウィン様の竜体損失と関わりがありそうだとは…これは当時の記録を調べねばなるまい…ブリガンは二度と主君を失わないために、そして主君とその良人となるであろう恩人の為に記録保管室へと向かった。
◆◇◆
「この速さなら直ぐに聖地じゃの!」
「まあ確かに、直ぐに着くけど、
なんだか昨日から機嫌がいいように見えるんだけど」
「そうかの?
いつもと我はかわらんぞ」
まあ昨日の晩にちょっと特別な料理作ったし、それでか?
などとエルの浮かれている原因を勘違いしつつ聖地へと向かう。昨日の岩石板も持ってきてるし今日は今日で竜聖母に振舞う事になりそうだなと慶司も暢気に構えているのだ。
残念なことに聖地へと向かう間に大きな村も無いため材料の調達は期待できない、リヒトサマラは聖地から遥か西になってしまうし一番近い都市は魔術都市マギノだが反対方向だった。最初にエルとであったブレーメの森あたりへいけば小さな村があり、オビスというその村でもいいかと考えたが、面倒になって途中の休憩も兼ねて草原に降り立つことにした。川も流れているしハンマーレブやロックハイドが釣れるかもしれないと考えたのだ。
「ふむ、ほれまた我のほうが大きいぞ!」
「やるなあ、その大きさのハンマーレブなら十分だな」
「よし次はロックハイドを釣ろう、それと連日ホルホルってのもなんだから別の獲物を狙おう」
「うむ、次も我が勝つ!」
有言実行とはこのことでエルの釣ったロックハイドは大きかった、慶司は別の仕掛けでマーガレットフィシュを狙ったが1匹つれただけで、次はウナギが釣れた…
ウナギだと!思わず唸ってしまった慶司だが好物なのだから仕方が無い。こっちの世界の呼び名は知らないけどウナギは食べれるだろうと判断して網に入れ、そのまま竹筒で持ち運ぶ事にした。そして図鑑で調べのだが、名称スニーフィッシュ、食べられない事はないが好んで食さない、薬として使用とあった…
ナン…ダト…もったいないなあと思いつつ、山の中へと分け入った、目的は図鑑で見つけた山椒っぽい実である、木の芽もとれるしと、取りにいきつつ、他の獲物を探していると、途中で巨大な牛っぽい何かに遭遇した…
「でっかいのー」
「大きすぎるよ?」
「食べ応えはありそうじゃぞ?」
「牛の2倍は大きいんだけど…」
そう牛の2倍の大きさと馬鹿にしてはいけない、人など普通にいる牛に突撃されたら木の葉のように舞うのだ。
そして大きさはそのまま力となのである…突如突進してくる角付の牛、咄嗟にエルを抱えてとりあえず避けた。
「これ食えるのかの?」
「そんな場合なんだよなあ」
とりあえず空中へ逃れて図鑑で確認すると牛の野生種と書いてあった。
…ふむ…食べれるのだ。しかも美味と書いてあった。
ちなみに牛なのに討伐対象リストに入っていたぐらい凶暴らしく、名前もなんだか強めのウォーロック。
食べれるなら倒そう、牛ならステーキだ!
と今日のおかずは決定である
なんと頭部を叩いても動き続けた、首の骨を折ってやっと動きが止まったほどタフだった。
川原へ運んで解体して、角が討伐対象らしいので取り外し、川の水に剥いだ皮をさらして肉を切り分けていく、臓物も洗い肉の大部分はジャーキーにする予定にしてロープでくくり持ち運ぶ、まさか肉を運ぶのに【竜撃】を使用することになるとは思わなかった…
◆◇◆
聖地について竜聖母の挨拶をした後話があると残ったエルと別れて、挨拶にやってきたガウェインを捕まえて燻製を作る手伝いを頼んだ。ガウェインに肉をスライスさせている間にワインと古酒を混ぜた物に、胡椒と塩を入れ、スライスした肉を放り込むように指示して森へと木を伐採しに行った。倒木を見つけ風の魔法で粉砕して匂いを確認して使えそうな物を確認し戻る、ガウェインが死んだような目つきで肉をスライスしてるので手伝い、礼を言ってフェリエスと一緒に食事に招待するというと喜んで走っていった。
野生の肉の上に熟成前だけあって硬いのでナイフで筋を切って背中の部分で軽く叩いて伸ばす、酒と少量の酢と塩コショウに漬け込んで食べる前に焼くまで放置した。
ハンマーレブは絞めて身を取り出し天ぷらにするものと茹でてすり身を作ってスープに入れる物に分けた
ロックハイドは全て捌いて天ぷらにする、他の天ぷらの材料は木の芽、ニンジン、タマネギ、を用意してつゆを作っておいておく。
スニーフィッシュは捌いてまず串を打っていく、骨と頭はこんがり焼いて酒と砂糖と醤油でタレを作る時に入れる。
軽く焙ったら天然物だけあって臭みがあった、一工夫するために蒸してそれからタレをつけて蒲焼を作り、うな重を作った。脂も程ほどに蒸して落ちた為ふわふわで美味しく焼きあがった。
デザートはクレームブリュレで竹の器で作った、さらに無駄に魔法で表面を焙り果物のジャムを添えて用意した。前回の反省で飲み物はお酒をを薄めたものにリンゴをすりおろしてシェイクし氷で冷やして出す事にした。
「慶司、ごはんはできたかの?
ものすごくいい匂いがするのじゃ!」
「今日も甘い匂いが…」
「うん、あとは手伝ってくれたガウェインと、
フェリエスを招待してるから到着まで待とう」
「なるほど、それで先程挨拶に来ていたのですね」
「ではこちらは先に儀式を済ませてしまいましょうか」
「そうですね」
神殿のなかで常に竜聖母がいる場所まで赴いて、ペンダントへと付与魔術を行う、血を数的と同時に魔力を竜鱗結晶に流し続けながらの作成である。
「それでは慶司さん、そのまま魔力をペンダントの結晶へ、
私が変換の儀を行いながら魔力をエルウィンに渡します。
ですのでエルさんは受け入れる用意を、
それで自然に回路ができますから」
「わかりました」
では手を繋いで、とエルと手を繋ぎながら魔力を少し流し込むとペンダントの輝きが増していく、そこへマリシェルが血を数滴垂らして輝きが収まりペンダントはエルの首へとかけられた。
「これで慶司さんとエルさんは、
私が取り持った竜族初のカップルですね、ウフフフ」
「え?」
「この儀式は簡単にいうとですね、
魔力を介し慶司さんとエルさんが結婚したに等しい行為です、
私が間を取り持つ機会が訪れるとは、
今までなかった事なので誇らしいですわ」
「あ…そういや聞こうと思ってたことが…」
「ええ、先程までエルウィンさんと話していたのですよ。
竜族と他種族との結婚で問題がないかなど、
色々と話を詰めておりました」
「我と結婚はしたくないか?」
「いや、エルこれからもよろしく俺と一緒に旅をしてくれ」
「ニュフフフ」
(皆に告げる、マリシェルが仲を取り持ち、
ここに人族最強の渡良瀬慶司と、
アルザスのエルウィンとの魂の結び付きを認める。
二人が魂の伴侶を見つけた事を我らは祝福する、
二人に幸おおからんことを!
苦難は共に乗り越え、幸福は二人で喜び、
我ら竜族は二人の守護たらんことを誓う。
10年後には二人の子がみられるであろう)
「子供?」
「そうですよ、伝え忘れていたというか、
この間の私が10年動けないといったのは、
お二人の子供だったのですよ、
調べるのに時間が掛かってしまって、
どうも変わった竜玉の子だと思いました、
先程エルウィンさんには伝えたのですがね」
ハッハッハ、やっても無いのに子供がいたよ、と慶司も吃驚である。
「恐らく今回の儀式を経たことで、
もっと鮮明に竜玉が現れるでしょうし、
まあ、他にも色々と…」
「そうか…俺に子供か…稼がないと?」
「心配するでない…
ど、どうせ10年は待つのだ」
「まあ、お二人の子供ですけど、
竜族と人族でも特殊な慶司さんと間に生まれる訳ですから、
他の竜族のように10年なのか、
もっと短いのか、長いのかは後々判明すると思いますが」
まあ、生まれることは判っているのだから心の準備だけしておこう…と慶司は受け入れた。
◆◇◆
「け…慶司様、エルウィン様、ご結婚おめでとうございます、
炎竜の一族は心からお二人のご結婚を、
お祝いさせていたっだきましゅ!ます!
早速我が母グラディスに知らせる為に使者を送りました、
明日には参るかとおもいまつので!」
「フェリエスさん、ありがとう」
「フェリエスか、うむ、祝ってくれて嬉しく思う」
エルがひっくり返らないように後ろから支えてあげないと…
「慶司殿、いや兄者と呼ばせて下さい!
お祝い申し上げます」
「兄者か…
フフフ、慶司に弟分ができたら我の弟分でもあるな」
「ハ!」
「まあ、あまりそういう堅苦しいのより楽しくいこう」
「いえ、我が力など兄者に比べれば…
なにより男として尊敬に値します」
あーガウェインはフェリエスに惚れてるんだなぁと思いながら料理を用意した部屋へ向かう
「それじゃ皆席について待ってて、
最後のステーキを焼き上げて持ってくるから」
「うむ、まってるのじゃ!」
「今回は前回より種類も豊富ですね」
「これが食事というものですか」
「前回頂いたチーズケーキは忘れられない味でした」
ステーキを焼いて蒸留酒で匂い付けのソースをつくり、石板にのせてナイフでカットをしておき、皆の前に提供した。全員で楽しく食事しながら、エルウィンはこんな美味しいものを毎回食べているのかとか、町で行ってきた狩猟や採取、騒動などの旅の話をして。アルザスでのブリガンとの決闘の話、そしてブリガンが応援してくれている事をエルから聞いて嬉しく思った。
ガウェインは料理に感動して、強いだけではなくこれがエルウィン殿を! と一人納得し料理を教えて欲しいと頼み込まれたりと、中々騒がしかった。
余談だが、ガウェインは後日暇になると人間の村へ行き料理を習う姿が目撃される程に料理へと入れ込んだという。
最後にデザートをだすと女性陣が全員溶けていた、その姿を見て慶司は次にアイスクリームに挑戦しようと思うのだった…
2014/09/04加筆修正