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チーム

 予想以上に疲弊してしまったフルトリア王国と、自領と法的な問題を指摘されて身動きが取れなくなってしまった貴族を抱えるエリミアド両国の和平交渉は驚くほどに早く纏まっていた。


 その裏に慶司の活躍があったのは述べるまでもないが、相も変らぬ無双振りだったとだけ記しておこう。


 そんな大陸の揉め事を他所に、季節は初夏、虫月へと移り冒険者学院の生徒達は今日も元気に訓練に励んでいる。

 少し肌寒い日もあった頃から一気に気温も安定し軽く運動した生徒達はみな汗を搔くほどだ。訓練が終われば今日は全員が期待していた班編成による実技訓練があるので連日の稽古にもまして気合が入っている。


 昨日の連絡事項によって伝えられてから早速はじまった班編成は壮大な賑わいを見せていたのだ。



 その様子はまさに鬼気迫る様子だったらしい。放課後に屋敷に戻ったソフィアから慶司は教えて貰ったが予想通りでもあり、また情けない話でもあった。壮絶な誰とチームを組むのかと言うこと賭けた引き抜き合戦などが行われたのだと聞けば尚更である。


 ソフィアの元にも相当数の申し込みがあったのだという、事前に特待生は別組みだと伝えたにも関わらずの結果となれば顔を顰めたくもなると云うものだろう。


 特待生は良い意味で規格外すぎる。その戦力も人材も力がありすぎて確実にバランスを崩壊させてしまう為の措置だと連絡事項に記載までした。恐らく態々そのような措置を取らなくても最近の様子を見ていれば固まって動くのは判りきっていたのではあるが……


「なんだかマスコット的な扱いを受けるのは不本意なの」

「ハハハ、可愛いからなソフィは」


 などと親馬鹿発言をする慶司だが、実際に親馬鹿であった。この事態を見越して数組から追いかけられたソフィを即座にシルフィに頼んで避難させたのは他ならぬ慶司だったからである。


 その序にカミュ、アンネローゼ、ホメロウにルーさーも屋敷に一時退避させていた。

 普通に考えればアンネローゼを一番に退避させる所を我が娘からと云うところはエルが見ていても微笑ましいものだったようだ。


「まさに子煩悩という表現、いや親馬鹿状態というのはこう云うのだろうな、妾と慶司の子が生まれた後が少し心配じゃ」

「まあ、いいじゃないか」

「構わぬが、一応は妾も気にして欲しいのじゃ」

「大丈夫だよ、最愛の女性はエル以外に居ない、ソフィは大事な娘だし、うーんそうなったら男の子がいいのかもしれない」

「うむ、処置なしという奴じゃ」

「ふにゅ、おとうさんとおかあさんも仲が良くってソフィは嬉しいの」

「家族として二人とも愛してるからね」

「「フフフ(なの)」」



 ◆◇◆          ◆◇◆          ◆◇◆



 慶司や一部の規格外な冒険者を除けば単独で討伐ランクが鋼の上位になるような相手を個人で倒す猛者はいない。ルージュ位のレベルになって初めて可能になるのだが、冒険者学院が目指すのは一騎当千の強者を作り上げるのではなく、生き残る術を身につけさせる事であった。


 とは云えど若い冒険者希望の生徒達が強者に憧れを抱くのは当たり前で、自分もいつの日にかは金ランクと目指す生徒がいる。そうした生徒が実力を見誤って死亡しないように訓練するのが教員の役割である。


 専門の座学以外に関しては殆どが冒険者ギルドから推薦された引退した冒険者だったり怪我で一線を退いた者だったりするのは彼らの経験を次代へと受け渡す目論見もあった。しかし自分は違うと勘違いする生徒が出てくるのも当たり前、チームを組み実習などをさせるようにもなれば、気が大きくなって危険に気がつかない生徒がでるのも致し方ないのかもしれなかった。


 其の辺りの心の機微を慶司も学校で少し不作戯ふざける級友などがいた経験から予測していたので、特別な講師陣が張り付くように手配していた。


「これからチームでの動きなどを担当して教える赤竜の牙のキャサリンだ」

「「「……」」

「返事も出来ないのか?」

「「宜しくお願いします」」

「声が小さい、気合入れろ!」

「「宜しく! お願いします!」


 返事が出来ないのではない、単純に驚いてるだけだよと生徒達が心で叫んでいたのは当然だろう。確かに慶司の力はずば抜けているが少なくとも表立った活躍に限れば冒険者チームの歴史、知名度、活躍で言えば赤竜の牙といえば白竜騎士団と並んで双璧になる有名すぎる冒険者集団であり、その団長ともなれば憧れと同時にそうそう声が掛けられる存在ではない。知らない王様よりも近くの英雄である。其の点でも一般の生徒の枠から特待生は感覚がずれていた。


 自らが王族どころか王位継承権を持ってたり、慶司の真の実力を知るもの。師匠がいれば鬼より怖いキャサリン相手でも……と様々だった。日頃からとんでもない訓練を受けているので感覚が麻痺しているという可能性もあるが、彼女達は強さに対しの姿勢は常に貪欲であり、鍛えてくれる機会を逃す気は無かった。


 当然チームでの戦い方ともなれば相手が学院内で存在しないので、ある意味彼女達の為にこそ赤竜の牙は呼ばれたようなものだった。


 全てのポジションを全員がこなせる様にと役割を変えながら訓練を受ける。今日の前衛はホメロウとアンネローゼ、中衛をカミュとクリス、後衛にソフィアとルーサーだった。対する赤竜の牙の面々はキャサリン、ルージュ、カレルなどを含めた錚々たる面々だった。なぜここまでのメンバーになったか、理由は複数あるのだが、まず前回の授業時間に派遣された赤竜の牙の面々が信じられない事にチーム戦で負けた事。そしてその話しを聞いたキャサリンの動きをカレルが止められなかった事。訓練に参加する特典として慶司との模擬戦の権利が与えられている事が主な理由だった。


 元より赤竜の牙がこの冒険者学院に対して力を貸すのは契約でもあるのだが、初代の思惑だけでなく、キャサリンの判断で即決されたという事実がある。まず優秀な団員の補充が見込めるという点。死亡者を亡くす事やライバルを増やす行為にも繋がるのではあるが、魔獣、野獣でも下位なランクは一般冒険者の領分だと十二分に厳しい相手なのだが、赤竜の牙は下位の依頼は冒険者ギルドから頼まれない場合を除いて殆ど受けていない。よって普通の依頼をこなす冒険者が増える事は其の手の依頼をこなしてくれる事にも繋がるのだ。そうして増やしたからと言って野獣や魔獣などの脅威が減る事は無く寧ろ竜の巡回がなければ対処不可能な程に溢れている。


 そして何よりも大きかったのは通常に試合を申し込んでも拒否されたり、弟子入りを願っても断られる慶司と希望者が試合をする事ができる権利と、訓練施設を利用できる特典が提示されたのだ。

 キャサリンがこの条件で頷かない筈がなかった。ボランティア価格とはいえ食と住が確保された環境で団員の強化まで行わせてくれるのだから弌も弐もなく飛びついた。


「昔とは違う、昔の俺とは違う、やれば出来る我輩強くなった……」

「大丈夫ですはホメロウさん、貴方は私以上に強いではありませんか、何と言ってもあの慶司様の特訓を潜り抜けた面々が揃っておりますのよ、そう、あの特訓を、ウフフフ」

「そう、そうだ、あの特訓に比べれば!」


 過去の忘れたくなる記憶より最近の特訓による恐怖が打ち勝つ。ホメロウがトラウマをより強烈な経験によって打ち破った瞬間だった。彼の男として成長した印だろう。本人が望む望まぬを別として効果は絶大だった。


「み、視える、あの人(悪魔)の蹴りが!」


 キャサリンの腕試しの心算で放った一撃。電光石火(ライトニングファング)の二つ名を持つ彼女の蹴りを見事に受け流した上に一撃を叩き込もうとまでするホメロウの動きにキャサリンは内心でホウと賞賛を贈っていた。あの小僧だったとキャサリンが思っていたホメロウがよもやという一撃を放ったのである。


 しかも躱す事の可能な一撃をホメロウは態と受け流す事で体勢を崩しに掛かり一撃を入れようとしたのだ。

 まさか上段の蹴りから変則ではいる中段への蹴りの軌道を変えられるなどキャサリンは思っていなかっただけに意表を突かれた。透かさず後ろへと飛びのいた事で拳は空を切る結果となったが大した成長だと言える。赤竜の牙の団員でもここまでやれる者はそうそう居ない。つまりはホメロウは既に赤竜の牙の下位レベルの実力を身につけつつあるという事。

 キャサリンはそれならば十二分に相手をしてやろうとギアを一つあげた。

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