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オトメアイ

「「「この人がオーナー!?」」」


 3人の絶叫は失礼な話だが仕方が無い、そこには身長7ネルを超える筋肉がいた。だが彼こそいや彼女こそがオーナーでありすべての服のデザインまで手がけ、慶司の胴着を仕上げていた人物であった。


 そうフレデリカ(フレデリコ)・ボサノヴァ、彼女は漢女と書いてオトメ、女の漢と書いてオンナノコと言われる女性以上に女性のきもちを持った人であった。なのにこの筋肉、心と体は別物である事を象徴するような筋肉は勝手に育ったのだというから皮肉なものだ。


 毎回のように驚かれる事位には慣れている。


「ウフフ、でも、心はオトメなのよ」

「そう、彼女はここのオーナーさんで、一流のデザイナーさんで、とってもコーディネートが上手なの」

「「「……」」」

「まあ、任せておきなさい、ではアナタからね」


 ビク!とするが金縛りにあったように動けないカミュ、まるで蛇に睨まれた蛙のような状態になってしまった。


「ふむ、スタイルはなかなかねサイズは……(ごにょごにょでしょ)、犬狼族だからその衣装も判るのだけど……」

「なっ!?」


 服飾に携っていれば身につく事があると言われる奥義、心眼によって女性のスタイルなどが人目で数値化されてしまうという恐るべき特技であった。


これと(シャツ)これ(スカート)、それにこれ(ベルト)、あとは小物ね、せっかくだからオーダーメイドで仕上げたいぐらいだわ」


 クネクネとしているが腕は確かだった。瞬く間に吊りの商品から選んだ物を合わせていく、たった3分で店内を廻って集めてきた服や靴下、をハイっと渡すと着替え用の部屋へとカミュ毎一緒に放り込む。そして次の獲物だと言わんばかりにギロっと(本人はいたって普通に振り返っただけである)クリスを見つめると耳元で囁く。


「もったいないわね、締め付けすぎよ、そーれサイズは……(ごにょごにょでしょ)

「ヒゥ!?」


 何が締め付けすぎなのか周りには不明だった。だがクリスは驚いていた、何故バレたのか等は不明だが、彼女にかかれば其れ位見抜くなど造作も無いらしい。恐るべし漢女眼(オトメアイ)。そしてまた店内をたったの3分で廻って来ると、今度は下着まで合わせて持ってきたのである。


「これ、慶司さんと打ち合わせして作ったアイデアが基になってる新作なの、そんな苦しい物より100倍は素敵なはずよ!」

「おとうさんのアイデア?」

「そう、これは今までの下着の歴史を変えるわよ」


 なんの事は無い、試合用に際してキャサリンなど女性選手の事で打ち合わせている際に胴着の下をどうするかとなった時にスポーツタイプのブラや通常のブラジャーについて形状の知識はあったので慶司が伝えただけであるが、その後数回にわたって興味をもった彼女が尋ねてきて商標登録を勧められたというだけである。アンダーカップを下から支えるビスチェや腰を締める為の貴族御用達のコルセットなどしかなかった世界に肩から下げた紐によって胸を支えるという新技術を導入したのであった。


 現在爆発的に売り上げを伸ばしているこの商品は竜具屋ではなくこのボサノヴァ商会が支店を拡大して販売を続けている。生地などはムーサから仕入れが可能であり針子の仕事が増えているらしい。


 慶司の家族ともなれば罷り間違えても下にも置けないような扱いになる理由の一つだった。

 何しろ販売先は人口の半分にも届くのだ。女性が下着に力を入れる事など考えなくても解る。目に見えない部分だからこそ重要なのである。


 更に言えば可愛い、可愛くないなどを別にしてもビスチェなどはお腹の部分まで締め付けるので苦しいが、ブラジャーにはその苦しさが無い。スタイルを維持するために強情にコルセットなどを使う貴族は多いがブルトンなどでは既に希少扱いになっているらしい。コルセットの締め付け過ぎもあって貴族の女性が倒れやすい等というのは事実で、コルセットをすると血の巡りが悪くなる。そして締め付けによって呼吸が阻害されるので気を失う。あざとい考えではあるがそうするとか弱く見えるのだ。


 だが胸の形をより美しく見える下着があればどうなるか、それが健康に良く、男性から魅力的に見えるとなれば、そして苦しくなければ……


 機能面でも優れた事でブラジャーは一気に市民権を得ていった。


 話がそれてしまったが、その下着を着けるようにとフレデリカは勧めたのである。


「キャシー来なさい、このお嬢さんの着替えを手伝って差し上げて」

「畏まりました、どうぞ」

「え?」

「フフフ、その下着にはつけ方があるから教えて貰ってね」


 そう告げてまたもや着替え用の部屋へと放り込むとギロッ(本人は至って真面目に見つめているだけであり敵対意識は一切ない)とアンネローゼを見つめた。


「これだけの逸材が……なんていう冒涜でしょう」

「冒涜!?」

「待っていて!ちょっと大変よ!」


 一階のフロアだけでなく二階にある化粧道具まで集めて5分の時間で駆け戻ってきた彼ではなく彼女の後ろにはメイクスタッフまで揃っていた。


「ウフフ、これで、素敵なレディーになってね」

「え?」


 有無を言わさないでアンネローゼも部屋へと放りこまれてしまった。


「ソフィア様はどうします」

「うーん、私はおとうさんとおかあさんに選んで貰うのよ」

「ふふふ、では折角ですから皆さんが着替え終わるのを一緒に紅茶でも飲みながらお待ちしましょう」

「ありがとうなの」


 本当に余談だが同性愛の歴史は古い。認める認めないなどの議論は別として、彼の某宗教の影響がなければ、ここまで忌避はされてないかもしれないと云える程に一般的だったと思われる。

 彼の戦国時代なんてその手の逸話は大量にあるし、武将から武将への恋文なども残っているとか……有名な逸話は結構ある、腐った方々大喜びになる逸話だらけ、伊達男や戦国最強とか蘭丸とかだけじゃない。


 何が云いたいか、この世界にもこの普通に衆道な方々はいる。だが漢女(おとめ)は彼ではなく彼女だけであると云うことだ。そして彼女が受け入れられるだけの下地があった事が述べたかった。


 慶司は完全にノーマルな人なので其方に興味がない。ただ道を極めた者を見抜きお互いに尊敬しているだけである。



 ◆◇◆          ◆◇◆          ◆◇◆



 放り込まれていたカミュ、クリス、アンネローゼが出てくる度に、ウンウンと頷いているフレデリカとソフィア。漢女眼(オトメアイ)の力は素晴らしかった。


 カミュにはギャザーで所々にウェーブをよせたりドレープしたふわっとしたドレスシャツとシンプルなショート丈のスカート、一緒にメイクもして貰っていて美少女ランクが上がっていた。

 クリスには可愛らしいワンピースに大きめのリボンベルト、それに髪をサイドで纏めてコサージュが飾られている、そのままパーティーにでもいけば華となるような装いであり、普段の男装の麗人ではなく社交界の華へと見事に変身している。

 アンネローゼに至っては驚愕しても良いほどの変わりようだった。体のラインを大胆に見せるドレス、少し際どいと思わせるスリットも大人びた顔つきに良く似合っていて無い方が不自然ではないかと思わせる。

 色は鮮やかねピンクから濃いマゼンダになるような濃淡があって大人な雰囲気をより引き立てている。


「ウフフ、みんな素晴らしいレディーになったわ」

「とってもお似合いなの」

「そうだろうか……なんだか足元もスースーするのだが」

「これが僕……」

「面倒ですが、良いチョイスですわ」


 三者三様に感想もあるのだろうが、既に支払いもすませられていて、着替えた服まで学院に送られているなどとは思わない。


 更に数回の着替えを済ませてソフィアが納得して店を出る時に初めて自分達の元の服が無い事に気がつき愕然としてしまった。


「この格好で」

「まさか」

「歩くのか」

「おとうさんは、この後でカフェに行けと言ってましたよ、予約も取ってあるそうです、なんでもケーキが食べられるとか」

「ケーキ」「ケーキ」「ケーキ」


 街を歩く珍しいピレードに乗った美女4人は周囲から羨望と憧れの眼差しを受け続けて予約があるという店までたどり着いた。ソフィアも流石にここまでの注目は予想していなかったので照れていたが、他の三名は茹で上がる程だった。


「『冒険者でも身だしなみは整える必要はあるし、パーティーなんかに出る立場になる者だっているから必要だ』そう、とうさんが言ってました、それにとってもみんな似合ってるので勿体無いの」


 慶司の言うことも最もだったが、マスコット的な可愛さを持つソフィアに言われてしまうと断りきれないし妹のような存在から言われて嬉しく無い筈がなかった。それから3人が休日に集まったり勉強会が開かれる度に今日の服だけでなく普段着に気をつけるようになった。因みに慶司が予約を取ったお店がガウェインの修行しているカフェであったのは余談である。

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