幸せそうな笑顔を見る事
都市ドレスムント、山人達の都市とはいえ人族も獣人族も暮らしているし、変わり者と言われる魔族もほんの一握りではあるがラボを作っている。森人だけはこの都市に住んでいないがこれは他の都市でも同じなので問題ではない。
森人達の都市であるリヒトサマラとも交易は行われているが、大森林地帯を隔てており僅かに一本の交易路が存在するだけで仲が悪いかのように見えるのだが、森人達は自然に囲まれた都市であるリヒトサマラを愛しているだけなのだ。単に森を愛するが故に開発をしていないのだが、他の種族が受ける印象は違うのかもしれない。
リヒトサマラについてはまた後日談があるので話を戻すと、ドレスムントには殆どの種族が暮らしている。最大の人数は山人であるが、人族はその次に多い。そして商人ギルドを仕切っている権力者は洩れなく人族である。
人族の多くは商人であり、また商人の大半を占めているのも人族である。寿命が短い分を努力と欲望で補い、この世界で権力を願い生きているのが彼らなのだ。竜族の支配地においてもその考えは改められる事は無く外の王国と変わらない。確かに生物が存在する限り平等など存在もしないが、まったく困ったもので王族出身であるから、貴族出身であるから、大商人の息子であるからなどと訳のわからない物で自分が偉大な人間や重要人物だと思い込むのは人の常なのだろうか、今回はそんな人族の傲慢が招く事件だった。
◆◇◆
ドレスムントの冒険者ギルド。
事務所の中で職員達が話し合っていた。
「センテンス家の次男のパーティーまた失敗したらしい」
「うーむ、実家が護衛依頼の大口だからなあ…
やりたいと言われたら止めるにも止められない」
こうして権力やお金の存在は人を縛るのだろう。
しかし、失敗を見逃せない人もいるのだ。
「いや、受け付けないで下さいよ!
一昨日だってそのパーティーのせいで事件が在ったんですよ。
牧場が襲われそうになってる事件報告しましたよね。
銅1つのパーティーが撃退してるんですよ?」
「そりゃすごいな」
「銅1つでドルドを倒せるなら掘り出し物だな。
ランクはあがったんだろう」
「ハァ…」
溜息を吐いたのは受付で慶司達の対応をしてくれた女性である。
彼女は不機嫌だった。対応しない上司にしても問題なのだ。まったくもって不愉快だし気が滅入っていた。今日に限って南へ行った鋼の上位の人たちは戻って来て無いし、北のドルドの注意を出さなければいけないのだ…
尻拭いをまさか銅3つのパーティーに頼む事はできない。
近隣の村から応援を呼ぶ事になるのかと、マリアは溜息をもう一度ついた。
そんな時やって来たのは件の冒険者達だった。
「こんにちは採取報告に来ました」
「これが採取した品じゃ」
「お疲れ様です、
ではこの二つが完了ですね。
あと二つはまだ継続中ということで宜しいですか?」
「はい、午後から取り組んできます」
「では、ご報告をお待ちしております。
それと…北にでていたドルドの討伐なのですが…
また失敗してまして…
5匹の群れなのですがご注意ください」
非常に落ち込んだ声で受付の女性が忠告してくれた。
「あの、その失敗した人たちのランクって幾つなんですか?」
「鋼2つですね…
でも他の人たちの力で上げたランクなので…
5匹を3人で討伐できなんだからっ、
まったく銅1つに戻してやりたいぐらいですよ」
「ランクが落ちたりはしないんですか?」
「ランクをギルドが落とすこともあり得ます。
任務失敗が続くとギルドの信頼問題にもなりますから。
ですが今回の件は大きな声では言えませんが…
その冒険者の親が大手のお得意様なんですよ。
商人ギルドにも顔が利くんです」
とても小さくない声で教えてくれた。
背後で小さくなる男性が居たがマスターなのだろう。
「わかりました、とりあえずドルドを見かけたら逃げますよ」
「では行ってらっしゃいませ」
◆◇◆
慶司達は店に戻るとエイミーと連れ立って西門からラビのいる草原へと向かった。途中で農夫達や商人とすれ違い挨拶を交わしながら歩いていく。刃のついてない棒を持った青年と、杖をもった小さな女の子、それに網とロープを持った猫又族の女性の取り合わせである。冒険者ではあるのだろうが一体何をしにいくのだろうかといった視線がちょっと痛い。だが気にしてはいけないよなと慶司はさっきのギルドでの話しをエイミーに伝えておく。
「受付のお姉さんから聞いたんだけど、
また昨日のドルドの討伐失敗したらしい、
5匹の群れらしいけど一応注意しておこう」
「わかったにゃ、
この前は10匹もいて焦ったにゃ、
でも5匹で慶司達と一緒なら怖くないにゃ!」
「まあ、出てきたらその時は倒せばよいだけじゃ。
我のこのデススターフォーチュンが火を噴くのじゃ」
「なんだかわからないけどかっこいいにゃ!」
「フッフッフ、慶司特製の武器じゃからな!」
「二人とも盛り上がってるところを申し訳ないけど、
俺達の依頼はラビ捕まえるんだよ?」
「それはもちろん」
「わかってるのにゃ」
本当にわかってるのか怪しいものだが、ひとまずは目的地へと向かう事が優先だ。
草原についてまず慶司は枯れ草と生木の枝、針葉樹の枝葉を蔦で丸めて用意した。そしてラビの巣穴をみつけ出口に網を被せ3箇所以外の巣穴を潰していき最後の一箇所に立つと二人に声を掛けた
「じゃあ出てきたら棒で殴ってね、
最初の1羽は逃がして小さいのも逃がそう」
「「わかった(にゃ)」」
「じゃあいくよ、【焔】」
魔法をだいぶコントロールできるようになった慶司にエルがアドバイスしたのが先程の詠唱のような物である。無くても使えるのだがキーワードとイメージをすり合わせる事で、発動をより簡易にすることができるのである。これはある意味魔法を魔術的に使う為の技法だ。
恥ずかしい等と言ってはいたが実際に使うと効率が良い、ならば取り入れる、それが慶司である。格好をつけて【焔】と日本語で火炎の魔法を表現したのは慶司が日本人だからである。エルなら同じ火炎の魔法でも【フレア】といった表現になるのである。
「でてこないにゃ」
「今入れたばかりだからね・
これでこっちの巣穴も潰せば」
「にゃ!出てきたにゃにゃ!? 大量にゃ?」
「10羽までだからね?」
「5羽捕まえたにゃ!」
「こっちは6羽じゃ」
「まあ一羽多いのはアドニスさんへあげよう
【翡翠】」
手早く血抜きの処理を済ませてからハンマーレブを釣りにいく、ロープにハムを括りつけて釣り上げるだけでいいのだから楽勝である、川原で遊んでいる子供達が珍しそうに見ているので手を振るとよってきた
「にいちゃん達なにしてんだ?」
「ああ、依頼でハンマーレブを捕まえに来たんだ、
君たちは何してるんだい?」
「おれたちは畑の手伝いの合間だよ。
この子達の世話してんだ」
「そうか、でも今はドルドがいるらしいからね。
北の方角には気をつけて遊びなよ?」
「わかった! にいちゃんも仕事がんばってな!」
さっそく一匹釣り上げると大歓声である「うっわすっげー」とか「ちょーでっけーハサミ」とうん、わからないでは無い、ザリガニを釣っていた事がある自分でさえハンマーレブ釣りはちょっと楽しいのだ。釣り上げたら後ろから掴んでハサミを縄で縛る、こうして喧嘩防止をしておいて籠に放り込んでいく、こいつで天ぷら作ったら美味しいかもしれないと考えながらも5匹づつ捕まえた。そろそろ帰ろうかと思ってるところに叫び声と走ってくる子供達が見えた。
「慶司!」
エルの声と同時に慶司は走り出していた。
棒を掴んで素早く川から上がり子供達の後ろへ回り込む、最初はドルドか! と思って飛び出したのだが…
なんだか色が黒っぽいし唸り声も低い、ドヌルという種類なのだが慶司としてはそんなことは知った事では無かった。まずは子供の安全を確保したいだがドヌルはドルドよりも利口で、連携しながら慶司の脇へ回り込もうとしている。
「よし、こっちは大丈夫じゃ」
「任せたよ、一匹ぐらいはそっちへ行くかもしれない」
「神罰棒の出番じゃ」
仕込み槍は使わないで、まず棒のまま右端にいる一匹を横殴りにして、返す勢いで振りかぶり正面から叩き付けた。左端にいた奴がさらに回りこんでいくのはエルに任せて残り二匹。移動しながら投擲具で攻撃し、飛び掛ってきたドヌルを下から突きあげた。
エルに任せた一匹は土の魔法で足止めされた瞬間に、|天罰覿面! と脳天に振り回されたフレイルモドキが打ち下ろされ一撃で絶命した。
エイミーは子供達を守りながら自分達の戦利品も確保しておいてくれたようで、最初右側を攻撃しに行ったときには中央にいる2匹に弓で牽制射撃を行ってくれていた。
「この前はドルドで今回はドヌルにゃ」
「うーんなんでドヌルがいたんだろう?
さらにドルドもいるのか解らないね。
とりあえず、この処理はしておくから。
二人はこの子達を親御さんの所へ連れて行ってあげて」
「うむ、任せよ!」
「行ってきますにゃ」
大きな子供達は泣き止んでいて、慶司にお礼を言いながら年下の子供の面倒をみつつ帰っていった。
◆◇◆
倒したドヌルを処理していると町の方から3人の冒険者風の人間がやってきた。慶司は黙々と作業を続け皮を剥いで、倒した証拠の牙とを分けていた。
「おい、貴様、貴様がこれを倒したのか?」
「てめえ、話しかけてるのに無視するんじゃねえ」
「ぶちのめされてぇのか? あぁん?」
「まあ、まてお前達。
失礼な態度を取ってはいけない。
どうだろう、そちらのドヌルを譲って欲しいのだがね。
一匹3000リュートで買い取ろうじゃあないか。
どうかね悪い話ではなかろう」
少し身形の良い男が大仰な態度で交渉してきた。
ある意味その前の脅しですら一つの流れなのだろう。
仲間が脅して、それを纏める者が諌めて交渉する。
典型的な手口といえる。
それ故に答えも単純で済んだ。
「断る」
「わかってないようだが…
ドヌル一匹倒して皮を売って大した額にはならんぞ。
皮が高くても2100リュートぐらいにしかならんのだぞ?」
「センテンス様がこうおっしゃってるんだ。
だから有難く頂戴しておいたほうがいいぞ」
「何回言っても同じだから諦めろ。
皮が欲しいというなら売ってやってもいいかと思うが、
お前たちも冒険者で欲しいのは牙なんだろ?
そんな下種な人間に獲物を譲ってどうするんだ、
それぐらいなら犬に食わせてやったほうがましだ、
ドヌルが倒したいなら森へ行け、まだいるだろう」
「きっさま…
センテンス様を侮辱しておいて都市に帰れると思ってるのか?」
「いい加減うるせぇ、この腰巾着どもが!すっこんでろ」
切り掛かろうとしたので棒で弾き飛ばし、もう一人の方が抜いた剣は叩きおった。ドヌルを倒してる人間に襲い掛かって奪える腕も無いのに何を考えているのか訳が解らない連中だ。
「クソ…行くぞお前ら」
リーダー格の男が顔を引き攣らせて帰っていった。
逃げるように去る男を子分達が追いかける。
ここまでテンプレの雑魚が現れるともなればある意味、安心の仕様だった。
「まったく…人間ってのはどっちの世界も同じなのかな。
いい人もいるし、腐った奴もいる、
ファンタジーぐらいはいい奴だらけにしてくれてもいいのに」
慶司は誰に言うとでもなく呟いた。
皮の処理を終えてロープで包み、肉は森まで持っていって埋めて処理をしてから、慶司はエイミー達が歩いていった方へと向かった。子供達の親からお礼の野菜を受け取っていた二人は、困ったような表情で慶司を迎えてくれた。
「いやしかし、これは受け取って下さい。
ドヌルから子供達を守って頂いてお礼もしない訳には…」
「ドヌルは討伐対象にゃ、
たぶん依頼料もはいるからお礼はいらないにゃ」
「でも、冒険者さん達がいなかったらと思うと。
きっと、この子達の誰かは被害にあっていたはずです」
「じゃあ少しだけ頂いたらいいんじゃないか?
その代わりに只で頂くんじゃなくて、
ハンマーレブ1匹と交換して貰おう」
「そうじゃの」
「ではこちらの野菜をお持ちください」
野菜をを受け取り慶司達はその場を去った。
子供達も親達も見えなくなるまで手を振っていた。
◆◇◆
都市の入り口まで帰ってきた慶司達だが町の入り口で止められた。
「あなた達は確か聖地からいらした…
そう、グルテンさんの所へ訪れに来た方々でしたか」
「そうですが?」
「ええ、でしたら引き止める必要も在りませんね、
まったくあの家の連中は…」
「なにかありました?」
「センテンスって商人の家から通報がありまして。
冒険者の息子がドヌルを横取りされたと……」
「はあ」
「ふざけた家じゃの、ぶっ壊すか」
話を聞いたエルは御立腹だった。
慶司にしてもいい気分ではないしエイミーも顔をしかめていた。
「まあ、そういう訳で事情をお伺いしようと思ったのです、
あの家のする事ですからねぇ当主は人柄もいいのですが…
問題ありませんので、どうぞお通り下さい」
「わかりました、では」
門番も気にしながらも職務でやっているのだ。しかし当主がしっかりしていてあの男が育つのだから人間とは不思議なものだ。ギルドへ入ってみると、ふんぞり返った先程の3人と女性が一人、それとギルドの受付のお姉さんが喧嘩腰で会話していた。
「ですから、何度も言いますが、
エイミーさん達不正を働く必要はないですよ。
大体ですねドヌルを横取りするなんて言うのはありえません」
「息子が嘘を言っているとでも?」
「ええ、失礼ですがドルドを討伐できない方ですよ?
そんな人達にドヌル討伐が出来る筈がありません」
「退治したと言っているだろうが。
こっちが正しいのだ、早く奴等を追放処分にしろ」
「あなたじゃお話になりませんわね。
ギルド長を呼んできて下さらないこと?」
「ですから、言いがかりはやめてください。
偽証で他の冒険者を追放処分になど出来ません。
そんな事をしてたら此方が罪に問われます。
虚偽の申告で冒険者を捌くなど…
ギルドが成り立ちませんのでお引取り下さい」
「なんて生意気な!
センテンス家にその物言い、後悔しますわよ。
それに証人がここに二人いるでしょう」
「その二人はそこの息子さんの仲間です。
そのような人物は証人たりえません!」
「えーっと、お話中に申し訳ないんですが、
こちらの手続きをお願いしたいのですが?」
「あ!慶司さんお帰りなさい、ちょっと待って下さいね。
ドヌルの討伐とラビ10羽とハンマーレブ13匹?
どうやってこんなに…」
「ちょっとあなた割り込まないで頂けます?」
「貴様! どうして入ってこれた!」
「なぁにデボンちゃんこの男が犯人なの?」
「そうだよママ!
こいつが犯人だ。
無理やり僕たちの倒したドヌルを持っていったんだ」
「ほう、さっきのやり取りに懲りないのか。
まだそんな事を言えるのはある意味大したもんだ」
「なんですかこの生意気な男は!
デボンちゃんから奪った牙と皮を返しなさい!」
「奪ってない物を返せといわれてもな…
お姉さん処理は済んだ?」
「はい!」
「なぁ慶司よこの者共は駄目じゃろ、
やっぱりぶっ壊したほうがいいんじゃないかの」
「ぶっ壊すのはまずいと思うよ?」
「そうかのお綺麗になるだけじゃと思うんじゃが」
「ちょっと! ギルド長! ギルド長!
いるんでしょう、早く出てきなさい」
「じゃあ俺たちはこれで失礼させてもらうけど、
あまりギルドに迷惑かけるなよ」
「なんだと貴様!
帰れると思ってるのか?
ゴメス、ロドリゴ捕まえろ!」
ちょっと! ギルド内で刃物をだすなんて! とお姉さんが叫ぶ、追放処分ですよ! と言われて止まるような馬鹿なら最初から抜いてないのだろう、家の権力で何とかなるとか思ってるんだよなぁ、流石に慶司と言えど此処までされては遠慮しない。
「【竜撃ノ壱】」
竜族魔法で筋力を高めて、まずナイフを出した二人を無力化するために動く。右手でナイフを掴み天井へ投げながら顎をこするように弾いて意識を失わせる。膝が折れるように二人が倒れるまで2秒程。馬鹿息子の手を後ろに捻って床に押さえつけておいた。残念ながら帰る訳にも行かないらしい。
「えーと、どうしよう?」
「じゃからぶっ壊そうといったじゃろ?」
「えーとお姉さんギルドで刃物をだすとどうなるの?」
「えっと、まず冒険者ギルドの資格は即時取り上げです」
「じゃあエイミーその二人をロープで縛っておいて。
この馬鹿も同罪でいいのかな?」
「はい、命令をだしたのはその方なので同罪とみなします」
「ってことでまず君たちは一般人になったわけだ、後は?」
「そうですね、暴行罪、殺人未遂、武器の不法使用。
一番軽い刑で都市の追放処分とされます・
重ければ労働監獄へ送られます」
「デ、デボンちゃん!?
そんな事を許すわけがないでしょう!」
「いい加減、少しだまってような」
「ひぃ」
「じゃあエイミー、悪いけど警邏の人を呼んで来てくれ。
俺はこいつら見張ってるから」
「わかったにゃ」
最初デボンの母親はお金がほしいんでしょ、差し上げますからデボンちゃんんだけは助けて下さいと言っていた。このような馬鹿者を野放しにする方が危ないし聞く道理がまったくもって存在しない。喚き散らしていたが、そのうちに覚えてらっしゃい! と捨て台詞と共にギルドを出て行った、恐らく家のご亭主に頼むのだろう…
「慶司さん鮮やかでしたね。
ついでに護衛ランクも上げておいていいですか?」
「いや駄目でしょ」
「いえ、護衛はの仕事って色々なんですよ。
獣や魔物から商隊を守るだけじゃなく、
山賊からだったり要人警護とかもあるんです」
「まあ、別にランクが上がってもね、
護衛の仕事は引き受け無いから良いんだけど。
でギルド長さんとやらはほんとにいないの?」
「いえ…恐らく上の階で慌ててるんじゃないでしょうか」
「まぁしばらくは縄で縛ったとはいえ待つしかないか。
お姉さんには悪い事しちゃったね」
「いえ、ギルド職員ですから、それとマリアと申します」
「マリアさんか、宜しくお願いします」
「ええ、此方こそ宜しくお願いします。
ラビを10羽にハンマーレブを13匹ですよ、
こんなに優秀な冒険者いませんから。
討伐もドヌル退治ですから、注目株ですね。
こちらが本日のお支払いとなります。
討伐代が前回のものと合わせて支払われますので、
18750リュートとなります」
「じゃあ一人頭6000の分配で、
750は天井に刺さった修理代っと。
しかし門番にセンテンスの当主は人格者だと聞いたんだけど」
「そうですねえ、当主は人格者ですよ。
若干お年を召されていますが、しっかりした方なのです。
けど、息子夫婦の方は話を聞きませんでしたね。
というよりも見ての通りですから」
本当に人の世はままならないものだと慶司は思った。
◆◇◆
「失礼する………
こちらに当家の馬鹿がご迷惑をおかけしたと聞いて参りました。
メルク・センテンスと申します」
「お父様?」
「黙りなさい…
孫の養育まで口を出すのはと思っていたが間違いであった。
お前は家に戻り謹慎してなさい、
今後一切子供の教育に口を出す事まかりならん。
マルクもようやく商売を覚えたと思っていたが…
まさかここまで馬鹿を増長させているとは…
失礼しました、深くお詫び申し上げます。
此方の者共ですが、家とは一切関係なく処罰を下して下さい」
「それじゃマリアさんまた明日」
「ああ、お待ちください。
何かしらかの謝罪をさせてもらえませんか」
「今回の事はそこのデボンさんと友人がやった事です。
私はあなたから何も被害をうけていません。ですから謝罪の必要はありませんし、謝罪であれば先程述べられておられます」
「ではこのメルク・センテンス、何か御座いましたら、
その時は必ずや助力させて頂きます。
せめてお名前だけでもお伺いしても宜しいでしょうか?」
「ありがとうございます、
私は渡良瀬慶司、同じパーティーのエルとエイミーです、では」
◆◇◆
後日談であるが裸一貫から成り上がったメルクは息子の教育を間違えたと反省し、馬車と商品を与え息子夫婦を行商の修行へ出した。残った孫の長男は丁稚から修行となり、センテンスが頑張って教育を施した。人としてどう人と接するか、人を雇う事や付き合いなどを教える姿が目撃された。
慶司達は店に帰ると、アドニスにラビを1羽とハンマーレブを1匹渡してアドニスも店員達も一緒になって飲んで食べてと楽しんだ。風呂上りにご苦労様といって渡したフルーツ牛乳を飲んだエルが、フニュウウウウウと天国にいきそうな幸せそうな表情で眠ったのが今日の一番嬉しかった収穫だった。
2014/09/03加筆修正