寒い夜はその手で温めて【土師×火群 Ｂ】
特殊警吏隊士 海宝紫より、土師×火群。
タバコを買いに出た火群は、寒い中一人で空を見ている土師と会う。土師と一緒にタバコを吸って、昔を思い出し…
夜も更け、屋外はかなり冷え込んでいる。火群は切れたタバコを買いに警吏寮の外に出た。タバコの自動販売機は寮内にもあるが、火群の好きな銘柄はその中にないのだ。
寮から出ると、出入り口の小さな階段に誰かが座っている。火群の気配に気づいたのか、誰かが振り返った。
「…ああ、火群か」
淡い月明かりの中で土師がにこりともせず、火群を肩越しに見る。火群は呆れ気味に小さくため息をついて、土師に歩み寄る。
「こんなとこで何してんだよ、土師のアニキ。寒くねェのか？」
秋も深まり、今現在の時刻は午後十一時を回っている。すると土師は懐からホッカイロを出して見せた。
「着込んできたし…カイロあるから」
「あっそ」
「つーか、お前の方こそ寒くないのか？」
土師が訊くと、火群は得意げに笑った。
「ンなこと訊くなんて、アニキもボケてきたんじゃねェの？ 俺は“発火”能力者だぜ？」
「ああ…そうだったな。お前は天然カイロだもんな」
「んで？」
火群の短い問いの意図を正確に読み取り、土師は答えた。
「ん？ いや…星が綺麗だったからさ、見てたんだ」
「星ィ？」
見上げると、確かにいくつかの星が瞬いている。けれど、別段綺麗だとは思えない。
「よく分かんねェ」
そう言いつつも、火群は土師の隣に腰を下ろして一心に見上げている。
よく見ようと目を凝らしている火群に、土師はくすりと笑った。すっと手を伸ばし、夜空を見上げる火群の体を抱き寄せた。
「なっ…何すんだよ！」
「やっぱり温かいな、お前の体。こうしてればカイロいらないな」
ぎゅーっと抱きしめられて、火群はかあぁっと赤面した。おとなしくなった火群を、土師はチャンスとばかりにあちこち触る。
「…って、どこまで触ってんだよ、土師のアニキ！」
頭や顔、胸からだんだん下半身に手が滑り下りて行き、火群は慌てて土師の体を押し返そうとする。土師はその手をつかんで、不意に火群の体を押し倒した。
火群は目をぱちくりさせて、次いで湯気が出そうなほど顔を真っ赤にした。
「じょっ、冗談やめろよな、アニキ！ 誰か来るかもしれねェだろ！」
「大丈夫。そろそろ消灯時間だし」
「へ。あっ、やべェ！ タバコ！」
火群は力に任せて土師の体をどかす。力ではさすがに勝てないので、土師は半ば突き飛ばされる形になった。身を起こした火群は立ち上がったところを呼び止められた。
「タバコならあるぞ。まだ一箱あるし、やるよ」
そう言って投げられた箱を受け取ると、火群の好きな銘柄だった。
「いいのかよ」
「いいからやるって言ってるんだ。今からじゃ寮の門閉まっちまうし、今日はそれで我慢しろ」
「…おう」
火群は素直に土師の言葉に従った。土師は箱を出したついでに、自分のタバコも出して一本抜き取る。
「火群、火くれ」
「自分のライターあンだろ？」
「天然ライターがいるし、お前の火好きだし」
さらっと言われて、火群はまたも頬を紅潮させた。土師には敵わないと思う。いつもこんな調子で言いくるめられる。
「勝手なこと言いやがって」
「お前も一本やるか？」
タバコを一本押し出して差し出すと、火群はひったくるように取った。
手から火を出し、タバコの先に着火すると、土師の前にも突き出した。微苦笑して、土師は火群の手から出る火にタバコをつける。
火群はどっかと腰を下ろして、煙を吸う。土師は煙を吐き出して、空を見上げた。くゆる煙が夜空を霞ませる。
「こうしてると思い出すな。お前が入隊したての頃、オレがここでタバコ吸ってた時、お前が俺にも吸わせろって言ってきたんだよな」
その時、火群はまだ十七歳だった。藍泉は十八で成人とみなされる。まだ未成年の火群に、土師はダメだと言った。
「そうしたらお前、出さねェと火つけるぞって脅したんだよな」
「あン時ゃまだガキだったんだよっ」
ふてくされるように、火群はそっぽを向いた。土師は微笑んで、火群の頭をわしゃわしゃと撫でた。
「大きくなったよな」
火群は目を瞠った。
――昔から、土師のアニキは何かと頭を撫でる。なンでだと一度訊いたことがあって、そうしたら笑って……
照れくさくなって、火群は俯いた。
「…いつまでもガキ扱いすンな」
「ん？ 俺には、いつまでもかわいくて大好きな弟分だけど？」
当たり前のように、土師は言った。
『かわいくて大好きな奴は撫でたくなるんだよ』
あの頃と変わらない笑顔で。
～ＥＮＤ～
おかしいな。なんか予定してた流れと違うぞ？
こんにちは、甲斐日向です。今回は友人のリクエストで火群受ということで、土師×火群にしてみました。
陽向×火群とか天刻×火群でもいいかなと思ったんですが、一番想像しやすかったのがこの二人。本編でも仲良しですしね！ というか、陽向×紫に続いて怪しいお二人…ゴホゴホ。
最初はもっと甘々にしようかと思ったんですが、なんか書いてるうちにどっかに流れていってしまいました。いつかその甘々タイプも書いてみようかな？
今回のは、互いに想いは伝えてないけど両想い、みたいな。火群は土師の気持ちに気づいてないけど、土師はなんとなく火群の気持ちを解ってる。
土師さんていつもぼけっとしてるけど、ハマったら熱中するタイプなので、押す時はガンガン押しそうです。押し倒しまくりそうです(笑)
あ、土師さんの持ってたタバコの銘柄が火群の好きな銘柄だったのは、もちろん火群が好きな銘柄だからです！
さーて、次の妄想ネタは誰でしょうね？ それではまた！
