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01.

 けれど、彼のそんな生活にも終わりが来る。

 いつも通り自分の身を守るように体を丸めていると、洞窟の外からカツン、カツンと物音が響いてきたのだ。初めユリウスは雫が地面に落ちる音だと思ったが、途端にあの声が彼の間違いを訂正する。あれは人間の足音だと。

 次第に足音はどんどん近づいてくる。彼は無駄だと分かっていても、恐怖で体を更に縮めた。

 そして突如、足音が止まった。ユリウスは恐る恐る目を開く。暗闇に慣れきってしまった彼の目に映ったのは、一人の美しい女性だった。

「あら……驚いた。まさかこんなに小さくて可愛らしい子だとは思っていなかったわ」

 女性は口を覆い、ユリウスをまじまじと見つめる。そして再度口を開いた。

「あなたがユリウス、かしら?」

 彼は目の前の見ず知らずの女性が自分の名を知っていると分かり、思わず後ずさりした。しかし逃げようとも洞窟の分厚い壁が彼の行く手を阻む。女性はそれを知ってか、一歩大きく踏み出した。

「ごめんなさいね、怖がらせるつもりは微塵もないのよ。だけど、私も大切な任務をおって来ているの。あなたがもしユリウスではなかったら、殺さなくてはいけない」

 死の恐怖から逃げ続けてこの洞窟で暮らしていたはずのユリウスに、突然、あまりにも非常な言葉が突き刺さる。彼は度重なる恐怖に体を震わせた。普段なら問うと雄弁に答えてくれる声にこの状況の抜け出し方を何度問いかけても、答えは返ってこない。

「さあ、答えて頂戴ね。あなたはユリウス? それとも別の人?」

 女性はあからさまに右手を背後に回し、何かを取り出した。大人並み、いやそれ以上の知識を有しているユリウスにとって、それが何かしらの人を傷つけるものであることは容易に想像づいた。

 女性はまた一歩踏み出し、彼に近づく。すると、先ほどまで沈黙を貫いてきたあの声が、やっと彼に助言を与えた。

『名を答えよ』

 ユリウスは震える体を押え、ゆっくりと声を出した。

「――僕は、ユリウス、だ」

 出し慣れていない声はやはりどこか頼りないものであったが、眼前の女性を納得させるには十分なものだった。

 そう、と笑みを浮かべた女性は、ユリウスを優しく抱きしめた。


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