第四話!出生の秘密!
雨雲が去り、太陽が顔を見せる。
雨が汚れを拭い去った石畳の道で、職人たちを実家に帰したアレンの祖父は、困り果てていた。
金は金庫の中で無事であったが今後寝泊りするところが無い。親戚は城下町から離れた田舎町に住んでいる。取りあえずはそこを目指して旅をするしかないのか……
自分たちは何も悪くないのに、なぜこんな目に遭わなければならないのか。世の中の不条理さを噛みしめる。
アレンはそんな祖父を励ましながらも、一つの考えに囚われていた。
「ウチに来ませんか?」
振り返ると、ジャンとその父親が立っている。ジャンの父親は背が高く、濃いひげを生やしている。体格はジャンそっくりで並ぶと兄弟のようだ。
「そんな。いいのか、レオン」
「アルフレッドさんには色々とご迷惑をおかけしてきましたし、少しでもお役に立てれば……」
ジャンの父親は、アレンの祖父と立ち話をし始める。昔話だ。
「またかよ親父。いっつもこうなんだよな。早く家に通せっての」
怪訝そうな顔をして二人を眺めているジャンに、アレンが声をかける。
「何だよ」
「……ありがとう」
アレンはぺこりと頭を下げる。ジャンは「なんか気持ち悪いな。友達だろ」とアレンを小突く。
「ぐはっ」
「あ。メンゴメンゴ。クリティカルヒットしちまった」
「お前……げほっげほっ」
筋力のついた調子のいい者はタチが悪い。ひ弱なアレンは身をもって感じるのであった。
ジャンの家はせせらぎの聞こえる川のそばにある。下水の臭いがする、とジャンは文句を言うが、そこまでひどいものではない。
赤い屋根に白壁の、デュッセバロンでは典型的な庶民の家に二人は通される。
「狭い家ですが……」
「ホントせめーよな」
ジャンの父親はゴホン、と咳払いをする。
「いやいや。ありがとうな、レオン、ジャン」
「お邪魔します」
流石に男4人ともなると玄関は大混雑だ。
「いらっしゃい!」
赤いビロードのベストに、裾に花の刺繍がある、黒いスカート姿の少女が階段を駆け下りる。
豊かな金髪は編み込まれ、白い肌は血色がよくつやつやとしている。
「マリー、ごめん、いくら幼馴染とは言え他人を家に……」
アレンがそう口にすると、マリーは頬をふくらます。
「他人じゃないもん。アルフレッドおじいちゃんに、アレン兄ちゃんだもん」
「……ありがとう」
アレンが頬を緩ますと、マリーもつられて微笑む。
「お前いい加減13なんだから子供っぽいの直せよなー!」
「うっさい、ジャン」
「このやろ、兄ちゃんって呼べ!」
二人は口げんかに発展する。いつものことだ。なんだか日常がかえってきたようで、アレンの肩の力は抜けた。
それから、二人は一つの空き部屋に借りぐらしをすることになった。
ゴソゴソと、一通り身の回りの支度をした後、二人の部屋に静寂が訪れる。
今、言うべきか……アレンは、手に汗を握っていた。
「あのっじいちゃん」
「なんだ?」
アレンの祖父は、真剣な表情をしたアレンを不思議そうに見つめる。
「……馬鹿らしいと思うかもしれないけど……俺……火事の時……」
ゴクリとつばを飲み込む。
「……なんか勝手に呪文唱えてて……気づいたら……」
アレンの祖父は、はっと目を見開く。
「やっぱりお前だったのか」
「!」
アレンは声を出せないで、速くなった心臓の鼓動を聞く。
「……やはり、隠しきれなかったか……
お前の母親は……魔法民族なんだ」
それから話される事実はとても信じられないものだった。
前にジャンとアレンの会話にあったように、ラスセーニと、デュッセバロンの国境には壁があり、魔法民族が常時見張っている。それにもかかわらず、アレンの母親はどうやってかそこを乗り越え、デュッセバロンの国土に入り、アレンの父親に出会ったようなのだ。
そして、二人の間にはアレンが生まれたが、その3か月後にアレンの父親は何者かに殺され、その後、アレンの母親は姿をくらまし、消息不明となっているという。
なにもかもが不明瞭で、アレンは動揺した。言葉が見つからないとはまさにこのことなのか。
「もしかしたら、アレン、お前は狙われているのかもしれぬ。今まで、何も起こらなかったのに、なぜ今なのかは見当もつかないが」
「……」
「それに、なんで今お前が魔法を使えるようになったのか……」
祖父は、毛むくじゃらの手で頭を抱える。
「……強く願ったから……それがエネルギーになった気がした……けど……」
やっとのことで声を絞り出すと、祖父は静かに、今まで隠していてごめんな、と呟いた。
食べ物も喉に通らないで、すぐに布団に横になったアレンは、一つの決心をした。
自分の母親を見つけ出し、真相を明らかにするという、非常に困難な、決心を。
アレンは国のことよりも重要な目的ができました。もう少しで冒険に出ます。
作者の遅筆により短く区切って一話とします。申し訳ございません。更新はしていくので、生暖かい目で見守っていただけたらと思います。