第三話!火事!!
次の日の昼下がり。学校から出てきた二人は大きく伸びをする。
「ふぁ~疲れた」
「退屈だよな。学校なんて」
「だな。冒険してー」
ジャンが剣をふるう真似をすると、アレンはくすくす笑う。
「何がおかしい?」
「いや、冒険だなんて大それたこと考えるなーと思ってさ。冒険者たちって、今給料もらえないんだろ。国土狭すぎて冒険できないらしいじゃん」
ジャンは深くため息をつく。
「現実ってつまんねー」
そこに、大人の集団がどけどけー!と押しかける。緊迫した雰囲気に、なんだ一体、とたじろいでいると、一人の大人がこう言って走り去った。
「城下町で火事だ――――!!!」
二人は、顔面蒼白になる。自分の家は……!?友人の家は……!?困惑するとともに、自然と足は駈け出していた。
黒い煙と白い煙が立ち込める。あたりは騒然としていた。焦げ臭い。火は、どこだ。目で探すと、一つの店が赤く光っている。あそこだ。
そこは……
「俺の家……!?」
アレンは、頭が真っ白になった。どうして……火の扱いには一番気を使っているのに。じいちゃんは大丈夫なのか……!?
急いで駆け寄る。
「じいちゃん!!」
返事はない。
真っ黒に変色した鍛冶屋を見て、ジャンはかける言葉も見つからない。
バケツリレーの列がいくつも連なる。だが、こんなんじゃ燃え盛る火の気は収まらないだろう。アレンは、直感でそう察し、絶望した。涙を必死にこらえ、こう願った。
こんな時、雨でも降れば……!!
「レス マジェ ラスケル。」
不意に、その文字列を口にした時だった。
天に、暗雲が立ち込め、町全体が影に包まれる。
ポツ……ポツ……
ザァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!
「雨!?」
止む気配のない強い雨で、みるみるうちに火が消し止められていく。雨水が、道路で渦を巻き、斜面を勢いよく流れ落ちていく。
人々は歓喜にあふれ、こう口を合わせた。
「神がお救い下さった……!」
ジャンも例外ではない。天を仰ぎながらこう口にした。
「神様って見ててくれたんだ……!」
しかし、アレンは、自分のしたことに驚きを隠せなかった。偶然でないとすれば、これは……
「……魔法?」
「あー神様の?」
ジャンはすっとぼけた声を出す。違う。そう口に出しそうになったが、アレンは冷静になった。俺は、剣の民族だ。なのになぜ……
呪文も知るはずがない。使えるはずもない。自分は魔法の民族だったのか……?!
「アレン」
後ろから、声をかけられる。この声は……
「じいちゃん……!!無事だったのか!?」
アレンの祖父は無傷でピンピンしている。その後ろから職人たちもぞろぞろついてきた。
「ちょうど納期が終わった打ち上げに飲み会しててな。留守にしていたところを狙われたのか……」
「空き巣放火!?」
ジャンが首を突っ込む。
アレンの目からは涙がこぼれた。
「……よかった」
アレンの祖父は、アレンの頭をわしゃわしゃと撫でてたまま、雨に打たれていた。
店には何かを物色した形跡もなく、剣が変わらない姿をして残っているだけだった。
誰の仕業なのか。そして……俺は……
アレンの胸に抱く謎は、大きくなるばかりだった。
しかし、それは、その日、祖父の口から明かされるのである……