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おもいがけない

怒涛の急展開とはこういうことを言うんでしょうか。

なんにしろ私の作品には展開が早いものが多すぎです。

どうしてくれる!

ふと、見たくなった。

 それだけだったのだ。

 琴音と話したあと、一人でいることが急に怖くなった。誰かと会いたい。見るだけでもいい。もっと言うなら、すりガラスの窓越しでも構わなかった。

 どこかで、琴音と繋がっているという確信がほしかった。例えそれが、俺の一方的なものだとしてもだ。

 それは俺の独りよがりでしかなくて、琴音がそれに付き合う理由はどこにもない。それがわかっていたから、自分の部屋にある窓を開けて、部屋の中にいるのであろう琴音のことを想像して楽しんでいた。

 だが、一瞬にして俺の平穏ともいえるその時間は失われた。

 窓の向こうで色白の肌色的な色をした何かがにゅっと窓の鍵に当たる部分に伸びたかと思うと、カチャッと音がして琴音の顔がこちらを覗いた。

 そして驚いたような顔をする。あたり前だろう、琴音は目の前にだれもいないことを想定して窓を開けたのだから。

 惑うような視線に耐え切れなくなって、俺はついに一言、


「やあ……うん、奇遇だ……ね」 

 だが俺の方もうろたえていた所為か、かすれた声しか俺の喉からは出てこなかった。

 琴音はしばらく沈黙すると、小さく俺に尋ねた。

「な、んで……いる、の…………?」

 お前に会いたかったから、とは言えない。琴音に満足な答えを返すこともできずに、黙りこくる。

「ゆい、き…………こたえてよ……なんで、僕の部屋を覗いていたんだい?」

 俺がまるでストーカーであるかのような言い方をされる。だが否定できないのはあながちそれが間違っていないからで。

 もし俺が今この状況で琴音にあの時の返事をしたらどうなるだろう。いや……答えは決まっている。あの時のことすら忘れているであろう琴音からしたら今さらな返事で、一笑に付されるだけだろう、きっと。

 だが、琴音が覚えているのなら……?

 もしも琴音があの時のことを覚えていて、ああでも。

 たとえ記憶の中に残っていたとしても、もうあの時のことは無効になっているだろう。というかむしろそうなっていて当然だ。琴音は俺のことをただの腐れ縁としか思っていないのだから。今日の傘のことがいい証拠だ。少しでも俺のことを意識しているというのなら、あいあい傘などという恋愛要素100%の事象 に琴音が何も感じないわけがない。ああみえて聡いからな。あいつは。

 そんなことを考えている間に時間は刻々と過ぎていく。時間が流れていると感じさせるのは二人の間に冷たく降る雨だけだ。

「………話す気がないというのならそれで構わないけどね、結季。君が何をしようと僕には関係のないことだ」

 数分の沈黙ののち、最初に口を開いたのは琴音だった。

 関係? 大ありに決まっているじゃないか。お前に関係だないのだったらなぜ俺はお前の部屋を見ていたと思っているんだ。

「そう、それで、なんで僕が君に会いに来たかというと――――」

 そして黙ってしまう。

「なに……? どうした?」

「あ、いや……だから、その……僕が君と話そうと思ったことはー……」

 おかしい。琴音のいつもの饒舌さが影を潜めている。少なくとも、何かを説明する時にこんな風にどもるような人間ではない。

「そ、そう、だから、言っただろう、君のその恋を手伝うと。そのことについて話しに来たんだよ。相手がだれなのかわからなければ、対策の立てようもないだろう?」

 ……………あ。

 失念していた。

 琴音の言う通りだ。俺には好きな人がいる、と説明したはいいがそれが誰なのかというところまでは話していなかった。相手の情報を一切与えずにどうするつもりだったんだ、俺。

 というかそれ以前に、琴音にどう説明すればいい?

 好きな人はお前ですと?

 どうすれば付き合えるのか教えてくれないかと?

 アホか。

 そんなこと、言えるわけがないだろう。それに、そのことは俺の中で決着がついたはずだ。笑われるから、呆れられるから、そのことは、言わない、と。

「どうしたんだ結季。君のお相手がだれなのか、教えてくれないか?」

「それは……………」

 でも、このまま黙ってしまえば琴音に不審がられるのは明白。

 どうする? もういっそのこと告白してしまって――――馬鹿にされるか?

 それでもいいという気になってきた。ここのところ俺が悶々としているのは琴音のことが好きなのにもかかわらずそいつの気持ちがわからないからであって、琴音が俺のことをどう思っているのかさえわかってしまえば、こんな話もしなくてよくなるのだ。

 言うか――――言わないか?

 出した答えは――――言う。

 そして俺は玉砕覚悟で叫んだ。

「俺が好きなのはっ――――お前だよっ……!」

 すぐにこたえられなかった理由がわかっただろ、と続ける。

 案の定琴音は目を丸くして俺を見つめた。

 さて、どんな感想が飛んでくるか。俺はどんなふうに馬鹿にされるのか――――――――

「ありがとう」

 …………え?

「好きだっていってくれて、ありがとう」

 ちょっと待て、お前はそれでいいのか。だって、告白された時の返事にありがとう、しかもそのあとになにも続けないとなれば、琴音はつまり、俺の言葉にオッケーサインを出したというわけで。

「僕も……好きだよ、結季のこと」

 ま、待て、それはいろいろ想定外すぎる。

 頭の中が混乱していて、どう対処していいのかわからない。

 むぅ。

 とりあえず俺は、こう答えることにした。

「つ……付き合いません、か……?」

 こくりと頷いた琴音の顔を見ると、涙で目が真っ赤になっていたが、それでも満面の笑みで笑っていた。

 おそらく小学校以来くらいだろうその笑みを見ると俺はもう他のことがどうでもよくなる。

 雨はやまない。でも、どこかすっきりとした心持でいた。おそらくは、きっと琴音も。

 どうしていいのかわからなくなって困っていると、琴音がじゃ明日、と話を打ちきったため、手を振って窓を閉める。

 琴音はあの時に俺に初恋なんだ、と言って、今でも俺のことが好きなのだというからこの初恋は今叶ったのだろう。同時に、俺の中学校からの恋も今叶ったといえるのだから、つまりどういううことかというと。

 俺たちは、少なくとも中学生のころからずっと、両想いだったということだ。

 それはそれで、嬉しいんだか悲しいんだかよくわからない。

 まあ、恋がかなった時点で俺はきっと喜ぶべきなんだろう。


 俺は取り留めもないことをだらだらと考えながら、ベッドにダイブして、疲労した神経を癒すために即刻眠りについた。

 

 ま・さ・か・の急展開でございますどうしましょうみなさん。

 かつて書かれたすべての小説の中でここまで超スピードで結ばれた恋があったでしょうか!(あったらごめんなさい)しかし三話ですよ三話。何と早い。

 あらすじではここまでのことを書かせていただきました。これからはまあ二人の恋愛模様となるでしょうな。ニヤニヤしながら書くと思います。

 では。

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