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すれ違いから始まる

なれない恋愛を書いたらこうなりました。半分以上がノリで書いたもんですからなんかもう滅茶苦茶です。でも直す気とかもううせました。


 とある日の、帰り道。

「結季ーっ」

 僕は彼の名前を呼んだ。天気予報なんて、と無視したからこうなったのだ、と自戒する。

 結季、見境結季は幼稚園の頃からの腐れ縁で、一種の相棒のようなものだった。

「結季、申し訳ないんだが、君の傘の中に入れてくれないかい? 知っての通り僕が相手だと誰も入れてくれなくてさ」

僕は、彼が頼まれたら断れない性格だと言うことを知っている。自分で言うのもなんだが、僕は結構なわがままだ。僕たちの通う大学付属の私立校で、僕たちと同じように小学校から上がってきた腐れ縁はかなりの数がいる。にもかかわらず僕に親友という親友がいないのは、僕のその性格が災いしているためだろう。

「・・・・・・琴音か。いいよ、入れば?」

「ありがたいね。前述の通り誰も相手にしてくれなくて困っていたんだ。まあ自業自得なのは分かってるんだけどさ」

「分かってるんだったら治せば? まずはその一人称から」

「うわーツレないなあ結季。僕からこの一人称を取ったら何も残らないことくらい君には分かってるはずだろう?」

 僕がこの一人称になったのは幼稚園の頃からだろうか。髪が以上に短かったせいで先生に男の子と間違えられて一人称を矯正され、そのまま定着したのだ。

「そんなことないだろ。俺は琴音以上に琴音のことを知ってる」

「恥ずかしい言葉をありがとう。でも僕にとってこの一人称はもう自分の一部のようなものだからね、今更変えるなんて論外だ。たとえそれのせいで君以外の友達を全て失くすことになろうとね。それは顔の美醜で人の存在価値を決めるようなものだよ」

「・・・・いつものようなまわりくどい説明をありがとう」

 この会話も、いつものことだ。僕が他人とって真意を理解しにくい言葉を使っていることもとっくに分かっている。

 頭の中だったら理路整然とした水のように透明な文章も、僕の口というフィルターを通すと、ソーダのようにべたつき、泡が邪魔して真意が分からなくなる。

 そんな僕だが、一回だけこの一人称であること、こんなまわりくどい文章を使っていることに後悔したことがある。

 初恋、だ。

 周りに結季以外の男子が寄り付かなかったことを考えればわかるだろうが、当然相手は結季だ。

 結季は、モテる。

 僕が帰り道で告白したことなどもうとっくに忘れているだろう。それでいい。結季に反応がないのを確認したとたん逃げ出してしまったことを覚えているとは思いて欲しくない。

 僕が結季の傘に入って、周りから見ればまるで恋人のようなのに結季がそれを気にしないのは、僕を単なる腐れ縁や友達としか思っていないからに決まってる。

 僕は緊張しないように、普段と同じように口調や行動を調節するのに一生懸命だというのに。

「琴音、家ついた。それじゃ、また明日」

「え・・・・・・? あ、うん。じゃ」

 自分の家の前だということさえも気がつかなかった。

 因みに今のは別に結季が僕の家まで送ってくれたというわけではない。寄り道ですらない。

結季の家より僕の家のほうが僅かに学校に近かったというだけのことだ。

その差僅かに三十センチ。伊達に腐れ縁をやっていない、ということだ。

結季の背中が離れていく。

「あのとき」と場面が重なった。

息が苦しくなる。

 僕は、結季が好きだ。

 でも、普段の生活の中でしかそう思えない。

 結季を意識したとたん、今みたいに苦しくなる。

 それは、恋故の症状なのか。

 それとも、嫉妬か、憎悪か。


 結季が僕のほうに振り返り手を振る。家と家の間は三十センチ、玄関から玄関までは四メートル。お互いの部屋は柵を挟んで隣同士。それなのに、結季はこの動作を必ずする。それが僕には別れの挨拶に見えた。


         †


 琴音に手を振り、家の中に入る。僅か十数センチの差しかない琴音の部屋には、仄かな明かりが点いていた。部屋の明かりではない。あれは窓際に在るパソコンの明かりだ。釣られて俺もパソコンを開ける。

 たまに目を通す「恋愛掲示板」のフォルダを開く。数分前に着信したばかりのコメントがあった。

 琴音。

 あいつは自分から告白したことをもう忘れているのだろうか。今日の傘のことだって、周りから見れば恋人同士の相合傘にしか見えない。意識してやっているのだろうか。まさか。

 掲示板に、悩み事を書き連ねる。恋愛掲示板に書き込むコメント。色恋沙汰以外に使用法はない。

 基本的に書き込むのは女子が多い。だがたまに俺のような男勢も見かける。

 ――学校内に好きな人がいるのですが、相手は自分のことをまったく意識していないようなのです。どうしたら目を向けてもらえるでしょうか。

 こういうときは、流石女子とでも言えばいいのだろうか。返信が早い。

 ――男の子ですね? その好きな人というのが女の子なら答えやすいのでコメントしちゃいました。貴方が女の子だったらごめんなさい! 男の子だと言うことを前提にします。

女の子には、それらしい仕草が有効です! 例えばクラスで同じ班になったときにちょっと照れた風にするとか。とにかく相手に、自分は貴方を意識してますよ、ていうのを伝えるのが大切ですよっ!

 なるほど、と思う。女子はそういうのに聡い。好きだったら好き、嫌いだったら嫌い、とはっきりするというのが男の大半が好き好むやり方だ。俺も釈然としないのは嫌いだが、このやり方なら有効かもしれない。

 ふと、向かい側の琴音が気になる。いまだにパソコンのような明かりは点いたままだ。彼女も何か掲示板やチャットなどに参加しているのだろうか。

 気になって、いつものように窓ガラスを叩く。実はこの距離、窓から少し身を乗り出せば簡単に手が届く距離なのだ。

 音に応じて、琴音が窓を開けた。

「・・・・・・結季」

「ん? どうした琴音。いつもはこの時間帯だと結構なテンションなくせに」

「いや・・・・・・いつもの通りネット上に数多に存在する掲示板の一つに目を通していたんだが、自分と吃驚するくらい意見の一致する書き込みがあってね、そこで返信をしようと思ったのだが、傷つけず、且つ女の子らしく、しかし割りとテンション高めに書き込むにはどうすればいいのだろうと試行錯誤した結果思いのほか疲れてしまってね。しかもその作業を僅か数十秒で終わらせたんだ。申し訳ないが手放しに褒めてはくれないかい?」

「そうか・・・・・・俺もとある掲示板を見ていて、少しコメントをしたんだが、琴音の言うとおりな感じのコメントがあってな、少し参考にしてみようと思っていたんだ。がんばったな琴音」

「ありがとうよ結季。それにしても、やはりそういう風に考える女の子はいるものなんだね、少し安心したよ。因みに聞くがその掲示板とは一体何なのだい?」

「えっ・・・・・・?」

 俺は少しうろたえてしまう。ここでそれを言っていいものなのか。もし琴音があの告白の事をまだ気にしているというのなら、俺の意図が琴音にばれてしまう可能性がある。だが、誤魔化したら誤魔化したでそれは問題だ。俺は琴音には嘘はつきたくない。本来だったら告白を断るる意味だってなかったのだ。あの時はいきなりの告白にどういう風に答えていいのか分からなかったのだ。

 俺の無言を琴音は拒否と受け取った。そして俺に背を向けてさっさと帰ってしまったのだ。

 何故あの時追いかけなかったのか、今でも分からない。

「・・・・・・結季? どうしたんだい? 君が言いたくないのなら僕は無理やり聞こうとは思わないよ?」

「いや、いいんだ。・・・・・・えーと、間違っても誤解しないでくれよ? その、恋愛、掲示板だ」

「・・・・・・・・本当かい?」

「いや、まあ」

 あれ?

 僅かに違和感を覚える。琴音なら絶対にからかってくるだろうと思ったのに。もしかすると、この手の話題を避けているのか?

「もしかして、君の書いたコメントの返信には、仕草について書いてなったかい? 意識をしていることをわかってもらうことが大切だと書いてなかったかい?」

「え? そうだが、なんで・・・・」

 俺は一つの可能性にたどり着く。というかそれ以外の選択肢がない。

「・・・・・・あのコメントは、お前が書いたのか?」

 俺の質問には答えず、納得したように頷く。だが、琴音の発した言葉は肯定と等しい。

「あー、なーるほど、理解したよ。察するに、というかコメントの通り君には学校内に好きな人がいて――一応アプローチはしてるみたいだから、同学年と思っていいのかな? で、その人と付き合うためにはどうすればいいのか、と。そういうことなんだね結季君?」

「え? いや、違う、間違えた、うん、そう。そういうことなんだ」

 ばか。

 何をやっている俺は。

 今のは・・・・・・凄くいいチャンスだったのに。

 俺の気持ちを伝える、絶好のチャンスだったのに。

 また、逃した。

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