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放電魔女と充電ロボット  作者: 月打
第一章 出会い

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19/20

第19話:帝都脱出

「ちょ……ちょっと待って!」


 前を走るアダムに向かって、リリスはたまらず声を上げた。

 先ほどからずっと走り続けてきたが、もう体力の限界だったのだ。

 すると、アダムはすぐに足を止めてくれた。

 だが、すかさず冷静な声が飛んでくる。


「リリス様、恐れ入りますが、止まっている時間はございません」

「なんでよ」


 リリスは抗議の声を上げた。


「誰も追ってこないじゃん。相手の大将だってあなたに負けたんだし、もう大丈夫でしょ?」

「油断は禁物です」


 アダムが答える。


「後になって考えを変え、追ってくる可能性もあります。彼らは馬を連れていましたから、追ってくればすぐにでも追いつかれてしまいます」


 リリスはそれを聞いて、周囲を見回してみた。

 しかし、人の気配はまったくなく、森は静まり返っている。

 誰かが迫っているような空気は微塵も感じられなかった。


「とにかく、私はもう無理だから」


 そう言って、リリスは近くにあった平たい岩の上にどさりと腰を下ろした。

 全身汗だくで、息も上がりきっている。

 空腹のあまり、そろそろめまいまでしてきそうだった。

 アダムはしばらくそんなリリスを無言で見下ろしていたが、やがて淡々と口を開いた。


「では、私の背中にお乗りください」

「ええっ!? いやよ!」


 リリスは大げさなほど驚いて声を上げた。


「だ、大丈夫よ。少し休めば、また走れるようになるから……」

「ダメです」


 きっぱりと、アダム。


「先ほども言った通り、ここで立ち止まっている余裕はありません。どうしても休みたいのなら、背負われたまま休んでください」

「休めるわけないでしょ、そんなんじゃ!」


 だが、アダムはこれ以上のやり取りは無駄だと言わんばかりに、リリスのそばへ歩み寄った。

 そして、彼女の前に背を向けてひざを折り、静かに身をかがめた。


「お乗りください、リリス様」

「い、嫌だってば……」

「なぜですか?」


 そう聞かれ、リリスは正直に答えることにした。


「恥ずかしいからだよ。誰かにおんぶされたことなんて、今まで一度もないし……」


 それに、男の人におんぶされるなんて、なおさら恥ずかしい。

 すると、アダムは背後のリリスにちらりと視線を向けて言った。


「では、お姫様抱っこで強制的に運ぶしかありませんね。そちらの方がよろしいのですか?」

「そ、それはもっと嫌……!」

「でしたら、おとなしく乗るのです。さあ、いい子ですから早く」


 なんだかからかわれているような気がしてくる。

 リリスはむくれて言い返した。


「あなたは私の命令に絶対服従するんじゃなかったの?なんで嫌だって命令しているのに、言うことを聞いてくれないのよ!」


 すると、即座に反論が返ってきた。


「私が最初に受けた命令は、『助けて』というものでした。私はその最優先の命令に忠実に従っているのです。それとも、あの命令を取り消すとおっしゃるのですか? そうであれば、私もこれ以上の強要はいたしませんが」

「……」


 ぐうの音も出ない正論をぶつけられる。

 リリスはすっかり返す言葉を失ってしまった。

 結局、恥ずかしい二択の中から、まだマシな方を選ぶしか道は残されていない。

 おんぶか、お姫様抱っこか。

 答えは決まっている。


「……わかったわよ。乗るから」

「賢明な判断です、リリス様」


 冷静だったアダムの声が、いつもの明るい調子に戻った。


「では、さっそくお乗りください。私にはベビーシッター機能も備えておりますので、結構乗り心地がいいんですよ」


 相変わらず彼が何を言っているのかさっぱり理解できない。

 リリスは仕方なく、恐る恐るアダムの背中に腕を回し、その体に身を預けた。

 すると、アダムが彼女の両脚をしっかりと抱え込んで立ち上がった。

 密着したお腹のあたりから、彼のやんわりとした体温が伝わってくる。

 熱すぎず、冷たすぎず、ちょうどいい温かさだった。

 アダムはそのまま前を向き、歩き出した。

 先ほどのように走ることはなく、早足で進む。

 不思議なことに、上下の揺れや振動がまったくと言っていいほど感じられない。

 まるで滑るようにスムーズな足取りだった。

 アダムが自慢した通り、本当に乗り心地が良かったのだ。

 なんだか気持ちのいい揺れに、いつの間にかリリスは身を任せていた。

 そうやって森を進んでいくうちに、彼女はふと、肩越しにアダムの横顔をのぞき込んだ。

 特に疲れた様子は見られない。

 もしかしたら――と、リリスはふと思った。

 自分のようにただ無理をして我慢しているだけなのではないだろうか。

 リリスは尋ねてみた。


「あなたは疲れてないの?」

「はい、まったく問題ありませんよ」


 アダムは明るい声で答えた。


「先ほどの戦いでそれなりの電力は消費しましたが、まだ80パーセント台を維持しています。こうしてリリス様をおんぶしたままでも、何時間も休まずに移動できますよ。ただ、冷却システムの都合上、少し私の背中が熱くなってくるかもしれません。今のところ、熱くはないですか?」

「うん、熱くないよ。大丈夫」

「それは何よりです。もし熱くなってきたら、遠慮なく言ってくださいね。その時はすぐにお姫様抱っこに切り替えますから」

「……」


どんなに熱くなっても絶対に言わないでおこうと、リリスは心に誓った。


◇◇◇


 進むうちに、リリスは気になって何度も後ろを振り返った。

 そして、イヴァヌエルのことを思い出す。


「一体、あの人は何だったんだろうね……」


 雷に打たれても平気で、大きな木を体当たり一発で折ってしまうアダムを相手に、互角に戦い合ったのだ。

すると、アダムが静かに答えた。


「あの方は、人間とは異なる生体反応を示していました。もちろんユーザーではないため、リリス様のように詳しい脈拍や血圧といった細かな状態まで調べることはできません。ですが、戦いの中で体がぶつかった際、骨の硬さや筋肉の作りといった大まかなデータは分析できました。その結果から言うと、あの方は人というよりも機械に近かったのです」

「機械って……あなたのように?」

「私のような完全な機械ではありませんでしたが、人間と機械の中間といったところでしょうか。彼自身がそう言っていたように、『機械ではないけれど、人間でもない』。まさにそんな存在に見えました」

「そう……」

「それに」


 アダムが付け加える。


「最後に見せたあの変貌も、印象的でしたね」


 変貌という言葉を聞いて、リリスはふとあの場面を思い返した。

 彼の銀色の髪が、みるみるうちに黒く変わっていった様子。

 そして、あの目もだ。

 きれいなガラス玉の中にインクを一滴落としたように――

 一瞬にして、琥珀色の瞳を含め眼球全体がじわっと真っ黒ににじんでいったあの瞬間。


「私は負けていたかもしれません」


 アダムがぽつりとこぼすように言った。


「彼の体が大きくなればなるほど、その力はぐんぐんと強くなっていきました。どこまで大きくなるつもりだったのかはわかりませんが、もう少しあのまま戦いが続いていたら、おそらく形勢は逆転していたでしょう」

「じゃあ、あの人は……」


 リリスは不思議そうに尋ねた。


「どうしてそれをやめたのかな。あのまま戦っていれば勝てたはずなのに」

「確かなことは分かりませんが、」


 アダムが答える。


「おそらく部下を守ろうとしたのではないでしょうか。あれ以上激しい戦いになれば、周りにいる彼らまで巻き込んでしまう危険がありましたから」


 リリスはその推測に、それなりに納得がいった。

 なにせ、アダムが体当たりをしただけで大きな木が折れてしまったほどなのだ。

 もしあれ以上激しい戦いになっていたら、あの空き地どころか、森の一部が吹き飛んでいたかもしれない。


「とにかく」


 アダムが話題を切り替える。


「あの方たちからは、ある程度距離を取れたはずです。ですが……なかなか森を抜けられませんね。リリス様、この周辺の地理をご存じですか? あいにく、私のナビゲーション機能はこの世界ではまったく使い物にならないものでして……」


 リリスは辺りをぐるりと見回してみてから、首を横に振った。


「私も分からない。こんなところに来たのは初めてだし」


 ずっと帝都に住んでいたとはいえ、リリスはいつも決まった場所を行き来していただけだった。

 そもそも帝都はとても広い。

 自分のいた孤児院が帝都の場末にあることくらいはなんとなく分かっていたけれど、詳しい地理についてはさっぱり知らない。

 そこまで考えて、リリスはふとあることに気づき、「あっ!」と声を上げた。


「そうだ、地図がある!」


 孤児院の院長の声が脳裏によみがえる。


『受け取りなさい。中に地図も入っている。関所を通らずに帝都を抜け出せる『裏道』を記しておいた。一度外へ出れば、近隣の村や街はそう遠くないはずよ。半日休まずに歩けば、どこかしらには辿り着けるわ』


 だが、すぐに不安がよぎった。

 捕まって牢屋に入れられた時に、没収されてしまったかもしれないからだ。

 リリスは慌てて自分の懐を探った。

 孤児院を出る時に院長からもらったお金は、巾着袋ごとすっかりなくなっていた。


「あった……!」


 でも幸いなことに、地図だけは無事だった。

 巾着袋とは別に、直接懐の奥深くにしまっておいたおかげで、奪われずに済んだのだ。

 リリスは地図を取り出した。

 前日の嵐のせいで少し濡れていたため、破れないように慎重に広げてみる。

 幸い、中身は問題なく読めた。


「おお!」


 アダムが声を上げる。


「でかしましたね、リリス様! それは帝都の地図ですか?」

「そうだけど、帝都全体の地図じゃなくて、裏道だけが簡単に描かれているものよ」

「私にも見せていただけますか?」


 アダムはリリスを背負っていて両手が塞がっている。

 そのため、リリスは彼の背中から腕を前に伸ばして地図を広げた。

 進むアダムの視界を遮らない角度で、地図を差し出す。

 アダムはそこに視線を落とす。

 すると、瞬く間に弾んだ声が返ってきた。


「これは運がいいですね!」


 アダムは説明した。


「分析したところ、この地図はまさに今私たちがいる場所を描いたものです。周囲の地形とデータが一致しました。それに、地図の隅に目印として『廃監獄』と記されていますからね。間違いなく、この森の一部を示しています」

「それってつまり……」


 リリスの顔がぱっと明るくなる。


「抜け道がすぐ近くにあるってこと?」

「その通りです!」

「でも……」


 リリスの声はすぐに低くなった。

 なんだか腑に落ちない。

 いくらなんでも、早すぎる。

 リリスが地図を彼の目の前に差し出すのとほぼ同時に返事が返ってきたのだ。

 ちゃんと中身も読まずに適当なことを言っているのではないだろうかと、疑わざるを得ない。


「あなた、ちゃんと読んだの?」


 リリスは聞いた。


「返事が早すぎるでしょ。適当に答えているんじゃないの?」

「……これは失礼いたしました」


 すると弾んでいたアダムの声が、少し落ち着いたトーンに変わった。


「そう疑われるのも無理はありませんね」


 アダムは早足で歩くペースを保ったまま、リリスに説明を始めた。


「私の目には、ほんの一瞬見ただけで、その絵や文字を頭の中にそっくりそのまま写し取る機能があるのです。そして私の頭脳は、何千人もの学者が集まって同時に考えるのと同じくらいの賢さで、そして光の速度に近い速さで、物事を理解することができます。ですから、たった1秒目を向けただけでも、情報を完璧に記憶し、一瞬で理解し、今いる場所の地形と正確に照らし合わせることができるんですよ」

「信じられない……」


 リリスは思わず素直な感想をこぼした。

 何千人もの賢者が集まって考えるだの、1秒で覚えるだの。

 言おうとしていることの雰囲気はなんとなく掴めたものの、理解しようとすると頭が痛くなってきそうだった。

 だからリリスは、自分の中で一番分かりやすい言葉を見つけて、そう言ってみた。


「つまり、あなたは……天才なの?」


 すると、アダムはふふっと軽く笑って答えた。


「いいえ。私は、汎用人工知能搭載型ヒューマノイドロボットです」

「……」


 ただ呆然とするリリスに、アダムはさらに言葉を続ける。


「まあ、この世界の人間の基準からすれば、確かに天才に見えるかもしれませんね。ですが、そもそも私は人間ではありませんから。物事を理解して計算するスピードだけで言えば、おそらく人間の天才の何百万倍もの速さになります」

「何百万、倍……」

「はい」


 アダムは説明した。


「人間と私のような人形の決定的な違いは、頭の中の作りにあります。私の思考は、例えるなら白と黒、たった二色の石を使った計算盤のようなものです。『ある』か『ない』か。その単純な仕分けを、瞬きする間に何万、何十万回と一直線に繰り返しているに過ぎません」

「……」

「一方、あなた方の頭の中は、夜空の星々のように無数の光が繋がり合った、巨大な星座のようなものです。あちこちが同時に光を交わし合うことで、私のような単純な計算盤には思いもよらない『ひらめき』を生み出します」

「………」

「私はただ、白と黒の石を弾く速度が人より遥かに速く、決して間違えないよう作られているだけです。ですから、私が特別に賢い天才というわけではないのですよ」

「…………」


 途中から、リリスはすでに彼の説明を聞いていなかった。

 聞くも何も、そもそも理解が及ばない。

 使っている言語は分かるのに、意味がまったく頭に入ってこない。


「……すみません、リリス様」


 ぽかんと呆然としているリリスの様子を察知したのか、アダムは話を切り上げた。


「少し話が長すぎましたね。ついくどくどと説明してしまうのは、私のような存在の癖みたいなものなのです。簡単に言えば、私はおしゃべりだということです。どうか大目に見てやってください」


 そして、アダムは話を本題に戻した。


「とにかく私の分析によりますと、今のペースで歩き続ければ、帝都の抜け道まではあと10分弱で到着します。途中で邪魔が入らなければ、の話ですが」


 リリスは何も答えなかった。

 まだ彼の言葉を信じきれていなかったからだ。

 そのまま会話は途絶え、二人は沈黙の中で森を進み続けた。


◇◇◇


 だが、やがてリリスは彼の言葉を信じるしかなくなった。

 本当に十分ほど歩いたところで、目の前に帝都の抜け道が現れたからだ。

 それは、古くに使われなくなった、巨大な排水路のような所だった。

 その排水路の端の、石積みの城壁の一角が崩れている。

 隙間からは背の高い雑草がびっしりと生い茂って、入り口を隠していた。

 ぽっかりと口を開けた真っ暗な穴の奥からは、じめじめとした冷たい風が吹き出していた。

 普段なら絶対に近づきたくないような薄気味悪い場所。

 でも人目を避けて帝都を抜け出すには、まさにぴったりの道だった。

 ここでようやく、アダムはリリスを背中から下ろした。

 自分の足で地面に立つリリス。

 背負われていた時間はそれほど長くなかったはずなのに、なんだか久しぶりに地を踏みしめたような気がした。

 すると、アダムが茶目っ気たっぷりに、冗談めかして言った。


「お姫様抱っこされずにたどり着けて、よかったですね。リリス様」

「……」


 まったく笑えない冗談に、リリスは言葉も出なかった。

 けれど、背中から降りてしまったことに「少し残念」だと感じている自分に気づいて、彼女は内心で小さく驚いた。

 思い返せば、誰かとこんなに長く触れ合い、体温を感じ続けたのは初めてのことだった。

 相手は自分を人間ではないと言っているけれど。

 それでも誰かと身を寄せ合い、その温もりを感じていた時間そのものが、彼女の心にほんの少しだけ、心地よくてうっとりするような余韻を残す。

 その何となくの名残惜しさに続いて、唐突に押し寄せてきたのは――

 ある種の恐怖だった。

 リリスは、排水路の方を注視しているアダムの横顔をちらりと覗き見た。

 まるで、得体の知れない化け物でも見るかのような、遠い目で。

(本当に、彼の言った通りだ……)

 まさか本当に抜け道にたどり着くなんて。

 リリスの胸の奥に、すっと驚きが広がっていく。

 空地での戦いで見せたあの力といい、

 ここまでずっと人を背負って山道を歩いてきたのに息一つ切らさない体力といい、

 地図を一瞬で理解してしまう手品のような頭脳といい……

 リリスは背筋にぞっと冷たいものが走るのを感じた。

(どうやら私は、とんでもない存在を拾ってしまったのかもしれない……)


「特に危険な要素はなさそうですね」


 ふと、隣からアダムの声がした。


「準備はよろしいですか?」


 その言葉で、リリスの意識は目の前の抜け道へと一気に引き戻された。

 改めて、ぽっかりと口を開けた古い排水路を見つめ直す。

 外からは雑草に隠れていたが、奥へと続く穴は思いのほか狭かった。

 大人が一人、腰を深くかがめてようやく潜り抜けられるほどの窮屈な空間が続いている。

 崩れかけた石積みの壁からは、むっとするようなカビと湿った土の匂いが漂っていた。

 奥は真っ暗で不気味だが、通れないことはない。


「私が先に行きます。足元にお気をつけて」


 アダムが身をかがめ、真っ暗な排水路へ入っていく。

 リリスも深呼吸をして後に続いた。

 中は想像以上に狭く、暗かった。

 腰を深く曲げ、手で壁の冷たい泥を探りながら、這うように進む。

 カビと、どこか懐かしげな土の匂いが鼻孔を通る。

 頭上に巨大な城壁が乗っていると思うと、リリスは息が詰まった。

 先を行くアダムは、暗闇でも足元が見えているかのように迷わず進んでいく。

 リリスは彼の気配を頼りに、必死についていった。

 中腰の姿勢で足腰がしびれ始めた頃、ついに前方に白い光が見えた。

 外の新鮮な空気が流れ込んでくる。

 アダムが先に抜け出し、振り返って手を差し伸べた。

 リリスはその手を取った。

 そのまま最後の段差をよじ登り、外の世界へと抜け出す。


「ふぅ……っ!」


 立ち上がって大きく息を吸い込む。

 すると、野草と土の清々しい香りが肺を満たした。

 リリスは後ろを振り返った。

 自分を閉じ込めていた帝都の巨大な城壁がそびえ立っている。

 ついに、外の世界へ出てしまったのだと、彼女は実感した。

 前方を見渡す。

 そしてリリスは自ずと息をのんだ。

 目の前に、これまで見たこともないような広大な景色が広がっていた。

 どこまでも続く青い空の下――

 人の手が一切入っていない荒野がうねるように続いている。

 背丈ほどもある野草が強い風に吹かれて大きく波打ち、ところどころにはごつごつとした岩肌が剥き出しになっていた。

 帝都のような整えられた綺麗さはない。

 けれど、その荒々しい自然の姿は、嘆声が漏れるほどに鮮烈で、美しかった。

 リリスがいろんな意味で顔をこわばらせているのを察したのだろう。

 アダムが彼女の緊張をほぐすように、柔らかく微笑んだ。

 そして、声をかける。


「では、行きましょうか」

「どこへ?」

「どこにでも」


 リリスは、自分を真っ直ぐに見つめてくるアダムの瞳を、静かに見つめ返した。

 そして、力強く頷いた。


「うん。行こう」


 そうして二人はまっすぐ前を向き、

 果てしなく広がる新しい世界へと並んで歩き出した。

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