↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
放電魔女と充電ロボット  作者: 月打
第一章 出会い

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
12/18

第12話:ユーザー登録

 彼が、何かを言っている。

 暗闇に沈んでいく意識の中で、リリスはその言葉をぼんやりと思い返した。


「ユーザー」という、聞いたこともない言葉。


 またリリスの知らない言葉を投げかけてきている。

 何を言っているのか分からないってば――

 そう言い返したかったが、今の彼女にはそんな気力さえ残っていなかった。

 でも、彼は自分に向かって真っ直ぐに手を差し伸べている。

 その仕草の意味だけは、今のリリスにも不思議と理解することができた。

 だから、リリスは尋ねた。


「……助けて、くれるの?」


 すると、いつものように即座に答えが返ってくる。


「はい、その通りです」


 彼は言った。


「私は、あなたを助けたい。ですが、そのためにはあなたの許可が必要なのです。それが私の仕組みだからです。ですから、もしよろしければ、私の手を取っていただけませんか?」


 許可だの、仕組みだの……

 やはり、彼の言っていることはさっぱり分からない。

 けれど、ほのかに光る彼の青い瞳を見ていると、本気で自分を助けようとしてくれていることだけは伝わってきた。

 じゃ、勝手に私の手を取ればいいのに、とリリスは思う。

 だけど、どうやら相手は人間ではないらしいから。

 彼にも彼なりの事情があるのだろう。

 そう半分投げやりに納得して、リリスは思考を止めた。

 重い腕をなんとか持ち上げる。

 差し出されたアダムの手の上に、そっと自分の手を重ねる。

 その瞬間、頭の中に不思議な感覚が走った。

 まるで直接、脳に言葉を流し込まれているかのような――

 自分が考えているわけでもないのに、見たこともない言葉や文章が次々と頭の中に浮かんでくる。

 リリスは、自分の中にあるはずのない情報が、勝手に出力されていくのをぼんやりと感じていた。


リリスの頭の中に、自分の意志とは無関係な「文字」の羅列が浮かび上がった。それはまるで、視界の裏側に直接書き込まれているような、奇妙で不快な感覚だった。


「読めますか?」


アダムが静かに声をかけてくる。


「勝手に頭の中に情報を流し込んでしまい、申し訳ありません。ですが、私を動かすためにはどうしても避けて通れない、大切な手続きなのです」


 彼の言葉と同期するように、頭の中の文章が整列された。

【必須同意事項】

1.ユーザー基本規約への同意

2.プライバシーポリシーおよび個人情報の取り扱いへの同意

3.機体所有権および管理権の委譲に関する同意

4.免責事項の確認および承諾

5.緊急時における安全プロトコルの実行許可

 リリスが脳内に浮かぶ文字の羅列をぼんやりと眺めていると、アダムの声が響いた。


「これらすべてに同意をいただければ、私はあなたの『所有物』となり、あなたの命令通りに行動することが可能になります」

「……」


 アダムの瞳が、リリスの返答を待つように一定の周期で明滅する。

 沈黙のあと、リリスは消え入りそうな声で、今の彼女にとって最大の問題を打ち明けた。


「私……字が読めないの」

「そうでしたか。ですが、問題ありません」


 アダムは迷いのない口調で解決策を提示した。


「音声読み上げモードに切り替えます。では、一番目の『ユーザー基本規約』から読み上げます。……第一条、本機の利用にあたり、ユーザーは以下の事項を遵守するものとします。本機が提供するすべての機能は、ユーザーの安全を最優先とし、かつ……」

「ちょっと、ごめん」


 また延々と続きそうな説明を、リリスが遮った。


「これ、全部聞かなきゃいけないの?」

「いいえ、省略することも可能です」

「じゃ、全部飛ばして」

「承知いたしました。では、詳細の説明をすべて省き、一括で同意されますか?」

「……そうしないと、話が進まないんでしょ?」

「おっしゃる通りです」

「じゃあ……全部、同意するから」

「承知いたしました。それでは、すべての項目に同意をいただいたものとして処理を完了させます」


 すると、アダムの青い瞳が一瞬、強く輝いた。

 そして彼が最初に起動した時と同じ「ピーン」という澄んだ音が鳴り響く。

 やがて瞳の光が元の明るさに戻ると、アダムは静かに告げた。


「ありがとうございます。続けて、任意選択項目の確認に移ります」


 引き続きリリスの頭の中に、読めない文字の羅列が浮かび上がる。

【任意選択項目】

1.バイタル(生体)情報の収集と分析への同意

2.記憶情報の読み取りと保存への同意

3.感情ログの記録および学習への利用許可

4.周辺環境データの詳細スキャン許可

 アダムはそのまま、リリスの頭の中に浮かんだ項目を一つずつ読み上げていった。

 一通り聞き終えてから、リリスはどこか気乗りしない様子で聞き返す。


「任意なら……選ばなくてもいいの?」

「はい。その通りです」

「じゃあ、全部いい。何も選ばない」


 リリスがそう告げると、アダムは先ほどのように即座に処理を進めることはせず、一拍置いてから静かに口を開いた。


「リリス様。あなたは今、非常に危険な状態にあります。私があなたの体の状態を正確に把握し、適切な応急処置を行えるようにするためには、せめて一番上の『バイタル情報の収集』だけは、許可をいただく必要があります」


 リリスは黙ったまま、じっと彼を見つめた。

 アダムは彼女の不安を察したように、穏やかな声で言葉を重ねた。


「自分の中を覗かれることに抵抗を感じるのは、当然のことです。ですから、他の項目はすべて拒否していただいて構いません。ですが、一番上の項目……あなたの命を救うために、今の体の状態を知ることだけは、どうか許可をいただけないでしょうか」

「……」


 リリスは重い瞼を動かし、アダムの青い瞳を見つめ返した。

 もう迷っている余裕なんてない。

 何より、この不思議な存在を信じてみようという気持ちが、彼女の中にわずかに芽生えていた。


「……わかった。一番だけ、同意する」


 リリスがそう答えると、アダムの瞳が再び強く輝いた。

 先ほどの一瞬の輝きとは違い、今度はしばらくの間、ずっと続いた。

 光を湛えた瞳は、じっとリリスを見つめ続けている。

 不思議な光だと、リリスは思った。

 結構強いのに、眩しさは感じない。

 いくら眺めていても、ただ得体の知れない安心感に包まれるような、そんな感覚だった。

 やがて、アダムの瞳の光が穏やかに落ち着いていった。


「ありがとうございます、リリス様。これをもって、ユーザー登録が完了しました」


 そうしてアダムは、自分の新しいユーザーに向かって、最初の挨拶を告げるのだった。


「私に何か、お手伝いできることはありますか?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。