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ボッカ監督の異世界インフラ革命 〜古代遺跡を修理していたら物流が大陸を支配しました〜  作者: コケグマ


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黄金の門:1200年ぶりの「定期点検」

霧が晴れたことで、今まで遠目にしか確認されていなかった、街の突き当たりに鎮座する「黄金の門」が、朝日を反射して眩いばかりの輝きを放っていた。住民たちはその神々しい姿に跪き、「お宝の門だ」と口々に叫んでいる。


だが、ボッカは「先輩」のセンサーをフル稼働させ、冷ややかな視線であの輝きを分析していた。


「……黄金だと? 笑わせるな。ロジ、成分分析の結果を出せ」


『了解、マスター。……。門の表面を覆っているのは金ではありません。地下から漏れ出した高濃度の硫黄と、マナの残滓が結晶化してこびり付いた「堆積物」です。いわば1200年分の汚物の塊ですね』


「……。ああ。尿石みてえなもんだな。掃除のしがいがあるな。」


「に、尿石……。じゃあ師匠、あの中はお宝じゃなくて、ただの汚い場所なんスか? だったら、わざわざ開けなくても……」


テオが不安げに門を見上げると、ボッカにロジの声が響いた。


『マスター。テオの判断は誤りです。スキャン結果、現在の換気は一時的な「バイパス」に過ぎません。……。門の奥にある「中央制御室」を再起動させなければ、数日以内にガスが逆流し、街は窒息します』


ボッカはロジの報告を鼻で笑い飛ばすと、震える弟子二人を鋭い視線で射抜いた。


「……。甘いこと言ってんじゃねえ、野郎ども。ロジの計算じゃ、今の換気は一時的な『バイパス』……肺の入り口を指で少し広げた程度のもんだそうだ」


「バイパス……? じゃあ、またあのガスが戻ってくるのか?」


「……。ああ。この門の奥にある『中央制御室』へ到達して、メインシステムを叩き起こさねえ限り、数日もしねえうちにガスが逆流して、この街は今度こそ完全に窒息する。……。掃除の残りカスに殺されたくなきゃ、元凶を叩き潰すしかねえ。外科手術と同じだぜ」


「ち、窒息……。またあの毒ガスが……。」


「……。ああ。それに、地下のプラントには1200年分の『膿』が溜まったままだ。そいつを根本から排出しなきゃ、地上のインフラをいくら整えたところで砂上の楼閣だ。……。表を綺麗にしたら、次は中だ。外科手術と同じだぜ。……。ロジ、入構準備を急げ」


『了解、マスター。……。住民たちが絶望する前に、元凶を断つ必要がありますね』


ボッカが鼻で笑った、その時だった。ボッカの脳内に、ロジの「絶叫」に近い電子アラートが響き渡った。


『――っ!? マスター! 警告アラート! 警告です! 脳内マナ・レシーバーが……し(・)て(・)い(・)ま(・)す(・)!』


「ロジ? おい、どうした」


『異常です! 計算が合いません! 住民からのマナ・フィードバック……1500……2800……計測不能オーバーフロー! 街全体の「感謝」と「歓喜」が、あなたの魂という単一の受容体に、暴力的なまでの指向性を持って流れ込んでいます! マスター、離脱パージしてください! この出力は、今のあなたの規格(ランクD)では耐えられません! 焼き切れます! なぜ……なぜこれほどの出力が!? 街を一つ救うことが、これほどまでのエネルギーを生むなんて、私のデータベースには……ありませんッ!!』


「……うるせえぞ、ロジ。……。インフラ屋が、せっかく届いた資材マナを突き返してどうする。……。受け皿が足りねえなら、今すぐ拡張しろ。……。お前なら、できるだろ」


『……っ、無茶を言わないでください……。……いいえ、分かりました。これこそが、あなたが言う「現場の判断」なのですね。……。リミッター解除! 全回路を黄金マナの受容に回します! ……マスター、出力が余りすぎています。溢れたマナを、外部へ外部へパージしますッ!』


【RANK D】→【RANK C】→【RANK B (Temporary Overdrive)】


ボッカの網膜にあるランク表示が、火花を散らしながら黄金色に書き換わった。同時に、ボッカの背後の空間が、眩い黄金色の光に包まれる。


ズゥゥゥン……!


光が収まったそこには、今まで脳内の声でしかなかったロジが、実体と見紛うほどの密度を持った「黄金のホログラム像」として具現化されていた。古代帝国の管理官制服を纏った、冷徹なまでに美しい女性の姿。彼女は自分の手を、そして黄金に輝く自分の体を信じられないといった様子で見つめ、呆然と呟いた。


『……信じられません。……外部具現化プロトコル、強制起動……。……脳内のデータでしかなかった私が、今、物理世界に「カタチ」を持って存在している……?』


住民たちが、その神々しい「黄金の女神」の降臨に、先ほどの門以上に激しく跪き、祈りを捧げ始めた。


『マスター……。……これが、あなたが成し遂げたことの重みです。……人間の感情エネルギーは、私の計算式を全て書き換えてしまいました……』


驚きを隠しきれないロジ。しかし、彼女の驚愕は、すぐにプロフェッショナルとしての興奮へと変わる。


「…….ふん。ボーナスタイムかよ。…….贅沢すぎて、現場の感覚が狂いそうだな。…….ロジ、いいツラしてるじゃねえか。声だけじゃ、現場の指示は伝わりにくいからな」


『……マスター。見惚れている暇はありませんよ。残り時間は24分です』


黄金のホログラムとなったロジが、ボッカの背後で誇らしげに、そして凛とした仕草で、黄金の門へと指を向けた。


『アクセプト……! 了解、現場責任者マスター。……。これより、全システムの制御をあなたに委ねます。30分間だけ、1200年前の「奇跡」を、あなたの道具として使わせてあげましょう。……。さあ、点検開始です!』


「……。分かってる。……。カプセル3個同時解放。具現化武装:『古代規格・マスターキー』および『高圧マナ・ウォッシャー』を同時展開しろ。……。


1200年分の『尿石』を、根こそぎ剥ぎ取ってやる!」


黄金のロジが腕を振るうと同時に、先輩の右腕が変貌した。超高速振動するビットが硫黄の結晶に触れた瞬間、キィィィィィィィン!! という高周波音が大気を切り裂く。


バリバリバリィィィッ! と剥がれ落ちる黄金の殻。住民たちが悲鳴を上げる中、ボッカは容赦なくメッキを削り落としていく。現れたのは、鈍い光を放つ漆黒の古代鋼鉄扉だ。ボッカが先輩の右腕をそのコアに突き立てると、ロジが門の制御OSへと黄金の触手を伸ばした。


『セキュリティ・バイパス、完了。……。気圧調整弁、強制開放。……。来ます!』



プシュゥゥゥゥゥッ!!



凄まじい風切り音と共に、門の隙間から1200年分の澱んだ空気が噴き出した。ボッカは即座に具現化した気密フィルムを、熟練の職人が壁紙を貼るような手際で開口部に叩きつける。


「ガッシュ、テオ! 拝んでる暇があったらフィルムの端を持て! 現場で手を動かさねえ奴は、女神様も見捨てちまうぞ!」


「は、はいっ! 親方ぁ!!」


弟子たちが必死にフィルムを抑え、気流が安定する。そしてついに、漆黒の門が地鳴りを上げて左右に割れた。そこから漏れ出してきたのは、光を吸い込むような暗黒。そして、1200年分の「産廃」の咆哮だった。


『ギィィィィィッ!!』


暗闇から姿を現したのは、錆びた配管を骨格に、紫色の粘着質なマナで肉付けされた異形の怪物――


「自己増殖する産業廃棄物」の群れだ。


「不衛生だな。ランクBの在庫は、全部お前らの『洗濯』に回してやるよ。斉射(放水)!!」


黄金の水流が闇を焼き払う。怪物たちが触れた瞬間に泡となって溶け、汚れが物理的な水圧で押し流されていく。


『…第一層の安全を確保。マスター、残り時間3分。マナの供給が限界を迎えます』


「……。ああ。十分だ。……入り口の『掃き掃除』は終わった」


先輩の駆動音をアイドリングまで落としたその時、黄金に輝いていたロジの姿が、ノイズと共に透け始めた。


『……。オーバークロック……終了。……。ランク、定着。……。マスター、これからは……少しだけ、不自由になりますよ』


ロジが最後に、ボッカの横顔を見て小さく微笑んだように見えた。光が収まると、元の「泥と油にまみれた現場」が戻っていた。網膜に表示されたランクは、【RANK D+】という文字で固定されていた。


「…….ふぅ。…….ガッシュ、テオ。ここから先は、女神様の力じゃねえ。…….俺たちの手の汚れで、道を作っていくぞ」


門の向こう側、ライトに照らされた地下プラントの深部。ボッカは腰の地質診断ハンマーを叩き、暗闇の奥へと最初の一歩を踏み出した。

今回のハイライトは何と言っても……。

「ボッカ親方の脳内に、あんな美人のヒロインが隠れてたなんて聞いてないっスよ!」(by ガッシュ&テオ)

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