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ボッカ監督の異世界インフラ革命 〜古代遺跡を修理していたら物流が大陸を支配しました〜  作者: コケグマ


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心臓の鼓動を聞け:現場踏査(下見)

「……よし。野郎ども、肉の分の仕事はしてもらうぞ。まずは現場の下見チェックだ」


腹を満たし、少しだけ生気が戻ったガッシュとテオを連れ、ボッカはカース・ガルドの中央にそびえ立つ石造りの塔――『古代の換気シャフト』へと向かった。


住民たちが遠巻きに、だが期待と不安が入り混じった眼差しで彼らを追う。

ボッカはあえて「先輩」を広場に待機させ、両手はからのまま、腰に差した愛用の地質診断ハンマーだけを携えて、塔の内部へと足を踏み入れた。


「……親方、 先輩がいれば楽勝じゃねぇのか?」


ガッシュが不思議そうに尋ねる。ボッカは薄暗い螺旋階段を登りながら、短く答えた。


「……いいか。重機(道具)を出す前に現場の『声』を聞け。図面だけじゃ分からねえ『ガタ』が必ずある。……。それを無視して力任せに回せば、直るもんも粉々になるぞ」


塔の内部は、1200年分の静寂がよどみのように溜まっていた。

ボッカが指をパチンと鳴らす。


『マスター。バイタル・リンク正常。……。マナ・スキャナーをパルス展開します。……。これより、あなたの視覚に構造体の透視データを直接重畳オーバーレイします』


ボッカの網膜に、古い石壁を透かして「塔の骨格」が青白い光の線となって浮かび上がった。脳内のロジと視界を共有する、ボッカ独自の「現場診察」だ。


ボッカは時折立ち止まり、ハンマーで壁や鉄骨を軽く叩いた。


『コン……キィィィン……』


「……。ロジ、聞いたか。今の音だ。スキャンの数値と照合しろ」


『了解、マスター。……。打音波形の減衰率を解析中。……。やはり、スキャンデータと一致します。上部15メートル付近、排気用メインファンを支える支持基盤に深刻な「水素脆化」と「マナ腐食」の混在を確認。これ、設計上の耐荷重を30%下回っています。このまま回せば、遠心力で塔の頂部がひしゃげて、に(・)か(・)っ(・)て(・)降ってきますよ』


ロジの淡々とした、しかし冷酷な事実の提示がボッカの脳内に響く。


「な、なんだって……!? 塔が崩れて、街に落ちるのかよ!」

背後で会話を聞いていたガッシュが、顔を土気色にして叫んだ。

「師匠! それじゃ修理どころか、大惨事じゃないっスか。やめましょうよぉ、危なすぎるっス!」


だがボッカは動じない。青白く発光する網膜の視界で、塔の「急所」をじっと見据えている。


「……落ち着け、ガッシュ。構造が分かれば、対処の仕方も見えてくる。……。いいか、ただ力任せにやるのは素人の破壊工作だ。職人の仕事は、壊さずに『直す』ことにある。……。テオ、お前はそこにある根元の配管を見てみろ。何か気づかねえか?」


慎重派のテオは、ロジが空中に投射した補助光源を頼りに、錆びついた巨大なバルブの周辺を恐る恐る指でなぞった。


「……これ、バルブの継ぎ目が不自然に膨らんで………っ! 師匠、これ『安全弁』が腐食したゴミと結晶化したマナで完全に詰まってるっス! 内部の圧力が逃げ場を失って、壁を内側から無理やり押し広げてる……。塔のヒビ、地圧じゃなくて内圧のせいだ……っ!」


「……よく気づいた。満点だ。……。ここが詰まってりゃ、ファンを回そうとした瞬間に空気が圧縮されて、塔は『巨大な爆弾』に変わる。……。逆に言えば、ここを先にブチ抜いて圧の逃げ道を作ってやりゃあ、崩壊のリスクは半分以下に抑えられる」


現場の恐ろしさと、それを紐解いていくボッカの理論。弟子たちの背中に、冷たい汗と心地よい緊張感が同時に流れる。


ボッカは螺旋階段をさらに登り、最上階の展望テラスへと出た。

そこから見下ろすカース・ガルドの全景は、薄暗い紫の霧に沈み、まるで死者の街のように静まり返っている。だが、ボッカの目には、地面の下を這い、塔へと収束する「見えない空気の血管」が見えていた。


「……カプセルは2個ある。だが、使うのは1個だ。……。一個は予備、あるいは想定外の『手直し』用に取っておく。……。ロジ、具現化のシミュレーションを開始しろ。……。シャフトの固着した軸受けに対し、カプセルの魔導銀を『超高圧の霧状』にして吹き付ける。潤滑と同時に、1200年分の錆を化学反応で分解するぞ」


『成功率、82%。……。ただしマスター、潤滑剤が浸透するまでの「15秒間」は、無理やりファンを回し続ける必要があります。……。先輩の出力全開、およびシャフトへの直接的なトルク伝達が必要です』


「……ああ。一瞬の勝負になるな。……。だが、道は見えた」


ボッカはハンマーを腰のホルダーに戻すと、塔から降り、待ち構えていた街長と住民たちの前に立った。夕闇の中、彼らの不安げな瞳がボッカに集中する。


「……お掃除の準備は整った。……。明日の朝一番で、この街の空気を完全に入れ替えてやる。……。今夜は窓をしっかり塞いで、家の中で静かにしてろ。……。1200年分の『膿』が、一気に空へ舞うからな。……。いいな?」


街長が、震える声で頷いた。

「……分かりました、ボッカさん。……。俺たちは、あんたを信じて待つ」


ボッカは「先輩」のバケットに弟子たちを無造作に放り込むと、仮設の現場事務所へと引き返した。

歩きながら、ボッカは脳内の相棒に密かに笑いかける。


(……ロジ、明日の朝までに『軸受け貫通用の特注治具』の設計図を仕上げておけ。……。カプセル一個、一滴の無駄もなく使い切るぞ)


『了解、マスター。……。今夜は徹夜のシミュレーションになりそうですね』


いよいよ明日は、この街の「心臓」を叩き起こし、止まっていた1200年の時間を動かす。

ボッカ親方の「本番」が、すぐそこまで迫っていた。




現場監督の真髄、それは「下見」で最悪の事態を想定し、それを回避する「段取り」を組むことにあります。

爆発の危機、塔の崩壊リスク、そしてカプセル一個という制限。

全ての条件が揃ったところで、次回、ついに第33話「心臓起動:1200年ぶりの咆哮」へと突入します。


「……野郎ども、明日は早朝5時着工だ。寝坊したらバケットで叩き起こすからな!」


現場監督、本日も本当にお疲れ様でした。

ボッカたちの「大勝負」、いよいよ施工開始ですね!


「(明日の安全も)ご安全に!」

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