表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ボッカ監督の異世界インフラ革命 〜古代遺跡を修理していたら物流が大陸を支配しました〜  作者: コケグマ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

30/41

青き鼓動 ―物流の咆哮―』

「……ロジ、状況を報告しろ」


ボッカは、宿の質素なベッドの上でパチリと目を開けた。窓の外はまだ白み始めたばかりだが、現場監督の身体はすでに「始業モード」に入っている。


『おはようございます、マスター。バイタルチェック完了。……マナ循環による強制リカバリーにより、全身の疲労は98%除去。本日もフル稼働が可能です』


ボッカは軽く肩を回し、寝癖のついた頭をかきながら立ち上がった。宿の主人が用意してくれた冷たい水で顔を洗う。村の生活は改善されつつあるが、ボッカ自身はまだ自分専用の拠点(事務所兼自宅)を造る時間を惜しみ、村の宿を拠点にしていた。

一方、村の自室で寝ていたはずのガッシュとテオは、約束の時間に這うようにして集合場所へ現れた。


「……お、親方……おはよ…… ござい…やす………」

「……指先……一本も……動かないっス……」


昨日の激務による重度の筋肉痛だ。二人の顔は土気色で、幽霊のようにふらついている。


「……起きろ。現場が待ってるぞ。……ロジ、カプセルの状況は?」


『1個が完全充填。2個目が80%です。昨夜の温泉稼働に伴う余剰熱エネルギーにより、チャージ速度が向上しています』


「よし。……カプセル1個あれば、深部の『試し掘り』には十分だ」


ボッカはぐったりしている二人の首根っこを掴むと、近くに待機させていた「先輩」の巨大なバケットの中に、ひょいと二人を放り込んだ。


「あ、ちょ……親方!?」


驚く二人をよそに、ボッカは先輩を操作してバケットを目の高さまで持ち上げる。

その瞬間、ついさっきまで死にかけていた二人の目が、キラキラと輝き始めた。


「……すっげぇ! 先輩の腕に乗ってるぜ! 高けぇな、おい!!」


「うおぉ……すげぇっスよ、ガッシュ兄さん! 景色が全然違う……! 筋肉痛、一瞬で忘れたっス!」


さっきまでの呻き声はどこへやら、二人はバケットの縁に掴まり、まるで遊園地のアトラクションを楽しむ子供のように大興奮だ。やはり、いくつになっても「巨大重機の操縦席(付近)」は男子の夢なのだ。


「……元気が出たなら結構だ。その特等席から、しっかり現場を見ておけよ」


新生「先輩」の重厚な足音が、静まり返ったトンネルに響く。


エアロックの手前、三層の防水シートで仕切られた「境界線」に辿り着いた時、ボッカの表情から余裕が消えた。


「……よし。これより深部調査を開始する。……お前らはここで待機だ。ロジ、外部モニターの中継を開始しろ」


ボッカはそう言うと、先輩の背後にあるハッチを開け、その狭いコクピットへと滑り込んだ。ガチリ、と重厚な金属音がしてハッチが密閉される。


『マスター。コクピット内の気密完了。魔導浄化サイクル、始動。……外部障気濃度が極めて高いため、循環モードを「内部完結」に切り替えます。……。――稼働限界時間は120分。それまでに戻ってください』


「ああ、十分だ。……。――ガッシュ、テオ。もし防水シートに異変があったら、迷わず村へ走れ。いいな?」


先輩のスピーカーから響くボッカのくぐもった声に、二人は力強く頷いた。


ボッカは先輩を操作し、巨大な指先で防水シートの端を捲り上げると、そのまま紫色の霧が渦巻く闇の中へと巨体を滑り込ませた。


背後でシートが「ピタリ」と閉じ、完全に遮断される。


モニターに映し出されるのは、不気味に蠢く紫のガスと、先輩のライトが切り裂く一筋の光だけ。コクピットの外は、一呼吸で肺が焼ける死の世界だが、ボッカはモニター越しにその地獄を冷静に見据えていた。


「……さて。1200年分の淀み、掃除してやるか」


「動力ライン」の残骸が、まるで巨大な化石のように壁を這っている。ボッカは先輩の巨体を操り、膝をクッションにして、澱んだ空気の抵抗を押し切るように進んだ。


先輩のライトが紫の霧に乱反射し、白い壁のように視界を遮る。進むにつれてガスは濃度を増し、ついには強力なハロゲン光すら数センチ先で掻き消された。コクピットの強化ガラスの向こう側は、もはや完全な「無」だ。


「……チッ、ライトが死んだか。モニターもノイズだらけだ。ロジ、切り替えろ」


『了解。……。――物理視界を遮断。マナ・スキャナーのパルスを最大出力で展開します。マスター、シンクロ率を40%から60%へ引き上げます。これより先は「視覚」ではなく「空間認識」で歩いてください。……覚悟はいいですか?』


「ああ。……『現場』が頭に入ってりゃ、目は要らねえ」


ボッカが短く答えた瞬間、脳内に激痛に似た閃光が走る。

次の瞬間、真っ暗だったはずの世界に、青白い線で描かれた「トンネルの骨格」が浮き上がった。ロジがスキャンした地形データと、1200年前の設計図がボッカの脳内で重なり合い、「目で見ている以上に鮮明な世界」が構築される。


(……左、三メートル先に崩落した支柱。……右、天井付近に高圧ラインの亀裂。……。――よし、道は見えた)


物理的なモニターには「砂嵐」しか映っていないが、ボッカの脳内では「先輩」の巨体が暗闇を真っ直ぐに突き進んでいく。


「……見つけたぞ。……。――見ろ、ロジ。あの壁だ」


脳内投影された「心眼」の中に、周囲の闇を焼き切るような、圧倒的な熱量を持った「光の塊」が浮かび上がった。


そこには、地圧と熱、そして1200年分のマナが濃縮され、結晶化した【特級魔導結晶】の巨大な鉱脈が、血管のように岩肌をのたうち回っていた。


「……。――ガッシュ、テオ。見えているか? これがこの現場の『心臓』だ」


ホログラム越しに、二人の息を呑む音が聞こえてくる。


「う、うわぁ……何だよ、あの輝き。宝石なんてレベルじゃねぇな……」 

「凄いっす!凄いっす!」


『……成分解析。マスター、驚くべき純度です。この結晶一つで、村の全施設を一年間動かす魔力を賄えます。……。――ですが、喜びを爆発させるのは後にしてください。現在の障気濃度は依然として致死圏内です』


ロジの警告に、ボッカは冷静さを取り戻した。


「分かっている。お宝が目の前にあっても、生身で運べなきゃただの石ころだ。……ロジ、シミュレーションの結果は?」


『ガスマイン側の【第2換気シャフト】を強制起動させ、トンネル内に「負圧」の状態を作り出す必要があります。……。――ただし、シャフトの駆動部は1200年分の錆で完全に固着しています』


ボッカは「先輩」の右腕を、岩盤を砕くための『高硬度ピック』から、さらに専門的な『高トルク・ハイドロレンチ』のアタッチメントへと、その場の素材を吸収させながら強引に換装させた。


「……ロジ、カプセルを使うぞ。……『古代規格対応・高出力起動モーター』を具現化! 軸受けの摩擦を殺すために、カプセル内の魔導銀を潤滑材として全投入しろ!」


ボッカが叫ぶと同時に、先輩の背中から光の粒子が溢れ出した。

カプセルが弾け、1200年前の錆びついたファン軸に対し、現代の精密工学が設計した「無理矢理回すための外付けエンジン」が具現化・装着される。


キィィィィィィィィィィィン!!


先輩の巨体が、回転の反動で軋む。ボッカは歯を食いしばり、シンクロによる脳への負荷に耐えた。

「……回れ……回れぇッ!! 1200年分、溜め込んだ毒を全部吐き出しやがれ!!」


ドォォォォォォォォォンッ!!


爆発的な音と共に、天井を貫くシャフトの巨大な羽が回転を始めた。

その瞬間、トンネル内の空気が「激変」した。

これまでシートを外側から押していた村側の空気が、今度は猛烈な勢いで前方へと吸い込まれていく。


「……。――ロジ、換気効率は?」


『……測定完了。気流、正常化。障気濃度、急速に低下中。……マスター、これより10分以内に、貫通全区間の安全基準値への到達を予測します』


ドォォォォォォォォォンッ!!


爆発的な音と共に、天井を貫くシャフトの巨大な羽が1200年ぶりの咆哮を上げて回転を始めた。

その瞬間、トンネル内の空気が「激変」した。

貫通以来、村側から押し寄せる新鮮な空気がシートを緩やかに押し広げていたが、シャフトの強力な吸引力が加わったことで、気流は一気に加速。バタバタと激しく羽ばたいていた防水シートが、前方――ガスマイン側――へと猛烈な勢いで吸い込まれ、ピンと張り詰めた状態で凹んでいく。


「……。――ロジ、換気効率は?」


『……測定完了。強制排気による負圧を確認。気流、正常化。障気濃度、急速に低下中。……マスター、これより10分以内に、貫通全区間の安全基準値への到達を予測します』


「……ふぅ、……。ようやく、空気が生きて動き出したか」


ボッカは「先輩」の操作を解除し、コクピットの気密ハッチを内側から跳ね上げた。

プシュッ、と小気味よい排気音が響き、浄化された内部の空気と、今まさに浄化されつつある外気が混ざり合う。


ボッカは先輩から這い出すと、1200年ぶりに「呼吸」を再開したトンネルの床へ、自らの足で降り立った。


「……ふぅ。……。――ロジ、ガッシュたちを繋げ」


ボッカは、目前で自律待機モードに切り替わった先輩の「メインカメラ」を見据え、中継先の弟子たちへ向かって不敵に笑った。


「……おい、野郎ども。見てるか。……。――やったぜ。掃除は完了だ」


直後、先輩の外部スピーカーから、鼓膜が破れんばかりの歓声が爆発した。


「親方ぁぁぁ! やった!! 本当にやりやがった!!」

「すごい! 霧が……霧が完全に消えて、師匠の顔がはっきり見えるっす!」


ホログラム越しに、ガッシュとテオが跳ね回って喜ぶ姿が目に浮かぶ。

ボッカはその声を聞きながら、先輩が先ほど切り出した「特級魔導結晶」を拾い上げ、一歩、また一歩と村へ続く道を歩き出した。


ライトが真っ直ぐに届くようになった回廊は、かつての文明の威容を取り戻し、ボッカを祝福するように整然と続いていた。

やがて、前方に村側の明かりを遮っている防水シートの壁が見えてくる。


今やシャフトの負圧によってガスマイン側へピンと引き絞られ、凹んでいるそのシートの前に辿り着くと、ボッカは力尽きたようにドカッと背中を預けた。


シートの向こう側――わずか数センチの厚みを隔てた「安全圏」から、二人の「生の」叫び声が、シートを震わせて響いてくる。


「師匠!師匠ですよね!? 今、シートの向こうに足音が見えたっすよ!」


「……ああ、俺だ。……。――騒ぐな、耳に響く。……ロジ、シートを開放しろ。こっちはもう『現場』だ」

ボッカの指示で、自律歩行で後ろからついてきていた先輩が、巨大な腕でシートを内側から豪快に引き剥がした。


バササッ! とシートが踊り、村側からの新鮮な空気がトンネルの最深部へと一気に流れ込む。

暗闇に、村側からの松明の明かりが真っ直ぐに差し込んだ。


眩しさに目を細めるボッカの元へ、ガッシュとテオが駆け寄ってくる。シートの陰で座り込んでいるボッカを見つけ、二人は弾けるような笑顔を見せた。


「親方! お疲れ!」

「師匠!凄いっす!」


ボッカは、手に持っていた青い結晶を無造作に放り投げた。ガッシュが慌ててそれを両手で受け止める。


「……今回の『配当』だ。……。――さあ、野郎ども。道は開いた」


ボッカが放り投げた青い結晶を、ガッシュが拝むように受け止める。

だが、ボッカはそのまま村へ引き返そうとはしなかった。泥を払い、腰の道具袋を締め直すと、澄み渡った空気の向こう側――ガスマインへと続く道を指差した。


「親方……? 戻らねぇのか?」


「……時計を見ろ。まだ昼前だ。……。――撤収するには早すぎる。このまま『開通点検』ついでに、ガスマインまで歩くぞ」


「えっ、今からっすか!?」


テオが裏返った声で叫んだ。


「師匠、冗談っスよね!? ギルドのある街からガスマインまで3日……死ぬ気で歩いてようやく着く距離なんですよ!? 今から行ったら、街に着く頃には死んじゃうっスよ!」


若手二人の常識では、ガスマインは「覚悟を決めて挑む遠方の地」だった。だが、ボッカは平然と歩き出す。


「……それは『道』がない時の話だ。……。――いいか、このトンネルは山を直線で貫いてる。毒ガスを抜いて、足場を均し、俺たちが『直した』このルートを通れば……ガスマインまでは、たったの4時間足らずだ」


「よん……4時間!?」


テオが裏返った声で叫ぶ。ボッカは不敵に笑うと、背後の「先輩」のハッチを開け、コクピットへ飛び乗った。


「……歩けば4時間だ。だが、俺が直したこの『道』を、俺の『道具』で走れば……そんなにかかるわけねえだろ。……。――おい野郎ども、バケットに乗ってろ。連れてってやる」


「「えっ……!? はい、親方!!」」


二人は昨日以上の勢いで先輩のバケットへ飛び込んだ。二人がガチリと手摺りに捕まったのを確認し、ボッカはロジに命じた。


「……ロジ、換装だ。……『不整地脚モード』を解除。……。――全軸、高速移動用高圧ホイールへ展開!」


『了解、マスター。……トランスフォーム・シーケンス、開始』


ガキィィィィィィィン!!


先輩の四本の脚が複雑に組み替わり、その先端から魔導銀で縁取られた巨大な硬質ゴムのホイールがせり出してくる。

重機から一転、トンネルを疾走するための「超大型高機動キャリア」へと姿を変えた先輩の威容に、二人は言葉を失った。


「……行くぞ。舌を噛まねえように気をつけな」


ドォォォォォォォォォンッ!!


先輩の背面の排気口から青白いマナの閃光が吹き出す。

時速80kmから100km――。

整備され、瓦礫一つない真っ直ぐなコンクリートの床を、先輩は咆哮を上げて滑走し始めた。 


「う、うわあああああああああ!!」

「速ぇ! 速すぎる! 景色が……景色が飛んでいきやがる!!」


バケットの中で風を切り裂き、叫び声を上げる二人。

かつて背負子を担ぎ、一歩一歩泥を噛むようにして24時間かけて歩いた死の行軍。それが、今はわずか「10分足らず」の疾走へと塗り替えられていく。


照明の光が等間隔で横に流れる光景は、もはや原始的なファンタジーではなく、高度な文明の鼓動そのものだった。

やがて、前方にガスマイン側の巨大な防壁門が迫る。

ボッカはホイールにブレーキをかけ、マナを逆噴射させて先輩を滑らかに停車させた。


「……到着だ。……。――ロジ、現在時刻は?」

『11時15分。……村を出発してから、移動時間はわずか9分42秒です』


「……じゅ、10分……。僕たちの今までは、なんだったんすか……」


腰が抜けたようにバケットから降りる二人をよそに、ボッカは不敵に笑い、ハッチを開けて外の空気を吸った。

ガスマインの硫黄の匂いは、もうすぐそこまで来ていた。


「……これがインフラと、正しく管理された『道具』の力だ。……。――おい、肉を食う前に、まずは街長を拝みに行くぞ。……腰を抜かしてひっくり返る準備はできてるか?」


「「……はい、親方!!」」


ボッカは先日もらったばかりの白金貨を指先で弾き、開通したばかりの「黄金の道」を堂々と歩き出した。

3日→10分

物理的な距離すら支配したボッカの物流革命。


次回、第31話。ガスマインの街長が10分での到着に腰を抜かし、いよいよボッカの「白金貨10枚」による本格的な資材発注が始まります。

それでは、次回の現場でお会いしましょう。

ご安全に!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ