表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ボッカ監督の異世界インフラ革命 〜古代遺跡を修理していたら物流が大陸を支配しました〜  作者: コケグマ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

20/41

岩石ゴーレムの「分別解体」

暗闇に光る赤い目。巨体を震わせ、不法投棄されたガレキの塊――岩石ゴーレムが、地響きを立てて立ち上がった。


普通の冒険者なら、盾役がその突進を食い止め、魔法使いが硬い表層を焼く「消耗戦」を挑むところだろう。だが、ボッカはバールを肩に担ぎ、鼻歌まじりにその巨体を眺めていた。


「ロジ、こいつの『パッキン』はどこだ?」


『解析完了。背面の第3頸椎にあたる連結部、および左膝の関節シリンダー。そこに使用されている古代の「硬化ゴム」が劣化し、マナの異常吸着を引き起こしています。そこを叩けば、結合の魔法式が強制パージされます』


「よし。……解体開始だ」



ドォォォォンッ!


岩石ゴーレムが丸太のような腕を振り下ろす。床の石材が砕け散るが、ボッカは目をつぶっていてもかわせるかのような軽やかなステップで懐に潜り込んだ。

ボッカの手にあるのは、先ほど生成した【地質診断ハンマー】。


彼はゴーレムの左膝、劣化したゴムが露出している箇所に、ハンマーの先をそっと添えた。


「――おらよ。『超音波共振解体』だ」


キンッ……!


澄んだ音が、ゴーレムの巨体全体に波紋のように広がった。ボッカは打撃の瞬間に診断ハンマーの機能を微調整し、石の結合を維持しているマナの周波数に、逆位相の振動を叩き込んだのだ。

ガガガガッ! と、ゴーレムの左脚が震え、ボルトが抜けたようにバラバラと崩落した。


「よし、片足ジャッキが死んだな。次は……そこだ!」


ボッカはバランスを崩した巨体の背後に回り込むと、今度は【バール】の先を、背面の連結部の隙間に差し込んだ。


「ロジ、カプセルの残弾を極小出力。バールの先に『瞬間冷却ガス』を。……一回分、いいな?」


『了解。……カプセル使用。……冷却開始』


プシュゥゥゥ……ッ!!


ひび割れたカプセルから、ほんの一瞬だけ、凍てつくような冷気がバールの先から噴き出した。熱を帯びた古代の連結部が急激に冷やされ、金属の収縮率の差によって「パキィィィン!」と乾いた音が響く。


「……ここをこうして、クイッとな」


テコの原理。ボッカがバールの柄に体重をかけた瞬間、ゴーレムの全身を繋ぎ止めていた「中核コア」が、まるで熟した果実が落ちるように、ポロリと床に転がった。

動力源を失った岩石の山が、ガラガラと崩れ落ちる。

「戦闘」と呼ぶにはあまりに静かな、文字通りの「解体作業」だった。


「……ふぅ。よし、ロジ。分別だ。こいつの中に混ざってた『予備パーツ』を拾い出せ」


崩れた岩の山から、ボッカは泥にまみれた鈍色の金属筒を引っ張り出した。


「……当たりだ。これ、1200年前の【自動調圧バルブ】じゃねえか。しかもまだ生きてる。」


ボッカは戦利品を満足げに眺めると、それを丁寧に布で拭いた。


(……予備パーツ一個確保。だが、これだけじゃ「先輩」の完全なオーバーホールにゃ足りねえな)


ボッカは独り言ちながら、ひび割れたカプセルを指先で弾いた。

残弾数は、事実上あと一回分。だが、今のボッカには焦りはない。むしろ、ライトの先に潜む「不法投棄物の気配」に、現場監督としての血が騒いでいた。


『マスター。前方の高エネルギー反応……個体数が増加しています。スキャンによれば、同系統の岩石ゴーレムがさらに3体。その背後には、マナの漏洩によって変質した「古代の工作機械」が、資材を溜め込んだまま定着している模様です』


「3体か。……ちょうどいい。あいつらの膝関節に使われてる『形状記憶魔合金』と、肩の『積層プレート』が要るんだ。先輩のあのガタついてる左肩を直すには、それなりの強度がある現物パーツが必要だからな」


ボッカはバールを軽く握り直し、薄暗いトンネルの奥へと足を進めた。


もしここに普通の冒険者パーティーがいたなら、絶望に顔を歪めていただろう。A級ダンジョンの深部、一筋縄ではいかない岩石ゴーレムが群れをなしている。一撃でも食らえば肉が砕ける巨体の群れ……。


だが、ボッカの目には、それが「自走式のパーツショップ」にしか見えていなかった。


「……いたいた。おーい、そこをどけ。不法占拠は営業妨害だぞ」


ボッカはあえて大きな音を立てて地質診断ハンマーで壁を叩き、ゴーレムたちを誘い出した。

咆哮を上げ、地響きを立てて迫り来る3体の巨体。


ボッカはリラックスした様子で、むしろ獲物を品定めするバイヤーのような目で、突進してくるゴーレムの「関節の摩耗具合」をチェックしていた。


「1体目、右膝の合金は……よし、程度がいい! 2体目、肩のプレート……ちょっとサビが出てるが、削れば使える! 3体目……おっ、背中の放熱フィンが特上じゃねえか!」


ドォォォォンッ!

振り下ろされる巨腕を、ボッカは紙一重の最小限の動きで回避する。

冒険者なら華麗な剣技を見せるところだが、ボッカがやるのは「急所の選別」だ。


「悪いな、先輩の修理のために一部品パーツになってくれ!」


キンッ、キンッ、キンッ……!


診断ハンマーによる「共振破壊」が、リズミカルに地下通路に響き渡る。

ボッカはカプセルの残弾を一切使わず、ゴーレムたちの自重と移動の勢いを利用して、結合部の「結晶核」にピンポイントで衝撃を叩き込んでいった。


1体目が崩れ落ち、その膝から貴重な合金が露出する。

2体目がバランスを崩し、ボッカのバールによって肩の装甲を「収穫」される。

3体目に至っては、背中のフィンを剥ぎ取られた瞬間に構造維持ができなくなり、自ら瓦礫の山へと戻っていった。


「よし……大漁だ、大漁。ロジ、こいつらを分別しろ。鉄屑クズは隅に寄せて、この合金とプレートは丁寧に梱包だ。傷はつけませんよーっと、先輩の体になるんだからな」


ボッカはウキウキとした足取りで、瓦礫の中から「特級のジャンクパーツ」を次々と拾い上げた。その顔は、凶悪な魔物を倒した勇者のそれではなく、廃車置場で掘り出し物を見つけたマニアのそれだ。


もし、王都の精鋭冒険者がこの光景を目にしたら、腰を抜かすに違いない。


自分たちが命懸けで挑み、高価なポーションをがぶ飲みしてようやく倒す「岩石の巨兵」を、たった一人の男が楽しそうに鼻歌を歌いながら、バール一本で「解体・選別スカベンジング」しているのだから。


本編をお読みいただきありがとうございます!

「敵」を「素材」としてしか見ていないボッカ親方の、リラックスしすぎた深夜残業(?)回でした。

普通のファンタジーなら大迫力のボス戦になるところですが、現場監督の手にかかれば、ただの「重機パーツの収穫祭」になってしまうのがこの物語の醍醐味ですね!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ