枯れ谷のバイパス手術、そして再起動の鼓動
「先輩、いよいよ本番だ。まずはそのデカい腕で、あの崩落した岩盤をどかしてくれ。ガッシュ、テオ! お前らは俺が指示した位置に『ガイド(杭)』を打て。そこに先輩が岩を積んでいくんだ!」
ボッカの鋭い号令が地下回廊に響く。再起動したゴーレム・ユニット04が、低い駆動音と共に巨大な腕を伸ばした。
人間数人がかりでもビクともしない数トンの岩石が、まるで積み木のように軽々と持ち上げられ、ボッカが指定したラインへ正確に置かれていく。
「す、げえ……! 親方、本当に石の壁ができあがってくぜ……!」
「感心してる暇があったら手を動かせ! 岩の隙間に小さい石を叩き込め。隙間を埋めねえと、荷重が一点に集中して崩れるぞ。これを『裏込め(うらごめ)』って言うんだ。地味だが、壁の寿命を決めるのはこれだ!」
若者たちは、ゴーレムの旋回範囲に注意しながら、砕いた石を夢中で隙間に詰め込んでいく。自分たちが詰めた小石が、巨大な岩をガッチリと固定していく手応えに、二人の顔に「現場の職人」としての熱が宿り始めた。
しかし、ボッカの目は依然として厳しい。ロジが投影する3Dマップが、不吉な警告色を放っていたからだ。
『マスター、問題が発生しました。新しく配管を繋ぎ直す予定の区画……地層の空洞化が進んでおり、このままではゴーレムの自重で床が抜ける恐れがあります』
「……チッ。繋ぐだけならカプセルで一発だが、基礎が腐ってちゃ、一月も持たずにまた破裂するな。……ガッシュ、テオ! 手を止めろ。先に『地盤』を固めるぞ」
「地盤を……? 魔法でパッと固めるんじゃないんですか?」
テオが不思議そうに首を傾げた。彼らにとって、ボッカの持つ「カプセル」は何でも解決する全能の魔法に見えていた。
「魔法をそんな無駄遣いできるか。……ロジ、地表の子供たちが集めてた『特定の草』と『青い筋の入った石』、配合比率を出せ」
『了解。地盤改良用の骨材データを構成します。……ですがマスター、子供たちが集めた分だけでは、広大な床下の空洞を埋めるには到底足りません。あと300リットル分の充填材が必要です』
「足りねえなら現場で『作る』のが監督の仕事だ。ロジ、周囲のスキャン感度を上げろ。この枯れ谷にあるもんで、代わりになる素材を見つけ出せ」
『……解析中。マスター、朗報です。回廊の隅にある「白い砂」は高純度の珪砂です。さらに、足元に散らばっている「魔導結晶の微細な欠片」……これを混ぜ合わせることで、子供たちの素材を「核」とした爆発的な増量と硬化が期待できます』
「ガッシュ! その白い砂をかき集めてこい。テオ! お前はそこら中に落ちてる結晶の粒を拾い集めろ!」
「えっ、呪いの結晶を混ぜるんですか!?」
「呪いじゃねえ、こいつは最高の『早強剤(早く固める薬)』だ。子供たちが集めた草の繊維が網の目――鉄筋の代わりになり、砂と結晶が入り込んで内側からカチカチに固まる。……名付けて『枯れ谷式・超速硬化プラグ』だ!」
ボッカはそう言いながら、カプセルを起動させた。給油ノズルで負荷がかかっていた1個目のカプセルから、重厚な石製の「巨大なすり鉢」を生成する。
「テオ! 結晶を鉢にぶち込め。先輩! お前のそのデカい指で、こいつを粉になるまで押し潰せ!」
『了解。加圧作業を開始します』
ゴーレムが巨大な指をすり鉢の中へ差し込み、岩をも砕く握力で結晶を磨り潰し始めた。ギギギ、メキメキッ! という凄まじい音と共に、硬い結晶が瞬く間に微細な粉末へと変わっていく。
「これが『重機』の力だ。ガッシュ、ボーッとするな! 砂を混ぜろ!」
若者たちはボッカの気迫に押され、夢中で素材を投入していった。ボッカはそれらをシャベルでかき混ぜ、仕上げにカプセルからロジ特製の「結合樹脂」を流し込んだ。
シュゥゥゥ……ッ!!
1個目のカプセルが役目を終え、パリンと音を立てて砕け散る。だが、空洞を埋める「特製スープ」は完成した。
「よし、注入開始! 先輩、ドリルの回転を上げろ! 奥まで叩き込め!」
ゴーレムが振動を与えながら、地中の空洞へ混合物を流し込んでいく。結晶粉末が残留マナに反応して熱を発し、砂と繊維を瞬時に一体化させていく。
『……地中空洞の充填率、98%を突破。地盤強度が古代の設計基準値を150%上回りました。マスター、これならゴーレムが跳ねても床は抜けませんよ』
「……。――ふぅ。子供たちの頑張りを無駄にしねえで済んだな」
投影されたマップが、赤から鮮やかな「安全」の緑色に塗り潰される。
「待たせたな。……先輩、いよいよ本工事だ。あのバイパス管を抱えろ。1200年間止まっていたこの世界の『血流』を、今から俺たちが繋ぎ直す!」
ボッカは腰のホルダーに残った、最後の一つ――新品のカプセルを手に取った。
これを使い切れば、次のチャージまで魔法は一切使えない。だが、ボッカの迷いはなかった。
「ロジ、大型構造生成――『バイパス継手』、展開!」
ボッカがカプセルを振り下ろすと、真っ白な光の中から、古代のデザインを完璧に再現した巨大な円筒形のパーツが出現した。
『大型構造生成、完了。……これをもって、現保有カプセルはすべて損壊。再構成完了まで残り18時間……いえ、現場補正により約6時間となります』
「安心しろ。あとは俺たちの手の出番だ。ガッシュ、テオ! 継手のボルトを締めろ! 対角線順に、少しずつだ。一箇所だけ締めれば、パッキンが歪んでまた漏れ出すぞ!」
「はいっ!」
二人は巨大なレンチを握りしめ、ボッカの号令に合わせてボルトを締め上げていく。カチッ、カチッ、と金属が噛み合う音が回廊に響く。すべてのボルトが規定のトルクで締まった瞬間、UIに「完全密閉」のサインが灯った。
「……。――よし、全員下がれ。これから1200年ぶりに、この配管に『熱』が通る」
ボッカは二人をゴーレムの背後に退避させると、自ら巨大な手動ハンドルに手をかけた。成功すれば村にエネルギーが戻り、失敗すれば、この回廊ごと吹き飛ぶかもしれない。
「ガッシュ、テオ。しっかり見ておけよ。……これが、仕事が形になる瞬間だ」
ボッカが全身の力を込めて、ハンドルを回した。
ゴガガガガッ!!
配管の奥から、地鳴りのような唸り音が聞こえてくる。猛烈な圧力と熱を帯びたマナの奔流が、1200年の沈黙を破り、ボッカたちが繋いだ「新しい道」へと流れ込んできた。
それは、辺境の村が「物流の要塞」へと変貌を遂げるための、最初の、そして最大の拍動だった。
本編をお読みいただきありがとうございます!
地盤改良からバイパス接続まで、現場監督ボッカのリソース管理と若者たちの成長を詰め込みました。
カプセルの残弾をゼロにしてまで成し遂げたこの工事。地上に戻った彼らを待っているのは、一体どんな光景でしょうか?
次回、第18話。村が湯気に包まれます。
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