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ボッカ監督の異世界インフラ革命 〜古代遺跡を修理していたら物流が大陸を支配しました〜  作者: コケグマ


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11/40

帰り道の踏査と、地中の「遺産」

採掘街を出発して二日目。


ボッカは急ぐことなく、しかし確実な足取りで、かつて自分が死にかけた峠の道を逆方向に辿っていた。


背中の重荷コアはもうない。だが、彼の視界には常に【インフラUI】が展開され、地形の傾斜、岩盤の密度、水脈の流れを休むことなくデータ化し続けている。


「……なぁロジ。ここを後で『ハイウェイ』にする時、一番のネックはこの急勾配だな」


『肯定します、マスター。現在の平均斜度は15%を超えています。通常の馬車では積載重量を大幅に制限しなければ、馬の心臓が持ちません。トンネルを掘るか、大規模なループ橋を建設する必要があります』


「トンネルか。……今のカプセル出力じゃ、山一つぶち抜くのはまだ先の話だな。だが、何か『楽なルート』があるはずだが」


ふと、ボッカは足を止めた。


そこは、かつての崩落によって誰も寄り付かなくなった「死の谷」を見下ろす崖の上だ。


「……おいロジ。この辺り、空気の『音』が変じゃねえか?」


『……スキャン開始。気流の乱れを検知しました。マスター、谷底から吹き上げてくる風の中に、閉鎖空間特有の「低い共鳴音」が混じっています』


「ああ。風がただ吹き抜けてる音じゃねえ。……どこか、巨大な『ほら』を潜り抜けてくるような、湿った反響音だ。現場で地下を掘ってる時、空洞にぶち当たった時の音に似てやがる」


ボッカは背負子を置くと、岩肌を慎重に滑り降り、霧が立ち込める谷の深部へと足を踏み入れた。

霧の奥へ進むほどに、風の音はヒューヒューという乾いた音から、ゴォォ……という重低音へと変わっていく。


「ビンゴだ。……見てみろ、この気流の吸い込み方」


ボッカが指し示した先。深いつたと苔に覆われた岩盤の一部が、呼吸をするように霧を吸い込んでは吐き出していた。

その蔦をツルハシで力任せに引き剥がすと、そこには幾何学的な「正円」を保った、巨大な石造りのトンネルが口を開けていた。


「……こりゃあ、天然の洞窟じゃねえ。人工の吸気口だ」

『――その通りです。スキャン結果を表示します。これは私のメインメモリにある「旧帝国標準規格・二級物流路」の設計思想に基づき、後世の人間が模範して建設した【地下運河】の跡です』

ロジの音声に、わずかな電子的な「揺らぎ」が混じる。


『私の時代の技術が失われた後、残された人々が限られた魔力で、この山脈を越えるために必死に掘り進めた跡のようです。……完成からおよそ1200年が経過していますが、構造計算に致命的なミスは見当たりません』


「1200年前、か……。俺が生まれる遥か昔に、同じように『道』を造ろうとした奴らがいたんだな」


ボッカは入り口の壁面に手を触れた。

表面には、古代の作業員が刻んだであろう、魔除けの紋章と「無事の開通を」という文字が、薄らと、しかし力強く残っている。


「ロジ。こいつの『組成データ』を吸い出せ。カプセルで再現できりゃ、村の倉庫の建材に使えるぞ」


『了解しました。……解析完了。未知の古代素材【硬化魔石コンクリート】と定義します。


……マスター、これは驚くべき発見です。この素材、経年劣化によって周囲のマナを吸収し、時間が経つほど「硬くなる」自己修復特性を持っています』


「自己修復だと? 1200年前の現場監督は、とんでもねえモンを残してくれたな……」


ボッカはニヤリと笑い、その巨大な遺構を指で叩いた。


「ロジ、この『遺物オーパーツ』は他にもあるか? この山脈全体、UIの感度を最大にしてスキャンしろ。トンネルがあるなら、その先には『橋』や『貯水池』の跡もあるはずだ」


『スキャン範囲を拡大します……。


……マスター、ビンゴです。ここから北西に3キロ、地中深くを這うように「送水管」の反応があります。そして、その先は……驚きました。マスターの拠点となる「あの村」の地下水脈に直結しています』


ボッカの目が鋭く光る。


「……繋がったな。あの村の井戸の水枯れ、そしてこの運河の放棄。全部一つに繋がる。……ここは俺たちの『秘密のバイパス』だ。村のターミナルを造るついでに、この地下網も俺たちの手でこっそり復旧させてやる。そうすりゃ、物流、水利、すべての覇権を握れるぞ」

帰り道での思わぬ収穫。それは単なる近道ではなく、失われた文明の知恵を「現代のインフラ知識」で再起動させるという、ボッカにしかできない壮大なプロジェクトの種だった。


「他にも探してみる価値はありそうだ。ロジ、帰り道は『インフラ遺跡探索トレジャーハント』と洒落込もうぜ。お前のパワーアップの種、もっと落ちてるかもしれねえからな」


ボッカの脳内では、もはや一村のターミナルに留まらない、大陸全土を跨ぐ「新旧融合の超巨大物流網」の設計図が、強烈な輝きを放ち始めていた。

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