010.アフターフォローと、カプセルの真価
採掘街を救い、一晩の休息を得たボッカだったが、翌朝には既に宿をチェックアウトし、昨日越えてきた険しい山道へと引き返していた。
「……さて、ロジ。昨日の『絶壁』をそのままにして帰るわけにはいかねえな」
ボッカが向かったのは、あの崩落した断崖絶壁だ。
荷物は届いた。報酬も得た。だが、プロのインフラ職人にとって「壊れた道」を放置して現場を去ることは、自分の仕事に泥を塗るに等しい。
「街の連中が毒にやられた後遺症に効く『薬草』の採取。それと、あの断崖の『本格的な復旧』。これが今日のノルマだ」
『了解しました、マスター。周辺の薬草反応をスキャン中……。同時に、崩落現場の再構築シミュレーションを開始します』
ボッカは道端に群生する、毒気中和に効く特有の薬草を慣れた手つきで摘み取りながら、昨日の自分を救った「カプセル」を手に取った。
「……なぁロジ。昨日はチャージに24時間もかかってヒヤヒヤしたが、こいつの仕組み、そろそろ詳しく教えてくれねえか? 今後、拠点を造るのに一日一個じゃ話にならねえぞ」
ボッカの問いに、ロジがいつになく論理的な、しかしどこか期待を感じさせる声で応えた。
『良い機会です。当システムのコア機能である【設営カプセル】の運用理論を解説します。マスター、カプセルは「無」から物質を生み出しているわけではありません』
ロジの解説によれば、カプセルの正体は【超高密度エネルギー蓄積体】だという。
• 生成の仕組み: ロジが周囲の大気中から微弱な魔力を吸収し、それを結晶化させる。これまではボッカのレベル(信頼スコア)が低く、ロジの「出力制限」がかかっていたため、生成に24時間も要していた。
• 素材の置換: カプセルの中に「石」や「砂」を入れ、ロジが持つ「設計図」をリンクさせることで、瞬時に分子構造を組み替え、鉄より硬い岩や、水を通さない特殊舗装材へと変貌させる。
• 今後の進化: 拠点を造り、人々に感謝され、「インフラ実績」が積み上がるほど、ロジの出力制限が解除される。そうなれば、生成時間は短縮され、一度に生成できる数も増え、さらには「建機」のような巨大な構造物の一括設営も可能になる。
「なるほどな……。つまり、俺が『良い仕事』をすればするほど、お前のパワーも上がって、工期が短くなるってわけか。現場の評価が工期に直結する……前世の公共事業よりシビアじゃねえか」
ボッカは苦笑しながら、あの断崖絶壁の崩落現場に到着した。
昨日自分が打ち込んだ「足場」が、まだ崖に刺さっている。
「……ロジ。資材は『採掘街の良質な鉄鉱石』、地盤は『脆い堆積岩』。
……設計図は、ただの道じゃねえ。二度と崩れねえ【永久欠番】の補強壁付き歩道だ」
『了解しました、マスター。現在、採掘街の資材置き場にある鉄鉱石の分子データを遠隔スキャン中……。
同期完了しました。
カプセル内の魔力を触媒とし、現地の土砂と融合させ、超高密度の【鉄筋コンクリート(RC構造)】並みの複合素材へと置換します』
「よし。工法は……【プレストレスト・コンクリート(PC)】で行く。カプセルで造り出すコンクリートに、あらかじめ強烈な『圧縮力』をかけておく。そうすりゃ、崖が自重で外側に崩れようとする『引っ張り力』を相殺できる」
ボッカは懐から、生成されたばかりの新しいカプセルを二つ取り出した。
これまでは一日一個だったが、昨日の緊急クラフトの実績により、ロジの出力制限が緩和され、チャージ時間が【20時間】に短縮、さらに【二個同時生成】が可能になっていたのだ。
「ロジ。一個目は【地盤改良】だ。この脆い崖の断面に直接叩き込み、周囲の土砂をセメント化させて固める。二個目は【構造体】。一個目の上に、鉄鉱石成分を凝縮させた最強の『歩道フレーム』を展開しろ!」
ボッカは【インフラUI】の視界で、崖の応力分布(力がかかっている場所)を完璧に把握すると、一個目のカプセルを、崩落の起点となった地盤の亀裂へと向かって、力任せに叩きつけた。
ドォォォォンッ!!
光の波紋が崖の内部へと浸透していく。
それは、カプセル内のエネルギーが周囲の脆い砂利や岩を分子レベルで再構築し、鉄より硬い『人工岩盤(地盤改良体)』へと変貌させる音だった。
【フェーズ1:地盤改良】 完了。
N値(地盤の硬さ):50以上(超硬質)
「上等だ! 基礎は固まった。……次は『上部構造』だ!」
ボッカは間髪入れず、二個目のカプセルを、今固めたばかりの人工岩盤の上に展開した。
ズギュギュギュギュ――ッ!!
今度は、崖の断面から、まるで生き物のように青白い光を放つ物質が、複雑な形状を形成しながら突き出してきた。
それは、ボッカがオーダーした前世の最先端建築、
【プレキャスト《工場製品》コンクリート】のような、完璧に計算された構造体だった。
カプセルは、同期した鉄鉱石の成分を『超高強度繊維』としてコンクリート内に張り巡らせ、さらにボッカが指示した『プレストレス《事前圧縮》』を魔法的な圧力でかけることで、この世界の常識を越えた強度を持つ『鋼鉄の補強壁付き歩道』を一瞬にして造り上げたのだ。
【フェーズ2:構造体展開】 完了。
設計基準強度:300N/mm2(通常の10倍以上)
「仕上げだ、ロジ! 表面に滑り止めの『溝』と、谷底への滑落を防ぐ『鋼鉄製の防護フェンス』をクラフトしろ! 素材は余った鉄鉱石成分でいい!」
ボッカの指示に従い、青白い光が収束していくと、そこには泥だらけの山道には不釣り合いなほど、美しく、機能的で、堅牢な『ハイウェイの一部』が完成していた。
【公共施設:峠の補強歩道】 施工完了
【全長:50メートル】
【耐久年数:100年(物理的な破壊がない限り半永久)】
【インフラ貢献スコア:大幅上昇】
「……ふぅ。これでよし。あとは、こいつが馴染むのを待つだけだ」
ボッカは、今しがた完成させた『鋼鉄の補強歩道』の路面を軽く叩いた。
見た目こそ完璧だが、まだ周囲の自然や、この世界の魔力の循環には馴染んでいない「異物」の状態だ。
『マスター。現段階でのカプセル生成効率に変化はありません。……この構造物が人々に利用され、社会基盤としての「価値」が確定するまで、ロジのシステム更新は保留されます』
「ああ、分かってる。現場ってのは、引き渡して、客が使い始めてからが本番だからな」
そう言いながら道中に摘み取っていた大量の薬草を、通りかかった街の搬送隊に預けた。
「おい、そこの。そいつを街長に届けろ。治療薬の材料だ。……それと、この先の崖はもう崩れねえように直しておいた。次からは安心して通れ」
「えっ……? あ、ああ! ありがとうございます、旦那!」
驚き、感謝する搬送隊の声を背に、ボッカは拠点へと向かって歩き出した。
今はまだ、ロジのチャージ時間は20時間のままだ。だが、次にこの道を通る頃には、人々の感謝と活気がこの崖に染み込み、ロジの機能を劇的に引き上げることだろう。
(……このシステム。土地の特性や人々のニーズによって、ロジが提供できる『工法』も変わってくるってわけか。採掘街なら硬質な構造物、あの村なら……まずは豊かな水と、物流を捌くための平地だな)
ボッカは懐にある、白金貨10枚の受領証とライセンスの感触を確かめた。
資金、権利、そして成長する相棒。
「待ってろよ、あの村の連中。……世界一快適な『現場』に作り変えてやる」
背負子を背負い直し、ボッカは不敵な笑みを浮かべて、かつて自分を見捨てた世界を塗り替えるための第一歩を踏み出した。
【作者からのお願い】
『面白い』『続きが気になる』と思われましたら、是非ブックマーク登録をお願いします。
また、↓に☆がありますのでこれをタップいただけると評価ポイントが入ります。
本作を評価していただけるととても励みになりますので、嬉しいです。




