04 それは、あなたの選択次第です
村田真結に怒鳴られてから一週間後。また蒼夜は、とあるカフェに呼び出された。
「この前は──大変失礼しました」
席に着くと開口一番、真結はそう言ってテーブルギリギリまで頭を下げた。
「お気になさらないでください。ですが今日は……異なるお返事が聞けそうですね」
「はい……。私、お嫁さんになる夢を諦めようと思います」
すみませんとまた頭を下げ、気まずそうな表情を浮かべる真結だが、その目は揺らいでいなかった。
「かしこまりました。これは村田さんの人生です。夢を追うのも諦めるのもご自由です。どうぞ──缶ビールが美味しいと心から笑える日々をお過ごしください」
「え、か、缶ビール!?ど、どうして、それを?」
「それは……どうしてでしょうね」
目を丸くする真結だが、蒼夜はそれ以上何も言わなかった。そして──
「もう……間違えないと、いいですね」
そう呟いて、伝票片手に席を立った。
会計を済ませて外に出ると、少し先の角で、白兎が元気よく手を振っていた。
「蒼夜さん、お疲れ様っす!今回はさすがの蒼夜さんも、苦戦してたっすね」
「はい。白兎君の協力が無ければ、もっと時間がかかっていました。ありがとうございます」
「ぜんっぜん、いいっすよ!相談所の仕事内容も、資料として欲しかったっすから」
褒められた子犬のような表情を浮かべ、白兎はパーカーのポケットに手を入れる。
「今回も無事、回収できたっすよ。つーわけで、確認よろしくっす!」
「ありがとうございます。……問題、ないですね」
白兎から受け取ったキャンディー包みを蒼夜は、値踏みするように見ていた。
──
ただの田中純子。
今のわたしは……何者でもない。無色透明で、誰の記憶にも残らない、空気のような存在。
「早く結婚したい……」
ただの田中純子から"何処どこのお嫁さん"にならなければ……。どんなことをしてでも──。
都内某所のプラネタリウム。
平日の夜だというのに、カップルばかりの空間に純子は居心地の悪さを感じつつも、その瞬間を待っていた。
「そのまま上をご覧になっていてください、田中様」
「……は、はい」
後方から小さく聞こえた男の声に、純子の鼓動は加速する……。




