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To Dream  作者: 三井
第2章【向いていなかったもの】
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03 解けない魔法はございません

 初デートの翌日。

 秘密のランチ会の予定が無かった真結は、あの男を会社から少し離れたカフェに呼び出した。


「昨日の夜。こんな連絡が来たんだけど、どういうこと?」

「拝見させて頂きます」


 真結が突き出したスマホを、男は丁寧に両手で受け取り、画面を確認する。

 笑顔を浮かべたまま目だけを動かす男の姿に、真結の感情は静かに、でも確実に刺激され……。


「私、あなたの言う通りにちゃんとやったわよね?なのに、これはどういうことかしら?どうして私が、振られないといけないの?」


 真結は初デートの後。アドバイス通り、高志へデートのお礼連絡をした。けれど返ってきたのは、次の約束ではなく、別れを告げる内容だった。


「私の夢を叶えてくれるって、あなた言ったわよね?これじゃあ……話が違うと思うんだけど。ねぇ、どういうこと?」


 男が差し出したスマホを掴み取り、真結は溢れる感情をそのまま吐き出し続ける。次第に八つ当たりのような内容になっていくが、感情が高まりすぎた真結は止まらない。


 そして──


「笑ってないで、なんとか言いなさいよ!!」


 溜まっていたモノを一滴残らず吐き出した。

 店内の視線が集まったような気がしたが、真結は構うことなく男を睨みつける。


「それでは僭越ながら、お伝えさせていただきます。村田さん、そのお嫁さんになりたい夢。諦めませんか?」


 いつもの完璧な笑顔で男はそう言った。言い訳をするわけでも、謝罪するわけでもなく、ただ淡々と"諦めろ"と……。


「それって、つまり……私は結婚できないってこと?負け組がお似合いって、ことかしら?あはは……。──馬鹿にしないでよ!あんたに私の何がわかるって言うのよ!もう……いいわよ!!」


 思わず水の入ったグラスを手にした真結だったが、ギリギリで理性が戻り、グラスから伝票に握り替えて席を立った。

 会社に戻ってからも気分は最悪で、イライラは収まらない。だからちんたら降りてくるエレベーターなど待っていられず、階段を、感情をぶつけるように駆け上がる。

 あんな男を頼った私が馬鹿だった。結婚くらい、お嫁さんになるくらい、私一人でできる。夢を叶えて、それで、それで……。


「あ、れ……。それで、なん、だっけ」


 踊り場で足が止まった真結。息が上がり酸素不足だからだろうか。自身の質問への答えが、わからなかった。

 結婚したら幸せになれる。なんて、真結は思っていない。それはただの幻想だと、両親や友達の離婚から既に知っている。だいたい、結婚=幸せなら、この世に不倫や離婚なんて言葉はない。ならば真結は、結婚してどうなりたいのだろうか……。

 一度芽生えた疑問は、仕事中も心の隅で揺れていた。


「お先に失礼します」


 定時を迎え、真結は1人退勤する。いつもより足が重いが、コンビニに寄って少し良い缶ビールを買って帰るつもりだ。おつまみも今日は女子力高めのナッツではなく、もつ煮や焼き鳥にしよう。シメは米系にするか、それとも麺類にするか……。


「だから……私は、駄目なの?」


 問題から目を逸らしたくて、どうでもいいことで頭を埋めたはずなのに、結局真結の思考は夢に向かってしまう。

 夢を叶えるために、苦手な料理も少しは作れるようにした。仕事の日以外はスニーカーを止めた。缶ビールからの直のみも止めたし、色気の無いおつまみも封印した。

 どうしてもお嫁さんになりたかったから……頑張って、頑張ったのだ。しかし結果は……。


「ねえ、私も……輝けると思う?」


 見上げた夜空に輝く星々に、真結はそっと問いかける。もちろん返事がくることはないが、あまりにも光が優しかったので、聞かずにはいられなかった。


「なんてね……はぁ。帰ろう」


 何もかもごちゃごちゃだが、考えたところで答えは見つからなそうなので、真結は視線を落として駅に向かう。

 そして、改札前で鞄から取り出したスマホに、メッセージが着ていたことに気がついた。

 1番始めに登録したある相談所からの連絡で、登録内容に変更はないかというものだった。

 数カ月で内容が変わる訳ないと呆れつつも、社会人経験の長さから、確認しろと言われたら無視できないため、真結は自分のプロフィールに目を配る。


「えっと、はいはい。性格も趣味も変わり……」


 流し読みをしていた真結だが、最後の"一言"内容に目が止まる。この項目は、素直な気持ちを書いてほしいと言われ、真結は特に考えずに記載した。


──好きな人と結婚して幸せになりたい。


 夢見る少女のような内容だが、紛れもなくそれは真結の本音だった。

 結婚に幻想はいだいていない真結でも、好きな人といられることは、幸せだと思っている。なんせ……こんな自分を好きになってくれる人は素敵な人に決まっている。そんないい人と出会えて恋をして、一緒にいられるのだ。それを幸せ以外に、なんと言う。


「お嫁さんになりたかったわけじゃ……なかったんだ」


 嘘偽りのない言葉は、真結の顔から不要な力を解放した。

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