01 素敵な夢ですね
「今回は3組のカップルが誕生しました!おめでとうございます」
都内のホテルのイベント会場。その壇上で、拍手を送られる6人の男女。嬉し恥ずかしそうに笑顔を浮かべる姿が並ぶ中、1番の札を胸に付ける村田真結は目を逸らし、鞄からスマホを取り出した。
「明日は15時から……。急げばクリーニング、間に合うわね」
祝福ムードの会場の端にある受付で、真結はぱぱっと退出手続きを済ませ、そそくさと会場を後にする。
真結には選ばれなかったことを落ち込んでいる時間も、夢を叶えるために立ち止まっている時間もない。
──今年中にお嫁さんになる。
それがアラサーの真結の夢であり、残酷なタイムリミットだから……。
もし間に合わなければ社内での負け組が確定する。そして、性格に問題があるから結婚できない女と、後輩たちに噂され、笑われる。
だから移動中もマッチングアプリを開き、キープしていた人たちへ「気になる♡」連絡をばら撒く。
99回駄目でも100回目はわからない。
そう言い聞かせて……。
連敗数だけを稼いだ翌日の昼休み。
わざわざ教室に通って作れるようになったはずなのに。その日のは家庭的な弁当を作れなかった真結は、チェーン店の牛丼をテイクアウトし、隠れるように会社裏のベンチにいた。
「ほんと、見る目のない男ばっかりなんだから……」
大好きな茶色い丼ぶり弁当を前にしても、心は晴れなかった。せっかく女子力が低いからと遠ざけていた物を、今日くらいはいい事にしたのに。
「私は好きですよ」
「えっ!?」
待ち望んでいた単語に真結は瞬時に顔を上げ、声のした方を見る。
そこにいたのは、見知らぬスーツ姿の男。オフィス街らしい無機質な格好だが、笑顔は少しだけ、柔らかく感じる。
「牛丼。私も好きです。美味しいですよね」
「あぁ、牛丼。……っ!いや、違うんです。いつもは自分でお弁当を作ってて!でも今朝はちょっと、その──な、なんでもありません」
気力が沸かなかった。
そう口にしようとした真結は、慌てて口を閉じた。面識のない相手でも、だらしがない女だと思われるのは嫌だから。
「そうですか。……あの、お隣よろしいでしょうか?」
男は手にするビニール袋を少し掲げて、遠慮がちに尋ねてきた。
よく見るとそのビニール袋は、真結と同じチェーン店の物だった。どうやら彼もひとりランチのために、ここに来たらしい。
「あ、はい。どうぞ」
「ありがとうございます」
真結は咄嗟に横にずれ、男のスペースを確保する。
初対面の男と一緒に、しかも隣り合わせでランチなんて、警戒するのが普通だが、何十回も繰り返している動作故に、体が勝手に反応してしまった。
「えっと……あなたは?」
「失礼しました。自己紹介がまだでしたね──村田真結さん」
「っ!ど、どうして私の名前を!?」
「首から下げているそのピンク色。優しい村田さんの雰囲気と、とても似合っていましたのでつい目が行ってしまいました。すみません」
整った顔立ちの男に微笑まれ、真結は堪らず視線を下げる。そして社員証を首から下げたままだったと気がついた。
「こ、これは、たまたまです!いつもはこんな失敗、しないんですよ」
「存じております。ですからその点を、選ばせていただきました」
「……?」
「知っていますか?人は条件が揃うと──恋に落ちやすくなるんです」
「ごめんなさい。なんの話ですか?」
「もちろん、村田さんの夢を叶えるための話です」
真結は隣に座った男から目を離せなかった。それまでの98人と違って……。




