04 それは、あなたの選択次第です
松村あいに出会ってから数ヶ月か経ったある日。話があると蒼夜は呼び出された。
内容は聞かなかったが、彼の手に──お弁当はなかった。
「本当によろしいのですね?」
「……うん。これは、わたしの夢じゃなかったみたい」
ごめんなさいと、頭を下げるあい。
その顔は昨日とは打って変わり、晴れていた。
「お気にならさずに。これは松村さんの人生です。夢を追うのも諦めるのも、ご自由です。もちろん──新たな夢を見ることも」
「うん!でも……今は将来のことより、目の前のことを大切にしたい。な、なんてね!!」
頬を赤く染めたあいはホームルームが始まるからと、手を振って校舎へ走っていく。鞄と一緒に、普通のお弁当袋を持って。
「もう……間違えないと、いいですね」
蒼夜は"何か"が消えたように軽やに走り去るあいを見送る。そんな彼女の姿が消えると同時に、声をかけられた。
「蒼夜さん、お疲れ様っす!今回も無事、回収完了っす!」
蒼夜に敬礼をする小柄な男の子。パーカーにジーパン姿とラフな格好で、ジャケットを羽織っている蒼夜とは対象的だ。
「お疲れ様です。白兎君は仕事が早くて助かります」
「おだてても、数は増えないっすよ?でも、あざまーす!」
ニコニコと感情を顕にする白兎。あいと同じ高校生だが、彼は正式な蒼夜の仕事上のパートナー。故に蒼夜は白兎から回収した物を受け取り、確認する。
「……問題、なさそうですね」
カラフルなキャンディー包みを手に、蒼夜は機械のようにそう呟いた……。
──
脱社畜。
金さえあればそれが叶うと知って、我武者羅に働いた。
「キラキラした、華やかな生活のため……」
苦しくても辛くてもその思いだけが、宮本彩華を動かした。
そしてついに──その夢が叶う時が来た。
「本当に、私の夢を叶えてくれるのよね?」
都内某所のプラネタリウム。
彩華は隣に座ったスーツ姿の男に、天井を見たまま声をかけた。
「これは濃厚な"ユメアメ"です。こちらをお召し上がり頂ければ、宮本様の夢は叶います。……毎日の投稿も内容を考えることも、面倒に感じることはありません」
目線だけを横に移すと、男は頭上にキャンディー包みを掲げていた。薄暗い室内のせいで色までは確認できないが、ただの丸い飴玉が入った包のように見える。
「ユメアメ……」
飴を食べるだけで夢が叶うのなら、みんなそうするだろうし、夢が叶わない人は世界からいなくなるだろう。だが彩華の知る限り、そんな上手い話は出回っていない。
「社畜生活を送り続けるか、煌びやかな生活を新たに送るか……。決めるのは宮本様次第です。ただ、申し訳ございません。ユメアメをご希望のお客様は大勢おりますため、宮本様とお会いになれるのは今日限りです。どうか後悔のないご選択を……」
高そうなスーツを身にまとい、終始丁寧な口調で話す男。詐欺師のように感じるのに、彩華はキャンディー包みから、目を離せなかった。
「……いくら。いくらでそれを、売ってくれるの?」
「ありがとうございます。そうですね……。おいくらでしょうか?」
「……は?」
「失礼致しました。では改めてまして……。宮本様はご自身の夢を叶えるために、おいくら払えますか?」
男は背も持たれから体を起こし、彩華にキャンディー包みを提示する。
笑顔を浮かべているのに、男の目はどこか冷たく、何もかも見透かしているようだった。




