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To Dream  作者: 三井
第1章【見えていなかったもの】
3/5

03 見えていましたか

「今日はカフェ風にしてみました」

「……ありがと」


 中庭の端で男から横長の弁当を受け取るあい。以前はこの時間が楽しみで仕方なかったが、少し前から何故か胸のあたりがギュッとなる。


「松村さん、なんだか元気がありませんね。どうかしましたか?」

「いや、別に……」


 受け取った弁当の蓋を開け、スマホで写真を撮る。2、3枚撮った後、良さそうなものを選び、インスタグラムに投稿した。そして以前は上昇する度に感情も高まったいいね数を、平然と眺める。


「……幸せそうではありませんね。せっかく夢が叶ったのに」

「え?そんなわけ……ない、よ」

「ではどうして──寂しそうな顔をされているのですか?」


 あいは答えられなかった。

 男の映えるお弁当のおかげで、インフルエンサーになれた。夢は叶ったのだ。嬉しくないわけがない。幸せで、毎日がキラキラしているはずだ。


──モヤモヤするなんて、おかしい。


「夢を諦めたら、幸せになれるかもしれませんよ」

「……夢を、諦める?」

「いえ、冗談です。夢を諦めるなんて、嫌ですよね」


 失礼しましたと微笑む男。いつもの完璧なその笑顔から、本音は伺えない。ただ男が去ってからもあいの頭には、彼の言葉が繰り返されていた。


「夢を諦めたら、幸せに……」


 オシャレなカフェ風弁当をじっと見つめるあい。


「……きんぴらごぼう、食べたいな」


 無意識のうちに、そう呟いた。

 

 放課後。

 穂に買い物に誘われたあいだが、首を横に振り、どこにも寄らずに、ゆっくり帰宅した。


「……ただいま」

「あ、お帰り。今日は早かったんだね」


 あいに気がついたお母さん。相変わらず優しい顔で出迎えてくれるが、その顔は朝よりもあいの胸を締め付けた。

 思わず目を逸らしたあいに、お母さんは慌てて言葉を続ける。


「えっと、今日ね?本屋さんでたまたまオシャレなお弁当、って本を見つけたんだ」

「……ほん?」

「うん……。ごめんね?あいは女子高生だもんね。煮物とか茶色い物ばかりじゃ嫌だったよね」


 お母さんの手元に広げられているのは、どうやら料理本らしい。中身までは見えないが、沢山の付箋が貼られていることだけは確認できた。


「……お母さん」

「今はこんなに可愛くて美味しそうなお弁当があるんだね。……あのね、あいの好きそうな物、選んでみたんだけど、どれがいいかな?」


 付箋のページを広げ、内容を説明するお母さん。

 その姿を見た瞬間、あいはお母さんと一緒にお弁当の内容を話したり、美味しかったと伝えてきた日々を思い出した。


「ねえ、どれが──っ!どうしたの!?学校で何かあったの?」


 慌ててあいに駆け寄り、背中を撫で始めるお母さん。

 突然のことに訳がわからなかったあいだが、視界が歪み、頬が濡れていることに気づいた。そのとき、自分が泣いているのだと理解した。


「っ……ごめんなさい。わたしっ、わたしっ……」


 背中を撫で続ける手が優しくて、温かくて……。溢れたそれは、しばらく止まることがなかった。

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