03 光は、見つかりましたか
捨てられた。
そう環が理解したのは、母親が帰ってこなくなってから1ヶ月が過ぎた頃だった。
前兆はあった。父親が帰ってこなくなってから、環を眺める母親の目に「邪魔」という文字が浮かんでいたのだ。
でも小学生の環が生き残るためには、見ないふりをするしかなかった。
捨てられて、環が一人になると、善人面の大人たちが現れ、どこかの施設へ放り込まれた。
良い人ぶったそいつらは、ああしろ、こうしろ。アレは駄目、コレも駄目と、指図ばかりしてきた。
だから環は中学に入った頃から、自由を求めるように夜の街へ繰り出した。
喧嘩と補導を重ねるうちに、施設の奴らも母親と同じものに変わっていった。
でもそんな時。
暗い路地裏で、1人の男にぶつかった。
いつも通り喧嘩を吹っかけたが、男は真っ直ぐに環を見て「居場所がねぇならうちに来い」と笑った。
その男は、ある会社の若頭|《社長》だった。
詳しい方法はわからないが、若はすぐに施設から環を引き取ってくれた。
「バカは生きていけねぇ」と高校にも行かされた。数え切れないほど謹慎処分になったが、その度に若に説教をされて、どうにか3年間で高校を卒業した。
それからは若の下で、先生と呼ばれる奴に言われた通り取り立てに行ったり、若い女が好きそうな中年親父に「いい店がある」と声をかけたりした。
テレビでみる世界よりも、生温い仕事だったが、
──違法な事には絶対に手を出すな。
それが会社のルールで、若の口癖だった。
ただ一般人にはそんなことは関係なく、環たちはゴミと同じように見られた。
ゴミみたく捨てられた環にとっては、今さら過ぎて気にならなかった。
だが若は、違った。
特に、別れた奥さんと娘に、悪影響が出ていないかを──ひどく気にしていた。
そんなある日。
仕事を終え、事務所で若からの連絡を待っていたときのことだぅた。
「おい知ってっか?この子、若の娘さんなんだぜ」
上司が暇つぶしに点けたテレビを指差し、得意げに笑う。
「娘って……この、7番のガキが……若の?」
画面に映っているのは、どこにでもいそうな普通の女の子。
キラキラと歌い、楽しそうに踊っている姿は、こんな薄暗い会社の人間の娘だとは思えなかった。
「ああ、わっかんねぇよな〜。でもオレ、応援してんだぜ?昔、若が写真落としたことあってよ」
上司のちぐはぐな説明を聞き流しながら、環はポケットからスマホを取り出した。
アイドルオーディション番組。
日頃テレビを見ない環でも知っている、視聴者の人気投票でデビューが決まる番組だった。
デビューできるのは10人中6人で、最終投票までの期間は残り2週間弱。
若の娘の人気は──7位。
頑張れば逆転できる位置にいたが、それは下位の奴らも同じ。
娘がデビューできればきっと若は喜ぶし、その手伝いをした奴もきっと褒めて、近くに置いてくれるだろう。幹部候補にだってなれるかもしれない……。
環は──若の娘を確実にデビューできる方法を探し始めた。
「つっても……やっぱ、無理だよな〜」
テレビ業界にコネはない。
数千票を動かせるような金もない。
何も持たない環にできることなんて、あるはずがなかった。
そう思って、諦めようとしたとき──
「"ユメアメ"って知ってる?」
会社が用心棒をしている喫茶店で、環は奇妙な噂話を耳にした。
胡散臭い。どう考えても、都市伝説みたいな話だ。
それなのに。
気がついたときには、環は噂のプラネタリウムの前に立っていた……。




