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To Dream  作者: 三井
第1章【見えていなかったもの】
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02 夢は叶いましたか

 翌日の昼休み。

 あいは友達の高木(ほのか)と昼食を食べるために中庭へ向かった。


「あい。……やっぱり、わたしの半分あげるよ?」

「ありがとう。でもほんっとに、忘れたんじゃないんだって!そ、それより今日のリップいい感じじゃん!」


 疑いの目を向け続ける穂に、あいは耐えられずに話題を逸らした。説明したくても、自分でも昨日の話を信じきれていないから。


 いつものベンチに座り、あいは辺りを見回す。

 約束が本物ならば──


「あっ、いた!」


 正門側の木陰に、あの男はいた。

 あいがこちらに気づいたことがわかったのか、男は軽く頭を下げた。


「ちょ、ちょっと待ってて!」


 遠慮がちにお弁当を広げていた穂にそう告げて、あいは男の元へ走り出す。


「ほ、本当に……来てくれたんだ」

「はい。私、お約束は必ず守ります」


 軽く息を乱しているあいに、大丈夫ですか?と心配しつつ、男は今日も完璧な笑顔を浮かべている。


「お約束の品です。……これであなたの夢は叶いますよ」


 差し出されたのは、普通のお弁当箱。これで本当に夢が叶うのか疑うあいだったが、蓋を開けて彼女は確信した。


「……ヤバ。めっちゃ──可愛い!!」


 色鮮やかで動物を模した食べ物の詰まったそれは、まるで小さな動物園。食べるのが惜しくなるほど可愛く、あいの心をくすぐった。


「ご満足頂けたようでなによりです」

「マジでありがとう!これなら、ゼッタイ……」


 すぐにスマホを傾け、何度も写真を取る。最大級に盛れている1枚を選び、あいは自身のインスタグラムに投稿した。


 すると──。


「え、ヤバ。マジ!?」


 見たことのない勢いでいいね数が上昇し、フォローされた通知が画面に流れ込む。そしてあっという間に、いいね数は3桁に到達し、フォロワー数は5倍になった。


「え、どうしよう。めっちゃバズってる!!」


 あいは穂の元へ駆け寄り、スマホの画面を見せる。ヤバイヤバイと同じ単語だけを繰り返すあいだが、その緩んだ表情は、彼女の気持ちを鮮明に表していた。


「……夢が叶って、よかったですね」


 はしゃいでいる女子高生たちを前に男はそう投げかけ、その場を後にした。


 それから数日後……。


「あ、あいちゃんだ!今日のお弁当もメチャクチャ可愛かったよー!」

「え、本当!?ありがとう、めっちゃうれしい!!」


 あいは学校で知らない人はいないほどの、有名人となった……。


 動物園弁当を投稿して以来、あいの投稿はいいね数が必ず3桁に達し、フォロワー数も日々増えている。

 その結果、学校でも道端でも、知らない人たちから声をかけられ、毎日欠かさず見ていた憧れのインスタグラマーとも相互フォロワーになれた。


「あ、あいちゃん!昨日の投稿もめっちゃ可愛かったよ〜」

「あぁ、うん。……ありがとう」


 何もかも順調で、夢だったインフルエンサーになれた。

 それなのに、あいの笑顔は長く続かなかった。


「これがキラキラの楽しい毎日……。なんだよね」


 ふと見上げた空は曇っていて、あいはここ最近の家でのことを思い返す。


「いってらっしゃい」


 いつものように笑顔で送り出してくれたお母さん。しかしその笑顔は、少しだけ曇っている気がした。特に夕飯の時、少し遅れて笑っているようで……。


「今晩はきんぴらごぼうなんだ!ねぇこれ、明日のお弁当に──」


 そう言いかけて、あいは言葉を飲み込む。あの男が毎回映えるお弁当を用意してくれるから「もう普通のお弁当はいらない」そう言ったのは自分だ。


「ごめん、なんでもない……」

「……うん」


 何事もなかったかのように微笑むお母さんから、あいは目を逸らすしかなかった。 

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