02 夢は叶いましたか
翌日の昼休み。
あいは友達の高木穂と昼食を食べるために中庭へ向かった。
「あい。……やっぱり、わたしの半分あげるよ?」
「ありがとう。でもほんっとに、忘れたんじゃないんだって!そ、それより今日のリップいい感じじゃん!」
疑いの目を向け続ける穂に、あいは耐えられずに話題を逸らした。説明したくても、自分でも昨日の話を信じきれていないから。
いつものベンチに座り、あいは辺りを見回す。
約束が本物ならば──
「あっ、いた!」
正門側の木陰に、あの男はいた。
あいがこちらに気づいたことがわかったのか、男は軽く頭を下げた。
「ちょ、ちょっと待ってて!」
遠慮がちにお弁当を広げていた穂にそう告げて、あいは男の元へ走り出す。
「ほ、本当に……来てくれたんだ」
「はい。私、お約束は必ず守ります」
軽く息を乱しているあいに、大丈夫ですか?と心配しつつ、男は今日も完璧な笑顔を浮かべている。
「お約束の品です。……これであなたの夢は叶いますよ」
差し出されたのは、普通のお弁当箱。これで本当に夢が叶うのか疑うあいだったが、蓋を開けて彼女は確信した。
「……ヤバ。めっちゃ──可愛い!!」
色鮮やかで動物を模した食べ物の詰まったそれは、まるで小さな動物園。食べるのが惜しくなるほど可愛く、あいの心をくすぐった。
「ご満足頂けたようでなによりです」
「マジでありがとう!これなら、ゼッタイ……」
すぐにスマホを傾け、何度も写真を取る。最大級に盛れている1枚を選び、あいは自身のインスタグラムに投稿した。
すると──。
「え、ヤバ。マジ!?」
見たことのない勢いでいいね数が上昇し、フォローされた通知が画面に流れ込む。そしてあっという間に、いいね数は3桁に到達し、フォロワー数は5倍になった。
「え、どうしよう。めっちゃバズってる!!」
あいは穂の元へ駆け寄り、スマホの画面を見せる。ヤバイヤバイと同じ単語だけを繰り返すあいだが、その緩んだ表情は、彼女の気持ちを鮮明に表していた。
「……夢が叶って、よかったですね」
はしゃいでいる女子高生たちを前に男はそう投げかけ、その場を後にした。
それから数日後……。
「あ、あいちゃんだ!今日のお弁当もメチャクチャ可愛かったよー!」
「え、本当!?ありがとう、めっちゃうれしい!!」
あいは学校で知らない人はいないほどの、有名人となった……。
動物園弁当を投稿して以来、あいの投稿はいいね数が必ず3桁に達し、フォロワー数も日々増えている。
その結果、学校でも道端でも、知らない人たちから声をかけられ、毎日欠かさず見ていた憧れのインスタグラマーとも相互フォロワーになれた。
「あ、あいちゃん!昨日の投稿もめっちゃ可愛かったよ〜」
「あぁ、うん。……ありがとう」
何もかも順調で、夢だったインフルエンサーになれた。
それなのに、あいの笑顔は長く続かなかった。
「これがキラキラの楽しい毎日……。なんだよね」
ふと見上げた空は曇っていて、あいはここ最近の家でのことを思い返す。
「いってらっしゃい」
いつものように笑顔で送り出してくれたお母さん。しかしその笑顔は、少しだけ曇っている気がした。特に夕飯の時、少し遅れて笑っているようで……。
「今晩はきんぴらごぼうなんだ!ねぇこれ、明日のお弁当に──」
そう言いかけて、あいは言葉を飲み込む。あの男が毎回映えるお弁当を用意してくれるから「もう普通のお弁当はいらない」そう言ったのは自分だ。
「ごめん、なんでもない……」
「……うん」
何事もなかったかのように微笑むお母さんから、あいは目を逸らすしかなかった。




