01 手の平で踊りましょう
夜空に星が輝きだした頃。
「なあ!ちょっと、いい?」
事務所から出てきた蒼夜と白兎に、派手な花柄のシャツを着た、耳にいくつも穴を空けた若い男が声をかけた。
「──っ!」
男に気づいた白兎は慌てたようにパーカーのフードを被る。
一方蒼夜は、そんな白兎を男から隠すように一歩前に出た。
「構いませんよ。どうか、されましたか?」
「話がある。だから付いて来い」
男はそう言うと、少し先の道路に停められた黒い車へと視線を投げた。
蒼夜もその先を見るが、窓ガラスは濃く加工されており、車内の様子は窺えない。
「すみません。急いでおりますので、ここでお話いただけますか?」
「あっそう。別にオレはここでもいいけど、困るのはオマエらだぜ?」
「……どういうことでしょうか?」
「"ユメアメ"。……で、どっち?」
それ以上説明するつもりがないのか、男は気だるそうに蒼夜を見る。
その瞳は濁っており、男の考えはわからなかった。
「同行、させていただきます。ですが彼は学生なので──」
「だから?ってかガキとか関係ない。そっちのチビにも関係ある話だし」
「……わ、わかったっす。オ、オレも……行くっす」
白兎の返答に満足したのか、男は車へと歩いていく。
その後に続く蒼夜と白兎。白兎は相変わらずフードを被ったまま、うつ向いている。
「大丈夫。俺に任せろ」
蒼夜はぽん、と白兎の頭に手を置く。
その隣で白兎は小さく頷き、蒼夜のジャケットの裾を、ぎゅっと掴んだ……。
「オマエは後ろ。チビは前だ。……ほら、さっさと乗れ」
「……わかりました」
4列シートの車内には、誰もいなかった。
不安そうな白兎と別に座るのは避けたかったが、男の態度から希望は通らないと判断し、蒼夜は3列目、白兎は2列目の座席に進む。
「そんな警戒すんなよ。いい子にしてりゃあすぐ済む。……だからさ?無駄な抵抗とか反抗、すんなよ」
2人が乗り込んだ後、男は白兎の隣に座り、車のドアを閉めた。
終始うつ向いている白兎をジロッと見たが、すぐに体をずらし、斜め後ろの蒼夜に顔を向ける。
「んじゃさっそく……。"ユメアメ"を売れ。金はいくらでも出す」
「……すみません。なんのことでしょうか」
"ユメアメ"に関して通行人に聞かれるわけにはいかないため、蒼夜は仕方なく男に付いてきた。
だが取り引きを迫ってきたからと言って、安易に話すわけにはいかない。
「はぁ……。だから、そう言うのいらねんだよ。てかこの状況。わかんだろ?」
男は蒼夜から、縮こまっている白兎に視線を移した。
その瞳は変わらず濁っているが、少しだけ苛立ちの色が加わり、これ以上刺激するのは危険だと感じさせる。
「失礼しました。"ユメアメ"をご希望とのこと、承知いたしました。すぐに本部に戻り、ご準備させていただきます」
「よろしく。でも"ユメアメ"は……コイツのじゃなきゃいらねぇ」
男はポケットから取り出したスマホの画面を何度かタップし、蒼夜へ突きつける。
「……恐れ入りますが、彼女とのご関係をお伺いしてもよろしいでしょうか?」
画面に映っていたのは1人の女の子だった。
ラフな服装で、どこかのスタジオでダンスレッスンでもしているようなその姿は、危ない男と関わりがあるようには思えない。
「オマエには関係ない。オマエたちは、ただコイツから"ユメアメ"を回収すればいいだけ。……簡単だろ?」
「ですが──」
「2週間!あと2週間以内に回収して、持って来い。出来なかったら……海か山か。決めとけ」
スマホをしまった男は、白兎の肩に手を置いた。
瞬間肩を震わせた白兎に口元を緩めてから、蒼夜に「ばらばらもあったわ」と告げた。




