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To Dream  作者: 三井
第4章【星に願わなかった人】
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05 ありがとう。お元気で

 蒼夜が『Color Me』に訪れてから3週間後。


「八重さん、すごく楽しそうですね」

「当たり前じゃん!だってライブだよ!?同じ空間にいられるんだよ?もうヤバ過ぎて、ネイルもかなり凝っちゃった!」

「本当ですね。……特に左薬指。彼の初ソロ曲のジャケットのデザインとそっくりです」

「でしょー!?だってこの曲に出会えたから、今の私がいるんだもん」


 上機嫌で自分の爪を見せてくる響に、蒼夜は完璧な笑顔を送る。


 2人がいるのは、とある駅の改札付近。

 今日はここから少し先にあるドームで、人気韓国アイドルグループのライブが開催されるため、たくさんの女性で混雑している。


「そうですね。あの、八重さん。今……幸せですか?」

「そんなの幸せに決まってるじゃん!メッチャ幸せだよ〜。夢だって……叶ったし」


 自分のネイルを見つめる響。その顔は、蒼夜が見てきた中で、1番の笑顔だ。


「響さ〜ん!!」

「あ、ひなちゃん!それじゃあ、あたしたち物販行ってくるから、会場でね!」


 響は声をかけてきた女の子ともとへ走り出す。と思ったら急に振り返った。


「迷子になったら、連絡してね。迎えに行くから!あ、あと!……夢を叶えてくれてありがとー!!」


 恥ずかしそうにはにかみながらそう言って、響は色違いのネイルをしている女の子のもとへ走って行く。

 合流した2人は楽しそうにネイルを見せ合ってなにかを話している。両手を振って否定している様子の響だったが、その顔は嬉しそうだ。


「もう、世間の声に惑わされないでくださいね」


 蒼夜は1人呟いて、意気揚々とドームへ向かう2人とは反対の道へと進み、近くのファミレスへ入った。


「お疲れ様です。先程、無事"ユメアメ"を回収したとご報告がございましたよ」

「お疲れ様です。ご確認くださり、ありがとうございます」


 蒼夜はモーニングセットのトーストを片手に持つ純一の正面に座り、コーヒーを注文した。

 "ユメアメ"と言う単語に心はざわつくが、純一が指摘しなかったので顔には出ていないようだ。


「それでは……。コホン、最終報告をお願いします」


 トーストを皿に置き、手を拭いた純一は姿勢を正した。


「はい。今回導かせていただいたのは八重響。彼女は──」


 顔の見えない相手の声に縛られた……。

 響は推し活をしており、推しは、何もかも嫌になっていた自分を救ってくれた1人のアイドル。

 グッズを集め、直接会えるイベントがあれば仕事を調整し、海外遠征もした。推し仲間がほしくて、推し活に特化した店に転職をして、同僚たちと一緒に推し活を楽しんでいた。

 だがそんな時、SNSで推し活を否定するような投稿が話題になった。

 20代後半の響にとってそれは無視できず、心に突き刺さった。


 いつまでこんなことをしているのか。

 推しに投資して意味があるのだろうか。

 無駄な時間を、過ごしているのではないのだろうか……。


 そうして響は「推しのように誰かを救えなくても、推し活を通して元気になってもらいたい」という夢を忘れ、現実を「世間一般の幸せ」こそが正しいのだと思うようになった。


「──以上が見失った経緯です」

「鍵人さんからいただいた情報通りでしたね。それでその後は……どうしたのですか?」

「本来の夢を、叶えて差し上げました」


 星側が導く時。

 誤った夢を叶えることで本来の夢を思い出させることが多い。だが蒼夜は、響が完全に夢を見失っていないと紫色の机から感じた。

 そのため止めていたSNS投稿の再開を勧め、足が遠退いていたイベントへの参加を促した。


「夢が叶った彼女は、どうなりましたか?」

「彼女は……推し友と元気に、ライブに参加しています」


 改札付近で別れた響の姿を思い出し、蒼夜はそっと微笑む。


──笑顔になってくれて、よかった。


 初めて出会ったとき。無理して笑っていた響が、今日はなんの迷いもなく笑っていた。とても……幸せそうに。

 その姿を見られただけで、これまで費やしてきた時間は無駄ではなかったと、意味があったのだと思える。


「それは何よりです。ですが蒼夜くん。……わかって、いますよね?」

「はい、大丈夫です。座学の試験を合格した際に仰っていたこと、ですよね」


 蒼夜が試験に合格した時に、純一は賛辞と共に1つ忠告をしていた。それはこれから星側として活動する上で、決して忘れてはいけないこと……。


「さすが蒼夜くん。これからも、私たちは感謝されるためにやっているわけではなく、ただ笑顔が見たいだけ。幸せに笑ってほしいだけ。と言うことを忘れないでください」


 どんなに相手のために行動しても、導かれ、"ユメアメ"が回収された人間は、星側の記憶をすべて失う。


 星側は一方的に──やり取りも、気持ちも、すべて忘れ去られてしまう。


 それは頭で理解し、仕方ないと割り切っていても……笑顔を曇らせる。


「はい。心に……留めておきます」

「ありがとうございます。では最後に……これからも、続けられそうですか?」

「……続けさせてください。俺の夢はまだ、1つしか叶っていませんから」


 蒼夜は、はっきりと伝えた。

 忘れ去られてしまうのは辛いことだが、それ以上に自分は笑顔が見たいと。相手が笑ってくれれば自分も笑顔に……幸せになれる。


──一緒に、幸せに笑うこと。


 それが、気がつけなかった自分の夢だったと。


「その言葉を聞けてよかったです。改めまして──あなたの夢が叶う場所。星側へようこそ星夢(ほしゆめ)蒼夜さん」


───


 都内某所のある駅前。

 その日はたくさんの女性で混雑していたが、赤や緑、紫と、とてもカラフルだった。

 そんな賑やかな駅前で、ビジネススーツ姿の蒼夜は浮いているのだろうが、誰も気にすることはなく、空気のようにすれ違う。


 だから蒼夜も平然と、1人改札へ向かう。


「今回のネイルも響さんに頼んで正解でしたよ!」

「いやいや、そんなこと無いって!彼らがヤバすぎるからだよ〜」


 聞こえてきた会話に、心だけを踊らせて。

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