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To Dream  作者: 三井
第4章【星に願わなかった人】
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03 普通じゃない

 大学の友人との雑談は日暮れまで続き、帰りの電車から降りた時、空には星が輝いていた。


「……相変わらず、か」


 蒼夜は星に願いごとをするようなロマンチストではないが、星を眺めるのは結構好きだった。なんせ星たちは、誰かに見られずともそっと輝き続け、どんな人にも同じように輝きを届けてくれるから……。


「俺も星に……ってなに言ってんだか」


 自分の口から溢れた言葉に、蒼夜は苦笑いを浮かべる。こんなこと20歳過ぎの、現実を知ってる男が言う内容ではない。それにもう……割り切っているのだ。

 だからきっと、友人の太陽のせいだ。久々に眩しい夢を目の当たりにしたから、昔のことを思い出したから……。そうに……違いない。


「あなたのその夢、叶えて差し上げます」


 突然聞こえたその声に、思わず振り返ってしまったのも……。


 

 翌日。

 大学の講義を終えた蒼夜は、都内某所にあるプラネタリウム前にいた。


「えっと……ここは?」

「事務所です。表向きはただのプラネタリウムですが」


 蒼夜の隣で微笑みを浮かべる男は、昨晩と同様、悪人には見えない。


 昨日の帰り道の途中。男に話しかけられた蒼夜は、なぜか聞き返してしまった。


「えっと……どういうことですか?」

「そのままの意味です」


 スーツ姿でいい人そうに笑う男だが、言っていることはわからなかった。


「そのままって……。ってか、どちら様ですか?どこかで……お会いしましたか?」


 男に心当たりのない蒼夜だったが、声をかけてきた以上、男は自分のことを知っている可能性が高い。

 もし面識がないのなら、一刻も早く話を切り上げ、立ち去るべきだろう。


「お話ししたのは今日が初めてですが、大学で何度かすれ違っています」

「そ、そうでしたか。……ええっと、大学関係者の方が俺になにか用ですか?」

「はい、とても大事な用です。……蒼夜さん。あなたの夢、叶えて差し上げます」


 話が初めに戻ってしまったが、蒼夜は男から目を逸らすことができなかった。

 そして──


「……詳しく、教えてくれますか?」


 理屈ではなく、本能に従ってしまった……。


 その結果、たどり着いたのがプラネタリウム。

 半信半疑だったとはいえ、男の話を信じ、付いて来た自分はどうかしていた。

 ……きっと、疲れていたのだろう。

 だから変な男の話に、耳を傾けてしまった。


「すみません。俺、帰ります」

「……そうですか。残念ですが、これは蒼夜さんの人生ですからね。夢を諦めるのも追うのも自由です。どうぞ──夢を諦めた人生をお進みください」

「っ!」


 その言葉に、蒼夜は思わず男を睨みつけた。

 誰が好き好んで夢を諦めるか。追い続ければ必ず夢が叶うのなら、みんな喜んで追い続けるだろう。しかし現実はそう上手くは行かない。だからみんな仕方なく、割り切るのだ。仕方なく……。

 そのスタート地点にすら立てずに、割り切るしかない人だって……。


「あんたに……何がわかる」

「そうですね。私は蒼夜さんではないので、わかりません。しかし1つだけ。明確にわかっていることがあります」


 余裕そうに微笑み、男はもったいぶるように、こちらを伺ってくる。

 その機嫌を取ろうとしない態度から、騙す気は無いとわかるが、蒼夜の目つきは鋭いままだ。


「私がわかっていること。それは──ここがあなたの夢が叶う場所。と言うことです」

「……はぁ。そんなわけ無い」

「どうしてですか?」

「……夢が、ないからだよ」


 普通の生活を送る。それが夢だと蒼夜は自分に言い聞かせてきた。


「ふふ、ご冗談はよしてください。蒼夜さんには、素敵な夢があるじゃないですか」

「夢が……ある、俺に……?憧れることも、夢中になることもない俺が……」

「どうやら、なにか誤解されているようですね。その誤解を解いて差し上げるのは簡単ですが……。蒼夜さんでしたら、ご自身で解けますよね?」

「誤解って……俺は別に──」

「お選びください。夢を諦めるのか、それとも叶えるのか」


 そう言って男は丁寧にプラネタリウムの扉を指し示す。

 よくわからない男によくわからない説明で、中に入ったが最後。変な壺を買わされたり、高額な契約を促されたり、身分証明書のコピーを取られるかもしれない……。

 蒼夜の本能は警報を鳴らし、踏み込むことを拒絶する。

 だが──


「言っときますけど、俺。お金ありませんから」

「構いません。お金持ちかどうかは、関係ありませんので」


 蒼夜の足は止まらなかった。

 遠い昔に捨て去ったはずの思いが……背中を押したから。


「……大丈夫。あなたはもう、見つけてますよ」


 そう呟いた男の声は、扉へ進んでいる蒼夜には聞こえなかった。

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