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01 見慣れた街と紫と
都内某所。よく晴れた日。
「落としましたよ?」
蒼夜は駅前で女性に声をかけた。
振り返った彼女は一瞬戸惑いの表情を浮かべるが、差し出された"それ"をみると、すぐに顔を緩める。
「ありがとうございます!これ、メッチャ大切なぬいなんです!!」
「それはよかったです。……素敵なネイルですね」
紫色のネイルはとても綺麗に整えられていて、自然と目がいく。
落とし物と同じ色で、デザイン系統も似ていた。
「ありがとうございます!今日はライブなんで、メッチャ頑張りましたっ!!」
「そうでしたか。どうぞ、楽しんできてください」
元気に返事をした彼女は紫色の鞄を揺らし、楽しそうに広場へと駆けていく。
「どうか……そのままで」
自分に背を向けて歩んでいく女性に、蒼夜はそっと呟き、笑顔を送る。
その心に、少しだけ影を落とすが、もう完璧な笑顔が崩れることはない。
彼女に初めて会った時とは違って……。




