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To Dream  作者: 三井
第3章【比べなくてよかったもの】
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04 ニッコニコが正義っす!

 都内某所のプラネタリウム、バックヤード。

 白兎は真っ黒な棚に、手の平サイズのスノードームをそっと置いた。

 その棚には白兎の置いたスノードーム以外にもたくさんのスノードームがある。どれも中身は雪が舞う一般的な冬の風景やツリーではなく、黒いモヤの中で小さく何かが光っている。まるで宇宙のようだ。


「早く笑えるようになると、いいっすね」


 たくさんのスノードームにそう囁いた時。

 バックヤードのドアがノックされ、蒼夜が入ってきた。


「お疲れ様です。やはり、こちらにいらしたんですね」

「蒼夜さん、お疲れ様っす。オレになにか用っすか?」

「はい。でもお疲れでしたら、後日で大丈夫です」

「いやいや、ぜんっぜん、元気っす!」

「……本当ですか?」


 親指を立て元気だとアピールする白兎に、蒼夜は疑いの目を向けてくる。

 ひと仕事終えたばかりの白兎だが、体力的には本当に余裕があった。ただ……心はずっと曇り空だったので、思わず蒼夜から目を逸らしてしまう。


「……今回はどんな方だったのですか?」


 気まずい雰囲気を変えてくれたのは蒼夜だった。どこまでも大人だなと感じつつ、白兎は正直に答える。


「あ、えっと……。詳しくは言えないっすけど、信念を見失った人たち、っすかね」


 定食屋夫婦の今の夢は、ひとり娘が苦労しないこと。しかしそれは、自分たちが荒波にのまれた結果だ。本当は、娘が安泰な道を進むことを心から望んでいるわけではない。

 そうでなければ娘が誕生した時、あんな事は言わなかっただろうし、娘に幸恵(さちえ)なんて名前をつけなかったはずだ。

 あの夫婦はどんな道を歩もうとも、ただ娘に……。


「信念……ですか。確かに惑わされて、見失いがちですね」

「はいっす。だから……。早く笑えるようになってほしいっす!」

「……どうしてですか?」

「どうしてって、それはもちろん──」


 ニコニコなら、オレもうれしいから。

 そう言おうとした白兎だったが、言葉は続かなかった。なんせそれは白兎がずっと大切にしていたことで、忘れていたことだから……。


「どうしたら、オレもお父さんとお母さんのようにたくさんの人を笑顔にできるの?」


 幼い頃、白兎は周りから賞賛される父親にそう聞いたことがあった。

 

「白兎は、たくさんの人を笑顔にしたいのか?」

「うん!だってみんながニコニコなら、オレもうれしいもん!」

「そうか。ならいいことを教えてやろう!まずは目の前の1人を、全力で笑顔にするんだ」

「1人だけ?オレはたくさんがいい!!」

「たくさんがいいか。でもな?そうやって目の前の1人1人を笑顔にしていくと、気がついたときには、たくさんの人が笑ってるんだ」 


 そう言って笑う父親は、テレビで見ていたヒーローたちよりも輝いて、かっこよかった。

 だから白兎の心は、自然とたどり着く。


「オ、オレがんばる!そんでたっくさん笑顔にして、お父さんよりもニッコニコで笑いたい!」


 その言葉に父親は更に頬を緩ませ、白兎の頭を優しく撫でた。


 今ならあの時の父親の笑顔も、頭を撫でてくれた優しい感触も思い出せる。そして、定食屋夫婦と自分は同じだったと……。


「……蒼夜さん。1つだけ聞いてもいいっすか」

「構いません。なんでしょう?」

「オレは……ナンバーワンになれると思うっすか?」


 幼き日の決意を思い出しても、心に根付いた呪いは簡単に消えることはない。どこまでも絡みつき、白兎の顔を歪ませる。


「どうでしょう。でも、少なくとも私のパートナーは、白兎君がナンバーワンです」

「──っ!ああ、もう〜……ほんっと、蒼夜さんには敵わないっす!」


 白兎は蒼夜がお世辞は言わないことを知っている。なぜなら、白兎の父親もそうだから。

 言ったところで事実は変わらない。現実を教えてあげたほうが相手のためになる。それが……2人が憧れている人の教えなのだ。


「蒼夜さん!オレ──夢を諦めるっす」


 苦笑いを浮かべる白兎に、蒼夜はただ微笑みかける。

 その姿はいつも通りに見えるが、今日は幼き日の優しい笑顔と重なり、白兎の心を解きほぐした。


──


「ここっす!ここの定食、マジでうまいんっすよ〜」


 白兎が少し遅めのお昼ご飯に選んだのは、ある定食屋。都内から少し離れていて、オシャレな外観でもない、普通の飲食店だ。

 しかし店の外には、5人も並んでいる。


「あれ、ここって……」

「そうっす!値上げラッシュの今、ご飯と味噌汁がおかわり自由の神店っす!」

「いや、そうじゃなくて──」

「蒼夜さん、大丈夫っす。ちゃんと……わかってるっす」


 物言いたげな視線を送る蒼夜に、白兎はゆっくりとうなずく。

 夫婦が導かれた今、彼らがどうなっているのかわかっている。

 そして、3人が自分のことを見たとき、どんな反応をするのかも……。


「いいんす。オレだけ……覚えていれば」

「白兎……」

「って、そうじゃなくて!!オレは3人がニッコニコならいいんす!それが──オレの幸せっすから」

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