第5章 初任務
訓練開始から、
二週間が経った。
俺の体は、
別物になりつつあった。
筋肉痛は、
もう日常だ。
それでも、
剣は振れる。
走れる。
倒れても、
すぐ立てる。
「今日は、
実戦だ」
カインの言葉に、
喉が鳴る。
「表向きは、
勇者の討伐依頼だ」
「対象は、
森に現れた
大型オーク」
大型。
その単語だけで、
心臓が早鐘を打つ。
「中身は、
お前だ」
逃げ道は、
ない。
◆
装備を整える。
赤い外套。
勇者の剣。
重い。
身に着けただけで、
責任がのしかかる。
「模倣、
レベル1だな」
カインが確認する。
「はい」
「大丈夫だ」
「俺が、
後ろで見る」
その言葉が、
支えになる。
◆
現場には、
すでに騎士団が
集まっていた。
「勇者様!」
歓声が上がる。
俺は、
無言で頷く。
カインの動きを、
思い出す。
歩き方。
立ち方。
――模倣。
体が、
勇者の型になる。
完璧じゃない。
でも、
今までで一番だ。
◆
森の奥。
折れた木。
踏み荒らされた地面。
「来る」
カインの小さな声。
茂みが弾ける。
出てきたのは、
三メートルはある
オーク。
牙をむき、
咆哮する。
足が、
すくむ。
それでも――
前に出る。
勇者だから。
いや。
影武者だから。
オークが突進する。
俺は、
剣を振る。
浅い。
弾かれる。
反撃の棍棒。
避けきれず、
肩をかすめる。
痛い。
血が出る。
「集中しろ」
後ろから、
カインの声。
俺は、
歯を食いしばる。
模倣。
カインの戦い方を、
思い出す。
踏み込み。
体重移動。
斬り上げ。
今度は、
入った。
オークの腹が裂ける。
吠える。
怖い。
でも。
逃げない。
俺は、
前に出る。
何度も斬る。
最後の一撃。
首が、
落ちた。
オークは、
倒れた。
◆
静寂。
次の瞬間、
歓声が上がる。
「勇者様!」
俺は、
剣を下ろす。
手が、
震えている。
カインが、
そっと近づく。
「よくやった」
耳元で、
そう言った。
涙が、
出そうになる。
俺は、
生きている。
戦った。
役に立った。
影武者として。
でも――
それだけじゃない。
俺は、
冒険者だ。




