表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/26

第3章 影武者契約


ギルドに戻るまで、

俺とカインは、

ほとんど言葉を交わさなかった。


気まずい、

というより、

頭が追いついていなかった。


勇者の影武者。


そんな話、

信じられるわけがない。


ギルドの扉を開けると、

いつもの喧騒が戻ってくる。


冒険者たちは、

酒を飲み、

笑い、

騒いでいる。


その中を、

勇者カインが歩く。


ざわっ、と

空気が変わった。


「勇者だ」


「本物か?」


「すげぇ……」


視線が、

一斉に集まる。


俺は、

その後ろを歩く。


影のように。


カインは受付へ向かい、

職員に短く告げた。


「個室を借りる」


すぐに、

奥の部屋へ案内された。



個室は、

簡素な造りだった。


机と椅子が二脚。

棚が一つ。


カインは椅子に座り、

深く息を吐いた。


「改めて言う」


俺は、

姿勢を正す。


「お前に、

 俺の影武者になってほしい」


逃げ場はない。


「理由を、

 聞いてもいいですか」


カインは、

少し考えてから答えた。


「模倣スキルは、

 唯一無二だ」


「普通は、

 誰かの代わりにはなれない」


「だが、

 お前なら可能性がある」


「それと……」


一瞬、

視線を逸らす。


「正直に言う」


「俺は、

 壊れかけてる」


胸が、

ぎゅっと締まる。


「休まないと、

 本当に折れる」


勇者が、

自分の弱さを

認めている。


それだけで、

この話が本気だと分かった。



「俺に、

 できることは、

 少ないです」


俺は、

正直に言った。


「レベル1の模倣は、

 弱いです」


「すぐ切れます」


「足手まといになります」


カインは、

首を振る。


「だから鍛える」


「影武者は、

 俺の代わりだ」


「半端なまま

 使う気はない」


「命も、

 預ける」


命。


その言葉が、

重くのしかかる。


「……どうして、

 俺なんですか」


カインは、

少しだけ笑った。


「さっき、

 死にかけてたな」


「それでも、

 逃げなかった」


俺は、

返事ができない。


「弱いのに、

 立ち向かうやつは、

 嫌いじゃない」


胸の奥が、

熱くなる。



カインは、

机の上に紙を置いた。


簡易契約書だ。


内容は、

こう書かれている。


・ルートは影武者として活動

・カインは訓練と監修を行う

・身分と安全は勇者名義で保証


俺は、

紙を見つめる。


ペンを持つ手が、

震える。


ここで署名すれば、

戻れない。


今のままの、

最底辺の俺には、

戻れなくなる。


それでも――


俺は、

ペンを走らせた。


ルート。


自分の名前を、

初めて誇らしく

書いた気がした。


カインも、

署名する。


「これで、

 仲間だ」


仲間。


その言葉に、

胸がいっぱいになる。



部屋を出ると、

ミレアとドルグが

待っていた。


「その子?」

ミレアが聞く。


カインは、

頷く。


「影武者候補だ」


ドルグは、

俺をじっと見る。


「……細いな」


正直すぎる。


ミレアは、

微笑む。


「大丈夫」


「目が、

 折れてない」


俺は、

よく分からないまま

頷いた。


カインは言う。


「今日から、

 地獄の訓練だ」


地獄。


怖い。


でも――


不思議と、

逃げたいとは

思わなかった。


俺は、

前に進むと決めた。


勇者の影武者として。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ