表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/26

第2章 勇者の疲れ


「立てるか?」


勇者カインは、

そう言いながら

俺に手を差し出した。


一瞬、

躊躇する。


俺みたいな人間が、

触れていい存在なのか。


そんな考えが、

頭をよぎった。


それでも――


俺は、

その手を取った。


温かかった。


意外なほど、

人の手の温度だった。


「……ありがとうございます」


声が震える。


カインは、

軽く頷いた。


「一人で来たのか?」


「はい……」


「無茶だな」


怒っているような

口調ではなかった。


むしろ、

呆れているようで、

どこか優しい。


俺は、

俯いた。


「依頼、

 受けられなくて……」


カインは、

何も言わない。


その沈黙が、

逆に怖かった。


「……模倣スキルだって、

 言いましたよね」


俺は、

恐る恐る続ける。


「はい」


「さっき、

 俺の剣の動き、

 真似てた」


心臓が跳ねた。


見られていた。


「す、すみません!」


反射的に頭を下げる。


「盗むつもりじゃ……」


「違う」


カインは、

首を振った。


「怒ってない」


そう言って、

少しだけ笑った。


「むしろ、

 驚いた」


「え……?」


「レベル1で、

 あそこまで形になるのは、

 珍しい」


俺は、

何も言えなかった。


褒められた。


初めてだ。


胸の奥が、

じんと熱くなる。



カインは、

近くの岩に腰を下ろした。


「少し、

 休ませてくれ」


勇者が、

休みたいと言った。


その言葉に、

違和感を覚える。


カインは、

剣を地面に立て、

その柄に両手を置いた。


肩が、

わずかに震えている。


「……大丈夫ですか?」


「大丈夫じゃない」


即答だった。


俺は、

言葉を失う。


「毎日、

 戦ってる」


「魔族。

 魔物。

 盗賊。

 反乱分子」


「どれも、

 終わらない」


淡々とした口調。


だが、

その奥に、

疲労が滲んでいた。


「俺が止まると、

 誰かが死ぬ」


「だから、

 止まれない」


カインは、

地面を見つめたまま

続ける。


「でもな……」


「もう、

 疲れた」


その一言が、

胸に刺さった。


勇者は、

完璧な存在だと

思っていた。


強くて、

迷いがなくて、

折れない存在。


違った。


目の前の少年は、

俺と同じくらいの年齢で、

同じように苦しんでいた。



「ルート」


突然、

名前を呼ばれる。


「はい」


「お前、

 冒険者続けたいか?」


「……続けたいです」


即答だった。


「強くなりたいか?」


「なりたいです」


カインは、

ゆっくりと頷いた。


そして、

俺を真っ直ぐ見る。


「だったら――」


「俺の影武者に、

 ならないか」


一瞬、

意味が分からなかった。


「……え?」


「俺の代わりに、

 表に立つ」


「お前は模倣で、

 俺の戦い方を使う」


「俺は、

 少し休む」


頭が、

追いつかない。


勇者の、

影武者。


そんなの、

冗談に決まっている。


「む、

 無理です!」


思わず叫ぶ。


「俺は、

 弱いです!」


「すぐ死にます!」


カインは、

静かに言った。


「だから、

 俺が鍛える」


「だから、

 俺が後ろで見る」


「お前は、

 一人じゃない」


その言葉が、

胸に深く沈んだ。


一人じゃない。


今まで、

ずっと一人だった。



俺は、

俯いたまま考える。


失敗したら、

死ぬ。


成功しても、

嘘をつくことになる。


怖い。


それでも――


胸の奥で、

小さな声がした。


「逃げるな」


俺は、

顔を上げる。


「……考える時間、

 ください」


カインは、

頷いた。


「いい」


「だが、

 俺は本気だ」


そう言って、

立ち上がった。


勇者の背中は、

少しだけ小さく見えた。


俺は、

その背中を見つめながら、

思う。


この出会いが、

ただの偶然じゃないなら。


俺の人生は、

ここから変わる。


そんな予感だけが、

確かにあった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ