第12章 勇者が二人いる
王都ギルド本部は、
いつもより静かだった。
それは、
平穏だからではない。
嵐の前の、
静けさだった。
受付長の机には、
三通の報告書が置かれている。
北方砦防衛戦。
西街道魔獣討伐。
王都近郊盗賊殲滅。
すべてに、
同じ名前がある。
勇者カイン。
だが、
時間が重なっている。
「……説明しろ」
受付長は、
情報担当職員を見る。
職員は、
青い顔で答えた。
「北方砦での戦闘は、
確かに勇者様でした」
「兵士五十名が、
目撃しています」
「同時刻、
西街道でも、
勇者様が魔獣を
単独で討伐」
「こちらも、
目撃者多数」
部屋が、
ざわつく。
「分身系スキルの
可能性は?」
「勇者様の
登録スキルには
ありません」
「では偽物か?」
「戦闘内容が、
本物と一致します」
受付長は、
椅子の背にもたれる。
「結論を言う」
「勇者が、
二人いる」
一瞬、
誰も声を出せなかった。
次の瞬間。
「あり得ない!」
「そんな報告、
前代未聞だ!」
「王国に
混乱が起きるぞ!」
怒号が飛び交う。
◆
そこへ、
騎士団長が入ってくる。
「王からの命令だ」
空気が、
凍りつく。
「勇者の動向を
極秘裏に調査せよ」
「事実なら、
国家案件だ」
受付長は、
ゆっくり頷く。
「影武者……」
誰かが、
小さく呟く。
全員が、
その言葉を見る。
「勇者の影武者など、
存在するのか?」
「伝承では、
聞いたことがある」
「だが、
実在例はない」
受付長は、
歯を食いしばる。
「もし、
影武者がいるなら」
「それは、
勇者と同等の力を
持つ者だ」
沈黙。
「そんな人材を、
我々は把握していない」
部屋の空気が、
さらに重くなる。
◆
一方その頃。
俺は、
訓練場で剣を振っていた。
何も知らずに。
汗を流し、
息を切らし、
ただ前に進む。
影武者であることが、
どれほど大きな波紋を
呼んでいるか。
まだ、
知らない。
◆
ギルド本部。
受付長は、
命令を下す。
「勇者の行動を、
すべて記録しろ」
「王都、
地方ギルド、
騎士団、
全て連携だ」
「そして――」
一瞬、
言葉を切る。
「勇者カイン本人を、
極秘で呼び出す」
部屋が、
凍りついた。
嵐は、
もう始まっている。




