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第1章 最底辺冒険者ルート


朝のギルドは、

いつも騒がしい。


剣がぶつかる音。

笑い声。

酒の匂い。


そのすべてが混ざり合い、

この場所は生き物のように

うごめいている。


その端っこで、

俺――ルートは、

床を拭いていた。


雑巾は重く、

水を吸って指に絡みつく。


何度拭いても、

床の染みは消えない。


まるで、

俺の人生みたいだ。


「おい、そっちはまだか?」


ギルド職員の男が、

面倒くさそうに声をかける。


「す、すみません。

 すぐ終わります」


頭を下げ、

さらに力を込める。


俺は冒険者だ。

一応。


ギルドカードには、

そう刻まれている。


だが実態は、

雑用係だ。


討伐にも、

護衛にも、

呼ばれない。


理由は、

はっきりしている。


俺のスキルが、

弱すぎるからだ。


模倣もほうレベル1】


他人のスキルを、

一時的に真似る能力。


説明だけ聞けば、

夢のようだ。


だが実際は、

劣化版。


威力は半分以下。

時間は数秒。

成功率も低い。


「外れスキル」


そう呼ばれている。


登録した日に、

言われた言葉を、

今でも覚えている。


「それじゃ食っていけねぇぞ」


笑いながら。


俺も、

笑うしかなかった。



ギルドの掲示板には、

びっしりと依頼書が貼られている。


だが、

俺が応募できるものはない。


条件欄に書かれた文字。


【戦闘要員必須】


それを見るたび、

胸が締めつけられる。


「俺だって……」


小さく呟く。


声は、

誰にも届かない。


隣で依頼書を見ていた

冒険者が、

ちらりと俺を見る。


「まだいたのか。

 模倣の坊や」


笑われる。


「向いてねぇんだよ。

 冒険者」


分かってる。


分かってるけど――


「それでも、

 やるんだ」


そう言うと、

男は呆れた顔で去った。


俺は拳を握りしめる。


爪が食い込むほど、

強く。


痛みがないと、

折れてしまいそうだった。



昼過ぎ。


俺は森にいた。


正式な依頼ではない。

自主狩りだ。


弱いモンスターを倒し、

素材を持ち帰る。


危険だが、

金がない。


草むらが揺れる。


出てきたのは、

ゴブリン一体。


小柄だが、

俺より強い。


短剣を構える。


足が、

震える。


ゴブリンが走る。


俺は横に避ける。


転ぶ。


地面に顔を打つ。


「くそ……!」


棍棒が振り下ろされる。


死ぬ。


そう思った瞬間――


視界が、

白く弾けた。


轟音。


土煙の向こうに、

一人の少年が立っていた。


赤い外套。

輝く剣。


一撃で、

ゴブリンは

吹き飛んでいた。


「大丈夫か?」


少年は、

そう言った。


知っている。


知らないはずがない。


勇者カイン。


この国で、

最も有名な存在。


俺は、

声が出なかった。


カインは俺を見て、

少しだけ眉をひそめる。


「お前……

 さっき、

 何か使ったか?」


「え……?」


自分の手を見る。


微かに、

光が残っていた。


――模倣。


無意識で、

発動していたらしい。


カインは、

興味深そうに微笑んだ。


「面白いな」


その言葉に、

胸が跳ねた。


生まれて初めて、

誰かが俺のスキルを、

否定しなかった。


この出会いが、

俺の人生を変えるなんて。


この時の俺は、

まだ知らなかった。


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