時を刻む黒猫
〜登場人物〜
明実(16)
夏子(年齢不明)
シャーベット(黒猫)
雑貨屋マーブル(雑貨屋)
秋の夕方。
帰ろうとした時のことだった。
道を歩いていると追い風が吹いた。
並木道から枯れ葉がひらひらと舞っていく。
その中に街灯に照らされた鮮やかな赤い紅葉が見えた私は手に取ろうとした。
紅葉を取ったその時、目の前にお店が見えた。
赤い屋根とガラスと網目状の木でできている扉。
私は、「雑貨屋マーブル」と書いてあるそのお店に入った。
「いらっしゃいませ」
「こんばんは」
雑貨屋の扉を開けると奥の方にある椅子に
黒猫を抱えたおばあちゃんが座っていた。
白髪を首の横でお団子にしている。
黒猫の背中を撫でている。
おばあちゃんの膝にちょこんと乗っている黒猫は大人しい。
店内はレトロな雑貨が並べられている。
壁は水色の中にオレンジ色のガーベラの花。
木でできた背の低い棚、中央に背の低い大きめのテーブル。
棚には古本が綺麗に整頓されて並んでいる。
1冊100円と書いてある。安っ!!
テーブルにはマグカップやお皿、箸、スプーン、フォーク、鍋、お弁当箱など日用品が置かれている。
壁にはレトロな時計が掛けられている。
こじんまりした小さなお店だった。
初めて来たのになんか落ち着くな・・・。
私はおばあちゃんのところに行くとしゃがんだ。
「可愛い〜!名前なんて言うんですか?」
「シャーベットだよ」
「シャーベット、可愛い名前ですね」
「ありがとう」
おばあちゃんの割烹着に目がいく。
お団子と同じ方の胸元にガタガタな縫い目で「なつこ」とひらがなで刺繍してある。
何それ可愛い過ぎん?
「どうかした?」
「あ、えーと、なつこさんって言うんだなーって」
「ああ、これかい?昔兄がね名札を作ってくれたんだ」
「え、お兄さんが?凄い!優しいお兄さんですね」
「ああ、優しい兄だったよ」
「だった・・・?すみません、もしかして・・・」
「いや、亡くなったのはもうずっと前さ、
私があなたぐらいの歳の時の頃だったかな」
「そんな前に・・・」
「戦争でね、父は母を守る為に、兄は私を守る為に亡くなったよ」
「そうだったんですね」
こんな穏やかな表情からは想像できないけど
壮絶な人生だったんだな・・・。
「戦時中、生存本能からか今より子どもは沢山産まれた、
いつもどこかで赤ちゃんの泣き声がしてた、
それは幸せなことだったけれど、
その分、沢山の人たちが死んで傷付いた、
だから私はあんなことが二度と起きないように願っているの」
「私もそう思います、罪のない人たちが傷付くのは絶対に嫌です」
「暗い話しちゃったわね」
「そんなことないです、夏子さんの昔のこと聞けて良かったです」
うちはおばあちゃんとおじいちゃんが戦争より後に産まれたから話を聞く機会がなかった。
「あなた、良い子ね・・・そうそう、あなたのお名前は?」
「明実です」
「素敵なお名前ね」
「へへ、ありがとうございます」
「みゃ?みゃーみゃ」
「撫でていいよって」
「え、ほんとですか?」
シャーベットの頭を優しく撫でる。
しっぽが小さくずっと揺れている。
嬉しいのかな?
毛並みがふわふわでまだ子猫のようだ。
「触らせてくれてありがとう」
「みゃー」
シャーベットが手に頰をすりすりする。
あざとい!でも、可愛い!!可愛いが過ぎる!!
雑貨を見て回る。
マグカップが気になったので商品を手に取り、電子決済で払おうとしたのだが・・・。
「あ、しまった、携帯学校に忘れて来ちゃった」
商品を元の位置に戻す。
学校は19時に施錠されてしまう。
16時に学校から出て、友達とゲーセン行ってからここへ来たから時間ないかも。
「時間・・・あれ、時計止まってる!?」
「ごめんなさいねぇ、今直してもらっているところなの」
「そう、ですか・・・」
「でも、18時半だと思うよ」
「え?なんで分かるんですか?」
「それはまた次にお店に来た時に話すよ、だからまたおいで、買わなくても話だけでもいいからさ」
「はい!ありがとうございます」
「気を付けて帰るんだよ」
「はい!ありがとうございました」
こういう時、早く帰りなさいと言わないところが良いな。
私はダッシュで学校へ向かった。
雑貨屋から学校まで10分もあれば着くはず!
「はぁはぁ・・・」
息を切らし、学校の時計を見た。
18:40!!夏子さんの言う通りだった!
私は無事に携帯を手に入れた。
次の日の下校中。
「おや、来てくれたんだね」
「はい、どうしても気になって」
本当はあまり期待してなかった。
ついさっき携帯で見たからとか、壊れたのがついさっきで壊れる直前の時間見てたからとか。
そんな理由だと思っていた。
「理由はこの子さ」
「え?シャーベット?」
「そうさ、この子の尻尾ずっと左右に振り子みたいに動いているだろう?」
「は、はい、そう言われれば・・・」
「この子の尻尾は大きく振るのは1時間に1回、小さく振るのは1秒に1回なんだ、
だから大体の時間が分かるんだよ」
「えぇ!?それって凄くないですか!?」
嬉しくて揺れてるわけじゃなかったのか!
「そうなのかねぇ、ほほほ」
シャーベットも凄いけどそれを覚えていられる夏子さんも凄い!
「まるで魔法みたい」
「実は魔法使いだったりして・・・なんてね」
「ふふ、でも、そうだったら夢があっていいですね」
「残念ながら私はただの老いたおばあさんだけどね」
「そんなことないですよ、私にとっては魔法なんですから」
「空を飛んだりお姫様になったり、そういう大きな魔法は使えなくてもかい?」
「小さい魔法って可愛いくていいじゃないですか」
夏子16歳。
"夏子!魔法使いってカッコいいよな!"
"何言ってるのお兄ちゃん、魔法なんてあるわけないじゃない"
"これから時代が変わればあるかもしれないだろう?"
"無理だよ、これからなんてないもん"
"大丈夫、あるさ"
"理由は?"
"ない!"
"ほら、やっぱりないじゃないの"
"夏子、魔法なんて大層なものじゃなくても
その人にとって魔法だと思えればそれでいいんだ"
"そういうもの?"
"そういうもの!"
現在。
「おやおや、何にもない私だけど子どもたちに夢を与えられたら素敵だねぇ、
それもこの子のおかげだよ、ありがとうね」
「みゃー!」
シャーベットは嬉しそうに鳴くと尻尾を大きく振った。
どうやらここへ来てから1時間経ったようだ。
私は昨日買いそびれたマグカップを買った。
「またいつでもおいで、どんな時も私たちはここで待ってるからね」
「みゃあ〜」
「はい!」
私は、夏子さんとシャーベットに会釈をして店を出た。
また来よう。ここにいる間は魔法にかけられてるみたいな気持ちにさせられるから。
おばあちゃんにはこの先も幸せでいて欲しいな。
魔法。
それは空を飛べるとかお姫様になれるとか
そんな大きな魔法じゃないかもしれない。
でも、時を刻む黒猫とそれを数えるおばあちゃんがいる。
こんな素敵なお店、他にないよ。




