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2.週末

フレグランス•クロリスの経営難が続くもお手伝いに通う農家さんやご給仕に向かうお宅、さらには常連さんや森からやって来る小さなお客様たちから応援され、日々の小さな幸せを一つ一つ噛み締めてを過ごしていたお昼頃。2匹のセキレイがこの店を訪れた。

目に止まった瞬間にセキレイ先生が彼女さんを紹介しに来てくれたのだと察しがついた。「セキレイ先生!」私が気付いた時には1羽のセキレイは飛び立ってしまい、セキレイ先生も差し入れのハーブを置いて彼女さんを追い掛ける様に飛び去ってしまった。

きっと今まで差し入れてくれていた木の実は彼女さんと食べるであろうからハーブなのだと察しがつき、セキレイ先生が幸せな日々を送っている事を嬉しく思った。


その事を藤崎のおばあちゃんに話すと

「ラムちゃんは昔からお客さんとお花の事を本当に幸せそうにお話するね。」子供を見守るような優しい笑顔で紅茶を啜った。

毎週末に開催されるおばあちゃんとのお茶会では毎回お昼前におばあちゃん宅を訪れ、力仕事や家事をしてから一緒にお昼ご飯を食べ、そこからお菓子を作り紅茶を入れて夕方までのんびりとした週末を送っている。


おばあちゃんが恋愛話してる時も凄く幸せそうにしている事は伝えず、手作りのクッキーを頬張った。

口に含んだ途端ザクザクのクッキーがほろほろと崩れ、口中にじわっとバターが広がり、その後にココアのほろ苦い深い味わいが重なる。さらに食べ進めれば舌の上ではナッツが転がり、煎られた香ばしいナッツでクッキー時間を締めくくる。

そして夕方の仕事の為に1度お店に帰る事に。


お店への曲がり角に差し掛かると、この辺では見たことのない顔の男の人が名残惜しそうに小道から出てきた。

「こんばんは、この先の花屋に何か御用でしたか?」

「あぁ。下町の人からここの花屋を勧められてな。」

「そうでしたか!私が花屋店主のパフュラム•オードです。今から開店しますのでまだお時間宜しければ寄っていってください!」

男の人を店まで招き、店内の明かりをつける。オレンジ色の光が花達を照らし、昼間は見る事のできない表情が何処か儚げに見えた。


「凄く良い香りですね。」店内を物珍しそうに見回しながら足元に並んだ花の香りを嗅いでいる。

「うちでは香水も作っているのでその香りかもしれません。」

そう告げるとその男性は生花だけでなく香水も見たいと興味を持っていたので調香所まで案内し、試作品から売り物までお気に入りの香水を紹介した。

小綺麗な服装の男性がいくつか試し、ラベンダーの香水とハーブの香水、そして3万円分の花束を2つをご依頼された。


お店から花が無くなるんじゃないかと思うほどの花たちを丁重に包み、オレンジ色を基調とした花束と青色のバラがシンボルとなる花束を制作した。男性はどうやら都心から弾丸旅行に来ており、この町唯一のレストランにて特産品の小麦でできたパスタを食べたのだそう。そしてそのレストランに飾っていたうちの花を見て山の中までやってきたらしい。

日が暮れる前に男性を見送り、店を閉めて夕方のご給仕の仕事をするお宅へ向かった。


「ラムちゃんいつもありがとうね」

「いえいえ、お掃除でも料理でも薪割りでも電球交換でも何でも任せてください!」

「本当に助かってるわ」

顔に付いた埃を払いながら脚立から降りる。取り替えた電球を手渡しエプロンの形を整える。ここのお宅はお爺さんが亡くなってからお婆さん1人で暮らしており、1人で買い物をしている姿や薪割りに苦戦している姿を度々見かけており、見かける度に心配でお手伝いに上がっていたらご給仕として代金をいただくようになった。

ただでさえうちの農村は小さくて人も少ないのに、若者たちは学業の為に街から居なくなり、入ってくる人も農家になりたくて修行に来る人と老後に自然豊かな場所で過ごしたい人しか居ない。幸い街には優しい人が溢れているので困り事に悩まされている人が少ない所は良いところなのだが。


本日最後のお客様の話を思い出しながら帰路を辿り、就寝前に日記を付けた。

久しぶりに収支が黒字になった。この街に旅行へ来る人がもっと増えて黒字続きになったら良いのになって思った。おばあちゃんの手作りクッキーと紅茶が美味しかった。また食べたい。

日記を閉じ布団に入る。そして今日もいつもと変わらない週末が終わる。

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