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完璧令嬢は暇つぶしに運命の番を愛でることにした  作者: サトウミ


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6.初めての授業

ルイという異分子によって、ざわめき立つ教室。

視線が私とルイに集まる中、予鈴と同時に教師が入ってきた。


「おはようございます、皆さん」


低く落ち着いた声が教室に響き、生徒たちのざわめきは次第に静まる。教師は教壇に立って朝のホームルームを始めると、ルイの座る席を指さした。


「本日からこのクラスに編入した生徒を紹介します。ルイ・クロス君です」


教室の空気がほんの少し張りつめる。

ルイは肩をすぼめながら、教壇へと向かう。

教師が促すと、ルイは震えるような声を発した。


「初めまして、ルイ・クロスと申します。……よろしく、お願いします」


その言葉は決して大きくはなかったが、静まり返った教室にははっきりと届いた。

彼のぎこちない一礼に、何人かの生徒が小さく笑い、また別の者は奇異の目で彼を観察している。

緊張で強ばった背中が痛々しくもあり、同時に目を離せない。


教師が「ありがとう」と穏やかに告げると、ルイは安堵したように深く頭を下げ、足早に席へと戻ってきた。

私の隣へ腰を下ろした瞬間、机に置かれた手がわずかに震えているのが目に入る。


(よく頑張ったわね)


心の中でルイを褒め称えながら、私はそっと彼に視線を向けた。



◆◆◆



一限目の科目は数学だった。

初めて学院で受ける授業ということで、ルイは背筋をピンと伸ばし、真剣な面持ちでペンを握る。

今日は中等数学の応用問題だ。

最初の授業がルイの得意科目なのは、幸先がいい。


担任の教師は、穏和な表情をした中年男性だ。

教師は黒板に問題を書くと、丁寧に解説する。

生徒達が問題を理解しているのを確認すると、また新しい問題を書き始めた。

黒板には問題文とともに、綺麗な放物線が描かれる。

教師の書いた問題は、卒業生でも苦戦する難問だった。


「さて……。この問題を解ける方はいますか?」


教室が静まり返る。

皆、視線を逸らし、当てられないようにと必死だ。

教師はしばらく教室を見渡した後、ふと目を細める。


「……では、編入生のクロスさん。君に解いてもらいましょうか」

「え……」


ルイの肩が小さく震える。

私の視線は自然とルイに向かった。

彼は手をぎゅっと机の縁にかけ、顔をうつむけている。普段の物静かな表情よりさらに引き締まっていて、見ているだけで胸が騒ぐ。

クラス中がざわめき、あちこちから嘲笑が漏れた。


「いきなり難問だぞ、あれ」

「奴隷上がりに解けるわけない」

「せいぜい、アイツにできるのは四則演算くらいだろ」

「どのみち恥をかくだけだな」


イザベラも穏やかな顔で、友人たちと含み笑いをしている。彼女の視線はあからさまに軽蔑に満ちていた。


「大丈夫よ、ルイ。あなたならできる」


ルイの耳元で、優しく囁く。

するとルイは黙って席を立ち、ぎこちない足取りで教壇へ向かった。

黒板の前に立った彼は、しばし数式を睨みつけて動かない。教室の空気が一層張り詰める。


「えっと……PQ²=(α²-1/2)²+(α²-1/4)²で、PR²は……」


黒板にチョークで書く音だけが、教室内に響き渡る。

自信がないのか、ルイの手は少し震えていた。

しかし書き上げた式は、きちんと整理されている。


「……まとめると、(α²+β²)(α+β)+1/2(α+β)-1=0、となります」


教室に、感心の声が広がる。

イザベラをはじめ、何人かの貴族子女が意外そうに目を見張った。

彼がここまで計算できるとは思っていなかったのだろう。

ルイはさらに続けた。


「……つまり、重心G(X,Y)の軌跡は、この方程式で表されます」


チョークがピタリと止まった瞬間、教室が静まり返った。

教師は口元に微笑を浮かべ、深く頷いた。


「素晴らしい、クロスさん。正解です。初見で解くのはなかなか難しい問題だったでしょう?」

「はい。軌跡は苦手なので自信がありませんでしたが、正解で安心しました」


その瞬間、クラス中にどよめきが走った。


「すげえ……」

「あんな難問を、あっさり解きやがった

「元奴隷って聞いたが本当なのか」

「実は、ああ見えて学者の血筋だったりして」


さっきまで嘲っていた者たちが一転して驚嘆の声を上げる。イザベラでさえ顔を引きつらせ、口を閉ざしていた。


ルイは褒められたことに戸惑ったのか、耳まで赤くして俯きながら席へ戻ってきた。


「ルイ」


小さな声で彼を呼ぶと、彼は恥ずかしそうに私を見た。


「凄かったわ。完璧な答えだった」

「い、いえ……そんな……」


「謙遜する必要はないのよ。この教室であの問題を解ける人は、一握りしかいないわ。貴方は自信を持ちなさい」


そう告げると、ルイの瞳がかすかに揺れる。相変わらず表情は固いが、唇の端が嬉しそうに少し上がっていた。


彼の僅かな表情の変化が、本当に愛おしい。

クラスの誰が何と言おうとも、私の(つがい)様ほど面白い存在はこの世にいない。


照れるルイの顔を見つめていると、私は思わず笑みが溢れる。


──あぁ。これから、退屈しない学院生活になりそうね。

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